2023年2月24日金曜日

トルケルとクヌートを前に、尽きるかイングランドの命運  Assandun 1016 - The Great Heathen Army(Hollandspiele) AAR ③

  盾の壁を組んでいるエドモンドに対し繰り返し攻撃をしかけるトルケル。斜面上の攻防で両軍ともじわじわと損害が出るが、トルケルの部隊最前列の約半数がステップロスとなったタイミングを見計らって、アングロサクソン軍は盾の壁を解いて一斉攻撃に出た。


 「Shields & Swords II」シリーズ(S&S)の命令マーカーには移動や攻撃のほかにボーナスというものがあり、他の命令マーカーと組み合わせることで特殊な効果が生じる。戦闘の命令マーカーと一緒に使うと、戦闘を二回もしくは一斉攻撃(Pitched Battle)が行える。一斉攻撃だと兵質が1上がるのだ。

 一斉攻撃に加え、斜面下への攻撃でも兵質が1上がるためエドモンドの部隊は兵質が2アップ、例えば兵質Bだったら最上級のAAでの攻撃となる。斜面を駆け下りながら一斉攻撃をしかけるアングロサクソン軍によって、トルケルの部隊に大きな損害が出る。最前列で無傷なのは1ユニットのみという状態となった。

ステップロス状態のユニットは黄色い帯が入った面となる


 トルケルと相対しているイングランド王エドモンドだが、剛勇王(the Ironside)の異名を持つ、優秀な将軍だったらしい。活躍した期間は短いが、クヌート軍に4連勝している。Ironsideって際立った強さや勇敢さを持つ人につけられるあだ名のようで、クロムウェルの鉄騎隊もIronsideと呼ばれていましたね。

 そのエドモンドだけど、ヴィンランド・サガでもシーズン2の第五話で

「エセルレッドの死後、その息子エドモンドが王位を継承する。善戦しクヌートを大いに苦しめるも7カ月後の同年11月やはり「病没」する」

ってナレーションが入っていましたよね。漫画だと第9巻。

 そういえばトルケルが初めて登場したときも、ロンドン橋の上からフローキに向かってイングランド兵が弱いってことを言ってた時に「お前らとまともにやれる将軍なんざエドモンド王子くらいだったよ」ってセリフがありました。シーズン1の第9話、漫画だと第3巻です。


 このようにヴィンランド・サガでもその強さに言及されている剛勇王エドモンド。その一斉攻撃で大きな損害を受けたトルケルの部隊だが、

 「これぐらいの損害でトルケルが怯むわけないでしょ。やられたらやり返せ!」

と、ヴァイキング・プレイヤーはトルケルの部隊に一斉攻撃を命じる。「いくぜ野郎ども! ガハハハハーッ!!」と斧を振り回すトルケルが目に浮かびますな。あ、声は大塚明夫でお願いします。

 トルケルの反撃にたまらずエドモンド麾下の兵たちが後退する。だが斜面下からの攻撃のため戦闘後前進ができない間に、エドモンドが素早く対応、戦列に空いた穴を埋めた。そして斜面の上から反撃し、トルケルの兵たちを押し返す。さらには両軍の古参兵(Veteran)同士が激突しEX(両者損害)。死力を尽くした斜面での攻防でどちらのユニットも壊滅した。



 S&Sではいくつかの兵種があるが、このシナリオでは古参兵(Veteran)と徴集兵(Levy)の2つが登場する。古参兵のほうが強力で、壊滅した際の勝利得点は古参兵が2,徴集兵は1と古参兵の方が高い。また古参兵の中には裏面に王冠がついているものがあって、有力貴族に率いられていることを示しており、そのユニットが壊滅した場合さらに勝利得点が+2となる。つまり王冠付き古参兵は徴集兵に比べるといわば4倍高価なのだが、有力貴族を捕虜にして莫大な身代金を得るということがよくあった中世の慣習を反映しているらしい。


つづく


2023年2月19日日曜日

トルケルとクヌートを前に、尽きるかイングランドの命運  Assandun 1016 - The Great Heathen Army(Hollandspiele) AAR ②

  アシンドンの戦いは、アングロサクソン軍のマーシア伯エアドリックが裏切って戦場から去ったことによってデーン軍の大勝となった。このシナリオでもアングロサクソン軍ターンの終了時にエアドリックの裏切りチェックがあり、裏切るとエアドリックの部隊がすべて消えてしまう。


 このエアドリックなんですけど、ヴィンランド・サガでクヌートに大金を積んで帰ってもらおうとしたら「安いな」と一蹴された人物なんですよ。漫画だと第9巻、アニメだとシーズン2の第5話です。

 ヴィンランド・サガではさらに、ノルマンディーに亡命しているイングランド王エセルレッドを毒殺するようにクヌートから指嗾されていますね。史実ではアシンドンの戦いの前にクヌート側に寝返った後、アングロサクソン軍が連勝しロンドンをデーン軍の包囲から解放するとイングランド側に戻ったという変節漢。この戦いの翌年、1017年のクリスマスにクヌートによって殺されたみたいですね。

 あと、デーン軍とかヴァイキングとか書いていますが、このAARでは両者同じものと考えてください。また勢力に関してはアングロサクソンをイングランド側として書いています。


 それはさておき、エアドリックの裏切りルールによってこのシナリオはゲームバランスが悪くなっていて、アングロサクソン軍に不利になっていると思う。ヴァイキング側はひたすらエアドリックが裏切るまで時間を稼げばいいのだ。

 ターン数に制限がないためヴァイキングは焦る必要がなく、アングロサクソン軍の約半数を構成するエアドリックの兵が消え去った後で、敵の2倍の兵力でエドモンドを叩き潰せばいい。

 このゲームでは両軍とも基本的に除去した敵ユニットに応じて勝利得点が得られ、各軍に設定された点数に達すると勝利する。アングロサクソン軍はエアドリックが裏切る前に全力で攻撃をしかけて多くの敵を撃破し勝利条件を達成する、という選択肢があるが、両軍の兵力差はあまりないうえ、ヴァイキング側は基本的に攻撃に有利なサイの目修正を得られるため、アングロサクソン軍が積極的に攻撃をしかけていっても殴り合いでアングロサクソン側のほうが損害が大きくなっていく可能性が高い。

 実際、ソロプレイしてみたらアングロサクソン軍は必死に攻撃するものの、ヴァイキングが余裕をもって対応している間にエアドリックが裏切り。残ったエドモンドの部隊が袋叩きにあうというパターンばかりだった。まあそれはそれで面白いけど。


 高地に陣取っているアングロサクソン軍が焦って攻撃のために下ってくるというはなんだか腑に落ちないし、そもそも相手が裏切るまで守りに回るなんて戦い方、トルケルが満足しないのは目に見えている。

 トルケルがフラストレーションをためるとやっかいなので、両プレイヤー合意のもとで裏切りチェックはヴァイキング側が攻撃をした次のアングロサクソン軍ターンのみにすることにした。ヴァイキングの猛攻に恐れをなしてエアドリックが寝返る、というイメージ。関ヶ原でも家康が小早川秀秋に裏切りを促すために恫喝として鉄砲を撃ちかけた、なんて話が伝わっていますよね。この改変ルールだとトルケルも思う存分暴れられるので満足なんじゃないかな。


 ということでプレイ開始。アングロサクソン軍は斜面の上に陣を敷いているためただでさえ攻めるヴァイキングには厄介なのだが、エドモンドの部隊は「盾の壁」(Shield Wall)を組んでさらに守りを堅する。ちなみに両軍とも弓矢を持ったイラストのユニットが登場するが、このシナリオでは射撃はできず、盾の壁を組めない徴集兵(Levy)扱いとなる。要はザコですな。

 ヴァイキング・プレイヤーは「敵が手ごわければ手ごわいほど喜ぶのがトルケルなんだよ。斜面に盾の壁だったらちょうどいいハンデだぜ。おりゃー!!」とトルケルの部隊を前進。エドモンドの部隊にとりつき、攻撃をしかけた。

 

 S&Sの戦闘は基本的に攻撃側有利でブラッディである。攻防ユニットの兵種(Unit Type)の組み合わせでサイの目修正が決まり、8面体ダイスを振って攻撃側の兵質(Combat Class)に応じた戦闘結果表に当てはめる。兵質には最高のAAから最低のDまでがあるが、いくら防御側は兵質が高くても結果には影響しないのだ。さらには斜面の上に向かっての攻撃でも不利は生じない(ただしそこが敵ZOCの場合、戦闘後前進はできない)。

 また基本的に4分の1の確率でEXが出て攻防ともに1ステップロスとなる。そのためEXを狙って弱小ユニットが強力な敵を攻撃する、というのも有効な戦術だったりする。


 一斉に攻撃をしかけたトルケルだったが、エドモンドの堅い守りに阻まれてほとんど戦果なしに終わった。防御側が盾の壁を組んでいると、防御側は後退の戦闘結果を無視できるだけでなく、攻撃側の兵質が1つ落ちるのだ。戦力比のCRTで左に1シフト、みたいな感じか。


つづく

2023年2月14日火曜日

トルケルとクヌートを前に、尽きるかイングランドの命運  Assandun 1016 - The Great Heathen Army(Hollandspiele) AAR ①

  「ヴィンランド・サガ」のシーズン2、大旦那様も登場しましたね。じわじわと物語が動いている感じがして、いやー、毎週楽しみです。前にも書いたけど、このいわゆる農場編がヴィンランド・サガの中では一番ひかれるんですよ。予備知識なしにいきなりシーズン2を見るとつらいですけどね。


 アニメを見ていて気分が盛り上がったので、ヴィンランド・サガに関連するゲームはないかなーと探してみたら、なんとクヌートとトルケルが登場するのを発見。「The Great Heathen Army」というゲームの、Assandun 1016というシナリオ。

 1016年といったらヴィンランド・サガ的史実ではちょうどシーズン2にあたり、トルフィンがデンマークの農場で奴隷としてエイナルと一緒に働いているころですね。1014年のデンマーク王スヴェンの急死後、後を継いだクヌートが1016年にイングランドに侵攻。アングロサクソン勢力を打ち破ってデーン朝を開くのですが、クヌートのイングランド征服の最後の戦いがAssandunです。時期的には漫画だと第9巻、アニメだとシーズン2の第5話のあたりですね。

 しかしスヴェン王の急死といったら、トーガ(をイメージしているんじゃいかな、あれは)を身にまとって思い切った行動に出るアシェラッド、そしてナイフを落としてしまうトルフィンが目に浮かんでしまいます。シーズン1のラストってほんと、よかった……。いかんいかん、ヴィンランド・サガのことばっかり書いてしまって全然AARに進まんではないですか。


 ところでAssandunなんですけど、発音がよくわからん、と思っていたら、『消えたイングランド王国』という本では「アシンドン」と表記しているのでそれに従います。この本、ヴィンランド・サガが描いているデーン人のイングランド侵攻を50ページぐらいでわかりやすく解説しているので、ヴィンランド・サガが好きな人には参考文献としておススメです。他にいい本をご存じ方、いらっしゃったら教えてもらえると嬉しいです。

 

 ゲームの「The Great Heathen Army」は、中世の会戦を簡単なルールでシミュレートする「Shields & Swords II」シリーズ(S&S)の一つで、9世紀後半から11世紀初頭にかけてのヴァイキングの戦いが8つ収録されている。ルールは実質6ページで、中世の会戦級にありがちなユニットの向きもないうえ、Assandun 1016では騎兵も弓兵も登場しない(ただし弓矢を持ったイラストのユニットはある)ので、騎兵に関するルールや射撃ルールも読まなくてもいいのがうれしい。

 S&Sでは基本的にプレイヤーごとにターンを繰り返していくのだけれども、特徴的なのが命令システム。各軍は部隊(Wing)にわかれ、ターン最初に移動や戦闘などの命令(Command)マーカーを部隊に割り当てる。移動フェイズには移動の命令を受けた部隊だけ移動でき、同様に戦闘フェイズには戦闘の命令を受けた部隊だけが攻撃できる。命令マーカーの総数や1部隊が受け取れるマーカーの数に制限があるため、どの部隊にどの命令を与えるかがプレイヤーの腕の見せどころとなる。



 Assandun 1016の初期配置は写真のとおり。高地に拠るアングロサクソン軍にヴァイキングが攻めかかるという形になる。なお「The Great Heathen Army」ではどのシナリオも初期配置はかなり自由。アングロサクソン軍はエドモンド剛勇王(Edmund Ironsides)とマーシア伯エアドリック(Eadric Streona)の2部隊からなる。ヴァイキング側も同じく2部隊だが、率いているのがクヌートとトルケルなんである。

 S&Sでは指揮官ユニットは登場しないんだけど、クヌートとトルケルのユニットを自作する誘惑にかられましたよ。もちろんクヌートは美少女風ではなくて短髪で頬に傷跡のある顔、トルケルは左目に眼帯を付けたやつですね。


つづく



2023年2月9日木曜日

1942年冬、包囲下のレニングラードで ― 『卵をめぐる祖父の戦争』

  スペインのウォーゲーム誌ALEAの最新号の付録ゲームは「チフヴィン1941」。1941年の10月から12月にかけて、レニングラード周辺でのドイツ軍の攻勢とソ連軍の反攻をシミュレートしています。独特な戦闘解決システムを採用しているのですが、まあゲームの紹介はまたの機会に。

 レニングラードは1941年の9月上旬には外部との陸路の連絡線が断たれ、チフヴィンの戦い以降も包囲が続き、1944年の1月のソ連軍の攻勢によってやっと解放されるのは皆さんご存じのとおり。長期にわたったレニングラード包囲戦を描いた本だと『攻防900日』が有名だと思うし、キンドルでサクッと読めるものとしては六角堂出版の「レニングラード包囲戦」とかがあるけど、ALEA最新号を読んでいて思い出したのが小説『卵をめぐる祖父の戦争』



 ロシアからアメリカに移住した祖父は、18歳になる前にドイツ人を二人殺している。そんな祖父からレニングラード戦についてじっくりと話を聞いた…という体で始まる物語。1942年の冬、包囲下のレニングラードで17歳の少年レフは、軍の大佐の娘の結婚式のために卵を1ダース調達するよう命令されます。この任務を達成しないと命が危ないのですが、軍需産業が優先され市民の多くは飢餓に苦しんでいる状況で卵の入手は絶望的。ブラックマーケットに行っても見つからず、ついにドイツ軍占領地域にまで潜入します。

 パルチザンとかアインザッツグルッペンとか、ウォーゲーマーだったらおなじみの単語が結構出てくるんですけど、なんといってもいい味を出しているのが、レフの相棒となるコーリャという青年。女好きで、過酷な状況なのにジョークを絶やさない。物語もテンポよく進んで、読んでいて飽きなかったです。

 自分は原著の『City of Thieves』しか読んでいないけど、本好きの(日本人の)知り合いに勧めたら「面白くて一気読みした!」と言っていたので和訳で読んでも十分面白いんだと思います。レニングラード包囲戦と言ったら多くの市民が犠牲になった悲惨な戦いですが、こういう冒険小説もいいんじゃないかと。寒い冬に読むのにぴったりの、エンターテインメント性の高い小説ですよ。最後はちょっと幸せな気分になれますし。ちなみに筆者デイヴィッド・ベニオフの父親はゴールドマン・サックスの社長だったらしい。マジ?



マーケット・ガーデン80周年なので読んでみた、『9月に雪なんて降らない』

 1944年9月17日の午後、アルンヘムに駐留していた独国防軍砲兵士官のJoseph Enthammer中尉は晴れわたった空を凝視していた。自分が目にしているものが信じられなかったのだ。 上空には 白い「雪」が漂っているように見えた。「ありえない」とその士官は思った。「9月に雪な...