2024年9月30日月曜日

ファレーズ、再び? Alsace1944 (VV175) AAR part2

 ●第1ターン(11月14ー15日)続き

 ドイツ軍はマップ下方の敵の突破を見て、部隊を大きく後退。史実ではこの陣地帯の守備のために、聴覚障碍者で大隊を編成して投入することまでしたらしい。このゲームでも、ドイツ語でOhren(耳)と書かれたカンプグルッペユニットが登場する。

 陣地帯の防衛もさることながら、仏機甲部隊の平野部への突破を防ぐのに必死のドイツ軍。平野部に敵が進出すると戦線が広がって防御に不利になるだけでなく、仏軍機甲ユニットは平地では歩兵のZOCをすり抜けられる。ほとんど歩兵しかいないドイツ軍は森林地帯で極力敵を食い止めておかないと、ただでさえ兵力劣勢なのにさらに苦しい戦いとなる。


●第2ターン(11月16ー17日)

 フランス軍には第1,第5機甲師団の計3ユニットが増援として登場する。フランス軍の増援はマップ西端か南端から登場させられるのだが、もちろんマップ南端のスイス寄り、前ターンで突破した方面に投入してさらに激しくドイツ軍を攻撃する。仏軍は最大限の支援砲撃を投入、ここを抜かれるわけにいかないドイツ軍はなけなしの支援砲撃で応じる。河川越えの攻撃のため攻撃力は半減するものの、同一師団効果と諸兵科連合効果のコンボで戦闘比を上げた仏軍だったが、兵質チェックで失敗。敵を1へクス後退させるだけに終わった。


 このゲームでは各ユニットが兵質(Qualité)をもち、戦闘の際には攻防両軍が兵質チェックを行う。ずっと防戦が続く独軍も、なんとかここをこらえてくれ、とサイコロを振ることができるのだ。サイの目によって有利なコラムシフトを得たり逆に不利になったりするのだが、仏軍第一機甲師団のユニットの兵質はB。3分の1の確率で1コラム有利に、6分の1で不利になるのだが、その6分の1の目が出たわけである。


 フランス軍は機甲部隊がマップ右方面への突破を図る一方で、歩兵を中心に陣地帯を攻撃していく。そして独軍の守備が手薄な陣地を狙ってコマンド部隊2ユニットが襲撃する。

 マップ上に9つある陣地へクスには守備隊(garnison)が1ユニットずつ配置されているのだが、守備隊しかいない陣地へクスに対し仏軍コマンド(commando)は襲撃(raid)を行える。守備隊は戦力未確認状態で配置され約4割が戦闘力ゼロ。コマンドが襲撃して守備隊が戦闘力ゼロの場合は成功、戦闘力が1以上の場合、1D6で1-4で成功だ。成功すると陣地は占領、失敗するとコマンドユニットは除去される。

「いやー、少数精鋭のコマンド部隊が敵陣地を電光石火の襲撃で占領って、ロマンがあるよね」

「使えるものは使えるうちに使っておけってだけでしょ。ドイツ軍が前線を縮小したら守備隊が他のユニットとスタックするだろうから」

 結局、コマンド部隊2ユニットの襲撃は1カ所成功、もう一カ所は失敗に終わった。


 ドイツ軍は陣地帯の左方と下方からできる限り兵力を撤退させる。だがこのゲームでは敵ZOCからの離脱に2移動力を消費するため、6移動力しかない歩兵は思うように後方に回せない。敵機甲ユニットのZOC浸透能力を防ぐ機械化・自動車化ユニットはドイツ軍には偵察大隊1ユニットしかないのだが、その偵察大隊をスイス国境近くの前線左端に派遣して敵機甲ユニットの動きを止めようとする。だがフランス軍が平野部に突破するのは時間の問題だろう。


●第3ターン(11月18ー19日)

 フランス軍にはさらに機甲ユニットが増援として登場するが、交通渋滞で前線までたどり着けない。このゲームでは第3ターン以降、ドイツ軍は交差点などに交通渋滞(Embouteillage)マーカーを一つ置くことができ、仏軍機械化・自動車化ユニットに1移動力追加で消費させることができるのだ。

 このターンもスイス軍はスイス国境近くの右翼に機甲ユニットを集中。だが前ターンに続き今回も兵質チェックに失敗、大きく突破とはならなかった。

「おいおい、フランス軍の第1機甲師団ってどうなってんだ?!」

とぼやく仏軍プレイヤー。このゲーム、諸兵科連合効果など多くのコラムシフト要素があるだけでなく、兵質チェックでさらに戦闘比が動く可能性があるので、戦闘結果が結構読めなかったりする。


 陣地帯近くではフランス軍が包囲していた敵歩兵を掃討、だが陣地への攻撃は独軍が奮戦し損害を受けつつも踏みとどまる。マップ左上に配置されている仏軍歩兵4ユニットは第3ターンまで移動できず、高比率で陣地帯を攻撃しようとすると多くのヘクスを攻撃できないのだが、低比率になることを恐れずにもっと積極的に攻撃すべきだったかもしれない。


つづく

2024年9月27日金曜日

ファレーズ、再び? Alsace1944 (VV175) AAR part1

  この9月はマーケット・ガーデンの80周年で、ということは今年バルジも80周年? おお、西部戦線が呼んでいるぜ、というわけで、先日ブログでも書いたVV175号のAlsace1944をやってみることにした。やっぱりウォーゲームの王道はWWⅡの作戦級だもんね。

 ……でも、いつも中世の会戦級ばっかりやっているメンツなのでちょっと不安。まあいわゆるIGOUGOシステムを基本とした簡単なルールなのでなんとかなるでしょう。それにね、ヒストリカルノートを読んでみるとドイツ軍はヤークトパンターをかき集めて必死に反撃する様子が描かれていて、654 sPz Jgなんてユニットを見つけると、あー、このイラストがヤークトパンターなんだろうなーと気分が上がるわけです。

 このゲームについては以前のブログである程度説明したとおり、バルジの約一か月前、フランス南東でのフランス第一軍の攻勢をシミュレートしている。仏軍は南仏からの進軍で消耗しているうえに天候が悪化しており、ドイツ軍は敵の攻撃はないものと思っていた。仏第一軍指揮官も前線視察に来たチャーチルに対し、「こんな天候下では攻撃には出ません!」と断言していたが、その翌日に奇襲をかけた、という戦いである。チャーチル、嘘つかれて怒んなかったのかな。

 WWⅡの陸戦ゲームは数多く出ているけど、フランス軍の攻勢を扱ったのってあんまりないんじゃないかと思う。VV120号に、同じゲームシステムで1945年1月~2月のColmar包囲戦を扱ったものがあるけど。あ、ちなみに「ファレーズ、再び?」っていうのは以前のブログにも書いたけど、ヒストリカルノートにそういう意味の小見出し(Un Falaise-bis?)があったのでパク…参考にさせていただきました。でもファレーズ戦は規模も大きいし包囲されたのもドイツ軍の精鋭を多く含んでいたし、それと比べるのは大げさなんじゃないですかね。まあこの戦いでも独軍1万ほどが包囲されたそうだけど。

 この戦いは過去にVaeVictisで一度ゲーム化されているが、もっと短時間でプレイできるものを、ということで今回のゲームとなったってデザイナーズノートに書いてあった。実際、ルールも簡単で全8ターンと短く、マップも小さくユニット数も多くないので結構手軽にプレイすることができる。展開も仏軍機甲部隊の突破からドイツ軍の反撃と変化に富んでいるので、仏軍ファンのウォーゲーム初心者(いるのか?)を引きずり込むのに適している。

 マップの右3分の1ぐらいがアルザスで、右端にライン川が見える。つまりドイツはほんの目の前である。右下はスイスだ。

 マップ左方に山地や荒地、森林と防御に有利な地形沿いに前線が伸びているが、マップ右方は平地が広がっている。また前線後方にはBelfortという街を中核にした陣地帯があり、そこに陣地や都市など得点源が集中している。だがフランス軍はそれらすべてを占領しても勝利にはならず、最低でもあとどこか一つ得点源を占領する必要がある。なお仏軍はマップ右上から突破しても得点が得られるが、そういう事態になったらもうドイツ軍はぼろ負けなんじゃないかな。


●第1ターン(11月14ー15日)

 「チャーチルに言ったことなんぞ知るか! 攻勢開始だ、アルザスを取り戻せ!」と仏軍プレイヤーが気炎を上げゲームスタート。仏軍が攻勢を開始する。

 最南端、スイス国境に隣接している地点で山岳歩兵連隊がZOC浸透能力を発揮して敵歩兵の後方に進出し包囲したうえで、増援として現れる第5機甲師団の2ユニットをここに投入。第1ターンの奇襲効果である+2DRMも相まって、仏軍機甲部隊が敵前線を突破した。


 この時期のフランス軍機甲師団はアメリカ軍の編成に準じていたようで、このゲームで登場する2個機甲師団はいずれも3個コンバット・コマンドで構成されている。コンバット・コマンドって言葉、そういえばバルジゲームで見たなあ。このゲームでは歩兵と装甲ユニットが同じ戦闘に参加していると諸兵科連合効果で1シフト有利になるのだが、コンバット・コマンドは単独でも諸兵科連合効果を得られる。そもそもコンバット・コマンドはどのユニットも戦闘力が5とゲーム中最強のうえ、同一師団効果で2シフト有利になったりするので、仏軍機甲師団はかなり強力である。


 機甲部隊が集中攻撃をかけた左隣でも仏軍が司令部からの支援砲撃、それに同一師団効果などを活かして攻撃、マップ下方のドイツ軍前線はほぼ崩壊した。前線中央や上方は仏軍の兵力が潤沢ではないもの、攻撃をしかけて敵にプレシャーをかけた。 


つづく


2024年9月6日金曜日

クラウゼヴィッツの『1815年のフランス戦役』

  ワーテルロー戦の終盤、親衛隊の最後の攻撃をシミュレートした「La Garde Avance!」っていうのがあって、小さなゲームながら結構面白いんですね。右翼にプロイセン軍が迫る中、ナポレオンは親衛隊を投入して敵中央突破の賭けに出る…という燃えるシチュエーションです。タイトルからしてですね、撃退された親衛隊を見た仏軍が叫んだという「La Garde recule!(親衛隊が退却している!)」って言葉にかけているみたいですからね。

 つい最近SNSのマストアタックでこの「La Garde Avance!」と親衛隊の攻撃について熱い議論が交わされて、ナポレオニックの知識がほとんどない自分にはすごく勉強になりました。そういえば最近クラウゼヴィッツの「戦争論」の全訳が出たな、クラウゼヴィッツと言ったらナポレオンと同時代人だから、ワーテルローについて何か書いてないかな、と探してみたらありました。「Der Feldzug von 1815 in Frankreich」という著作。

 これ、『1815年のフランス戦役』というタイトルとおり1815年戦役の開始状況からパリ陥落あたりまで、クラウゼヴィッツの分析を交えつつ描写しています。なのでワーテルロー戦も全体の一部にしか過ぎないんですが、Die Hauptmomente der Schlacht. Vertheidigung Wellingtons(戦闘の主な時点。ウェリントンの防衛)という章で親衛隊の攻撃についてちょっと触れられています。


da wollte der verzweiflungsvolle Bonaparte auch das Letzte noch daran setzen, um das Centrum Wellingtons zu sprengen. Er führte die übrigen Garden auf der Chaussee nach la Haye Sainte und der feindlichen Stellung vor; 4 Bataillone dieser Garden machten einen blutigen Angriff, aber vergebens.

(必死になったボナパルトは、ウェリントンの中央を突破するために残っているすべてを投じようとした。親衛隊の残りの部隊を率いてラ・エイ・サントから敵の戦列へと通じる道を前進した。この親衛隊の4個大隊は熾烈な攻撃を行ったが、無駄だった)


 いや、そんなにあっさり終わらせないでよ! と言いたいところなんですけど、戦役全体を扱った著作だから仕方ないんでしょうね。


 この「Der Feldzug von 1815 in Frankreich」、クラウゼヴィッツがプロイセン人だからなんでしょうけど、英軍よりも普軍の描写や分析が多い印象。ワーテルロー戦も、

Die Schlacht zerfällt angescheinlich in zwei verschiedene Akte: den Widerstand Wellingtons und den Angriff der Preußen in der rechten Flanke der Franzosen.

(この戦いは明らかに二つの動きに分けられる。ウェリントンの防戦と、プロイセン軍のフランス軍右翼への攻撃である)

なんて書いています。まあプロイセン軍の登場で戦況がガラッと変わったのは認めますけど、でもワーテルロー戦のいくつかあるクライマックスの多くは英軍と仏軍の攻防にあったんじゃないんですかね。でも戦闘終盤のウェリントンについて、ウェリントンは敗北一歩手前までいっていたという意見が一般的だがそれは違う、という趣旨のことを論じていたりします。

 あと、Betrachtungen über die Schlacht. Bonaparte(戦闘の考察。ボナパルト)という章では、ナポレオンはもっと早く攻撃を開始すべきだったのかなどいろんな点について結構長く書いていて、es war gegen alle Regel, diese Schlacht noch zu versuchen.(この戦いを始めたということが、すべての法則に反するのだ)なんてことまで(条件付きでですが)書いています。まあそのあとちょっとナポレオンを擁護しているんですが。とにかくワーテルロー戦についてナポレオン側のことはかなり考察しているのに、続く連合軍の章ではUeber das Benehmen der verbündeten Feldherren in der Schlacht von Belle-Alliance haben wir wenig zu sagen.(ワーテルロー戦での連合軍の将軍たちの行動についてはいうべきことはほとんどない)なんて書いてあっさり終わらせていたのが面白かったです。


 「Der Feldzug von 1815 in Frankreich」は1815年戦役全体をあつかっているため、ワーテルロー戦以外のことについて書かれている部分のほうが当然多いんですけど、この戦役について全然知らないのでクラウゼヴィッツの叙述や分析がどれだけ妥当なものなのかは全然わかりません。勉強になりましたが。現代の通説と比べてみるのも面白いのかなと思います。その前に通説をどこかで読まなきゃ。


マーケット・ガーデン80周年なので読んでみた、『9月に雪なんて降らない』

 1944年9月17日の午後、アルンヘムに駐留していた独国防軍砲兵士官のJoseph Enthammer中尉は晴れわたった空を凝視していた。自分が目にしているものが信じられなかったのだ。 上空には 白い「雪」が漂っているように見えた。「ありえない」とその士官は思った。「9月に雪な...