12月2日はアンナ・コムネナの誕生日で、今年で940歳。まあ、12世紀に活躍した人ですからね。今日は漫画『アンナ・コムネナ』関連のイベントが書泉グランデであるんですけど、先日からイベントの告知やら早々に定員に達したなんてお知らせやらアンナ様関連のことがツイッターで目についたので、アンナ様と言ったらビザンツということでビザンツ関連の本を読んでみました。
ビザンツについての本はいろいろ出ているけど、今回読んだのは『ビザンツ帝国 生存戦略の一千年』。この本、2018年に出版されているんですが、今年の10月に新装版が出ているんですよね。もしかして、『アンナ・コムネナ』の影響でビザンツに興味を持つ人が増えている? でも、自分が持っているのは原著の『The Lost World of Byzantium』のペーパーバック版。だって、安いんだもん…。白水社さん、すみません。
この本、ビザンツの通史なんですけど、結構軍事面も書かれているんですよね。ニケフォロス・フォカスのクレタ奪還戦についても、上陸直後の脆弱なビザンツ軍を攻撃しようと待ち構えているアラブ軍に対し、船に傾斜台を装備して歩兵も騎兵もフル装備のまま下船、上陸して即座に戦闘できるようにしたとか、千年の通史にここまで書く? ウォーゲーマーとしては嬉しいんですが。11世紀後半にはノルマン・コンクエストの影響でアングロ・サクソン系の傭兵が増えたとかも書かれてあったなあ。それとヘラクレイオス1世の対ペルシア戦役なんかも、西方で敵を抱えつつもペルシアの虚を突いたりとか意外と詳述していて、この時期を扱ったゲームがあったらやってみたいなと思いましたよ。しかしヘラクレイオス、西方でアヴァール人を打ち破り東ではペルシアに大きな勝利を収めて領土を回復したのに、数年もしたら勃興期の超イケイケのイスラム勢力がなだれ込んでくるなんて、次から次へと外敵の脅威にさらされたビザンツ帝国を象徴するような生涯ですな。
Vae Victis誌162号のヒストリカルノートにユスティニアヌス帝からマンジケルトまでの帝国東方の戦役が描かれていたんだけど、そこで読んでいた内容や人物が『The Lost World of Byzantium』を読んでいると出てきて嬉しくなりました。西欧から来た傭兵指揮官でアナトリア高原に実質的な自治領を打ち立てたRoussel of Bailleulも、ちらっと触れられていたしね。VV162号の付録ゲーム「Basileus II」に含まれている戦いが全部出てこないかなーなんて期待してしまいましたよ。
でもね、Vae Victisの記事は当然人物名がフランス語表記なんですよ。ユスティニアヌスはJustinienだし、ニケフォロス・フォカスはNicéphore Phocasだし。一方の『The Lost World of Byzantium』は、なるべく元のギリシア語表記に忠実に表記しようとしたそうだけど、固執はしてなくて、Johnとか英語で知られた名前の場合は英語表記にしたそうです。なので自分の頭の中でもいろんな表記が入り混じってしまって、やっぱり日本語で読めばよかったよ…。
とはいえこの本、全体的に文章は平易なうえに、事実の羅列ではなくなんと言うか物語的に読めました。出だしからして、16世紀半ばのイスタンブールであるフランス人がビザンツの遺構探しにはまってしまうところから始まりますし。なのでサクサク読み進められたんだけど、1204年に第四回十字軍にコンスタンティノープルを占領されて以降は、なんというか文章が悲哀を帯びていて、読むスピードも遅くなってしまいました。いや、文章というよりは、読んでいる自分が「ああ、これからもう滅亡に向かって衰退していくんだよな…」って気持ちで読んでいるからなんでしょうけど。
あと、本の最後にはビザンツ帝国の残した教訓として、強靭な社会は、もっとも危機的な状況においてすら、適応し外部の人々を取り入れることができるのだ、みたいな感じのことが書かれていたけど、なんか今の日本はどうなんだろうと思ってしまいました。
ペーパーバック版だと本文が250ページもないので、それほど負担にならずに読めるんじゃないでしょうか。残念ながらアンナ様はほとんど出てこないけど、ビザンツの通史を、新書よりはもうちょっと詳しく、でもそんなに肩に力を入れずに読みたい、という方にはピッタリかと思います。
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