2022年7月9日土曜日

アンナ・コムネナに見送られて Dorylaeum 1097 - Infidel, Men of Iron Tri-pack(GMT) AAR ③

  中央の主力アルスラン隊30ユニットが全力で攻撃をしかけたトルコ軍。ここでさらにたたみかけられればいいのだが、予想どおり他の指揮官は動かず、十字軍に自由活性が移る。


 十字軍騎士集団の第二列、ボエモンド(Bohemund I, Prince of Taranto)の部隊が左右に大きく展開、アルスラン隊を両翼から攻撃する。騎士の攻撃はすさまじく、継続攻撃(Continued Attack)も得てトルコ軍に次々に損害を与えていった。ほんと、中弓騎兵ってまともに戦ったら騎士には全くかなわない。騎士の集団って怖いよー。



 だがトルコ軍もやり返す。なにせハイパーアグレッシブに攻撃しないといけないからね。反撃してきたボエモンド隊の騎士をアルスラン隊が囲み、数にものを言わせて壊滅させていく。さらには左翼(マップ右方)のハサン(Hasan, Emir of Cappadocia)の部隊が前進、十字軍右翼に圧力をかける。


 ボエモンド隊は果敢に反撃。殴られたら殴り返す。ノルマン人をなめんじゃねえぞ。騎士3ユニットの突撃、継続攻撃でトルコ軍中央アルスラン隊の右翼が大損害を受けた。


 漫画「アンナ・コムネナ」ではアンナが十字軍の残虐行為にドン引きし、十字軍本隊が来ても信用しちゃダメ、と父アレクシオスに言うシーンがあって、

「中にはお父様の宿敵だったノルマン人ロベール・ギスカールの息子もいるんでしょ? 奴は絶対にこの都市の女王(コンスタンティノープル)を奪おうとたくらんでいるわ!」

というセリフがある。ここで言われているロベール・ギスカールの息子というのが、このボエモンドである。

 ロベール・ギスカールは兄弟でシチリア島と南伊を征服しさらにギリシアに攻めていくのだが、当時の南伊の先っぽとギリシアはビザンツ領で、ビザンツ帝国にとってはロベール・ギスカールは西から襲来した蛮族。その息子のボエモンドも父に従ってギリシアでビザンツ軍とガンガンやりあっていた。


 アンナの著書「アレクシアス」でもそのへんのことが書かれている。当然ボエモンドのことをよく描いているはずがなく、生まれつき嘘つきで信用なんかできなくて、十字軍に参加している性悪な連中のなかでも特に悪い、と言いたい放題。ただ見た目に関してはいい感じで描写しているけど。

 ところで塩野七生の「十字軍物語」ではボエモンドのことをプーリア公と書いていて、以前アンティオキアの戦いのAARを書いたときはその表現に従ったけど、ほかの本ではたいていタラント公って書いてあって、プーリア公としているのはなかったです。ロベール・ギスカールの死後、プーリア公を継いだのはボエモンドの異母兄弟のルッジェーロのはずなんだけどな。


 中央での殴り合が続いた両軍だが、トルコ軍は右翼(マップ左方)のダニシメンド(Gazi, Emir of the Danishmend)の軽弓騎兵集団を動かす。軽弓騎兵(Light Cavalry Archers, LC/A)は白兵戦で攻撃はできず射撃しかできないのだが、ボエモンド隊(緑)の左翼を包囲して連続射撃、騎士2ユニットを壊滅させる。ボエモンド隊は残存4ユニット、しかも半分は混乱状態だ。強力な騎士ばかりといえど、隊の攻撃力はかなり落ちている。

 さらにトルコ軍は継続活性に成功。中央のアルスラン隊が騎士を包囲攻撃し、3ユニットを壊滅させた。


 騎士は壊滅したときの敗走ポイント(FP)が3と高い。一方、弓兵(Archers, A)や槍兵(Pike, PK)など歩兵ユニットのFPは1だ。騎士に対して全力で攻撃し壊滅させていく、というトルコ軍の方針は、十字軍から打撃力を奪っていくだけでなく、累積FPも多くなるという利点がある。もしロベール隊とボエモンド隊の騎士計20ユニットを壊滅できれば、それだけでFP60になり勝利にかなり近づくのだ。歩兵なんかにかまっている場合じゃないぜ。

 

 トルコ軍の波状攻撃によって、十字軍は甚大な損害を受けた。騎士集団を率いていたロベールは包囲され射撃を受けて戦死、ボエモンドも包囲攻撃で戦死し、十字軍の累積FPは28となった。


 ちなみにこのロベール、ノルマンコンクエストでイングランドを征服したウィリアム一世(ギョーム二世)の長男である。弟のウィリアム二世やヘンリー一世とイングランド王位を争ったけど、最後は負けてノルマンディー公の位を奪われている。


 ボエモンドは史実ではこのドリュラエウムの戦いの後シリア方面に進出し、アンティオキア公となって周囲のイスラム勢力と争うだけでなく、ビザンツにも攻めていっている。最終的にはビザンツに負けるのだけれど、アンナ・コムネナの著書「アレクシアス」ではアンナの旦那のニケフォロス・ブリュエンニオスの説得によって最終的にボエモンドが降伏を決めたと、夫のいいところに触れている。史実では夫婦仲がよかったそうだけれども、アンナちゃん、漫画でも旦那のこと大好きだもんね。

 ボエモンドが降伏を決めたあと、「アレクシアス」には皇帝アレクシオスがボエモンドに飲ませた条件というか降伏文書的なものがこれでもかというぐらい長々と引用されていて、なんと言うか、ざまーみろという気持ちがひしひしと伝わってきますよアンナ様。


つづく



(以前、SNSマストアタックに書いたものです。修正を加えている場合があります)

0 件のコメント:

コメントを投稿

マーケット・ガーデン80周年なので読んでみた、『9月に雪なんて降らない』

 1944年9月17日の午後、アルンヘムに駐留していた独国防軍砲兵士官のJoseph Enthammer中尉は晴れわたった空を凝視していた。自分が目にしているものが信じられなかったのだ。 上空には 白い「雪」が漂っているように見えた。「ありえない」とその士官は思った。「9月に雪な...