Levy & Campaignシリーズの新作「Plantagenet」(GMT)が出ましたね。今回は薔薇戦争。薔薇戦争と言えば、Dan Jonesの『The Hollow Crown』の和訳、出ないですかね、薔薇戦争の本って日本語だとあんまりないし、とつぶやいていたら、「Plantagenet」のデザイナーFrancisco Gradaille氏が『Battle Royal』と『Blood Royal』という本をおススメしてくれました。
Nor in Spanish. Everything I read preparing the game was in English. I would recommend also Hugh Bicheno's Blood Royal & Battle Royal.
— Francisco Gradaille (@FGradaille) August 12, 2023
デザイナーさんご本人から推薦図書を教えてもらえるなんてラッキー、と思っていたら、この2冊、「Plantagenet」のBackground Bookで参考資料として真っ先に挙げてあるんですよね。でも教えてもらえたのはうれしいです。
ということでさっそく読んでみました。この2冊、セットになっていて、『Battle Royal』は薔薇戦争の前半を、『Blood Royal』は後半をカバーしています。今回紹介するのは『Battle Royal』のほうなんですけど、薔薇戦争って言ったら一般的には1455年の第一次セント・オールバンズの戦いから始まると考えられているようですが、日本語ででている『薔薇戦争』や『薔薇戦争新史』、それに先述した『The Hollow Crown』と同様、『Battle Royal』もそれよりもっと前から書き起こしています。
薔薇戦争っていろんな貴族が出てきて、それがまたややこしいんですよね。しかも爵位で呼ばれたりするから、これどのサマセットだよ、となったりして。SalisburyがキングメーカーWarwickの父親だってつい忘れそうになるし。まあ、自分の知識不足のなせる業ですが。しかも親子で同じ名前だったりするのがさらにややこしい。でもこの本ではランカスター家やヨーク家だけでなく、ボーフォートやネヴィルと言った家系についても説明してくれていて、なんとなく人間関係がわかるようになってきました。
でもまあ、やっぱり興味があるのはもっと軍事的な面なので、読んでいて第一次セント・オールバンズ戦以降のほうが面白かったです。重要な戦いは戦況図付きで説明してくれているうえ、戦場までのアプローチがわかる道路網の図も載せてあって、両軍の機動がわかりやすくなっていました。薔薇戦争の最大の戦いともいわれるタウトンの戦いなんか、金属探知機を使って10年以上かけて戦場を調べた人がいるらしくて、金属反応が多いところがおそらく激戦だっただろうということがわかる図まで載せていました。こういう地道な調査はありがたいですよね。それに『Battle Royal』は2015年に出ているんですが、こういう最近の知見も入っているのが嬉しいです。
それと、the English were renowned for their ferocity and were not temperamentally suited to positional warfare, which may explain why castle played such a peripheral role in the conflict.なんて書いてあって、そういや薔薇戦争で攻城戦って聞かないな、やっぱ中世のイングランド人って血の気が多いのかなってなんか納得しました。
騎行(chevachée)と身代金という二つの戦費調達手段が薔薇戦争では封じられていたという指摘も、ちょっと新鮮でした。少し考えれば当然だとわかることですけどね、ははは。だって内戦で騎行のようなぺんぺん草も生えないような略奪は行えないし、薔薇戦争で貴族が殺されまくったというのは有名ですしね。
あと、薔薇戦争の主要登場人物の一人、ヘンリー六世王妃マーガレットについて結構書かれていたのも勉強になりました。フランスから嫁いできたってのは知っていたけど、頼りないヘンリー六世に代わってランカスター派を切り盛りした、ぐらいのイメージしかなくて、仏王シャルル七世の姪だったとか、どこかで読んだことがあったかもしれないんですけどすっかり忘れていましたよ。マーガレットの母親のイザベル・ド・ロレーヌも女傑だったようで、マーガレットはgrew up witnessing how strong women could make something of weak menなんて書かれていました。
というわけで薔薇戦争についてもっと知りたい、という人にはいいんじゃないでしょうか。でも「Plantagenet」(GMT)をやるなら、とか偉そうにタイトルに掲げておきながら、自分はまだ買っていないんですよね。すみません。地道に計画的な部隊運用を要求されるゲームって、なんか気後れしてしまって。テーマ的にはドンピシャなんですけどね。今のところAARを見て楽しんでいます。
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