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2026年4月10日金曜日

南のノルマン・コンクエスト - 『The Normans in the South 1016-1130』

  11世紀のノルマン人って言ったら1066年のノルマン・コンクエスト思い浮かびますが、地中海のど真ん中でも派手な征服活動を繰り広げていますよね。「書泉と、10冊」で復刊した『ノルマン騎士の地中海興亡史』っていう分量的にも手軽な本があって、面白いのでみんな読んでね! でももう少し知りたいなと思って、『The Normans in the South 1016-1130』という本を読んでみました。11世紀初め、ノルマン人が南イタリアにやってきたころから、1130年のシチリア王国成立までの、ノルマン人の動きというか暴れ方を描いています。

 まー徒手空拳で南イタリアに乗り込んで、政治的に分裂状態だったのをいいことに暴れまくって領土を切り取っていきシチリア島も征服してしまうというある意味痛快な話なんですけど、一回の会戦で形勢がほぼ決まった1066年のノルマン・コンクエストとは対照的というか、さすがイタリアというか、教皇やらビザンツやらイスラムやら神聖ローマ帝国の皇帝やらいろんな勢力が入り混じっているだけでなく、各都市も全然言うことを聞かないんですよね。しかも少数であるノルマン人は団結していたのかと思いきや、初期のころはSelf-interest was the first considerationだそうだし。ただThe Normans had in fact already mastered the art of being on the winning side, cashing in on all victories and somehow avoiding involvement in all defeats.で、in any battle in which Normans had fought on both sides it had already become the regular practice for those on the winning side to seek clemency for their less fortunate compatriots.だったそうです。でもね、傭兵状態を抜け出して南伊で勢力を確立していってもworse than the Saracens, who at least confined themselves to isolated raids, while the Normans kept up an unrelenting pressure on all who were weaker than themselves.とか、Norman barons - always more trouble than Greeks and Saracens put togetherとか、まあやっかいな感じなんですよね。南伊の分裂状態やノルマン人の身勝手さを考えると、ロベール・ギスカールやロジェールが優れた統率者だったんだなってのが逆によくわかりました。

 あとね、そういう荒くれのノルマン人たちを率いなければならなかったからこそ、ロジェールはknew that he could win the support of his Norman barons only by presenting them with an unexceptionable, legally-constituted monarchy as it was understood in the Westと、王位を教皇に求めたわけだし、ノルマン人についてTo a people so conscious of due form and legality, such an advance in status was inestimable significance.って書かれていたのもなんだか納得しました。The right of feud was abolished from above ... - an achievement at that time unparalleled in Europe outside England and Normandy.ってのも、強権という面だけでなく、そうしないとあっという間に仲間内でケンカし始めたんだろうなって思います。

 意外だったのが、ノルマン人ってヴァイキングの末裔っていうイメージがあったんだけど海戦の能力が南伊初期はかなり低かったということ。A curious aspect of their forebears' transformation ... from Vikings to Frenchmen was the speed with which they had blotted out their Scandinavian maritime traditions. Even in Normandy they seem to have shown little awareness of the potentialities of a strong navy; those who had come to settle in Italy had all arrived on foot or on horsebackだそうです。でも、シチリア侵攻の際にロベールとロジェールはすぐに海軍の重要性を理解したそうですが。 海軍と言えば、ノルマン人はビザンツから馬の海上輸送方法を学び、1066年のノルマン・コンクエストの際にはシチリアからの騎士が参加していてその技術が役立ったとか。へ~。

 それと、ロベール・ギスカールの奥さんSichelgaitaも気丈な女性だったようで、A woman of immense build and colossal physical strength, she was to prove a perfect wife for Robert, and from the day of their wedding to that of his death she scarcely ever left her husband's side - least of all in battle, one of her favourite occupations.だったとか。戦いの最中にノルマン軍が敗走し始めたときには「どこまで逃げる気だ?」って槍を手に馬を駆って逃げる兵たちを追いかけた、ってアンナ・コムネナが書き残しているそうです。こえーよ。

 まあほかにも、モンテ・カッシーノ修道院やら教皇やらがもう臆面もなくコロコロ立場を変えたりとか、シチリアがアラブ人の征服後に栄えていたところに、ロジェールがイスラム教徒を保護し政治・軍事の両面で重用したってのもよくわかりました。『ノルマン騎士の地中海興亡史』が面白いと思った人にはお勧めです。

2024年12月2日月曜日

アンナ・コムネナが生きた時代を知る-『12世紀の地中海』

  12月2日はアンナ様の誕生日。ということでアンナ・コムネナ関連の本を読んでみました。アンナが活躍したのは12世紀ですが、『La Méditerranée au XIIe Siècle』はそのタイトルどおり12世紀の地中海世界についてまとめた本。この時代の地中海って面白いんですよね。中央部ではフランスから来たノルマン人が勢力を拡大して、東と西では十字軍にレコンキスタ。というか、この本の目次を見たほうが早いんですけど、まずは西欧キリスト教世界の拡大、ビザンツ帝国の衰退、分裂したイスラム世界って地中海の3つの文明について前半で説明していて、次に3つの地域での異文化の接触として、南伊のノルマン人、スペインのレコンキスタ、東方の十字軍という章立てになっています。こうして巨視的な感じでまとめてくれるとバラバラだった知識がすっきりつながって嬉しい。自分が大学受験で世界史の論述問題の勉強していた時、こういう本を知っていたらありがたかっただろうな―と思いました。

 この時代のビザンツと言えば、前世紀に東ではマンジケルトでけちょんけちょんに負けて、西ではノルマン人に領土を奪われるという踏んだり蹴ったりで、アンナ様のお父様が何とか立て直してますね。この本でもお父様のアレクシオス一世や、アンナ様の宿敵、じゃなかった弟のヨハネスは何度か触れられています。アンナ様についても当然書かれている…って思ったら、あれ、無い。え、アンナ様の名前が出て無いの? 見落としちゃったのかな…。まあ、この本ではビザンツはメインではないですし、書かれている内容もあんまり嬉しいものじゃないんですよね。「ビザンツ帝国の衰退」っていう章タイトルからしてそれがわかるんですが、その章の中には「ビザンツ帝国の政治的・軍事的危機」とか「ビザンツ帝国の経済的・社会的危機」といった節が立っていて、危機ばっかりじゃねえかと突っ込みたくなりました。いやまあ、ビザンツの歴史って危機の連続だったと言えばそうなんですけどね。

 12世紀の十字軍と言ったらウォーゲーマー的にはリチャード獅子心王とサラディンが知られていると思いますが、サラディンはしばしば寛容の精神を示したためキリスト教徒たちが勇敢な騎士像をサラディンに見出した、なんて書かれている一方で、リチャードはアッコンを陥落させたときに抵抗した兵士だけでなく女性や子供も処刑したことが触れられていますね。あと、以前AARを書いたアンティオキアサグラハスといった戦いも出てくるのがちょっと嬉しい。イベリア半島では1195年にAlarcosでキリスト教勢力が大敗するんですが、第二のサグラハスなんて書かれていました。たしかにサグラハスでもアルフォンソ六世がぼろ負けしてたもんね。それと、Levy&Campaignシリーズの「Almohavid」が扱う時期の前後の流れもわかるようになっています。

 『La Méditerranée au XIIe Siècle』では政治・軍事的なことだけでなく、この時代の文化的側面も解説してくれています。12世紀の地中海と言ったらいわゆる12世紀ルネサンスがありましたが、スペインでの様々な文献がアラビア語からラテン語に翻訳されたことが述べられています。あと、『昼も夜も彷徨え マイモニデス物語』っていう小説があって、主人公のマイモニデスは中世最大のユダヤ思想家ともいわれ、迫害などを避けスペインからエジプトまで亡命しサラディンの侍医になったりした人なんですけど、『La Méditerranée au XIIe Siècle』でもマイモニデスが出てきて、医学と哲学の面での功績が解説されていましたね。それとユダヤ人と言えば、十字軍でもっとも被害を受けたのがユダヤ人だって書かれていました。

 というわけで、12世紀の地中海世界のゲームがやりたくなってきましたよ。十字軍関連のものでもやってみるかな。でも会戦級ばかりで、広い地域を扱ういわゆる戦略級的なものは持っていないんだった。バラバラだった知識がすっきりつながったとか書いておきながら、活用できないじゃん…。

2022年6月21日火曜日

ソリティアのペデスタル作戦

  BANZAIマガジン最新号の付録ゲームは「マルタ島攻防戦:ペデスタル作戦1942」。ペデスタル作戦ってたしかどこかで聞いたことあるな、と思ってうちにある古いゲームをあさっていたら、ありました。Vae Victis誌69号付録のOpération Pedestal。

 この号の付録ゲームはFéodalitéという9~10世紀のフランスが舞台のものだったんだけど、さらにおまけのような感じでミニゲームのペデスタル作戦がついていた。一人用のゲームで、プレイヤーは枢軸軍を担当しマルタ島への補給船団を攻撃する。ルールは2ページ、ユニット数は約50で、一回プレイするのに30分もあればいい手軽なゲームである。

 ちなみに出版は2006年と16年前になる。そりゃ持っていることを忘れていてもおかしくない。たしか、BANZAIマガジンの「マルタ島攻防戦:ペデスタル作戦1942」のもともとのデザインは2006年のはず。デザイナーズ・ノートには、その年の6月に朝日ソノラマの『マルタ島攻防戦』を入手したのが制作のきっかけと書いてあるので、たまたま同じ年になっただけなんでしょうね。Great minds think alikeってことかな。しかしあのデザイナーズ・ノートは熱いです。


 Vae Victis誌の付録のほうは枢軸軍をプレイするソリティアだからか、連合軍側のカウンターは護送船団を表す1ユニットのみ。しかもサイズも小さい。護送船団には輸送船やタンカーの他、空母、巡洋艦、駆逐艦が含まれるのだけれど、それらの数はマップ左下の白丸を鉛筆で丸で囲んだり消したり、バツをつけたりして管理する。ルールを読んでいるとプレイで準備するものとして鉛筆と消しゴムって書かれていて、最初は何で?って思ってしまいましたよ。

 一方、枢軸軍側のユニットはすべてイラスト付き。こんなにえこひいきしなくても。もちろんオハイオはユニット化されていない。あと、ドイツ軍はルフトヴァッフェが黒十字、潜水艦はクリークスマリーネの旗がついているけど、イタリア軍ユニットは航空機も潜水艦もイタリア王国の国旗がついている。


 初期配置の際、連合軍の護送船団の構成および枢軸軍の兵力はサイの目でランダムに決まる。でも、Luftwaffeとかはそのまんまでもわかるけど、Regina AeronauticaとかSommergibiliとかイタリア語で書かれてもわからんです。WWⅡの地中海戦域が好きな人にとっては雰囲気が出ていいんでしょうけど。まあシンプルなゲームなんで何を意味しているかはすぐに想像はつきますけどね。というか、すぐ横に説明あるけど。

 それとどうでもいいけど、マップ上ではU-Booteとドイツ語なのにルールではU-Boatsと英語で表記しているのは何で? ただし、枢軸軍のユニットはゲーム上は国籍の意味がほとんどなく、航空機と潜水艦の2種類に分けられる。


 勝敗は、枢軸軍がどれだけの艦船を沈めたかによる。輸送船やタンカーは得点が高く、それぞれ巡洋艦の2倍と3倍だ。駆逐艦に至っては沈めても得点にならない。ただし空母は15点と例外的に高い。また、すべてのタンカーを沈めたりするとボーナス得点が得られる。

 ということで枢軸軍としては輸送船やタンカーを狙いたいのだけれど、護送船団と接触できるかどうかのチェックのあと敵の迎撃を受け、さらに攻撃目標もランダムに決まるのでフラストレーションがたまる。しかも一回出撃したユニットは2ターン以上たたないと再び使用可能とならないため、計画的な運用が求められる。


 で、久しぶりにちょこっとやってみました。思うように輸送船団を補足できないうえ、4つの海域に分散して兵力を配置しないといけないし、いざ船団を見つけて迎撃をかいくぐって攻撃しても40%ぐらいの確率でしか損害を与えられないので、攻撃がうまくいかないたびにシャイセ! とかメルダ! とか言うと気分がある意味、盛り上がります。

 途中で連合軍の護衛艦が一部ジブラルタルに戻ったり、囮やスクリーンを連合軍側が使うランダムチットがあったりと、プレイ中にちょっとした変化はある。枢軸軍の初期兵力がサイの目で決まるのに勝利条件には影響しない(使用できる兵力が大きくても小さくても勝利条件は変わらない)というのがゲームとして荒いかな。でもまあ、マイナーテーマのミニミニゲームですっかり忘れていたけどBANZAIマガジンのおかげで久しぶりに日の目を見てよかったです。



(以前、SNSマストアタックに書いたものです。修正を加えている場合があります)

2022年5月15日日曜日

マルタ島の攻防戦関連の書籍

 もうすぐ発売になるBANZAIマガジン13号の付録ゲームは、マルタ島攻防戦らしい。https://bonsai-games.net/banzaimagazine/bm13/

 マルタ島の戦いの本と言ったらこれですよね。
 "The Great Siege, Malta 1565"


 ……あれ、年代がなんかおかしくない? BANZAIマガジン13号はペデスタル作戦1942でしょ? WWⅡだよね。16世紀の戦い関係ないじゃん。

 
 そうなんです、この本は第二次世界大戦じゃなくて、1565年に聖ヨハネ騎士団がオスマントルコの大軍を激戦のうえ撃退したマルタ島の戦いを描いています。BANZAIマガジンに便乗してすみません。
 でもね、まったく関係がないわけじゃないですよ。筆者のErnle Bradfordは1942年に英海軍の士官としてマルタ島に来ているんですね。「この島の歴史で二回目の大攻囲戦に耐えているとき」って書いているけど、それって、ペデスタル作戦のときじゃないの? で、一回目は16世紀のオスマントルコの攻撃だと言いたいんでしょうな。

 1565年のマルタ島攻防戦は、オスマントルコの絶頂期、スレイマン大帝の時代。トルコの大軍の損害を顧みない攻撃、それに圧倒的な量の砲撃に騎士団はさらされるが、隣のシチリア島からは約束の援軍が全然来ない。そんな状況下、不屈の闘志を持つ騎士団総長ジャン・ド・ラ・ヴァレットのもとでマルタ島を守り切った様子が"The Great Siege, Malta 1565"には描かれています。両軍とも苦しい戦いが続いて、もう早く終わらせてーと読んでいて思ってしまいました。ちなみにド・ラ・ヴァレットにちなんで、今のマルタの首都もバレッタと呼ばれていますね。
 オスマントルコによる攻囲戦は5月から9月まで約4か月続いて、この本ではマルタ島の夏のすさまじい暑さも描写されているけれど、ペデスタル作戦が行われた8月もさぞ暑かったんでしょうな。
 この本の表紙に大きく描かれている黒いマークは、マルタ十字と呼ばれる、聖ヨハネ騎士団の象徴。一瞬、鉄十字のバッタもんかと思いましたよ。マルタ騎士団のみなさんすみません。

 あと、1565年のマルタ島攻囲戦のゲームとしてはWargamer誌50号の付録The Knights of Justiceというのがあるんだけど、マップの色とかが好みじゃなくてユニットの切り離しすらしていなかったわ。今思い出したけど。

 "The Great Siege, Malta 1565"は『マルタ島大包囲戦』というタイトルで和訳が出ています。それと、塩野七生の『ローマ亡き後の地中海世界』の文庫本第四巻でもこの攻防戦について書かれていますね。『ロードス島攻防記』と併せて読むと面白かったです。



(以前、SNSマストアタックに書いたものです。修正を加えている場合があります)

共和国軍の攻勢から反乱軍の反撃、そして機動戦から消耗戦へ Brunete 1937 (Alea43) AAR part5

 ●第5ターン  残り2ターンである。このゲーム、序盤は共和国軍が圧倒的に優勢であるものの、反乱軍には続々と増援が登場する。下の写真はこのショートシナリオが扱う第1~6ターンの両軍の増援で、一目瞭然、共和国軍には微々たる数しか現れないのに対し、反乱軍は大量の援軍を受け取る。ヒスト...