2023年8月21日月曜日

グルーシーのイチゴ

「Napoleon 1815」(Shakos)と言ったら小さなウォーゲーム屋さんで日本語版が出ていますが、「Napoleon 1815」のマップに苺が描かれているのはなぜ? というつぶやきがあったので興味をひかれて調べてみました。


どうやらグルーシーに由来するんじゃないかなと。ブリュッヒャーを探していたグルーシーが、ワーテルローの砲声が聞こえてきたのにゆっくり食後のデザートのイチゴを食べていて戦いに参加できなかったと伝えられているようで、Les fraises de Grouchy(グルーシーのイチゴ)っていう言葉もあるようです。
Wikiにもこのことが書かれていますね。

Emmanuel de Grouchy — Wikipédia (wikipedia.org)


↓ここのイラストでは「元帥! 苺で遊ぶのはおやめください。間に合いません」って言われていますね。

Site en maintenance | historia.fr

(すみません、サイトはメインテナンス中になっていますね)

『グルーシーの苺、もしくはワーテルローにおけるナポレオンの敗北の秘密』なんて本も出ているようです。

Amazon.fr - Les fraises de Grouchy: Ou les secrets de la défaite de Napoléon à Waterloo - Le Tulzo, Gérard - Livres

日本語の書籍にはこのグルーシーのエピソードが書かれているんでしょうか。ご存じの方、いらっしゃったら教えていただけると嬉しいです。

ちなみに、ベルギー南部ワロン地方は苺がよく採れ、ワーテルローがあった6月は苺が美味しい季節だそうです。Napoleon 1815のマップにはNamurが含まれていますが、その南近郊にはイチゴ博物館があります。

Musée de la Fraise | Fraise Wépion | Namur | Belgique (museedelafraise.com)


グルーシーの故事にちなんで、ワーテルロー戦のゲームをやるときは英軍プレイヤーは相手のためにイチゴを用意してあげるといいのでは。仏軍プレイヤーに「ゆっくり召し上がれ」って言うと盛り上がるかもしれませんね。


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8月23日追記


Twitterでグルーシーについて教えていただきました。

この「グルーシーの2日間」は、詳細な分析をもとに、グルーシーを無能と決めつけるのはよくないのでは、とざっくりいうとそんな内容なんですが、ちょっと調べて、こんな記事を見つけました。

https://www.lefigaro.fr/histoire/2015/06/19/26001-20150619ARTFIG00106-waterloo-grouchy-fut-il-la-cause-de-la-defaite.php

「ワーテルロー:グルーシーが敗因だったのか?」っていう記事で、筆者はdirecteur de la Fondation Napoléonなのでナポレオン財団の理事って言えばいいんですかね。ナポレオンの回顧録以来、ワーテルローはグルーシーのせいで負けたと歴史家は考えていたけど、近年はワーテルローの敗因をグルーシーに帰す傾向が弱まっているそうです。

その理由として以下のことを挙げています。

①Lignyの戦いの後、普軍追撃の命令をナポレオンが下すのが遅かった

②ナポレオンはグルーシーを呼び戻すよう明確に指示したことはなかった

③グルーシーがWaterlooに行くにはDyle川を渡る必要があり、10キロ離れたWavreの橋を確保しないといけなかったが、普軍はそこを固く防御していた。なので、(上記「グルーシーの2日間」にもあるように)グルーシーは到底ワーテルローの戦いには間に合わなかっただろう。


そもそもナポレオンはウェリントンのことを舐めていて、ワーテルローの朝、スールトがグルーシーを呼び戻すように進言したところ、却下したそうです。その際、「Ce sera l'affaire d'un déjeuner」と言ったそうですけど、意訳すると「朝飯前だ」ぐらいの感じですかね。

みなさんもワーテルロー戦のゲームで仏軍をプレイするときは皇帝になった気分で「ス・スラ・ラフェル・ダン・デジュネ」って言ってみてください。…、いや、そんなこと言っちゃダメだろ。

2023年8月18日金曜日

「Land and Freedom」関連書籍その3 『誰がために鐘は鳴る』

  ゲーム「Land and Freedom」ではヘミングウェイがカードになっていますが、そういやヘミングウェイがスペイン内戦を舞台に書いた『誰がために鐘は鳴る』って、恥ずかしながら読んだことがなかったです。ノーベル賞作家の代表作の一つってされているそうなんですけどね。



 ヘミングウェイはスペイン内戦中の1937年にスペインを訪れ国際旅団に関わり、1938年にはスペイン内戦における最大の激戦であるエブロ川の戦いも見ている。1920年代にもスペインを訪れていて、結構あの国が好きだったみたいですね。

 で、『誰がために鐘は鳴る』なんですけど、舞台はスペイン中央部、マドリードの北のほうの山岳地帯。内戦が始まって1年弱のころ、共和国側に立って戦っている主人公のアメリカ人ロバート・ジョーダンは、共和国軍の攻勢開始に合わせて敵後方の橋梁を破壊する任務を受ける。現地のゲリラ部隊の協力のもと、橋梁爆破のための準備を進めるのだが…というストーリーで、結構分量がある作品。自分が読んだのはペーパーバック版だけど、490ページありました。でも物語上では4日間の話なんですよね。



 この作品の文学的評価はいろんなところで書かれていると思うのでそれは置いておいて、ウォーゲーマー的には、ハインケルHe111やフィアット戦闘機が飛んでたり、ソ連から派遣されたであろうロシア人の将軍が出てきたりするところに反応してしまうんじゃないですかね。トハチェフスキーの名前もちらっと触れられていました。あと、主人公に若い彼女ができるんですけど、こんちくしょうってウォーゲーマーだったら思…わない思わない、私だけですよね、そんなこと考えるの。

 この作品の時期の3か月ほど前にグアダラハラの戦いっていうのが実際にあったんですけど、共和国軍はファシスト側のイタリア軍部隊を撃退しているんですね。この作品中でもグアダラハラの戦いに触れたところで、敵がイタリア軍だって知っていたから、他の軍隊相手だったら到底やれない機動をして勝った、みたいなセリフがあって、あー、イタリア軍ねって思ってしまいました。あと、主人公の祖父は南北戦争で従軍したってことになっていて、グラント将軍がいつも酔っぱらっていたとかそういう話も出てきます。

 

 それと、スペイン内戦時のヨーロッパ情勢を知っていると、あー、そうねって思うところが結構あるんですよね。「もしフランスが我々を助けてくれていたら、国境を開けてくれてさえいたら」なんてところを読むと、不干渉委員会なんて作って英仏はファシスト陣営を利するだけだろ、でも翌年にはミュンヘン会談があって共和国の人々は裏切られたって絶望するんだよな…と思ってしまいました。


 ところどころQué vaとか短いスペイン語が出てきて、スペインっぽさを感じます。それと、登場人物のセリフの中でThou artとかDost thouとかtheeとか、自分はなんか古い英語だなって感じる表現が結構出てくるんですけど、方言を話していることを表そうとしてるんですかね。でもジョージ・オーウェルの『カタロニア賛歌』では、共産主義者や無政府主義者が支配的になったバルセロナでは相手のことをComradeとかThouと呼ぶようになった、って書いているから、そういう雰囲気をだしているのかな。和訳ではどうなっているんだろ。あと、主人公のロバートはスペイン人にはInglés(English)って呼ばれているんですけど、和訳だとどう表現しているんですかね。イギリス人? あと、彼の名前はRoberto(ロベルト)って言われていました。それと、作中ではお互いにSaludって挨拶するんですけど、ジョージ・オーウェルの『カタロニア賛歌』ではBuenos diasの代わりにこう言うようになった、って書いていますね。


 作中ではワインを飲むシーンが結構出てくるんですけどね、優雅にボトルからワイングラスに注ぐなんてことしないんですよ。dipped his cup into the wine bowlって、ワインの入ったボウルからコップで掬ったってことですよね。それとwineskinって、ワインの入った革袋から飲んだりしているんですよ。読んでいて赤ワインが飲みたくなってきて、でもたまたま近所の店でスペインのビールが安く売っていたのでそれを飲んだりしていました。Estrella Dammっていうバルセロナのビールで、バルセロナっていったらスペイン内戦中は共和国側の有力な拠点の一つだったわけで、共和国のために戦っている物語を読んでいるだからいいでしょと自分に言い訳してがぶがぶ飲んでしまいました。というわけで、赤ワインかスペインのビールの飲みながら読むに結構いい本だと思います。このブログもワイン飲みながら書きました。

2023年8月15日火曜日

青い鳥を孵化させる―『ツイッター創業物語』

  ツイッターって便利ですよね。ウォーゲームについてつぶやいたら海外のデザイナーさんから直接レスポンスが来たりとか、意外なところでつながれるのがうれしい。

 そのツイッターがXになってもう青い鳥のアイコンがなくても違和感を覚えなくなったころに何ですけど、そういやツイッターってどういう経緯で生まれたんだっけなと、昔読んだ『Hatching Twitter』という本をざっと読み返してみました。


 この本、和訳は『ツイッター創業物語』ってタイトルになっていて、そのとおりツイッターの立ち上げ時のルポ。でもね、tweetって小鳥のさえずりのことで、hatchって鳥とかを卵から孵化させるって意味があって、『Hatching Twitter』ってタイトルはほんとうまいなーって思っていたんですよね。和訳のタイトルは何のひねりもないものになっていますが、まあ日本のマーケットを考えると仕方なかったんですかね。和訳読んでいないのにいちゃもんつけるようなこと言ってすみません。

 

 まあそれはさておき、この本、面白いんですよ。単純に読み物としてすらすら読んでいけるような書き方しているんですよね。真面目な分析というよりは、コミカルなドラマを見るような感じで読めました。

 もちろん、ツイッターが全然知られていないころから急激に利用者数が増えててんやわんやする様子とか、スタートアップの本として内容的に興味深いです。個人的に、エスタブリッシュメントの中にいるよりは、この先どうなるかわからないけど新しいことをやってみるほうが面白いぜ、という考えに共感するほうなので。まあ、そのおかげで今までやらなくてもいい苦労をしてしまったぜよ…。それと、昔ドイツ人の知り合いに「僕は不安定さ(Instabilität)を楽しみたいんだ」って言ったら、「そういう時は不安定さじゃなくて自由(Freiheit)って言うのよ」って訂正されて、ちょっと違うんだよな…って思ったことがありました。


 そんなことよりも、この本ではTwitterって名づける前からの立ち上げの様子から、2012年初頭あたりまでが描かれています。一応、表紙にはA True Storyって書いてありますし。元従業員など多くの関係者にトータルで数百時間インタビューしたそうです。青い鳥のアイコンが消えてしまったこの時期に読むのはいいんじゃないかな、と。

 あと、本筋とは全然関係ないけど超絶かわいい女性が出てきて、彼女がほほ笑むと通りを走る車がみんな止まってしまうぐらいだった、みたいなこと書かれていて、どんな人だったのか見てみたいぜって思ってしまいました。


 読んでいて思い出したのが、昔仕事でTwitterのことを記事にしないといけなくて調べていたことときのこと。その当時はまだ日本ではマイナーで、でもアメリカのテレビ番組の司会者が番組最後に「Tweet me」って視聴者に言ったりしていて、あーアメリカでは盛り上がっているんだなって思った記憶が。2009年のイラン大統領選のときもその影響力を目の当たりにしたなあ。

 それと、昔Time誌でSNSの記事があって、主要なSNSを図にしていたけどFacebookがSNSのひいじいちゃんって書かれていて、まじ、もうそんなに世代が進んでんのって驚いたことがあった。すんません、情弱なんで。でもそんな新陳代謝栄枯盛衰が激しい世界で生き残っているツイッターってすごいな、と。イーロン・マスクが変なことをしてしまわないように願っています。


マーケット・ガーデン80周年なので読んでみた、『9月に雪なんて降らない』

 1944年9月17日の午後、アルンヘムに駐留していた独国防軍砲兵士官のJoseph Enthammer中尉は晴れわたった空を凝視していた。自分が目にしているものが信じられなかったのだ。 上空には 白い「雪」が漂っているように見えた。「ありえない」とその士官は思った。「9月に雪な...