2023年4月5日水曜日

「The Charge of the 3 Kings」(NAC) 追加シナリオ和訳


 1212年、スペイン南部のコルドバ近くで起きたナバス・デ・トロサの戦い。カスティーリャ、ナバラ、アラゴンのキリスト教3王国が連合してイスラム教勢力のムワッヒド軍を打ち破り、レコンキスタにおけるキリスト教勢力の優位を確立した戦いである。キリスト教軍は敵の半分以下の兵力だったのにもかかわらず大勝しているのだが、ナバラ王の"el Fuerte"(剛勇王)サンチョ7世が自ら敵本陣に突入したり、カスティーリャ王アルフォンソ8世が死ぬ覚悟を決めたりといろいろと逸話があって中世の会戦としては有名らしい。

 この戦いは、同じくレコンキスタを扱ったLevy&Campaignシリーズの「Almoravid」(GMT)の時代より約130年後。「Almoravid」の時代にキリスト教勢力はイベリア半島中央部の古都トレドを陥落させるのだが、直後に1086年のサグラハスの戦いでムラービト朝に惨敗を喫し、その後はキリスト教とイスラム教の両勢力の均衡状態が続く。両勢力とも結構内紛をしていて、1143年にはポルトガル王国がレオン・カスティーリャ王国から独立したりしている。一方同じころのイスラム勢力では、モロッコでムワッヒド朝が勃興しムラービト朝が滅亡、ムワッヒド朝はイベリア半島のアンダルス(イスラム勢力圏下の地域)を支配下におさめキリスト教勢力を圧迫する。

 カスティーリャ王のアルフォンソ8世は1195年にアラルコスの戦いでムワッヒド軍に大敗し10年の休戦協定を結ばされるが、休戦期間が終わるや再び対立、ナバラとアラゴンの両王国、それにテンプル騎士団やホスピタル騎士団の増援を得てナバス・デ・トロサで兵数2倍以上の敵と対峙するのである。


 ナバス・デ・トロサはキリスト教軍中央の突撃で戦いが始まるが、突撃したカスティーリャ軍は次第に疲弊、敗走の恐れが生じた。そしてムワッヒド軍の騎兵によってキリスト教軍は両翼から包囲される危険にさらされる。このとき、カスティーリャ王アルフォンソ8世は従軍していたトレド大司教ドリゴ・ヒメネス・デ・ラダに「我々二人とも今日ここで死のう」と叫び、予備の精鋭部隊とともに戦列中央部で突撃。そこにアラゴン軍が左翼から、ナバラ軍が右翼から突撃(なので3人の王の突撃になるんですな)。特にナバラ王"el Fuerte"サンチョ7世は太い鎖で守られていたムワッヒド軍本陣に突入、戦いの帰趨を決めた。ちなみにこのことにちなんで、ナバラ王国の紋章には金の鎖があしらわれるようになったらしい。ナバラ王国の紋章はこんな感じ


 この戦いは昔Vae Victis 62号で付録ゲームになっているけど、スペインのNAC Wargamesから「The Charge of the 3 Kings」というタイトル(スペイン語では「La Carga los 3 Reys」)でゲームになっていて、日本語訳付きで小さなウォーゲーム屋さんから発売されています。このゲームをWilandorさんがブログで詳しく紹介してくれました。

一斉チャージを見てみたい(怖いけど)…The Charge of 3 Kings(NAC)

いやもうこのブログを読むだけでどんなゲームかよくわかりますし、やってみたいっておもうんじゃないでしょうか。うーん、こういう紹介記事が書けるように自分も見習わなくては。

 で、そういえばALEA38号にこのゲームの追加シナリオが2本載っていたぞと思い出し、和訳して小さなウォーゲーム屋さんで公開していただきました。わざわざNACにまで許可をとっていただきありがとうございました。

【日本語PDFルールあり】The Charge of the 3 Kings

 追加シナリオはひとつがキリスト教軍が中央に兵力を集中していたらという仮想シナリオ。もう一つはムスリム側にも勝機があった瞬間から始まるショートシナリオです。

 仮想シナリオの方は、イントロダクションがいきなり長ーい独白というか手記の体で始まっていてちょっと面食らったんですが、この戦いの前日、軍議で中央の正面突破が決まった、という様子を描いています。

 ナバス・デ・トロサの戦いの10数年前、アラスコスの戦いでアルフォンソ8世はムワッヒド軍にぼろ負けしているんですけど、この戦いでキリスト教軍は突撃したはいいものの、ムワッヒド軍の偽装退却に引っかかって包囲されるんですね。

 ALEA38号の付録ゲームSagrajas1086は、アルフォンソ8世の祖先にあたるカスティーリャ・レオン王アルフォンソ6世が重騎兵で思い切り突撃したはいいもののムラービト軍に側面から奇襲されてぼろ負けした、というもので、あれから約100年後のアラルコスでも同じような目にあっているんですなあ。

 ちなみにアラルコスで中央部隊を率いていたのが、ナバス・デ・トロサの戦いでの中央部隊の指揮官ディエゴ・ロペス・デ・アロです。アラスコスでの惨敗を教訓にして、ナバス・デ・トロサの戦いでは両翼をかなり強力にするとともに中央部隊はむやみに敵陣に突っ込まないようにしたのですが、仮想シナリオではその教訓が生かされなかった、という想定になっています。ナバラとアラゴンの王、それに騎士団の代表など多くはキリスト教軍の強さを過信して騎兵による正面突撃を主張。アラルコスの敗戦を知っているディエゴ・ロペス・デ・アロは「マジで?……でもそう決まったんなら仕方ありません。前衛を率いて戦います」と受け入れた、という想定だそうです。

 もう一つの追加シナリオは、キリスト教軍中央部隊が突撃で疲弊、一方ムスリム側は両翼の騎兵部隊がキリスト教軍の側面に回り込もうとする、という状況から始まります。 デザイナーズノートによると、キリスト教軍は包囲の脅威にさらされる状況で、予備の精鋭をいつ突撃させるか決定しないといけないそうです。

 「The Charge of the 3 Kings」をお持ちの方は追加シナリオを試していただけると嬉しいです。このブログを書いている時点で小さなウォーゲーム屋さんではもう在庫わずか1になっているので、欲しいと思った方は善は急げですよ。あ、私、小さなウォーゲーム屋さんやNACの回し者ではないですからね。ここんとこスペインのウォーゲーム界が活気づいているので、それにあやかりたいと思っているだけです。このあいだもバスクのほうでウォーゲームのイベントありましたし。いいなー。

0 件のコメント:

コメントを投稿

(幕間その2) ドイツから見たブルゴーニュ

  ブルゴーニュの歴史に関しては流れがつかめずモヤモヤしていて、手軽に読めるものはないかな、と思って見つけたのが『Burgund』。ドイツの本なんだんけど、やっぱりブルゴーニュ地方と歴史的に関係が深かったドイツ、こういう入門書もいろいろ出ているだろうな―と思ってたんですけどね。前...