ユグノー戦争って言ったら30年以上にわたって続いた戦争なのにウォーゲーム業界ではマイナーで、日本語ルール付きだったらフランスのFellowship of simulationsというところから出ている「Wars of Religion」ぐらいしか見当たらない。でもまあ、世界史の授業でもサン・バルテルミーの虐殺とナントの勅令、それにアンリ四世ぐらいしか習った覚えがないなあ。
でもさすがはご当地フランス、Vae VictisからAvec Infini Regretというシリーズが出ていて、ユグノー戦争期の会戦をシミュレートしている。(なお同シリーズにはVV105号でオランダ独立戦争のNieuport 1600が、VV116号でスウェーデンとポーランドの戦いのKirchholm 1660が出ている)
Avec Infini Regretのゲームをプレイしていたら、そういえばユグノー戦争のことって全然知らないなあ、アンリ四世が女性に手を出しまくったということぐらいしか覚えてない、と思ってユグノー戦争の本を探してみた。佐藤賢一の『ヴァロア朝』と『ブルボン朝』が読みやすいけど、ユグノー戦争を主体的に書いているわけではないし。シンプルにまとまっているものを、と見つけたのが文庫クセジュの『宗教戦争』。そうか、クセジュがあったかと改めて気が付いて(フランスのことなんだからフランスの出版社の本を探そう、と思わない自分の鈍重さよ…)クセジュのサイトで探してみたら、ありました、『Les Guerres de Religion』という本。2016年に初版が出たようで比較的新しいし、本文は120ページと手軽なので読んでみた。文庫クセジュってちょうど新書ぐらいの分量でさくっと読むのにいいんだよね。
読んでみるとまあ知らないことばかり。勉強になったわーと思っていたら、白水社から8月30日に『Les Guerres de Religion』の翻訳が出るっていうツイートが流れてきた。がーん。和訳本って、当然と言えば当然だけど日本語になっているから自分の持っている知識とつながりやすいんだよね。『Les Guerres de Religion』を読んでいたらetats generauxって言葉が出てきて、なんか大きな集会なのかなって思っていたんだけど、三部会のことだって気が付くのにちょっと時間がかかりましたよ。とほほ。それに和訳本だと大抵解説がついているからお得なんだよね。あーあ、知らなかったとはいえ翻訳が出るのを待てばよかった…。
和訳本は、白水社のサイトによると、今のところ『フランスの宗教戦争』という仮題になっている。ユグノー戦争に興味がある人は発売まで待ってください。ちょうど今、フランスからは物騒なニュースが流れていますが、16世紀には血みどろの内戦が行われていたんだと言うことがよくわかります。
この本の筆者Nicolas Le Rouxはソルボンヌ大学の教授らしいので、内容的にもしっかりしているはず。でも自分の知識不足、特に政治思想に関しては無知で、"un roi, une foi, une loi"なんて言葉を見ても、「アンロワ、ユヌフォア、ユヌロワ」なんて韻を踏んでてリズムがいいなーとしか思わないのが我ながら悲しい。それと、contractualismeという言葉がこの本には出てきたんだけど、日本語でなんていうですかね。契約主義? とにかく、ユグノー戦争中、特にサン・バルテルミーの虐殺以降に強まった考えのようで、王への服従は絶対的なものではなく、王が臣民を尊重する限りにおいて臣民は自発的に服従するという契約のことらしいけど、それが17世紀の絶対王政のフランスとどうつながるのか、もしくはどう変化するのかが知りたくなった。あと、国家(Etat)という概念が生まれたって書いてあるんだけど、L'invention du coup d'Etat(クーデターの発明)なんて章があって面白かったです。
まあとにかく、ユグノー戦争について手軽にまとまっている本なので、ご興味がある人はどうぞ。
(9月5日追記)
白水社から和訳が出ました。予告どおり、『フランスの宗教戦争』というタイトル。原著にはない関連家系図や、日本語書籍の参考文献リストもついているそうなので、買おうかな。
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