映画「ロスト・キング 500年越しの運命」、ウォーゲーマー界隈だったら見られた方も多いんじゃないでしょうか。いやーもうね、今は駐車場となっているところにRって書かれていて、その下にリチャードが埋まっているなんて、実話なんだけどもうほんと、運命的ですよね。あの映画見たらリチャード三世好きになる人、多いんじゃないかなあ。
それに、歴史を知らなくても映画としても楽しめました。レスター大学関係者の言動を見ていると、自分もやっちゃいそうって思ってしまいましたよ。とほほ。
…いや、今回は映画の話をするつもりじゃなかったんだ。今回紹介するのは、薔薇戦争関連の書籍、『Blood Royal』です。前回紹介した『Battle Royal』の続きにあたり、1461年にタウトンの戦いでヨーク派が大勝したその後からを描きます。エドワード四世、タウトンの後も結構苦労していて、1471年のバーネットとチュークスベリーの戦いでやっと国内が安定するんですな。…ということをもう他の本で読んだはずなのになあ。自分の記憶力のなさよ…。
まあそんなことより、リチャード三世ですよ、リチャード三世。この本ではどんな風に描かれているのかなと興味津々だったんですけど、比較的バランスが取れた描写という印象。リチャードの軍事的能力についてはちゃんと認めていまし、対スコットランドのリチャードの戦いも記述しています。でもリチャード擁護派のいわゆるRicardianにはちょっと辟易している感じで、
the defining Ricardian dogma - that Richard III's black villainy was an invention of Tudor propagandists - was always skating on thin ice.
とか、
It is far more debatable whether Richard deserved a handsome tomb monument in Leicester Cathedral with 'Loyaulte me lie' inscribed without irony on the plinth.
なんて書いていますね。あ、 'Loyaulte me lie'っていうのはリチャードのモットーで、「忠誠が我を縛る」という意味になるようで、すべての書類にこの言葉を書いていたそうですね。そういえば映画「ロスト・キング」のボズワースの古戦場のシーンでも、リチャードの旗にLOYAULTEって書かれているのを見つけて嬉しくなりましたよ。
筆者はRicardianよりではないということをにおわせつつ、それでも、リチャードが生まれたFotheringhayの城跡が現代のRicardianの神殿になっている、なんて紹介してくれていますね。注でちっちゃくだけど。
ボズワースやバーネットなど、主な戦いは戦況図だけでなく、戦いに至るまでの両軍の動きを図で示してくれていて、ウォーゲーマーとしては嬉しくなりました。あと、ボズワースの戦いにはヘンリー側にフランス軍が多く加わっていたのはよく知られていると思いますが、フランス部隊の指揮官が、長方形やひし形の隊形で歩兵が長いパイクと短めのハルバードを組み合わせて使うという、大陸では一般的になっていた戦い方をイギリス軍に教えた、なんてことが書いていありましたね。
もちろん戦いだけでなく貴族たちの政治的な動きも詳述してあるんですけど、登場人物が多いので、ときどき誰が誰やらわからなくなりましたよ。外国人が日本の戦国時代の本を読んだときもこんな感じなのかなあ。それと、自分の薔薇戦争の基礎知識ってGJ65号付録ゲームの「薔薇戦争」なんですけど、あのゲームだとウォリックのレーティングが3-6で、さすがキングメーカー、強ええって思っていました。でもこの本を読んでいると、軍事的な能力はそれほどでもなかったのかな、という気になります。もちろん政治的な力は大きいってのはちゃんと描写されていて、They have but two rulers, M. de Warwick and another whose name I have forgotten.っていう有名な言葉も出てきます。
この本を読んで個人的に一番の収穫だったのが、イギリスの周辺国、フランスだけでなく特にブルゴーニュ公国のことが結構書かれていたことかな。「La Trêve ou l'Epée」(Ludifolie)というゲームで、エドワード四世とルイ11世が衝突していたら、という仮想戦が入っているんだけど、その前後の状況がよくわかりました。同じゲームに入っているGuinegatteの戦いも、この本でちょろっと触れられていて個人的には嬉しい。あと、ハンザ同盟のかかわりについてもちょっと触れられていて、いろんな知識がつながる感じでした。
それと結構、女性の動きが描かれているんですよね。ヘンリー6世の妃マーガレットは当然としても、エリザベス・ウッドヴィルの母親のジャケット・ド・リュクサンブールとか、いろんな女性が及ぼした影響に触れていて面白かったんですけど、本の最後のほうで「イギリスの歴史においてこの時代ほど女性が影響力を持ったことはなかったのだ」なんて書いていました。
ということで『Battle Royal』と『Blood Royal』、2冊セットで読むのをおススメします。薔薇戦争のゲーム、なんかやりたくなるなあ。
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