ブルゴーニュの歴史に関しては流れがつかめずモヤモヤしていて、手軽に読めるものはないかな、と思って見つけたのが『Burgund』。ドイツの本なんだんけど、やっぱりブルゴーニュ地方と歴史的に関係が深かったドイツ、こういう入門書もいろいろ出ているだろうな―と思ってたんですけどね。前書きに、今日までブルゴーニュの通史がほとんど出ていないのは、中世のブルゴーニュは国民国家に発展しなかったという事実のせいである、って書かれていて、あードイツでもそうなんだとちょっと安心しました。
この本は一応古代末期からフランス革命までをカバーしているけど、主に扱っているのは中世。全四章のうち第二章がDas hochmittelalterliche Burgund(中世盛期のブルゴーニュ)、第三章がDie Herzöge von Burgund im späten Mittelalter(中世後期のブルゴーニュ公たち)。最終章もDie Teilung Burgunds nach 1477 und ihre Folgen(1477年以降のブルゴーニュ分割とその結果)で、シャルル・ル・テメレールのナンシー戦での死後、15世紀後半から16世紀がメインの内容。本全体でも120ページほどしかなく、ブルゴーニュ公国の歴史についてその前後を含めざっと知りたいと思っていた自分にとっては結構ありがたかったです。
まあでも、当然ドイツ語なので自分の乏しい知識と結びつけるのが読んでいて結構面倒でした。金羊毛騎士団はOrden vom Goldenen Vliesでこれはそのまんまなので分かったけど、自由伯領(Freigrafschaft)って何? って思っていたらフランシュ=コンテ(Franche-Comté)のことだったり。Karl der Kühneって書かれてもピンと来なくて、シャルル・ル・テメレールのことだっていつも頭の中で置き換えないといけませんでした。ちなみにkühnって言葉、Duden見てもそこまでネガティブな意味が含まれているようには思えなかったけど、どうなんでしょうね。それと、当然だけど地図には神聖ローマ帝国の境界(Reichsgrenze)もちゃんと引かれているんだけど、結構くっきりというか一番目立つようになっているのはやっぱりドイツの本だからかな、と邪推してしまいました。
ページ数が少ない本なのでGrandsonの戦いは出てこないかな、と思っていたらちょっと触れていました。前回紹介した『L'État bourguignon』ではこの戦いはLa défaite inattendue(思いがけない敗北)って書かれていましたが、この本でも同じようにeine überraschende Niederlageと描写されていました。この戦いは番狂わせだったんですかね。で、Grandsonの戦いについてはこんな風に述べられています。
Das wäre an sich ohne größere Konsequenzen geblieben, hätte der Herzog nicht wie besessen die Scharte möglichst schnell wieder auswetzen wollen.
(ブルゴーニュ公がこの損失をできる限り速やかに打ち消そうと執着しなければ、この戦いの結果は重大ものとはならなかっただろう)
そして、同年6月Murtenの戦いで敗北し指揮官としての評判は大きく損なわれた、と続けています。
本の最後でブルゴーニュの歴史の、ドイツやベルギー、スイスなどの国々における19世紀以降の捉えられ方についても説明していて、19世紀っていったらナショナリズムが勃興してきた時代ですが、ブルゴーニュの歴史というかイメージがナショナリズムに利用されてきたとのこと。例えば19世紀半ば以降のフランスの政策はベルギーにおいて国の存続を脅かすものと受け止められ、シャルル・ル・テメレールはフランスの拡張に真っ向から対抗したと見られるようになったそうです。20世紀初頭には、ル・テメレールが「興奮した」フランスと「気の荒い」ドイツの間(zwischen dem <hitzigen> Frankreich und dem <rauen>Deutschland)にベルギーを作り出した、なんて称賛されたとか。
あと、スターリングラードや武装SSがほんのちょっとですが出てきたのがウォーゲーマー的にはツボでした。いや、目が引かれるところがそこかい、と自分で突っ込んでしまいましたが、それはさておきブルゴーニュの歴史をざっと知るには手ごろな本だと思います。
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