2022年9月15日木曜日

重騎兵の突撃、そして側面からの奇襲 Sagrajas 1086 (Alea 38) AAR ①

  SNSの知り合いnyaoさんに教えていただいた『十字軍全史』という本でイベリア半島のレコンキスタについても書かれていて、そこで1086年のサグラハスの戦いにもちらっと触れられていた。サグラハスってどっかで聞いたことあるな。そうだ、ウォーゲーム誌Alea38号の付録ゲームだ。スペインのLudopressというところが出していて、小さなウォーゲーム屋さんで和訳ルール付きで売っている


 1086年と言ったら第一回十字軍の約10年前で、コンスタンティノープルではアンナ・コムネナ様がまだ幼児。20年前にはノルマンディーからイギリスを征服したノルマン・コンクエストがあって、という時代なんだけど、当時のイベリア半島の状況って全然知らない。

 8世紀前半にイスラム勢力のウマイヤ朝が北アフリカからヨーロッパに攻め込み西ゴート王国を亡ぼしたものの、732年にトゥール・ポワティエ間の戦いでフランク王国のカール・マルテルが撃退した、ということは世界史で習ったけど、そのあとは1492年のグラナダ陥落でレコンキスタの完了、ぐらいしか覚えていなくて、700年ぐらいすっぽりと知識が抜けている。日本だったら平安時代から鎌倉、室町ですよ。


 ということでAlea誌のヒストリカルノートを読んでみた。この当時イベリア半島は北部はキリスト教、南部はイスラム教の勢力下にあったんだけれど、単純にキリスト教とイスラム教が対立していたわけではない。イスラム教側はタイファと呼ばれる小王国に分裂しそれぞれ対立、一方でキリスト教側もカスティーリャ、レオン、アラゴンなどいくつかの王国に分裂していた。タイファはキリスト教国にパリアと呼ばれる軍事貢納金を支払うことで平和を買う一方でキリスト教勢力の軍事力を利用しており、スペインの英雄エル・シドもイスラム側の傭兵隊長として一時期活躍している。

 だがレオンとカスティーリャ両国の国王となったアルフォンソ六世によってイベリア半島中央部の重要都市トレドが陥落。危機感を抱いたタイファ諸国は、当時北西アフリカで台頭しつつあった同じイスラム教勢力であるムラービト朝に救援を求める。アルフォンソ六世の軍と、ムラービト軍の援軍を加えた諸タイファの軍がぶつかったのが、今回プレイするサグラハスの戦いである。


 ゲームはターン制でお互いに移動・戦闘を繰り返すオーソドックスなもの。ルールの難易度は高くなく、日本語ルールはチャートを入れて7ページしかない。ユニット数は両軍で約90,たいてい7ターンでゲームが終了するので、長考しないプレイヤーであれば1時間半もあれば1ゲームできると思う。



 初期配置は写真のとおり。キリスト教軍は騎兵がずらっと並び、敵に向いている。なおこのゲームでは中世の会戦を扱ったゲームでよくあるように、ユニットの配置に向きがある。ユニットは常にヘクス内の一つの角に上辺を向けて配置し、その角に接する2へクスが正面となり、そこにのみいわゆるZOCが及ぶ。

 一方、イスラム教軍はグラナダ(黄色)、セビリア(青)、バダホス(茶色)の諸タイファ軍が第一線を、その後方に赤いユニットのムラービト軍歩兵が第二線を構成し、左翼の丘にはムラービト軍の騎兵集団が控えている。


 実際の戦いでは、アルフォンソ六世は自軍騎兵の突撃の威力を過信し、敵イスラム軍はいつもどおり弱いと侮って突撃を命じる。諸タイファ軍が次々と打ち破られ、ムラービト軍歩兵が何とか戦列を維持。そうして時間を稼いでいる間に、ムラービト軍騎兵が側面に回り込む。勝ちを確信していたところに奇襲を受けたキリスト教軍は散々に打ち破られた、というのがだいたいの流れである。


 側面から敵騎兵集団が攻撃してくるのだから、キリスト教軍は史実のように突撃はせずに後退して防御態勢を取ればいいのでは、と思うかもしれない。だがこのゲームの移動ルールでは、基本的に正面にしか移動できず、向きは移動終了時にしか変えられない。そのため、後退しようとして向きを変えるとそこで移動終了で、敵に追いつかれ背面から攻撃される危険性がある。初期配置ではキリスト教軍騎兵は諸タイファ軍に向かって配置されているため、そのまま突撃していったほうが有利なのだ。巧緻な機動よりもとにかく目の前の敵を叩きのめす、というのが中世っぽい。


 ちなみに移動に関して和訳ルールに疑問点があったので、小さなウォーゲーム屋さんに問い合わせたところ速攻で回答が来てびびりました。


つづく



(以前、SNSマストアタックに書いたものです。修正を加えている場合があります)

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