2024年7月26日金曜日

チャーチルに「こんな悪天候下では攻撃に出ません!」といった翌日に攻勢開始 Alsace1944 (VV175)

  VaeVictis最新号のゲームAlsace1944は、みんな大好きWWⅡの作戦級。1944年の西部戦線って言ったらノルマンディー、マーケットガーデン、バルジぐらいしか思い浮かばないんだけど、このゲームはバルジの約1カ月前の11月中旬から始まる仏軍の攻勢をシミュレートしている。舞台は仏東部のスイスに隣接する地域で、もうすぐライン川に到達しそうなところである。

 南仏のプロバンス地方から進撃してきた仏軍はこのヴォージュ山脈の地域まで来た時点でかなり消耗しており、補給状況も悪化していた。さらにはもう雪が降り始め地面は泥濘となり、弱体化したドイツ軍も仏軍の攻勢はないものと判断して一息ついていた。実際、この方面のフランス第一軍を指揮するde Lattreは前線視察に来たチャーチルに対し、「こんな天候下では攻撃には出ません!」と断言したそうだ。

 だがde Lattreは攻勢準備を巧妙に隠蔽しており、チャーチルにそう言った翌日に攻勢に出たらしい。この地域のドイツ軍の防御ラインは薄く、1個国民擲弾兵師団が30kmをカバーしているような状態。Vogenstellungという陣地線はあってパンターの砲塔とかで補強されていたけれど、不意を突かれたドイツ軍は危うく包囲されそうになる。ヒストリカルノートでも「ファレーズ再び?」なんて小見出しがあったりする。だがドイツ軍は援軍をかき集めて果敢に反撃、アルザス地域の解放を目指す仏軍の攻勢はなんとか押しとどめられた、という戦いだったらしい。

 久しぶりにWWⅡ関連のヒストリカルノート読んだけど、ヤークトパンターとか出てきて結構わくわく。1944年も11月ということで、ドイツ軍が雑多な部隊をかき集めて必死に反撃するところがなんとも…。ゲームのマップにも含まれているCornayという街には武装SSの訓練施設というか士官学校のようなものがあったそうで、そこから士官候補生も前線に投入された、なんて書かれているし。突出してきた仏第一戦車師団に対して、アルンヘムの英第一空挺師団と同じ運命をもたらしてやる、なんてビラをまいたっていうエピソードもあった。武装SS第30師団なんてのも登場するんだけど、ベラルーシなどの義勇兵から編成されていたそうで、反乱を起こして一部の兵は自由フランス軍に加わっていたらしい。あと、東部戦線で捕獲されたBA-6も投入された、なんてトリビアも嬉しい。

 付録ゲームのAlsace1944なんだけど、いわゆるIGOUGOシステムで、戦闘は戦力比というオーソドックスなもの。ユニットは基本的に連隊規模、1ターン二日、1へクス約4kmという規模。簡単なルールなので初心者でもとっつきやすい。過去のVaeVictisで、同じルールでヴェリキエ・ルキの戦いその他もゲーム化されている。このアルザス戦は以前にVaeVictisで別ルールでゲーム化されていたんだけど、もっと短い時間でプレイできるものを、ということでこのシステムを採用したってデザイナーズノートに書かれていた。

 ちょっと特徴的なのが、各ユニットには戦闘力のほかに兵質(Qualité)を持つ点。戦闘の際に両プレイヤーともサイコロを振り、兵質に応じて戦力比が有利になったり不利になったりするのだ。最高の兵質Aだと2コラムシフトを得られる可能性があり、Cだと2コラム不利になったりする。1944年という時期からしてしょうがないんだけど、ドイツ軍の多くは兵質Cである。ただ第106装甲旅団のユニットはAなのが嬉しい。あと、フランス軍には外人部隊のユニットも登場するのがちょっと個人的にはポイントだったかな。


 早速プレイを、と思いつつ、作戦級ってしばらくやってないや…と二の足を踏んでしまいカウンターも未カットのまま。だれかプレイしてAARなり感想を書いてくれないかなあ。


2024年7月7日日曜日

戊辰戦争の2年前の欧州で Münchengrätz 1866(VV174) AAR ⑤

 ●第6ターン (13:00)

 今ターンに全軍盤外に撤退したいオーストリア軍、かたやその前に敵を補足したいプロイセン軍。活性化チット(marqueur d'activation)を引く手に力が入る。最初に引かれたのは…プロイセン軍のHorn。だがこの部隊は、前ターンのMusky山占領を優先したため、丘陵地では移動力が足らずオーストリア軍を捕まえることができない。

 続いて引かれたのはFransecky。敵を逃がすわけにはいかない。オーストリア軍は斜面や村で防御ラインを引いているが、戦力やサイの目修正を考え、一番防御が弱い歩兵と砲兵のスタックを攻撃。だが斜面上からの防御射撃に砲兵の至近距離の射撃が加わって、Franseckyの2ユニットとも撃退されてしまった。

 プロイセン軍の攻撃を退けている間にAbeleの部隊が盤外に脱出していく。このままLeningenも、と思いきや、運命の女神はプロイセン軍に微笑んだ。Leningenよりも先にSchölerのチットが引かれる。これまで渡渉地点を見つけられなかったプロイセン軍の騎兵だが、今回は成功! マップ南端の向こう岸にZoCを及ぼす。そしてSchölerの主力は消火された橋、それに架橋された地点を通って渡河、南下してLeningenの部隊を拘束する。渡渉地点を見つけた騎兵のZoCと相まって、Leningenの今ターンの盤外への撤退は不可能になってしまった。

 Leningenは至近距離からの砲撃でSchölerの歩兵を混乱させるものの、敵ZoCに拘束されていること、丘陵地での移動コスト、それに移動力の低い砲兵がいることから、包囲を避けマップ南端に後退するのが精いっぱいである。


  Les Grandes Batailles du temps de Napoléon III(ナポレオン三世時代の主要会戦)シリーズでは、敵ZoCの離脱には全移動力の半分を、混乱状態だと全移動力を消費する。高度差があるヘクスサイドを通過する場合は移動コストが+1(ただし街道沿いだとゼロ、道沿いだと+0.5)で、砲兵は街道か道が通っていなければ高度差のある移動はできない。そもそも砲兵は移動力が低いため、敵に隣接された場合丘陵地での後退はかなり困難になるのである。

 ちなみにこのシリーズではユニットの配置には向きがあり、ユニットはヘクスのいずれかの辺に向けて置く。ユニット周辺の隣接6へクスのうち3へクスにみZoCが発生し、後方3へクスにはZoCは及ばない。


●第7ターン (14:00)

 最終ターンである。プロイセン軍はあえて攻撃することはせず、敵を拘束するにとどめる。オーストリア軍はゲーム終了時にマップ上に残っているオーストリア軍2ユニットごとに1VPを失うのだ。それに、プロイセン軍はゲーム終了時に混乱状態の自軍ユニットがいるとVPが減る。防御射撃で損害を受け回復も失敗、ということもあり得るので、あえて攻撃に出るリスクを冒さないのである。

 一方のオーストリア軍は最後の反撃を試みる。砲撃でSchölerの歩兵を混乱、敵に一矢を報いた。そして歩兵1ユニットがからくも盤外へ脱出していった。

 こうしてゲームは終了。勝利得点は1点差でプロイセン軍の限定的勝利(victoire mineure)に終わった。


 正直、プレイバランス的にはオーストリア軍に厳しい。兵力劣勢なうえ、第5ターンまでMusky山やミュンヘングレーツの占領を極力阻止しないといけないし、オーストリア軍は第6ターンに撤退したユニットのみがVPに貢献するし。そのうえ損害は避けないといけない。史実では3点差でプロイセン軍の勝利だったそうで、そりゃ厳しいのも当たり前か。

 ただ今回のプレイではHornは1回しか活性化に失敗しなかったし、Schölerは毎回成功していたけど、確率的にはゲーム中Hornは2回、Schölerは一回は失敗するわけで、特にSchölerがIser川を渡河して全力追撃って場面で活性化できないとプロイセン軍には結構痛いはず。あとは地形の利用と砲兵の運用・撤退をうまくやればオーストリア軍にも勝ち目はあるんじゃないかと思います。チットプルなんで、活性化チットの引き順も結構影響するけど。

 VV174号にはこのMünchengrätzの翌日に起こったGitschinの戦いもついている。ちなみにGitschinもオーストリア軍の撤退戦だ。両ゲームの連結シナリオも収録されているし、将来的にはケーニヒグレーツの戦いも同じLes Grandes Batailles du temps de Napoléon III(ナポレオン三世時代の主要会戦) シリーズで出るらしい。1860年代っていったらアメリカの南北戦争がウォーゲーム的にはメジャーだけど、普墺戦争を扱ったゲームは希少価値があるんじゃないかな。戊辰戦争と同時代ということでプレイしてみてはどうでしょう。

2024年7月3日水曜日

戊辰戦争の2年前の欧州で Münchengrätz 1866(VV174) AAR ④

 ●第4ターン (11:00)

 今ターン、最初の活性化となったのはオーストリア軍左翼のLeningen。前ターンに撃退したSchölerが再び動く前に、Iser川の橋に火を放つ。橋にプロイセン軍がどれくらい近づいているかで成功の確率が変わってくるのだが、これまでSchölerの攻撃を繰り返し撃退してきたLeningen、ここでもサイの目がさえ、橋は目論見通り燃え始め通行不可になった。

 Schölerは急いで橋の消火にあたる。だが消火のためには橋に隣接したユニットが1ターン何もしないことが条件となっており、火が消えるのは次ターンに持ち越されてしまった。橋が再び通行可能になるのを待っている間、前ターンからマップ下方に向けて派遣していた騎兵がIser川にたどり着き、渡渉可能地点を探す。1ターンに一回、Iser川に隣接するプロイセン軍ユニットは1移動力を消費して渡渉地点(Gué sur l'Iser)を探すことができ、1D6で4以上の目が出れば発見に成功する。だが今回は失敗。Schöler部隊はIser川の対岸で遊兵となってしまった。

 Schölerが動けないのであればマップ右方でプレッシャーをかけろ、というプロイセン軍プレイヤーの叱咤にもかかわらず、Hornが活性化失敗。その隙にオーストリア軍右翼のAbele隊が後退していく。プロイセン軍Franseckyは次ターンのミュンヘングレーツ占領を目指して左方に転進、混乱状態だったユニットも回復した。

 オーストリア軍は各部隊の活性化の最初に行える砲撃(tir de barrage)以外、攻撃らしい攻撃をしていない。これは兵力的に劣勢だということもあるが、損害を出すのを極力避けるためでもある。防御射撃や攻撃側の強襲の結果は、効果なし以外では士気チェック、もしくは混乱状態になって退却だ(なお5以上の戦闘力だと敵にステップロスを強いる可能性が出てくる)。士気チェックに失敗するとやはり混乱状態になって退却となる。混乱状態のユニットがさらに混乱の結果を受けるとステップロスなのだが、ステップロスをすると敵のVPになるだけでなく、ステップロスの累計が部隊ごとに設定されている士気喪失閾値(seuil de démoralisation)に達した部隊は士気喪失(démoralisée)となる。士気喪失した部隊は、移動は自軍マップ端方向にしかできず、士気チェックでも不利なDRMがつくうえ、敵がVPを得るのだ。

 ということで部隊の士気喪失は避けないといけないのだが、このシナリオの場合Leningen部隊の士気喪失閾値は2,Abeleにいたってはたったの1である。ステップロスをしないよう、混乱状態のユニットは後方に下げ回復に努めるのがオーストリア軍には精いっぱいなのだ。

 また、プロイセン軍歩兵は防御射撃の際、ドライゼ銃効果で1シフト有利になる。これもまたオーストリア軍に攻撃を躊躇させる要素だったりする。


●第5ターン (12:00)

 このターンまでにプロイセン軍はMusky山を占領すると2VP,ミュンヘングレーツは1へクスごとに1VPを得られる。前ターン活性化に失敗したHornがMusky山を、Franseckyがミュンヘングレーツの北へクスを占領した。ミュンヘングレーツの南へクスはLeningenが歩兵と猟兵ともに守っているため手が出せない。

 Iser川の対岸ではSchölerが橋の消火に当たる一方で、他の地点で架橋(Ponton)を始める。対岸に敵ユニットがいない場所で1ターン何もしなければ架橋ができるのだ。だが今ターンも騎兵は渡渉地点を見つけられず。Schölerの部隊はなかなかIser川を渡ることができない。

 敵のプレッシャーが弱まっている隙に、オーストリア軍はさらに後退。次ターンに盤外への脱出を目指す。オーストリア軍は次ターン、第6ターンにマップ外に撤退した3ユニットごとに1VPが得られるのだ。

 ターン終了時には橋が消化し、架橋も完成した。次ターン、オーストリア軍が撤退する前にSchölerの部隊はIser川を渡河して敵を補足できるか。

つづく


マーケット・ガーデン80周年なので読んでみた、『9月に雪なんて降らない』

 1944年9月17日の午後、アルンヘムに駐留していた独国防軍砲兵士官のJoseph Enthammer中尉は晴れわたった空を凝視していた。自分が目にしているものが信じられなかったのだ。 上空には 白い「雪」が漂っているように見えた。「ありえない」とその士官は思った。「9月に雪な...