2024年9月6日金曜日

クラウゼヴィッツの『1815年のフランス戦役』

  ワーテルロー戦の終盤、親衛隊の最後の攻撃をシミュレートした「La Garde Avance!」っていうのがあって、小さなゲームながら結構面白いんですね。右翼にプロイセン軍が迫る中、ナポレオンは親衛隊を投入して敵中央突破の賭けに出る…という燃えるシチュエーションです。タイトルからしてですね、撃退された親衛隊を見た仏軍が叫んだという「La Garde recule!(親衛隊が退却している!)」って言葉にかけているみたいですからね。

 つい最近SNSのマストアタックでこの「La Garde Avance!」と親衛隊の攻撃について熱い議論が交わされて、ナポレオニックの知識がほとんどない自分にはすごく勉強になりました。そういえば最近クラウゼヴィッツの「戦争論」の全訳が出たな、クラウゼヴィッツと言ったらナポレオンと同時代人だから、ワーテルローについて何か書いてないかな、と探してみたらありました。「Der Feldzug von 1815 in Frankreich」という著作。

 これ、『1815年のフランス戦役』というタイトルとおり1815年戦役の開始状況からパリ陥落あたりまで、クラウゼヴィッツの分析を交えつつ描写しています。なのでワーテルロー戦も全体の一部にしか過ぎないんですが、Die Hauptmomente der Schlacht. Vertheidigung Wellingtons(戦闘の主な時点。ウェリントンの防衛)という章で親衛隊の攻撃についてちょっと触れられています。


da wollte der verzweiflungsvolle Bonaparte auch das Letzte noch daran setzen, um das Centrum Wellingtons zu sprengen. Er führte die übrigen Garden auf der Chaussee nach la Haye Sainte und der feindlichen Stellung vor; 4 Bataillone dieser Garden machten einen blutigen Angriff, aber vergebens.

(必死になったボナパルトは、ウェリントンの中央を突破するために残っているすべてを投じようとした。親衛隊の残りの部隊を率いてラ・エイ・サントから敵の戦列へと通じる道を前進した。この親衛隊の4個大隊は熾烈な攻撃を行ったが、無駄だった)


 いや、そんなにあっさり終わらせないでよ! と言いたいところなんですけど、戦役全体を扱った著作だから仕方ないんでしょうね。


 この「Der Feldzug von 1815 in Frankreich」、クラウゼヴィッツがプロイセン人だからなんでしょうけど、英軍よりも普軍の描写や分析が多い印象。ワーテルロー戦も、

Die Schlacht zerfällt angescheinlich in zwei verschiedene Akte: den Widerstand Wellingtons und den Angriff der Preußen in der rechten Flanke der Franzosen.

(この戦いは明らかに二つの動きに分けられる。ウェリントンの防戦と、プロイセン軍のフランス軍右翼への攻撃である)

なんて書いています。まあプロイセン軍の登場で戦況がガラッと変わったのは認めますけど、でもワーテルロー戦のいくつかあるクライマックスの多くは英軍と仏軍の攻防にあったんじゃないんですかね。でも戦闘終盤のウェリントンについて、ウェリントンは敗北一歩手前までいっていたという意見が一般的だがそれは違う、という趣旨のことを論じていたりします。

 あと、Betrachtungen über die Schlacht. Bonaparte(戦闘の考察。ボナパルト)という章では、ナポレオンはもっと早く攻撃を開始すべきだったのかなどいろんな点について結構長く書いていて、es war gegen alle Regel, diese Schlacht noch zu versuchen.(この戦いを始めたということが、すべての法則に反するのだ)なんてことまで(条件付きでですが)書いています。まあそのあとちょっとナポレオンを擁護しているんですが。とにかくワーテルロー戦についてナポレオン側のことはかなり考察しているのに、続く連合軍の章ではUeber das Benehmen der verbündeten Feldherren in der Schlacht von Belle-Alliance haben wir wenig zu sagen.(ワーテルロー戦での連合軍の将軍たちの行動についてはいうべきことはほとんどない)なんて書いてあっさり終わらせていたのが面白かったです。


 「Der Feldzug von 1815 in Frankreich」は1815年戦役全体をあつかっているため、ワーテルロー戦以外のことについて書かれている部分のほうが当然多いんですけど、この戦役について全然知らないのでクラウゼヴィッツの叙述や分析がどれだけ妥当なものなのかは全然わかりません。勉強になりましたが。現代の通説と比べてみるのも面白いのかなと思います。その前に通説をどこかで読まなきゃ。


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