2023年6月19日月曜日

ワーテルローの日に、デザイナーが語る「親衛隊、前進!」

  昨日、6月18日はヨーロッパの歴史に残るあの日ですよね。6月22日じゃないですよ。6月6日でもないですからね。あれですよ、あれ。ワーテルローの戦いがあった日ですよ。

……って、知ったかぶりをしてしまいましたが、すみません、自分は知らなかったです。そういやボンサイゲームズのブログで「ナポレオン1815」の3人対戦のAARが16日から連日公開されていたのに…。ワーテルロー戦のあった日にあわせていたなんて、全然気が付きませんでした。すみません。

 で、何の気なしに前日の17日にツィッターを眺めていたら、「La Garde Avance!」をデザイナーとプレイするよ、ユーチューブでストリーミングするからね、みたいなツイッターを見かけました。おお、LGAと言ったら、自分はナポレオニック全然知らないのに無謀にもAARを書いたゲームじゃないですか。

 しかも、そのデザイナーは中世の会戦級のAu Fil de l'EpéeシリーズをデザインしたFrédéric Bey氏。こりゃ話を聞かなくては、と思ったんですけど、生配信のある昨日は仕事の関係で早く寝ないといけなかったんですよね。

 時差的にライブで見れないのは残念、とツィッターでつぶやいたら、この配信をしているFrédéric Servalという方が、「Beyさんに質問があったら聞いておくよ」と言ってくれました。ラッキー。で、Au Fil de l'Epéeシリーズの新作を出す予定があるかどうか知りたいです、と応えておいたんですけどね。おいおい、ワーテルロー戦の記念日に老親衛隊の戦いのゲームについての生配信だぜ。中世のゲームについて聞くかよ…と自分でツッコミを入れてしまったんですが、聞いておくよ!と返事をくれたんですよ。Servalさん、いい人だわー。

 で、ちょっとワクワクしながら今日ユーチューブで見てみたら、本当に聞いてくれていました。うほー、嬉しいー。まあ、Bey先生の返事は、その、やっぱり中世のゲームは売上的に厳しいという現実をわからせるようなものでしたけどね。とほほ。でも「Men of Iron」が再版されるしね、あきらめないでおくことにします。それはさておき、デザイナーさん本人の言葉で回答をもらえるのはうれしいですよね。


 で、メインの「La Garde Avance!」についてなんですが、Vassalを使って「La Garde Avance!」について説明しながらプレイの例を見せてくれました。約2時間の動画で結構長かったんですけど、Jours de Gloireシリーズの過去のゲームをまとめて出版する予定は、という質問には、来年の前半に出す予定だって言っていましたね。それに、親衛隊が出る新しいゲームも出すつもりとか。これは楽しみ。Jours de Gloireは息の長いシリーズだから、プレイしたことある、とか、聞いたことある、という人もいるんじゃないでしょうかね。


というわけで、Frédéric Bey先生の動画、よければ見てみてください。



 BANZAIマガジン第14号「続・八甲田山」のデザイナー和栗南華氏もJours de Gloireシリーズはお好きなようで、BANZAI15号では「La Garde Avance!」のレビューも書いているぐらいだから、Frédéric Bey先生がLGAについて語る、なんてのはツボなんじゃないかなー、と思うのですが。

 しかしiOGMさんを除いてみたら、LGAが付いているVae Victis 161号はまだ在庫があるじゃないですか。BANZAIマガジン15号のレビューを読まれた方は買いですよ~。


2023年6月11日日曜日

スペインが熱い! 無料・デジタルのウォーゲーム誌「CLIPEADOS」創刊

  スペインのウォーゲーム界、最近元気ですよね。あの元気さは謎ですよねって、日本のウォーゲーム関係者の方が以前言ってたんですけど、ほんと、盛り上がっています。SNAFUやNAC Wargamesといったパブリッシャーが意欲的にゲームを出しているだけじゃなく、ウォーゲーマーたちが活発に活動している感じなんですよね。つい先日はマドリード近郊でVassal Forever 2023というコンベンションが開かれたし、今年11月にスペイン北東部の街サラゴサで開かれるBatalladores2023なんか、申込開始から約一週間ですでに270人の参加申込があって、あと残り参加枠わずか5なんてアナウンスがありました。半年先のイベントでしょ。スペインのウォーゲーマーはすげーなー、と。

 しかも、多くのウォーゲームのコンベンションが開催されているんですけど、それがマドリードとか特定の大都市だけじゃなくて、国内のあちこちで開かれている印象なんですよね。

 今年の1月には南西部、ポルトガル近くのバダホスでBellota Conというのがあったし、3月にはバスク地方のビルバオでCinturon de Hierroっていうイベントがあって、「300」のトーナメントも行われたみたい。そこにこのゲームのデザイナー御大がリモートで降臨、とかあると面白かったんじゃないかなーと夢想してしまいます。ちなみにCinturon de Hierro(直訳すると鉄の帯)っていうのはスペイン内戦中にビルバオの周囲に構築された防御線のことのようです。あと、9月末にはスペイン南端部のカディスでPax Lucidaっていうイベントが開かれます。

(お隣のイタリアでは9月中旬にVenCon 2023というのがヴェネツィアであります。VenConは今年で15回目らしい。フライヤーみたいなものには、六文銭に赤備えの真田幸村?と、「ラスト・サムライ」の謙さんがあしらわれています。)

 サラゴサで開かれるBatalladores2023を主宰しているウォーゲームクラブClub Batalladorは、この5月に新しいクラブハウスをオープンしています。うらやましい…。


 と、元気いっぱいのスペインのウォーゲーム界なんですが、つい先日、「CLIPEADOS」というウォーゲーム誌が創刊されました。無料のデジタル誌なので早速ダウンロードして読んでみました。



 PDF形式で35ページ、巻頭にはVUCA SimulationsのPatrick Gebhardt氏のインタビュー。他には、HEXASIMのEagles of Franceシリーズについて3人がエッセイを書いていたほか、「Twilight Struggle」の中国人ゲーマーの戦略紹介、GMT「Almoravid」のファーストインプレッションなどが載っています。 あと、NAC Wargamesの新作ナポレオニック「Valls 1809」のMarc Aliaga氏が書いたデザイナーズノートもありました。

 VUCA SimulationsのPatrick Gebhardt氏のインタビューは、「Donnerschlag」や「The Chase of the Bismarck」といったGebhardt氏自身がデザインしたゲームについて話しています。でも個人的に面白かったのは、ツイッターでもつぶやいたけど、

価格を下げるために製品の質を落とすことはしない。デザイナーにはコンポーネントの制限をかけないということをはっきりと言っている。自分たちのゲームには常にベストのものを求めているんだ

と言っているころ。Gebhardt氏、熱いですなー。

 あと、ウォーゲームがもっと知られるためにはビジュアル的にアピールするゲームが鍵となる、とも言っています。世界中から新しいゲーマーをひきつけている理由の一つが、グラフィック要素だと考えているそうです。

 「CLIPEADOS」はこちらからダウンロードできます。

https://mesadeguerra.com/clipeados-mesa-de-guerra-magazine/

全部スペイン語で書かれていますが、スペイン語が読めなくても大丈夫。Google翻訳やらDeepLやらAIやらがサクッと自然な日本語に訳してくれますよ。知らんけど。ちなみに、Clipaedosというのはカウンターなどが切り離された、という意味でも使われる言葉で、みんなカウンター切ってプレイしようぜ、ということなんでしょうかね。


 「CLIPEADOS」を出したSergio Ortega氏はMesa de Guerra(直訳すると戦争のテーブル)というサイトを運営していて、ウォーゲームの情報やインタビューなどを載せている。AlmoravidのデザイナーVolko Ruhnkeのインタビューが個人的には目を引きました。あと、Ortega氏は「Twilight Struggle」がお好きのようですね。


 この「CLIPEADOS」、ツィッターでは歓迎するツイートが結構あったんですけど、似たような企画で2号しか続かなかったものがあるからうまくいくといいね、なんてちょっと不吉なコメントもありました。でも、何事も始めることが大切ですよね。自分もウォーゲーマーの一人として、これからもウォーゲーム界が盛り上がっていってほしいと思います。

2023年6月8日木曜日

『ウクライナに対する戦争―その背景、経緯、影響』

  いまさらですがウクライナの戦争のことを全然知らないのはまずい、コンパクトにまとまった本はないかな、と思って探していたんですけど、みつけたのがこの本、『Der Krieg gegen die Ukraine』。直訳すると『ウクライナに対する戦争』となるのかな。出たのは2022年10月ですけど書き終えたのはロシアのウクライナ侵攻の5カ月後って書いているから、去年の7月末に脱稿したってことなんでしょう。そのため、最新の情報は当たり前だけど載っていません。

 というか、副題みたいなものとして「Hintergründe, Ereignisse, Folgen」って書いてあるけど、Hintergründe(背景)がこの本の約半分を占めているんですよね。しかも戦争の背景として2022年の侵攻の直近のことよりも、1991年のウクライナ独立以降の約30年が主に書かれています。なので、私のような知識のない人間には今読んでも役に立つかなと思いました。本文も120ページほどしかなくてちょうど日本の新書ぐらいの分量だから読みやすいし。

 戦争の背景について書かれた部分が半分を占めるだけでなく、タイトルにもなっている「Der Krieg gengen die Ukraine」という言葉に筆者は2014年のクリミア併合とその後に続いたドンバス地域での紛争も含めているので、2022年2月からのロシアの侵攻そのものについての説明は結構少なめ。なので、去年の2月からの戦況の変化を知りたい、といった人にはこの本は向いていないと思います。それに、筆者はドイツのベルリン・フンボルト大学の教授で東欧問題の研究所の所長(Direktorin)だそうなんですけど、比較政治学が専門だからか、この本は軍事色は薄いです。まあ、社会的および政治的力学に重点を置いたって序文に書いていますからね。

 と、こんな風に書くと面白くなかったように聞こえますが全然そんなことなかったです。結構忙しい時期で隙間時間しか読むのに使えなかったんですけど、勉強になることが多くてどんどん読み進めてしまい、仕事するふりしながら(←おい)こそこそっと辞書を引きつつ1週間弱で読み終わってしまいました。



 筆者は、この戦争においてプーチンは明らかに重大な責任を負っているけれど彼個人だけの問題ではないという趣旨のことを述べたうえで、戦争が起こった背景にある主要な要素を7つあげています。その中でもロシアの専制化とウクライナの民主化・西欧への接近が重要だと筆者は考えているようですが、個人的に興味深かったのが「国家が中心となったウクライナのアイデンティティの強化(die Stärkung einer staatszentrierten ukrainishen Idetität)」というもの。民族、言語、地域、社会などによるアイデンティティよりも包括的なウクライナ市民としてのそれの強化が様々な調査によってあらわれており、特に2014年のマイダン革命以降は加速化しているそうです。ロシア語を母語とするゼレンスキーが大統領に当選したっていうことからもこのことはうかがえるそうですね。

 あと、世論調査を根拠にウクライナ人の意識を説明しているのが結構勉強になったかな。それと、クリミア・タタール人についての言及も結構あって、個人的には好感が持てました。


 この本のドイツでのレビューをちょっと見てみたらおおむね好評っぽいです。でもなかには、なんでこんな戦争を起こしたのかというプーチンの動機をシンプルに知りたいという人には向いていない、なんていうコメントもあったけど、まあそのとおりです。でも今の段階でプーチンの動機をこれだって提示するのはむずかしいんじゃないかな…。

 ちなみにこの本の筆者は、今年の9月に『Russia's War against Ukraine』っていう英語の本を出すらしいけど、もしかして『Der Krieg gegen die Ukraine』の英訳本なのかな。


 ところで話が全然変わりますが、先日「ヴィンランド・サガ」に関するウェビナーに参加していたら、作者がなんでミクラガルド編を描かなかったかについてちょこっと説明してくれていました。トルフィンたちが一角獣の角を売るためにミクラガルド(コンスタンティノープル)まで行って帰ってくる過程は、ヨムスボルグ以降はばっさりとはしょられていてビザンツ好きとしてはなんと言いますか悔しい思いをしていたんですよね。

 「ヴィンランド・サガ」の作者によると、キエフ経由でミクラガルドまで行く行程を描くために取材旅行を2014年に計画していたら、マレーシア航空の撃墜事件があっていけなくなったそうです。そうか、ウクライナ情勢は「ヴィンランド・サガ」にも影響を与えていたのか、マジでプーチンやめてくれよ…って思いました。いや、漫画だけでなく多くの人の生活に多大な影響を何年にもわたって及ぼしているわけですから、早く終わってほしいと切に願います。



2023年6月2日金曜日

将門最後の戦い(武士ライフ 第肆號)AAR ④

 -第6ターン

 以降のターンは討伐方が主導権を握る。追い風を受けて反撃である。マップ左方で包囲されていた将門方が射撃で壊滅した。

 だが将門方も引かない。このゲームでは白兵戦はマストアタックであり、主導権側は隣接する敵ユニットをすべて攻撃しないといけない。非主導権側は白兵戦で攻撃ができないのだが、移動して敵に隣接し不利な白兵戦を強制することができる。いわば非主導権側による「攻撃」が可能なのだ。

 将門方は前進してきた討伐方を迎え撃つ。マップ左方では射撃で混乱状態にした敵ユニットに文屋好立が攻撃を強制して壊滅。また移動フェイズで包囲した従類ユニットを将門が壊滅させた。さらには文屋の隣のユニットも討伐方の+2攻撃を撃退。将門方は主導権を失ったものの、まだ戦いの流れは討伐方に移っていない。


-第7ターン

 平貞盛と藤原秀郷が将門に弓矢の雨を降らせる。合計射撃力4だと、2分の1の確率で将門は敗走状態もしくは混乱状態になる。そうなれば白兵戦をしかけて将門を討ち取るのだ、と目論む討伐方だったが、将門直属の兵たちの士気は高く1へクス後退したのみに終わった。

 

 平将為を討ち取るなど第5ターンからの反撃で敵に損害を与えた討伐方だが、ゲーム開始時からの将門方の猛攻で大量出血が続き、すでに数的優勢を失っている。いまだ強力な打撃力を有する将門方の動きを封じるため、討伐方は1ユニットのみの移動で移動フェイズを終了させた。先述のようにこのゲームでは主導権プレイヤーは好きなタイミングで移動フェイズを終わらせることができるため、主導権を失った将門方は思うように兵が動かせないのだ。

 

 続く白兵戦で混乱状態の敵ユニットを蹴散らした平貞盛と藤原為憲が、戦闘後前進をして将門を射程にとらえた。これで次ターンも再び集中射撃が行える。



-第8ターン

 最終ターンである。平貞盛と藤原為憲による将門への射撃はまたも後退に終わった。討伐方はこのターンも将門方の動きを封じるため、平貞盛のみを移動させすぐに白兵戦に移行する。大将である平貞盛はみずから陣頭に立って切り込み、敵の混乱状態のユニットを壊滅させた。


 そして戦いは終了。将門方の得点は23点、討伐方は36点で討伐方の勝利に終わった。


 戦場が狭い割にユニット数が多くさらには強ZOCなので、機動の余地がなく団子状態になっての叩き合いかな、と最初は思っていたんですが、なかなかどうして。お互いに1ユニットずつ移動させるため相手の動きの読みあいになるうえ、戦力不明状態の伴類ユニットと、1ターンに2回射撃が行えることが偶然性を増して計算通りにいかないようになっています。

 将門方はゲーム前半、敵をどんどんと蹴散らしていく快感を味わえますし、討伐方は風向きが変わるまでなんとか耐えて、主導権を握ったら「狙うは将門の首!」と猛反撃に出ることも可能なんじゃないかな。

 それに何と言っても税込みで二千円いかないというのがありがたいです。平安時代の戦いをシミュレートしたゲームはあんまりないので、ご興味ある方は気軽に試せるんじゃないでしょうか。

マーケット・ガーデン80周年なので読んでみた、『9月に雪なんて降らない』

 1944年9月17日の午後、アルンヘムに駐留していた独国防軍砲兵士官のJoseph Enthammer中尉は晴れわたった空を凝視していた。自分が目にしているものが信じられなかったのだ。 上空には 白い「雪」が漂っているように見えた。「ありえない」とその士官は思った。「9月に雪な...