十字軍って中世の歴史の中では日本でも比較的メジャーなようで、読みやすい本としては塩野七生の『十字軍物語』やダン・ジョーンズの『十字軍全史』とかがある。でももうちょっと詳しく知りたいな、と思って、「Infidel」のシナリオ集「Battle Book」に参考資料として載っていたJohn Franceの『Victory in the East』を読んでみました。
塩野七生の『十字軍物語』は読みやすいし入手も容易なのでいいんだけど、西欧中心の視点だし、筆者の選り好みを結構感じてしまうんですよね。あくまで個人的な感想ですが。まあ、「物語」だしね。ダン・ジョーンズの『十字軍全史』もかなり面白いんだけど、地理的にも年代的にもかなり広範囲にカバーしているから、アスカロンの戦いで終わった第一回十字軍のことを詳しく知りたいのにいろんなところに話が広がって迷子になりそう。
というかですね、『Victory in the East』の表紙にはa military historyなんて書かれてあって、ウォーゲーマーだったら読みたくなるじゃないですか。『東方における勝利』というタイトルには、極東の民草の一人としてちょっと引っ掛かりますけど。
『Victory in the East』は一冊すべて第一回十字軍関連。「Infidel」に入っているアンティオキアのシナリオはこの本の記述に基づいたそうで、実際、アンティオキアの戦いについては攻囲戦も含めると約100ページに渡って詳述している。
個人的にはセルジューク・トルコのことも結構書いてくれているのがうれしい。あとビザンツについても触れられていて、アンナ様も出てきます。「アレクシアス」を参照した部分もたっぷり。第一回十字軍の歴史を書くうえで「アレクシオス」 は避けて通れないから当然と言えば当然か。でも筆者のジョン・フランス先生、ちょこっとアンナ様に対して辛口のコメントのようなものを入れたりしていますね。ほかに、民衆十字軍はただの非戦闘員の集まりではなかったとか、いろいろと面白い分析もありました。
でもね、この本、第一回十字軍そのものだけじゃなくて、その時代背景についても結構書いてくれているんですよ。第2章「War in the West」から第3章「Campaigns, generals and leadership」にかけて11世紀の西欧の軍事事情についてかなり書かれていて、十字軍の本を読んでいるってことを忘れるぐらい。現代の我々はクラウゼヴィッツの影響を受けていて、決戦による敵戦力の撃滅を重視するが中世はそうではなかったとか、そういういことを書いてくれています。あと、1066年のノルマン・コンクエストについて結構分析することでこの時代の動員・兵站の負担とか戦術とかを説明してくれるんだけどかなり詳述していて、あれ、この本って征服王ウィリアム一世についての本だったったけ、と思ってしまいました。面白かったですけどね。
あと、ローマ時代の軍事思想家ウェゲティウスにも結構触れています。「平和を欲さば、戦への備えをせよ」という警句ができるもとになったと言われている人ですね。ちなみに「戦への備えをせよ」はラテン語でpara bellumですけど、イタリアのウォーゲーム誌「Para Bellum」っていうのがありますね。最新の11号の付録ゲームはご当地ネタ、第一次世界大戦のイゾンツォの戦い。
筆者のジョン・フランスは十字軍研究の専門家。イギリスの大学の名誉教授のようで、アメリカのウェスト・ポイントでも教えていたらしい。『Victory in the East』には主要参考文献リストにあたる(のかな?)Select bibliographyっていう項目というか章があって、それが25ページもあってクラクラしてきました。selectって言っているんだからもうちょっと厳選して数を減らしてくれないと、初心者としては次に何読んでいいかわからないですよ。まあ、研究者向けに書いているんでしょうけれど。
約30年前に出た本なので最近の研究ではまた新たな発見や分析がされているのかもしれないけど、第一回十字軍でどのような軍事行動が展開されたのかに興味がある方にはこの本がおススメ。読みやすい英語で書かれているし、本文は実質300数十ページなのでまあ負担にならない分量と言えるかと。で、「Infidel」をぜひプレイしてみてください。
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