ウォーゲームと言ったら昔はSPIやAvalon Hillなどアメリカが本場って感じがあったみたいですよね。でも最近はスペインをはじめフランス、ドイツ、イタリアで規模は小さいながらもいろんなパブリッシャーが生まれていて、なんかヨーロッパが元気みたい。と思っていたら、『EuroWarGames』という本が出たので読んでみました。いや、正確に言うとKickstarterで思わず蹴ってしまってそれが届いたので読んでみたんですけどね。
この本にはThe history, state and future of professional and public (war)gaming in Europeって副題っぽいのが付いていて、様々な国から十数人の執筆者が寄稿しています。ですが、それよりも裏表紙にあったWargaming is on the rise again. Or did it never falter?っていう惹句的なものに惹かれてしまいました。
過去二、三十年の間、ユーロゲームの流行によってウォーゲームは陰りが見えてきた。その一方で、ヨーロッパのウォーゲームのコミュニティは地理的にはお互い近くに集中しているのに言語的障害と歴史的要因から国境によって分断されてきていた。その結果、ヨーロッパの多様で豊かなウォーゲームの活動は世界的には知られてこなかった…
なんてことも裏表紙に書かれているんですけど、「ユーロゲーム」って言葉、自分は聞いたことあるけどその定義はよく知らなくて、ここんとこ流行っている(らしい)ボードゲームのことなんだろうなって漠然と思ってるんですけど、あってる?すんません、カタンぐらいしかしたことありません…。
日本でもゲームマーケットが盛況だったりボドゲカフェが各地にできていたりしますが、ユーロゲームの流行は世界的なものらしいです。ウォーゲームは当然その影響を受けているようですが、その是非が一番最初の章「Attack of the Hybrids! Wargames and Eurogames-derived mechanics」で論じられています。ユーロゲームの影響を受けたウォーゲームが多く出てくることで、多くのハードコアなウォーゲーマー(grognardって呼んでますね)はfeel threatened by this sudden evolution, fearing that such an approach could "betray" the purity of age-old mechanics and conventionsなんて書かれています。日本でもそういうウォーゲーマー、結構いるんじゃないでしょうか。Euro-invaders of the simulation worldなんて表現もありました。でもこの執筆者は、ユーロゲームとウォーゲームのハイブリッドについて、デザイナーにとって簡単ではないがthe challenge surely is worth the try if we want to persevere in the oldest tradition of wargame design: innovationって言っています。
他にもいろいろと面白い章があったのですが、真っ先に目を引かれたのはスペイン関連の記事。スペインのウォーゲーム業界ってほんと、元気がありますよね。この本に収録されているのは、Bellotasというタイトルの章で執筆者はLevy&CampaignやCoinシリーズのデザイナーVolko Ruhnke氏です。BellotaConという毎年1月にスペイン南西部の街Badajozで開かれているウォーゲームコンベンションについて、2018年の第一回から参加したときのことを書いています。
ちなみにBellotaConはこの1月23日~26日に第8回が予定されています。おお、もう直前じゃん。
この章では、スペインでも何十年にわたってウォーゲーム界を悩ませてきた問題、すなわち高齢化がある、なんてなことも書かれていて、これは日本とも共通なのかな。でもその一方で、昔ボードゲームを遊んだ世代はもう子供が独立し仕事も安定しているので、ウォーゲームに戻ってきているんだそうです。それだけでなく、ヨーロッパ全体と比較してスペインではウォーゲーマーが高い割合で増えていっているという根拠もいろいろあるんだとか。うーん、いいなあ。
それと、BellotaConのBellotaってスペイン語でドングリという意味ですが、ドングリを食べさせた豚から作るハムがこの地域は有名だそうで、そこからこのコンベンションの名前をとったと書かれていました。へー、知らんかったよ。BellotaConはもともと少人数のウォーゲーム愛好家たちが始めたもので、そういった人たちの献身的なコミットメントがあってこそ成立していたとのこと。どんどん成功して参加者が増えるにつれ、長期的にはパブリッシャーも単にサポートするだけでなく積極的にかかわっていく必要がある、ということは以前から指摘されていたそうです。でもCOVIDの時期をDiscordなどオンラインでの開催で乗り越えていったとのこと。今年の第8回も盛況になることでしょう。
ほかには、イタリアでのウォーゲームの盛り上がりについても書かれた章がありました。たまたまこれを読んでいたので、先日ブログで紹介したユーチューブも興味深く視聴することができましたよ。ちなみにあのユーチューブ動画のRiccardo Masini氏は『EuroWarGames』の編者の一人に名前が入っています。
イタリアでは月に計2万5000部売れているゲームマガジンがあるって書かれているんですが、マジ? そして一般的なボードゲームとウォーゲームのオーバーラップが見られるそうで、ウォーゲーマーの数は限られているとのこと。イタリア産のウォーゲームの強みとしてはクリエイティビティを挙げています。アメリカの主要パブリッシャーと競争するのは意味がないため、ほとんどのイタリアのパブリッシャーは第二次世界大戦の独ソ戦やアルデンヌ、ゲティスバーグやワーテルローといったメジャーなものは作っておらず、様々なテーマで多様なシステムを採用していて、そういったニッチさからクリエイティビティに価値を置くことになっている、とのこと。イタリアのウォーゲームがユニークなテーマを扱っていることに惹かれて、外国の業者が取り扱うようになるというトレンドが生まれているそうです。
面白かったのは、イタリア統一戦争と第一次世界大戦は軍事面に関してはほとんど知られていないとのこと。イタリア人にカポレットやソルフェリーノがどこにあるか聞いても答えられないんだそうです。そのため、記事の執筆者はゲームが歴史の知識を広めるのにも役立つと指摘しています。
ところでヨーロッパのウォーゲームと言えば、小さなウォーゲーム屋さんが精力的に輸入、日本に紹介していますね。と思っていたら、こんなことが書かれていました。
half of Europa is courting Bonsai Games to translate Yasushi Nakaguro's games
へー、Bonsai Gamesはヨーロッパでモテモテなんですね。
あと、たかさわさんが紹介していたこの記事を併せて読むともっと面白いと思います。ちなみにセイビン教授はこの本でも言及されています。
セイビン教授による「ロマンス語圏における戦争ゲーム」。ChatGPTなどで自動翻訳すればスルっと読めます。とても面白かった。https://t.co/QbDXpUuXBz
— たかさわ (@gameape) January 6, 2025
とまあ、いろいろと勉強になったんですが、一番印象に残っているのはイントロダクションの最後の方に書かれていたこの言葉。
our hope is that this initiative(この本のことですね) will be of further encouragement for all the different national wargaming communities to strengthen their connections, multiply their contacts, share their experiences in a scenario of mutual growth and cooperation.
ほんと、そんなふうになるといいなあと思います。
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