2022年12月13日火曜日

『サピエンス全史』の著者が描く、騎士たちの特殊作戦

  (この記事は「War-Gamers Advent Calendar 2022」に参加したもので、12月13日分です)


  中世を扱ったウォーゲームってほんと、少ないですよね。WWⅡとかナポレオニックとか大量に出ているのに、約千年も続いた中世のゲームのお寒い状況と言ったら…。いろいろと問題があるのはわかるんですよ。信頼できる資料がどこにあるんだとか、中世のイメージってだいたいファンタジーなんだよとか(←偏見?)。

 で、ある日寂しくアマゾンで中世関連の本を探してたら、『Special Operations in the Age of Chivalry, 1100-1550』という本を見つけたので買ってみました。

 Special Operationsって書いてあるのに、こんなにのどかというか間抜けな絵の表紙でいいの? ひょっとしてギャグなのか? というツッコミは心の中にしまっておいて(でも中世の絵ってこういう感じのが多いですよね)、騎士道の時代の特殊作戦ってどんなものだろう、と思ってふと見るとYuval Noah Harariという名前が表紙に書いてある。え、もしかして『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリ?

 世界中でベストセラーになった『サピエンス全史』って漫画版まで出ているけど、その筆者ユヴァル・ノア・ハラリがもともと軍事史が専門だったということを全く知りませんでした(それともこんなこと、常識?)。ハラリは高校のときに百年戦争のロングボウについて調べたことから軍事史を志すようになったそうだ。へー。


 そのハラリが書いた『Special Operations in the Age of Chivalry, 1100-1550』は、特殊作戦とは何ぞや、ということから始まっている。狭い限定された地域における、比較的短期間で行われる小規模部隊による戦闘行動で、投入されるリソースは少量だが大きな戦略的政治的結果を得られるもの、がハラリの言う特殊作戦だそうだ。うーん、なんかこうして書くと教科書みたいで特殊作戦という言葉にあるワクワク感がなくなっちゃうな。ただしこの本で扱うのは陸上での戦闘に限られており、海上のものは除外されている(なお除外する理由も説明されていて、あーなるほどという感じ)。

 現代における特殊作戦についての考察もあり、第一次世界大戦以降は勇敢な突撃といった戦場でのヒロイズムが泥と血と有刺鉄線の悲惨なイメージにとってかわられたため、英雄的な行動は特殊作戦で求められるようになったと述べている。昔は英雄が戦争の行方や国の運命を左右できたけど、いまや個々の英雄が重要な役割を演じられるのは特殊作戦だけ、ということですな。メディアでも特殊作戦が大きく取り扱われるようになり、大衆文化、特に映画で人気となった、という指摘はわかりやすい。例としてミッション・インポッシブルやスターウォーズ、ロード・オブ・ザ・リングとかが挙げられている。え、ロード・オブ・ザ・リング?と意表を突かれた感じなんだけど、「ただしデススターや指輪を特殊作戦の破壊目標となる大量破壊兵器だと認めればの話だけれども」という条件が付いていた。デススターはともかく、ロード・オブ・ザ・リングの指輪って兵器なのか? 特殊な力はたしかにあったけど。

 研究者の間でも特殊作戦についての関心は高まっているそうだけど、たいていは第二次大戦以降のものが研究されているらしい。それより前の時期については、特殊部隊と通常の軍隊の精鋭部隊との混同があるそうで、これに関してはジェームス・ダニガンのこともちらっと触れられている。ダニガン先生の名前が出てくるとなんかうれしい。

 またユヴァル・ノア・ハラリは中世と現代の特殊作戦を比較した後で、火薬の登場・近代国家の成立、つまり中世の終焉だけど、それ以前と以降では、差異よりも継続性のほうが大きくみられると主張している。この辺の分析も面白いです。


 そういう特殊作戦についての考察が第一章に書かれていて、それはそれで面白いんだけど、第二章以降では具体的に6つの特殊作戦について書いている。内応者に呼応して城塞都市を夜襲したり、敵地奥深くの要塞にとらわれた王の救出作戦、それに小規模の襲撃部隊で補給拠点を強襲して神聖ローマ帝国の大軍を退却させた話とか、これがまた面白いんですよ。短編小説の題材になりそうな話が並んでいて結構エンターテインメントとしても読める。田中芳樹とか、誰か小説に膨らませてくれないかな。第一章はすっ飛ばして第二章以降の好きな話からつまみ読みしても十分楽しめます。


 なにかのゲームに絡めてこの本を紹介しようかと思ったけど、そもそもマイナーな中世、しかも特殊作戦なもんでウォーゲームになりにくいものばかり。それに何より本として面白いし、膨大な注や参考文献リストを除けば実質百数十ページしかないので気軽に読めます。ユヴァル・ノア・ハラリについては批判もあるけど、ウォーゲーマーとしては参考になるというか楽しめる本なのでご興味持たれた方はぜひ。ウォーゲームやるけど中世なんて興味ねーよ、なんて言わないでね。

 ちなみに中世のゲームだとGMTの「Men of Iron」シリーズがいいっすよ。もう版元では売り切れで残念なんですけどね。たまたま、「War-Gamers Advent Calendar 2022」の前日の記事がターン制についてだったけれど、MoIシリーズは非ターン制といっていいんじゃないでしょうか。ターン制の定義がよくわからないけど。MoIシリーズはAARをいくつか書いているのでよければ読んでみてください。P500に入っている「Norman Conquest」、早く出ないかなー。「ヴィンランド・サガ」のアニメのシーズン2が放映されている間にでると、こじつけていろいろと紹介できるんだけどな。


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