先日のブログでも触れましたが、VaeVictisの最新号は1526年のハンガリー。1ターン2週間でオスマン軍のハンガリー侵攻の半年を扱っています。
1526年のハンガリーと言ったらモハーチの戦いでオスマン軍が決定的な勝利を収め、ハンガリー王国の首都ブダまで占領した……らしんですけど、あんまり知らないんですよ。なんせこのあたりの歴史に関しては『夢の雫、黄金の鳥籠』ぐらいしか読んだことなくて、イブラヒムとヒュッレムはどうなんの?!ってハラハラしました。ちなみにVV180号の「La conquête de la HONGRIE 1526」にはイブラヒムやスレイマンのユニットが登場します。
VaeVictisのヒストリカルノートでモハーチ前後のだいたいの流れが分かったんですが、16世紀のハンガリー史に興味が湧いてきてもっとなんか読みたいなーとヒストリカルノートの参考文献を見てみると、「Hungarian-Ottoman War Series I」なんて副題がついた書籍があって、調べてみると筆者はハンガリー人。このあたりの歴史ってオスマン帝国中心か、もしくはハプスブルグ家視点のものが多い印象があるんですけど、地元の人はどんなことを書いているのかなと興味を惹かれて読んでみました。
序文を読むと、ヨーロッパの対オスマン戦争におけるハンガリーの役割は残念ながら一般向けの歴史書やテレビ番組では過小評価されたり無視されている、と書いています。そのため英語でこの本を出したそうです。本のタイトルは『33 Castles, Battles, Legends』ってなっていて、オスマン帝国に対してハンガリー王国の北部を守っていた33の城をピックアップして、それらに関する戦いやエピソードなどが書かれています。筆者によるとハンガリー王国は現在のオーストリア、スロベニア、セルビア、クロアチア、ルーマニア、ウクライナ、スロバキアまで広がっていたそうで、この本でもスロバキアやウクライナの城が含まれています。
スレイマンをはじめ強力なオスマン帝国の侵攻に、キリスト教世界を守るためにハンガリーが必死に抵抗した過程が読めるのかと勝手に期待して読んだんですけどね。実際はそれだけじゃなくて、ハンガリー王国内での内紛や、対ハプスブルグの話も結構書かれていました。
特にハプスブルグ家への対抗意識は結構感じられて、ハンガリーがオスマン帝国からオーストリアに割譲された1699年のカルロヴィッツ条約については、この条約締結の際の交渉ではハンガリー人が一人も加わっていなかったので"sine nobis, de nobis"(我々なしに、我々について)決められた、とラテン語の言葉を書いています。それにモハーチの戦いのときにハンガリー王ラヨシュ2世が戦死して、サポヤイ・ヤーノシュ、それにハプスブルグ家のカール5世の弟のフェルディナントがそれぞれ王位を主張してハンガリー王国が分裂してしまうんですけど、この本ではフェルディナントを the usurper King Ferdinand I なんて書いていました。こういうのを読むと、七年戦争のときにマリア・テレジアが赤子を抱えてハンガリー貴族に協力を訴えたってエピソードがありますが、そこまでしないとハンガリー人はハプスブルグ家に協力しないんだってのがよくわかった気がしました。ちなみにこのエピソード、SNSの知り合いの方に教えていただいたんですが、調べてみたらドイツのZDFによる歴史番組に登場してました。
Die Deutschen: Preußens Friedrich und die Kaiserin
(10:25あたりからマリア・テレジアのハンガリー議会での演説が始まります。)
タイトルどおり伝説も結構含まれているんですけど、気軽に読めるのがよかったです。銅の鉱脈がある町の貴族が、銅から金を抽出する技術を盗むためにベネチアに入った話とか。面白かったのがチーズが名産の町がライバルの町に攻められたとき、砲弾が尽きてしまったのでポーランドで売るために荷車に大量に積んでいたチーズを砲弾代わりに撃ったというエピソード。攻囲側は砲弾に撃たれたと思ったら異臭のする白いドロッとした液体に体が覆われてしまい、慌てて退却したそうなんですけど、こんなこと実際にあったんですかね? ちなみにこの町の名前は「チーズ市場」という意味を持っていて、敵を追っ払ったのはいいけどポーランドで売るチーズがなくなったじゃないか、というオチが付いています。
読みやすいこの本なんですが、ページ番号、いわゆるノンブルが付いていないんですよね。レイアウトもなんと言いますか、悪いけど素人っぽくて、もっとちゃんと編集してくれたほうがありがたいなあって思いました。でも登場人物も地名も全然知らないことばかりで、へーこんなことがあったんだと面白く読めました。最初に20ぺージ強を使って14世紀末から18世紀までのハンガリーの歴史をざっと解説してくれていて勉強になりましたし、その後は短い章に分かれていて流れを気にしなくても読めるのがよかったです。これを機会にハンガリー史や東欧の歴史についてもっと勉強してみようと思います。


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