GMTから「Musket&Pike」の第二版が出たり、「歴史群像」で三十年戦争の漫画の連載が始まったりして、ちょっと今年は三十年戦争に興味が湧いてきた。
とはいえ「Musket&Pike」はユニットの切り離しすらしていないし、「歴史群像」もまだ読んでいないんだけど。というか、三十年戦争に関する知識がなさ過ぎて、まずは基本的なことを知ろうと思うんだけどなかなか手ごろな本がない。『戦うハプスブルク家』は買ったけどnyaoさんからポジティブなフィードバックがなかったので、ひとまずスルーしておいて、nyaoさんに教えていただいた『ドイツ三十年戦争』を読んでみることにした。
でもこの本、もう絶版でアマゾンでは5万円近い値段がついている。ちょっと手が出せませんわすんません、と思っていたら、原著の『The Thirty Years War』のペーパーバック版が三千数百円ぐらいで売っていたので買ってみた。
でも500ページ強ある本なので、三十年戦争に関する知識がほとんどない状態でいきなり読むのは無謀かと思い、Hourly Historyの『The Thirty Years' War』という本をまず読んでみた。50数ページしかないぺらっぺらの本なのであっという間に読了できて気分がいい。おし、これで大丈夫、と思って『The Thirty Years War』にとりかかったんだけど、いやーもう、内容がたっぷりあっておなかいっぱいになりました。というか知識のない自分は消化不良気味。でも面白かったです。
読んでいて感じたのが、一言でいうとぐたぐた感。ドイツの各諸侯やデンマーク、スペイン、スウェーデン、傭兵隊長などさまざまなプレイヤーが好き勝手なことをやっていて、さっさと戦争を終わらせよと言いたくなるんだけどだらだらと続いてしまったという感じ。それでいて、ふらふらしていたバイエルンのマクシミリアンとかザクセンのヨハン・ゲオルグとかは戦争終結後も生き延びているし。英雄っぽい人と言えばスウェーデンのグスタフ・アドルフぐらいかな。
あと、読んでいると結構constitutionとかconstitutionalって言葉が繰り返し出てきて、うーんよくわからんと思っていたんですが、どうやら多くの諸侯に分裂している神聖ローマ帝国も、いちおう帝国という枠組みは保とうという考えがあったみたい。皇帝は世襲ではなく選挙で選ぶとか、諸侯の権利を尊重するとか、外国の介入は避けようとするとか。それがハプスブルク家の覇権とぶつかって、さらにスウェーデンやフランス、スペインなど外国の力を借りないといけないのに建前上でもやめたほうがいいんじゃないのという考えが、いろいろと事態をややこしくしたみたいです。
三十年戦争と言ったらドイツ中が悲惨な状況になったのはよく知られているけど、この本でも繰り返し惨状が描かれています。軍隊が略奪するだけでなく疫病まで撒き散らしたり。しかしいろいろと奪うだけじゃなくてなんでわざわざ火をつけていくのかな。ほんと、よくまあドイツに人が住めたもんだ。おいらは絶対17世紀前半のドイツに生まれたくない、と思ってしまうんだけど、本の最後のほうで被害は誇張されている可能性が高い、みたいな分析をしていますね。
ただね、この本、約80年前のものだからか英語がちょっと固い。倒置してifの省略とかなんて普通だし。語彙も多彩で、フランス語やラテン語を英訳なしに載せたりしていて、自分の教養のなさをひしひしと感じます。
人名を覚えるのも大変。そりゃ30年も続いた戦争だからいろんな人が出てくるのは当然なんだけど。しかも英語表記だから、ただでさえ乏しい三十年戦争に関する知識が混乱する。ブランデンブルグ選帝侯ゲオルグ・ヴィルヘルムがGeorge Wiliamとか、ザクセン選帝侯のヨハン・ゲオルグがJohn Georgeとか、そのうちジョージ・マイケルとか出てくるんじゃないかと思うぐらい。まあ、巻末にちゃんと索引がついているからこの人どこで出てきたっけな、と調べるのに困らないけど、主要登場人物の表とかほしくなりました。
それと地図が欲しい。いろんな地名が出てくるけどどこだよそれ、と思ってしまう。和訳本にはついているのかな。しかもたまに英語表記になっていて、Palatinateって文脈でプファルツのことだってわかるけど、ちょっと困る。あー日本語で読みたい。
と文句を並べてしまったけど、Hourly Historyの『The Thirty Years' War』とか『戦うハプスブルグ家』とか、ドイツの『Der Dreißigjährige Krieg』という新書みたいな本にもこの本は参考資料として挙げられていたので、三十年戦争に興味がある人は読んでおいたほうがいいんでしょう。和訳本の『ドイツ三十年戦争』、再版にならないかな。
ビビったのが、筆者のC.V.Wedgwoodはこの本を30歳になる前に書いている。すげー。しかも女性で、出版当時の20世紀前半ってまだまだ女性差別がいろんなところで残っていて、そういう意味からもこういう業績を残しているのはすごいな、と。
以前NHKの「映像の世紀 バタフライエフェクト」という番組を見ていたら、エミリー・デイヴィソンっていう女性活動家が20世紀初頭に女性参政権をもとめて戦っていて、最後は競馬場で国王の馬の前に飛び出して死んでしまう、という結構衝撃的なエピソードが出ていたし、ほかにも女性だからという理由で学位を認められなかった人のことを紹介していたりしていた。もしかしたらC.V.Wedgwoodも差別と闘わざるをえないことがあったのかな、と読んでいて思いました。
それと、この本って1938年、WWⅡ勃発の前年に出ているんですね。すでに軍靴の響きが聞こえてくる時期ですが、この本の最後にウェストファリアの講和条約について、The Peace of Westphalia was like most peace treaties, a rearrangement of the European map ready for the next war.って書かれているんですけど、ヴェルサイユ条約のことも当然念頭に置いていたんだろうなって思います。
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