2025年12月18日木曜日

『ナポレオンの軍事革命 1 行軍編』

 今年のウォーゲームライフを振り返ってみると、ナポレオニックのゲームをやったり関連書籍を読んだりすることがわりと多かったかなと思います。自分もまわりも、いつもはナポレオニックあんまりやらないんですけどね。ブログでもAARや書籍紹介やら、見返してみると自分にしてはわりと書いたなあ。


AARはアイラウの親衛騎兵と、1813年ライプニッツの会戦の一部、ヴァッハウの戦い。

吹雪のアイラウで包囲された親衛騎兵が叫ぶ 「突撃! 突撃! 突破するのだ!」 La Garde veille! (VV178) AAR、  1813年、ライプツィヒ。ナポレオン最後のチャンス Wachau1813 (VV182) AAR 

読んだ本も面白かったです。

『ナポレオンに立ち向かうロシア』、  ライプツィヒの戦い百周年の本、  アウステルリッツ - 忘却されたベルティエの報告書、  ヴァッハウのオイゲン


 ブログでもいくつか書きましたが、ナポレオニックの本を読んだり記事を検索したりしていると、結構熱いセリフに出くわします。アイラウで降伏を促されたLepicが言った<<Regardez ces figures, et dites-moi si elles ont l'air de vouloir se rendre.>>(この兵たちを見よ、そして彼らが降伏したいと思っているように見えるか言ってみよ)とか、うーん、読み返してみてもやっぱりかっこいい。ほかにも、ヴァッハウで仏軍の猛攻にさらされ後退しそうになる連合軍にあって、オイゲンがAlles soll stehen bleiben!“ 皆、その場に留まれ!)って断固とした防御を命じたりとか。

 まあ、実際にこういった言葉を口にしたのかどうかという問題はあるんですけど、それはさておきナポレオニックについて調べていると具体的なエピソードにばかり目が行ってしまいます。それはそれで楽しいんですけど、もうちょっとこの時代の軍事面というか戦い方というか、そういったことも知っておきたいなと思って『La revolution militaire napoleonienne』という本を読んでみました。VaeVictis誌のナポレオニック関連のヒストリカルノートで参考書籍としてちらほら出てきていたので前から気になっていたんですよね。


 全4巻構成で今のところ3巻まで出ているようですが、第1巻はLes manoeuvres。これ、行軍って訳せばいいのか、機動って訳せばいいのか、まあざっくり言って軍団レベルでの行軍に主眼が置かれています。ナポレオンの成功の重要な要素であるla stratégie opérationnelleの考察から始める、なんてことが序文に書かれているんですけど、stratégie opérationnelleってなんて訳せばいいんですかね。とにかく、会戦級のゲームしかほとんどしたことが無くて、個別のエピソードばっかり読んでいた自分にとっては知らないことだらけでした。bataillon carréっていうのが出てきて、あ、これなら知ってる、Jours de Gloireシリーズでもcarré(方陣)のルールあるもんね、大隊で方陣を組むことについての説明かな…って思って読んでみたら、全然違う話でしたよ。とほほ。



 まあこの本の最後は、ナポレオンの戦いはgagnées stratégiquement, avant même d'être livrées, et la tactique n'y eut que peu de part.(戦略によって勝利を得たもので、戦いが始まる前にすでに勝負は決まっており、戦術は小さな役割しか果たさなかった)っていう文で締められていて、それからもわかるように個々の会戦での戦い方よりもそこに至るまでの機動こそ重要、っていう考えが伝わってくる内容でした。ちなみにこれ、ジョミニの言葉らしいですね。ほかにも、La guerre napoléonienne privilégie la manœuvre sur le choc.(ナポレオンの戦い方は実際の衝突よりも機動に重きを置いていた)とか、随所で機動を強調していましたし。会戦級しかやってない自分にとっては未知のワールドを開かれた気分でした。


 仏軍に機動力があったことが強調されていて、« Les marches gagnent les batailles »っていう見出しもありました。ナポレオンの言葉でしたっけ、これ。10年間で3万6000キロを移動した兵の例が出ていましたが、自分、絶対無理。強行軍の時なんか、la marche prend l'aspect d'une déroute, non pas vers l'arrière mais en avant.(行軍は敗走の様相を呈した。ただし後方にではなく前方に)だそうです。コラムで、「当時の兵が経験した『前方への逃走』」なんてのもありましたよ。そういうことを可能にした仏兵の士気についての章もあります。 Il y a donc bien une « solidarité idéologique » au sein de l'armée napoléonienne.(ナポレオンの軍隊には、「思想的団結」があったのだ)なんてことが書かれていました。でもそのあとには兵站の章が続いていて、ふーん、なるほど、気合だけでガンガン行軍したんじゃないのねって勉強になりました。

 まあでも自分的に一番面白かったのは、この本は3部構成なんですけどその第三部のUne guerre de mouvementってところ。機動戦って訳せばいいのか、行軍による戦いって訳せばいいのか、まあとにかく1805年戦役やらいろんな場面での部隊の移動が戦況図付きで説明されているんですよね。というかこの本、結構戦況図が載っていて知識のない自分には助かりました。本のサイズは日本の新書ぐらいでしかも白黒なので、戦況図っていっても大きさも限られていてシンプルなものなんですけど、どう動いたのかイメージがつかめてよかったです。

 有名なアウステルリッツの戦いに至る前の仏軍の機動についても書かれていて、自分でも知っている戦いだからうれしくなって読んだんですけど、アウステルリッツの戦いはCastiglioneと似た面があり、意図的に弱体化した翼と、夜間行軍による戦力の集中が見られた、と述べ、 Cependant, la bataille est, cette fois, précédée d'une vaste opération de déception qui vise à minimiser les forces françaises pour inciter les Coalisés à attaquer.(だがこの戦いでは、連合軍の攻撃を誘発するため、仏軍を最小化させる大規模な欺瞞作戦が戦いの前に展開された)って書いています。Castiglioneって1796年のイタリア戦役での戦いなんですけど、このアウステルリッツ戦の部分の前にCastiglioneの戦いについて解説してくれているんですね。



で、アウステルリッツについてはというと


11月28日から29日にかけてこんな↑動きがあって、



29日から30日にかけて大陸軍を集結させたってのがわかるようになっていました。アウステルリッツ戦って凍った湖を砲弾で叩き割るだけじゃなかったのね…。

 とまあ、自分にとっては盛りだくさんの内容で消化不良なんですけど、約450ページあるこの本、また随時興味がわいた部分を読み返してみようと思います。


(この記事は「War-Gamers Advent Calendar 2025」に参加したもので、12月19日分です)














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『ナポレオンの軍事革命 1 行軍編』

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