2023年10月27日金曜日

失われた王になってたまるか! Bosworth 1485 - Blood & Roses (GMT) AAR ③

  オックスフォードの反撃を受けたヨーク軍のノーフォークだが、猛烈な射撃をくらわせランカスターの兵を次々と矢で倒していく。さらにノーフォーク隊の歩兵が対応射撃(Reaction Fire)をものともせずオックスフォードの砲兵にとりつき、壊滅させた。

「マジ? オックスフォード隊に射撃能力のあるユニットはなくなったじゃん。早くスタンリー裏切ってよ!!」

 これでヨーク軍は敵から撃たれる危険を考慮しなくてよくなった。ノーフォーク隊の重騎兵2ユニットが突撃する。オックスフォードの徴集兵1ユニットが混乱、もう1ユニットが壊滅した。 

 敵前衛が損害を受けている今こそ、追い打ちをかける好機! だがリチャード続かず。配下の奮闘を無駄にするつもりか? やっぱり悪王なのか?


 ヨーク軍の連係ミスを見て取ったヘンリーは、スタンリーに裏切りを促す。40%の確率だったが、スタンリー動かず。ええい、リチャードを目の前にして臆したか。それとも、実績のほとんどない28歳の若造ヘンリーの側につくことを躊躇しているのか。

 実際、14年間亡命していたヘンリー・テューダーは実戦で指揮を執ったことが少なかったようで、シェイクスピアの「リチャード三世」でも「実戦経験の全くない男だ(he was never trained up in arms)」なんて言われていますね。


 日和見しているスタンリーなど頼りにならんわ! とオックスフォードがノーフォークに反撃。またその間、混乱状態にあるユニットの回復に努めた。

 させるか! とノーフォーク。混乱状態の徴集兵に重騎兵が鎧袖一触、と攻撃するも、敵を侮りすぎたか徴集兵は踏みとどまった。だが、集中射撃にたまらずオックスフォード隊のウェールズ歩兵が敗走する。こうして敵を消耗させていく一方で、ノーフォークは混乱状態の長弓兵を回復させた。敵に弓兵がいなくなった今、こちらから一方的に射撃をくらわしてやるのだ。


 ノーフォークの攻撃で敵ランカスターの前衛はボロボロだ。王よ、敵にさらなる打撃を! だが、一人奮戦するノーフォークの懇願にも関わらず、またもリチャード動かず。何考えているんだ。

「いや、リチャードはやっぱり悪い奴なんだって。ノーフォーク隊に戦わせて限界まで出血するのを黙って見ているんだよ。悪人になると決めたって本人も言ってたじゃん」

いやそれ、またシェイクスピアの書いたセリフ。ちなみに原文は

I am determined to prove a villain

で、映画「ロスト・キング」でも出てきますね。


 リチャードがぐずぐずしている間に態勢を立て直したいランカスター軍。再びスタンリーに裏切りを要請する。引いたカウンターは70%で裏切るというもの。そしてスタンリー裏切り! おっしゃー!!

 

 スタンリー兄弟の兄トマス・スタンリーは薔薇戦争中に他の多くの貴族同様、寝返りをしているが、以前紹介した『Blood Royal』では、勝ちそうな人物であればだれであろうと忠誠を誓っていた、なんて書いてある。短い期間で大軍を召集する能力を見せつけ、どの戦いにおいてもほんの少しだけ遅れて参加したそうだ。


 スタンリーの裏切りを見て、オックスフォード隊が積極的な攻撃に出た。これまでは前面のノーフォークに加え、右翼にリチャードが迫ってきていたため、オックスフォード隊はユニット数が多いとはいえ限定的な攻撃をする余裕しかなかった。なにせ、ヘンリー本隊は5ユニットしかいないため、リチャード隊の攻撃をまともに食らったら支えきれず、どうしてもオックスフォードの支援が必要になる。だがスタンリーがランカスター側に立った今、右翼は彼らに任せられる。オックスオードは兵力を左にシフトし、これまでのうっ憤を晴らすかの如く果敢に攻撃。ノーフォーク隊に損害を与えた。



つづく

2023年10月22日日曜日

失われた王になってたまるか! Bosworth 1485 - Blood & Roses (GMT) AAR ②

  まずはヨーク軍のノーフォーク隊が前進、オックスフォードの部隊と射撃戦を展開する。そしてリチャードが白い猪の旗印を掲げ左翼方面(マップ右方)に前進。スタンリーに近づいたことで裏切りの可能性がやや低くなる。

 あ、白い猪っていうのはリチャードの旗印(heraldic badge)です。映画「ロスト・キング」でも、もちろん出てきましたね。



 ランカスター軍はオックスフォード隊が射撃で応戦するものの、ヘンリーが継続活性に失敗。敵の連携がとれていないうちに追い打ちを、とノーフォークは長弓兵に容赦のない射撃を行わせる。そうして敵前衛を牽制しつつ、リチャードがさらにマップ右方を急進した。

 ヨーク軍の好きにさせるわけにはいかない。オックスフォード隊が突出していたノーフォークの歩兵を3ユニットで集中攻撃、混乱させる。射撃戦では不利であっても、兵数ではオックスフォード隊のほうが上なのだ。そしてやっとヘンリーが動く。マップ右方にシフトしてリチャードに対応できるようにするとともに、スタンリーに近づくことで裏切りの可能性を上げた。


 このシナリオでは最初はスタンリーの2部隊は中立で動かないが、ランカスター軍は自由活性を使ってスタンリーの裏切り(Stanley Mobilization)チェックをすることができる。基本的に、スタンリー裏切りカウンター(Lancastrian Stanley counter)を1枚引いてそこに書かれているサイの目以下が出れば裏切るのだが、カウンターは5枚あって裏切りの可能性は30%~70%と幅がある。とはいえいろいろ計算すると、50%の確率で裏切るはず(でも計算自信ないなあ)。

 ただし、スタンリーの2人の指揮官のうちどちらかから12へクス以内にリチャードがいれば裏切りチェックのサイの目が1不利になり、逆にヘンリーが8へクス以内にいれば1有利になる。


 今回リチャードはスタンリーに近づくようにマップ右方に展開したが、実際はデメリットの方が大きいと思う。こちら方面は湿地(Bog)や小川(Stream)、それに沼地(Marsh)などがありリチャード麾下の重騎兵の機動力や突撃能力を活かしにくい。それだけでなく、スタンリーが裏切った場合、ヘンリーとスタンリーから挟撃される可能性が高いのだ。

 しかもマップ下方の中央右よりにある沼地は、「沼地とリチャード三世ルール(Marshes and the Richard the Third Rule)」なんてのがあって、騎兵がここで白兵戦を行うと強制下馬(Unhorsed)となる可能性がある。ボズワースでは沼地でリチャードが馬を失い討ち死にしたと言わているが、それを反映しているらしい。リチャード三世としてはマップ右下は縁起が悪い。


 一方、マップ左方にリチャードが展開した場合、平坦な地形が広がっているので重騎兵がその能力を発揮できるうえ、スタンリーの2部隊がマップ右方から主戦場に駆け付けるのに時間がかかる。そもそも、スタンリーは2人とも活性化値3と凡庸だ。ヘンリーの指揮範囲にいると継続活性でDRM1有利になるが、リチャードがマップ左方から全力で攻撃する場合ヘンリーがオックスフォードの救援に駆け付けざるをえず、スタンリーから離れることになる。つまりスタンリーが活性化しにくくなり、ヨーク軍を攻撃する位置にたどり着くまで時間がかかるのだ。

 ということでこのシナリオの場合、リチャードはマップ左方に展開したほうがメリットが大きいと思う。だがヨーク軍プレイヤーは

「進め!  雄々しく!  猛進して乱戦に飛び込むのだ。天国に行けなければ、ともに地獄に進もうぞ」

とうそぶきながらマップ右方に兵を進める。

「いや、それシェイクスピアの『リチャード三世』のセリフでしょ。不吉すぎない?」

と敵プレイヤーに心配される始末。両プレイヤーとも映画「ロスト・キング」を見てリチャード三世に肩入れしてしまっているのである。「リチャード三世」のボスワース戦のところを読み返したりしていたし。


ちなみにこれは「リチャード三世」のボズワース戦冒頭のところで、原文は

March on. Join bravely. Let us to it pell mell,

If not to heaven, then hand in hand to hell.

となっています。


つづく

2023年10月17日火曜日

失われた王になってたまるか! Bosworth 1485 - Blood & Roses (GMT) AAR ①

  映画「ロスト・キング 500年越しの運命」を見たら、当然ボズワースでリチャード三世の無念を晴らさなくては、ということでMen of Ironシリーズ「Blood & Roses」のボズワースのシナリオをやってみることにした。

 ボズワースの戦いと言ったら30年続いたイギリスの血みどろの内戦・薔薇戦争を終結させたと言われる戦いで、リッチモンド伯ヘンリー・テューダーがリチャード三世を打ち破った。シェイクスピアの戯曲「リチャード三世」でのリチャードの最後のセリフ、「馬の代わりに我が王国をくれてやる!(My kingdom for a horse!)」が有名である。

 というかね、「リチャード三世」で悪人に描かれて過ぎていて、その反動からかリチャードを擁護するRicardianなんて人たちが出てきているんですよね。リチャード三世協会なんてのもあるんだけど、映画「ロスト・キング」では学者からファンクラブと馬鹿にされていましたね。でもそんなRicardianが、川に投げ捨てられたという伝承が残るリチャードの遺体を、2012年に発見するんですよ。いやー、すごいなあ。


 で、ボズワースである。リチャード率いるヨーク軍は前衛をノーフォク公ジョン・ハワード、中央がリチャード、後衛をノーサンバランド伯ヘンリー・パーシーが指揮しているが、以前のAARにも書いたようにノーサンバランドが動くことはほとんど期待できない。一方、ヘンリー・テューダーのランカスター軍は、前衛がオックスフォード伯ジョン・ド・ヴィアーの部隊、その後ろにヘンリー直属部隊が布陣している。



 射撃力でヨーク軍は優位に立っている。百年戦争から薔薇戦争にかけて猛威を振るった長弓兵のユニット数はヨーク軍6,ランカスター軍3だ。またランカスターのオックスフォード隊は兵力が多いように見えるが、そのうち6ユニットは徴集兵(Levy)。徴集兵は他の兵種と共同でないと白兵戦がしかけられないので、あくまで補助的な戦力である。


 ちなみに、「Blood&Roses」のシナリオ集「Battle Book」にもちらっと書いてあるけど、この戦いのランカスター軍の多くはフランスやウェールズの兵で、ユニットにもウェールズやフランス、ノルマンディ、ブルターニュの紋章がついていたりする。ヘンリー・テューダーは亡命して長い間ブルターニュ公の庇護下にあった。そして今回はフランス王シャルル八世の支援を得て、ノルマンディーのアルフール港からウェールズにもどってきている。

 テューダー家はもともとウェールズの貴族で、薔薇戦争中はペンブローグ城を拠点にしてヨーク家に対し抵抗を続けた。ウェールズと言えば紋章は赤い竜で、ヘンリー・テューダーは1485年にリチャードを倒すためウェールズに上陸した際、赤竜の軍旗を掲げてウェールズ人の支持を得たらしい。ウェールズの吟遊詩人たちはヘンリーのことをアーサー王の再来と称え、その帰還を待ち焦がれていたそうだ。…というのは『物語 ウェールズ抗戦史』という本の受け売りで、この本の帯には「そのとき赤竜の軍旗を掲げアーサー王は蘇った。」なんて惹句が付いている。まあ、実際ヘンリーはアーサー王伝説をうまく利用したようで、息子にもアーサーと名付けている。


 おおっと、話がそれた。ということでランカスター軍はやや不利で、指揮官の活性化値ではランカスター軍のほうが優っているものの、マップ右下にいるスタンリー兄弟が史実のようにリチャードを裏切って味方に付いてくれないと苦戦することだろう。


つづく



2023年10月10日火曜日

「Plantagenet」(GMT)をやるなら薔薇戦争のこの2冊(その2)

  映画「ロスト・キング 500年越しの運命」、ウォーゲーマー界隈だったら見られた方も多いんじゃないでしょうか。いやーもうね、今は駐車場となっているところにRって書かれていて、その下にリチャードが埋まっているなんて、実話なんだけどもうほんと、運命的ですよね。あの映画見たらリチャード三世好きになる人、多いんじゃないかなあ。

 それに、歴史を知らなくても映画としても楽しめました。レスター大学関係者の言動を見ていると、自分もやっちゃいそうって思ってしまいましたよ。とほほ。


 …いや、今回は映画の話をするつもりじゃなかったんだ。今回紹介するのは、薔薇戦争関連の書籍、『Blood Royal』です。前回紹介した『Battle Royal』の続きにあたり、1461年にタウトンの戦いでヨーク派が大勝したその後からを描きます。エドワード四世、タウトンの後も結構苦労していて、1471年のバーネットとチュークスベリーの戦いでやっと国内が安定するんですな。…ということをもう他の本で読んだはずなのになあ。自分の記憶力のなさよ…。


 まあそんなことより、リチャード三世ですよ、リチャード三世。この本ではどんな風に描かれているのかなと興味津々だったんですけど、比較的バランスが取れた描写という印象。リチャードの軍事的能力についてはちゃんと認めていまし、対スコットランドのリチャードの戦いも記述しています。でもリチャード擁護派のいわゆるRicardianにはちょっと辟易している感じで、

the defining Ricardian dogma - that Richard III's black villainy was an invention of Tudor propagandists - was always skating on thin ice.

とか、

It is far more debatable whether Richard deserved a handsome tomb monument in Leicester Cathedral with 'Loyaulte me lie' inscribed without irony on the plinth.

なんて書いていますね。あ、 'Loyaulte me lie'っていうのはリチャードのモットーで、「忠誠が我を縛る」という意味になるようで、すべての書類にこの言葉を書いていたそうですね。そういえば映画「ロスト・キング」のボズワースの古戦場のシーンでも、リチャードの旗にLOYAULTEって書かれているのを見つけて嬉しくなりましたよ。

 筆者はRicardianよりではないということをにおわせつつ、それでも、リチャードが生まれたFotheringhayの城跡が現代のRicardianの神殿になっている、なんて紹介してくれていますね。注でちっちゃくだけど。


 ボズワースやバーネットなど、主な戦いは戦況図だけでなく、戦いに至るまでの両軍の動きを図で示してくれていて、ウォーゲーマーとしては嬉しくなりました。あと、ボズワースの戦いにはヘンリー側にフランス軍が多く加わっていたのはよく知られていると思いますが、フランス部隊の指揮官が、長方形やひし形の隊形で歩兵が長いパイクと短めのハルバードを組み合わせて使うという、大陸では一般的になっていた戦い方をイギリス軍に教えた、なんてことが書いていありましたね。


 もちろん戦いだけでなく貴族たちの政治的な動きも詳述してあるんですけど、登場人物が多いので、ときどき誰が誰やらわからなくなりましたよ。外国人が日本の戦国時代の本を読んだときもこんな感じなのかなあ。それと、自分の薔薇戦争の基礎知識ってGJ65号付録ゲームの「薔薇戦争」なんですけど、あのゲームだとウォリックのレーティングが3-6で、さすがキングメーカー、強ええって思っていました。でもこの本を読んでいると、軍事的な能力はそれほどでもなかったのかな、という気になります。もちろん政治的な力は大きいってのはちゃんと描写されていて、They have but two rulers, M. de Warwick and another whose name I have forgotten.っていう有名な言葉も出てきます。


 この本を読んで個人的に一番の収穫だったのが、イギリスの周辺国、フランスだけでなく特にブルゴーニュ公国のことが結構書かれていたことかな。「La Trêve ou l'Epée」(Ludifolie)というゲームで、エドワード四世とルイ11世が衝突していたら、という仮想戦が入っているんだけど、その前後の状況がよくわかりました。同じゲームに入っているGuinegatteの戦いも、この本でちょろっと触れられていて個人的には嬉しい。あと、ハンザ同盟のかかわりについてもちょっと触れられていて、いろんな知識がつながる感じでした。

 

 それと結構、女性の動きが描かれているんですよね。ヘンリー6世の妃マーガレットは当然としても、エリザベス・ウッドヴィルの母親のジャケット・ド・リュクサンブールとか、いろんな女性が及ぼした影響に触れていて面白かったんですけど、本の最後のほうで「イギリスの歴史においてこの時代ほど女性が影響力を持ったことはなかったのだ」なんて書いていました。


 ということで『Battle Royal』と『Blood Royal』、2冊セットで読むのをおススメします。薔薇戦争のゲーム、なんかやりたくなるなあ。


天からデンマーク国旗が降ってきた Lyndanise 1219(VV118) AAR③

 ●第3ターン  デンマーク軍の反撃が始まったがエストニア軍としても攻撃の手を緩めるわけにはいかない。上方では先ほどの攻撃で損害を被っていた敵歩兵にとどめを刺し、下方では指揮官やダンネブロのいる強力なユニットは避けて中央の2戦闘力の歩兵を攻撃。たまらず後退するデンマーク軍を追撃す...