城巡りって人気がありますよね。自分は城について詳しくなくて、虎口とか曲輪とか言われてもあんまりピンとこなくて、まあ有名な城は一応見ておいた方がいいかな、という感じでたまに行ったりしています。
そんな感じであるお城に行ったんですけど、そこの売店で見つけたのがこの本。『Castle』ってそのまんまのタイトルだなと思いながらパラパラめくってみると、結構読みやすくて思わず買ってしまいました。
筆者は子供のころから城が好きで、行くたびに甲冑をまとった騎士たちや、攻城戦の様子を想像してわくわくしてたとのこと。城は荒れたままであろうと修復されたものであろうと、magical placesだったそうです。でも、多くの砲が残されているのに王が食事をする場所がない城や、逆に豪華な寝室があるのに兵たちの寝る場所がないものがあったりして、城とは何ぞや、と疑問に思うようになったとのこと。
城研究の古典的な本には、城とはbasically a fortified residence, or a residential fortressだって書かれているそうなんですが、筆者もだからこそ城にみんな惹かれるんだ、って言っています。how can a building be warlike and homely at the same time?と。ただ近年ではこの城の定義は疑問視され始めているそうで、見た目は城っぽいのに防御力にほとんど注意が払われていないものは城に含まれなくなってしまうからだそうです。建てられた当時、人々が城と呼んでいたのに、21世紀の我々の方がよくわかっているから城に含めないとするのは、非常に傲慢なことであろうと筆者は書いています。
この本は"A History of the Buildings that Shaped Medieval Britain"っていう副題のとおり、11世紀のノルマン・コンクエストからイギリスの城について書かれているのですが、上記のとおり軍事面以外の城の機能というか役割についても結構言及しています。特に面白かったのは14世紀にたてられたBodiamという城についての章。この城、見た目は中世の城って感じがするんですよね。
写真を見ると、自分だったらこんな城攻めたくないなあと思ってしまいます。筆者曰く、すべての角には塔がたっているし、城壁のうえは胸壁になっているし、堀もある。城の見た目の特徴項目リストを作ったら、Bodiamはほぼすべての項目を満たすだろうとのこと。
でも、あまりにも弱点が多くて、しかも外から見てわかるようになっているそうです。南面と東面には大きな窓があり、他の小さな窓も矢狭間になっていない。そもそも矢狭間がこの城にはない。城壁も薄く、堀の水もすぐに抜けるようになっている…と、これでもかというぐらい防御の弱い点が挙げられています。
じゃあなんでこんな城が建てられたのか。14世紀の当時、イギリスは百年戦争の真っ最中ですが、そのころの社会状況と絡めて筆者は説明してくれていて、ふんふんと合点がいきました。
こんなふうに書くとこの本では軍事的なことがあんまり説明されていないと思われるかも知れませんがそんなことはなくて、いろいろと勉強になりました。machicolationとかportcullisとかいった単語、知らんかったよ…。エドワード一世が建てたCaernafon城ではクロスボウの狭間がどうなっているか図解で説明してあったり。もちろん城の防御だけでなくて、trebuchetなど攻城兵器についても触れられていました。
でも自分が面白いなと思ったのは、この本全体の傾向として個々の軍事技術というよりは当時の社会状況と絡めて城を説明している点。なぜmotteはフランスで11世紀に建てられるようになったのか、といった考察とか、薔薇戦争のときの城の状況とか。スコットランドについても、It would be wrong ... to suppose that just because Scotland has a lot of castles, it was a place where violence was an everyday occurence.なんて指摘は新鮮でした。だって中世のスコットランドって北斗の拳状態だったっていうイメージしかなくて…。
17世紀の内戦、いわゆる清教徒革命のときまでこの本はカバーしているんですが、Pontefract城のエピソードが面白かったです。議会派は数ヶ月包囲したものの強襲では落とせず、兵糧切れになってやっと王党派の守備隊が降伏したという堅固な城塞だそうです。王党派は奪還を目論んで、夜、密かに自分たちの兵を城に入れるように議会派の守備隊の隊長を説得したとのこと。でもその隊長、酔っぱらってしまって別の夜警が立つことになり、王党派の兵は急いで退却します。このことを聞いた議会派政府は城の守備隊を増やすことに。これで防御完璧、となったはずが、兵が増えたせいで寝場所が足りなくなり、追加のベッドを城に運び入れることになりました。王党派の兵はベッドの運搬業者に変装して城に入り込み、まんまと城を奪還……ギャグですかって言いたくなる展開ですよね。
城に関する知識がないまま読んだんですが、自分にはちょうどいい感じの内容で、最後まで一気に読めました。ペーパーバックで270ページほどしかないですし。それとこの本の最後には、現在では多くの城の修復が進んでいて、It only requires us to visit them and use our imaginations, and their restoration is complete.なんて書かれています。イギリスの城にかぎらず日本の城でもこれからは想像力を働かせようと思いました。でもその前に基本的な知識をもっと知っとかないと。とほほ。

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