2026年2月28日土曜日

『ナポレオン戦争の会戦と戦術』

  いつもナポレオニックについて勉強させていただいているDSSSMさんがこんなポストをしていまして。

 去年あたりからナポレオニックに興味が出てきたんですけど、日本語で読める本が増えるのは嬉しいなあ。それにたいてい、翻訳本って和訳にとどまらず訳注や解説とかがあることが多いですからね。この本も会戦や人物についての解説がつくそうです。レビューなんかを見ていると興味がわいてきてキンドルで手ごろな値段だったので"Tactics and the Experience of Battle in the Age of Napoleon"を読んでみました。

 タイトルにexperienceって入っているとおり、ナポレオン戦争に参加した兵や将校の手記、手紙からの引用が盛りだくさん。ナポレオニックの戦術というよりは兵や将軍の心理に重きを置いた内容って印象を受けました。Morale and Cohesionとか、Attitudes and Feelingsなんて章もあるし。After the Fightingなんて章もあって、戦争が終わった後の兵たちのその後が描かれているんですけど、類書ってあるのかなあ。But after the welcome home came disillusionment. Although he was well educated, the veteran soldier could not find steady work, even labouring.なんて言葉が、なんていうか身につまされました。軍隊行ったことないけど。まあとにかく、個々の兵の体験がビシバシ伝わってくる感じで面白かったです。a sergeant hiding behind a tree while his men were exposed to enemy fireとか、あー、やっぱりそういう下士官いるんだ、とか。負傷兵の救護とか銃が故障したとか言って戦列の後方に行こうとする兵の話とか。そういう人間臭いエピソード、好きなんですよね。

 もちろん、戦術のほうもcolumnとlineの話とか、light infantryについて一章設けられていたりとか、ナポレオニック初心者の自分には勉強になりました。


 ただね、出てくる例がイギリス軍のことがほとんどなんですよ。ナポレオンよりもウェリントンのことのほうが頻繁に触れられていたり、半島戦役の話がかなりの頻度で出てきたり。タイトルはTactics and the Experience of Battle of the British Army in the Age of Napoleonのほうがいいんじゃないの、って思うぐらいでした。

 これについては筆者が序文でちゃんと断っていて、この本のために参照した手紙や手記はイギリス兵のものがほとんどだそうなんですけど、at this level of combat national differences mattered comparatively little: Russian, Scot or Portuguese, a line of horsemen galloping straight at you looks much the same, and the steadiness of your unit will depend on its confidence and training, its recent experiences and losses, not on its mother tongue.って述べています。

 まあ、自分みたいに英語中心主義に反発を覚える人間からするとうーんと思ってはしまいます。あんまり英語できないひがみですかね…。でもクラウゼヴィッツの言葉を引用しているところで、注がQuoted in Duffyってなっているんですよね。え、それって孫引きってこと? まあ読者が参照しやすいためにあえて英語の文献を出典としたのかもしれませんが。でも気になったので調べてみました。クラウゼヴィッツの著作は著作権が切れていて無料で公開されているのがありがたいです。でも、Der Russische Feldzug von 1812って英訳でていないのかな…。

 というか、"Napoleonic Wars: The Essential Bibliography Series"という本の著者のFrederick Schneid、『戦闘技術の歴史 4 ナポレオンの時代編』でも書いている人ですけど、この本のレビューを書いていて、全体的には評価しているんですけど、上記の英語資料編重についてそれはどうかと指摘しています。

 

 とはいえ、ナポレオニックに興味がある人だったら読んで参考になることが多い本じゃないかなって思いました。特にイギリス軍について知りたい人にはいいんじゃないでしょうか。もっと日本語でナポレオニックの本が出るといいなあ。



2026年2月15日日曜日

『ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争』

 つい最近、ぴょんさんがC3i38号の「Korea: The Fight Across the 38th」を、DSSSMさんがOCS「KOREA」をプレイしているのを目にして、朝鮮戦争への興味が刺激されたんですけどね、

でも自分、朝鮮戦争っていったら思い出すのはこれなんですよね。アホですみません…


 これじゃいかん、と読み返したのが『The Coldest Winter』。だいぶ昔に一度読んだんですけど、かなり内容を忘れているので再読とは思えない新鮮さがありました。ペーパーバックで660ページほどあるので、結構分量があったんですけど、やっぱりハルバースタム、読みやすいわー。彼の短編、「A Letter to My Daughter」とか結構好きなんですよね。淡々と抑えた筆致の中に訴えてくるものがあるというか。

 この『The Coldest Winter』、America and the Korean Warっていう副題どおり、アメリカを中心に描いています。朝鮮半島での戦況だけでなく、トルーマンとマッカーサーの緊張関係、アメリカの外交や国内の政治面にも結構ページが割かれていました。朝鮮戦争の全体的な軍事的な流れを知りたかったら別の本のほうがいいんじゃないかな。

 でも詳述されている戦いもあって、みんな米軍が苦戦に苦戦を重ねたものばかりなんですね。中朝国境に迫った国連軍に対する中国軍の奇襲、それに釜山まで後がない洛東江の戦い、米軍の中国軍への戦い方を変えた1951年2月の戦線中央での両軍の衝突、という3つの戦いは、実際に参加した兵士や将校の言葉が並んでいて読んでいてしんどくなりましたよ。あとはマッカーサーの傲慢さとか、第10軍団を指揮したアーモンドについてはかなり辛辣に書いていましたね。朝鮮半島の戦況に関する情報を握っていたウィロビーが、マッカーサーの望むような情報しか伝えなかったことについては、ウィロビーが何か言った後の周りの将校の反応について、the awful thing was that the claque of colonels would all laugh as if he had said something funny, and you suddenly feared for the intelligence coming into the Tokyo command and headed towards Washington.なんて記者のコメントも載っていましたよ。自分の好きなジョークに、「社長になって何が変わりましたか?」「私のつまらないジョークにみんなが笑うようになったことだ」ってのがあるんですけど、それを思い出しちゃいました。阿諛追従で苦しむのはまじめにやっている現場の人たちなんだよね…。

 アメリカ以外のことも描かれていて、中国軍の隠蔽、偽装の巧妙さについては何度か触れられていました。ある戦いの後、thousands and thousands of Chinese emerge from a place where you thought none existed, and only then becoming truly terrified, as if realising finally just how many Chinese had actually surrounded them.とか。中国軍の大きな人的損害ももちろん述べられています。それと彭徳懐についてはその生まれや人格について結構詳しく書かれていました。でもPeng Dehuaiって誰よ?って思ってしまいましたよ。中国人の名前あるある。そういえばThe In Min Gunなんてな言葉も出てきて、あー、人民軍ねって文脈で分かったけど、漢字って偉大ですな。あと、all-Nisei 442nd Regimental Combat Teamってのができたけど、これって二世のことだよね。

 ところでマッカーサーについて仁川上陸作戦のところで"Had Napoleon Bonaparte examined McArthur's career up to the eve of the Korean War, ... he undoubtedly would have concluded that he passed the first and foremost test of a commander: he was lucky."なんて伝記作家の言葉が引用されていたけど、ナポレオンって指揮官と運についてそんな感じのこと言ってたんですかね。それと、このすぐ後にAfter Inchon, that luck finally ran out.って書いて章を終えているのが、なんかうまいなーと思いました。というか、内容そのものだけでなくハルバースタムの文章を楽しめた一冊でした。

『1812年 - ナポレオンの破滅を招いたモスクワへの進軍』

 ナポレオニックはDSSSMさんの紹介されている書籍を読むのが多いんですけど、ナポレオニックの本って大量にあるから初心者の自分が選ぶよりも詳しい人が紹介しているものから手を付けるのがいいかな、と思っています。で、今回はこんなポストを目にしまして。 https://t.co/Q5...