2022年10月15日土曜日

(幕間)ギネガテの戦いのブルゴーニュ軍歩兵

  BGGを見ていると、この戦いでのブルゴーニュ軍はスイス歩兵の戦術を採用して勝利したんだからブルゴーニュ軍の歩兵は脆弱な槍兵(Piquiers, Pi)ではなくスイス兵(Suisses, Su)として扱うべきではないかっていう書き込みがあった。

ブルゴーニュ軍の戦術に関してWikiにそう書いてあるらしくて、読んでみると確かにギネガテの戦いで「革新的なスイスのpike squareの隊形がスイス以外の国で初めて採用された」ってある。(ところでpike squareって定訳あるんですかね。歩兵方陣? ドイツ語の文献を読んでいるとGewalthaufenって書かれたりしているけど)


 このゲームのブルゴーニュ軍の槍兵はヘント、イープル、ブリュージュなどフランドルの兵となっていて、フランドルの歩兵といえばギネガテの約180年前にコルトレイク(クールトレ)の戦いでフランスの重騎兵を打ち破っている。それにブルゴーニュ軍右翼歩兵部隊指揮官としてRomont伯がゲームに登場しているが、Romont伯はスイス西部に領土を持っておりスイス軍と戦った経験から、フランドルの歩兵にpike squareを教えたらしい。


 でもね、Wikiですよ。いまいち信用できなくて、そのソースとして挙げてあるHans Delbrück著の『History of the Art of War Volume IV: The Dawn of Modern Warfare』(の原著)を読んでみると、ちゃんと書かれていました。

 ちなみにこれ、もともとドイツ語で書かれていた本で、英訳は入手が難しそうであきらめかけたんだけど、ドイツ語のオリジナル『Geschichte der Kriegskunst, Band 4』がキンドル版だとなんと700円台で売っていたので速攻で買いました。キンドルで読むのは好きじゃないけど、文庫本ぐらいの安さで提供してくれるのはうれしいです。


 ちなみにJ. F. Verbruggerの『The Art of Warfare in Western Europe During the Middle Ages』では、コルトレイク(クールトレ)からギネガテまで、フランドルの歩兵はフランスの騎士に対してしばしば数的優越を有しておりそれが勝利の要因になった、みたいな感じのことがちょろっと書いてある。なお、フランドルはブルゴーニュ公国の勢力圏。あと、VerbruggerはDelbrückの中世の戦術の考察を批判したらしいですね。いずれにせよギネガテに関する資料はなかなか見つからなくて、もしご存じの方がいれば教えていただけると嬉しいです。


 まあとにかく、ブルゴーニュ軍は長い間スイスと戦っていてその戦術を熟知していたらしい。ギネガテの2年前にはブルゴーニュ公シャルルがナンシーの戦いでスイスのpike squareの前に惨敗して戦死しているぐらいだし。ちなみにギネガテ戦いのときにはまだ20歳だったマクシミリアンは、のちにスイス傭兵を模範としてランツクネヒトを育成している。


 それにDelbrückの他にも、中世の軍事史が専門のドイツの教授が書いた本で、ギネガテの戦いでマクシミリアンが長槍を手にGewalthaufenに加わった、てなことが述べられているから、この戦いでのブルゴーニュ軍はスイスの歩兵隊形pike square(Gewalthaufen)を用いていたんじゃないかと思います。


 このゲームのヒストリカルノートによると、ギネガテの戦いではフランス軍の騎兵がブルゴーニュの騎兵を一掃したあと、戦利品の略奪に夢中になってしまったらしい。その間にブルゴーニュ軍の歩兵がフランス軍の歩兵を粉砕、フランス軍は強固な陣形を維持しているブルゴーニュ軍を前にして退却せざるを得なくなった。結果はマクシミリアンの勝利で、圧勝なんて書いてある文献もあった。

  Au fil de l'épéeシリーズのSuはPiに比べるとかなり頑強である。というか、Piは兵種としてかなり弱い。どれくらい弱いかというと、白兵戦で弓兵相手でも不利なDRMがつくぐらい。もしブルゴーニュ軍の主力である歩兵がPiだと、圧勝どころかフランス軍に対してかなり不利になるだろう。ということで、両プレイヤー合意のもとでブルゴーニュのPiはSuとしてプレイしている。


つづく


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