2025年5月17日土曜日

城活にこの一冊(その2) — 今回は中世ドイツ、『騎士の城』

 前回紹介した『Castle』は中世イギリスの城についての本(ちなみに上の写真はイギリスのお城)だったので、別の地域はどうなのかな、と思ってドイツのを探してみました。だってね、中世のお城って言ったらノイシュバンシュタイン城とか、ドイツのイメージ、ありません? (しかし自分、いつもノイシュヴァインシュタインって言ってしまうんですよね。白鳥ではなく豚と言ってしまうところに己の俗物ぶりを感じて悲しい…)

 


 この本、『Ritterburgen』は「現代においてもっとも有名な城は20世紀から21世紀の変わり目に建てられた」なんて文章から第一章が始まっているんですが、え、どういうこと、と思っていたら、ハリポタのホグワーツのことを言っていました。高い壁と塔、そこには多くの出窓や胸壁があり、暗い廊下、秘密の通路、陰鬱な地下倉庫といった、中世の城によくあると思われているものがふんだんに盛り込まれているそうです。それだけでなく、「ちゃんとした」城と同様に、ホグワーツは最終的には攻囲され、強襲され部分的に破壊される。そして良い人々が城に立てこもって勇敢に悪の勢力の攻撃を防ぐ…といった典型的な中世のイメージを投影しているとか。

 でもこういったイメージは中世の実情を必ずしも忠実に反映しているわけではないそうです。この本の最後に、結びに代えて「城に関するもっともひどい12の誤解」なんてのも挙げられてますが、そうか、映画とかで流布している中世のイメージで考えちゃいけないんだと思いながら読みました。でもよく考えたら自分、あんまり具体的な中世の城のイメージって持ってなかったわ…。


 いろいろと面白い事例が載っていたんですが、必ずしも防御に有利な地形に城は築かれたわけではない、というのが結構意外。重要な交通路を抑えるために、より高い地点から攻撃されるような場所に城を築いたりとか。

 それと前回紹介した『Castle』でも、城は防御能力を必ずしも最重要視しているわけではないといった指摘がありましたが、実際の矢狭間を使った実験とかを挙げて、シンボル的な要素が城にとっては非常に重要だったと述べています。支配者の権力、地位を周囲にみせるために、低地から高地に城が築かれるようになったそうで、「垂直のシフト Vertikalverschiebung」なんて言葉もあるとか。

 あと、城を築くためにひつようなモルタル製造のために、大量の薪が必要だったとか、水も大量に消費しないといけなかったとか、具体的な数字を挙げています。城づくりで、建築材として木が伐採されるのは想像がつきましたが、石造りなだけにモルタルが必要で、そのためにすんごく火を炊かないといけないなんて知りませんでした。


 『Ritterburgen』では『Castle』同様、城とは何ぞや、ということについて冒頭で論じています。ややこしいのが、ドイツ語で城っていうとBurgのほかにSchlossっていう単語もあるんですよね。で、本の初っ端に「いつBurgはSchlossになったのか?」なんて書いてあります。SchlossはBurgの同義語として14世紀から使われ、19世紀になって、その歴史に反して、Schlossは城塞化されていないBurgの後継の建築物とみなされるようになった、そうです。うーん、ややこしい。Burgという単語に関しては他にも序文で「Ritterburgen」というタイトルに関して、もっと学問的に正確なAdelsburgやFeudalburgといった言葉はあるけれども一般にはまだ広まっていないので、この本の内容が簡単にわかるように「Ritterburgen」という言葉をタイトルに選んだって断っています。こういう細かい言葉のニュアンスや意味は自分はわからないんですが、bergやstein、fels、egg、eck、hausといった語尾がついている地名は城があった場所であることが多いっていうのはお役立ち知識かなと思いました。

 まあそれはそれとして、城(Burg)って何なのかってのを定義しようとしているんですが、中世を通じて城は変化し続けてきたので、城を定義すること自体が非常に難しいそうです。そりゃそうだ。それと言葉と言えば、中世を通じての城の変遷について一章設けて説明してくれているんですけど、知らん単語ばっかりで勉強になりましたよ。 


 ドイツで出版された本だけあって主にドイツの城の事例がふんだんに紹介してあります。もちろん他の地域のことにも触れられていて、例えばフランスで、中世の技術と材料を使って城を建てるというプロジェクトがあるんですが、その城Guédelonについてもいろいろと述べられていました。マーケティング的に非常に成功しているみたいで、一年のうち半年ちょいしかオープンしていないのに年間30万人が訪れるって、人気あるんですなー。それと再現と言えば、motte、ノルマン人が始めた土を盛り上げた城ですが、その再現が近年は博物館の屋外でなされるようになってきているとか。2010年にはこんなイベントもあったそうです。

Aufruhr 1215!

 この本、Bauwerk, Herrschaft, Kultur(建築、支配、文化)って副題みたいなのがついているんですけど、素人目には中世の城についてたいていのテーマはカバーしているように感じました。ちょうど新書ぐらいの手軽な分量で読みやすし。どこかの出版社が翻訳を出さないかなー。



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