12月2日はアンナ様の誕生日。ということでアンナ・コムネナ関連の本を読んでみました。アンナが活躍したのは12世紀ですが、『La Méditerranée au XIIe Siècle』はそのタイトルどおり12世紀の地中海世界についてまとめた本。この時代の地中海って面白いんですよね。中央部ではフランスから来たノルマン人が勢力を拡大して、東と西では十字軍にレコンキスタ。というか、この本の目次を見たほうが早いんですけど、まずは西欧キリスト教世界の拡大、ビザンツ帝国の衰退、分裂したイスラム世界って地中海の3つの文明について前半で説明していて、次に3つの地域での異文化の接触として、南伊のノルマン人、スペインのレコンキスタ、東方の十字軍という章立てになっています。こうして巨視的な感じでまとめてくれるとバラバラだった知識がすっきりつながって嬉しい。自分が大学受験で世界史の論述問題の勉強していた時、こういう本を知っていたらありがたかっただろうな―と思いました。
この時代のビザンツと言えば、前世紀に東ではマンジケルトでけちょんけちょんに負けて、西ではノルマン人に領土を奪われるという踏んだり蹴ったりで、アンナ様のお父様が何とか立て直してますね。この本でもお父様のアレクシオス一世や、アンナ様の宿敵、じゃなかった弟のヨハネスは何度か触れられています。アンナ様についても当然書かれている…って思ったら、あれ、無い。え、アンナ様の名前が出て無いの? 見落としちゃったのかな…。まあ、この本ではビザンツはメインではないですし、書かれている内容もあんまり嬉しいものじゃないんですよね。「ビザンツ帝国の衰退」っていう章タイトルからしてそれがわかるんですが、その章の中には「ビザンツ帝国の政治的・軍事的危機」とか「ビザンツ帝国の経済的・社会的危機」といった節が立っていて、危機ばっかりじゃねえかと突っ込みたくなりました。いやまあ、ビザンツの歴史って危機の連続だったと言えばそうなんですけどね。
12世紀の十字軍と言ったらウォーゲーマー的にはリチャード獅子心王とサラディンが知られていると思いますが、サラディンはしばしば寛容の精神を示したためキリスト教徒たちが勇敢な騎士像をサラディンに見出した、なんて書かれている一方で、リチャードはアッコンを陥落させたときに抵抗した兵士だけでなく女性や子供も処刑したことが触れられていますね。あと、以前AARを書いたアンティオキアやサグラハスといった戦いも出てくるのがちょっと嬉しい。イベリア半島では1195年にAlarcosでキリスト教勢力が大敗するんですが、第二のサグラハスなんて書かれていました。たしかにサグラハスでもアルフォンソ六世がぼろ負けしてたもんね。それと、Levy&Campaignシリーズの「Almohavid」が扱う時期の前後の流れもわかるようになっています。
『La Méditerranée au XIIe Siècle』では政治・軍事的なことだけでなく、この時代の文化的側面も解説してくれています。12世紀の地中海と言ったらいわゆる12世紀ルネサンスがありましたが、スペインでの様々な文献がアラビア語からラテン語に翻訳されたことが述べられています。あと、『昼も夜も彷徨え マイモニデス物語』っていう小説があって、主人公のマイモニデスは中世最大のユダヤ思想家ともいわれ、迫害などを避けスペインからエジプトまで亡命しサラディンの侍医になったりした人なんですけど、『La Méditerranée au XIIe Siècle』でもマイモニデスが出てきて、医学と哲学の面での功績が解説されていましたね。それとユダヤ人と言えば、十字軍でもっとも被害を受けたのがユダヤ人だって書かれていました。
というわけで、12世紀の地中海世界のゲームがやりたくなってきましたよ。十字軍関連のものでもやってみるかな。でも会戦級ばかりで、広い地域を扱ういわゆる戦略級的なものは持っていないんだった。バラバラだった知識がすっきりつながったとか書いておきながら、活用できないじゃん…。