2023年2月9日木曜日

1942年冬、包囲下のレニングラードで ― 『卵をめぐる祖父の戦争』

  スペインのウォーゲーム誌ALEAの最新号の付録ゲームは「チフヴィン1941」。1941年の10月から12月にかけて、レニングラード周辺でのドイツ軍の攻勢とソ連軍の反攻をシミュレートしています。独特な戦闘解決システムを採用しているのですが、まあゲームの紹介はまたの機会に。

 レニングラードは1941年の9月上旬には外部との陸路の連絡線が断たれ、チフヴィンの戦い以降も包囲が続き、1944年の1月のソ連軍の攻勢によってやっと解放されるのは皆さんご存じのとおり。長期にわたったレニングラード包囲戦を描いた本だと『攻防900日』が有名だと思うし、キンドルでサクッと読めるものとしては六角堂出版の「レニングラード包囲戦」とかがあるけど、ALEA最新号を読んでいて思い出したのが小説『卵をめぐる祖父の戦争』



 ロシアからアメリカに移住した祖父は、18歳になる前にドイツ人を二人殺している。そんな祖父からレニングラード戦についてじっくりと話を聞いた…という体で始まる物語。1942年の冬、包囲下のレニングラードで17歳の少年レフは、軍の大佐の娘の結婚式のために卵を1ダース調達するよう命令されます。この任務を達成しないと命が危ないのですが、軍需産業が優先され市民の多くは飢餓に苦しんでいる状況で卵の入手は絶望的。ブラックマーケットに行っても見つからず、ついにドイツ軍占領地域にまで潜入します。

 パルチザンとかアインザッツグルッペンとか、ウォーゲーマーだったらおなじみの単語が結構出てくるんですけど、なんといってもいい味を出しているのが、レフの相棒となるコーリャという青年。女好きで、過酷な状況なのにジョークを絶やさない。物語もテンポよく進んで、読んでいて飽きなかったです。

 自分は原著の『City of Thieves』しか読んでいないけど、本好きの(日本人の)知り合いに勧めたら「面白くて一気読みした!」と言っていたので和訳で読んでも十分面白いんだと思います。レニングラード包囲戦と言ったら多くの市民が犠牲になった悲惨な戦いですが、こういう冒険小説もいいんじゃないかと。寒い冬に読むのにぴったりの、エンターテインメント性の高い小説ですよ。最後はちょっと幸せな気分になれますし。ちなみに筆者デイヴィッド・ベニオフの父親はゴールドマン・サックスの社長だったらしい。マジ?



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