2024年4月28日日曜日

(幕間)北方十字軍関連の書籍

  13世紀のバルト海沿岸って言ったらウォーゲームでもマイナーで、ある程度知られているのは1242年の氷上の戦いぐらいじゃないかなと。ソ連のエイゼンシュテインが映画にしているし、凍った湖の上での戦いっていうのもキャッチ―だし。あとこの時期のこの地域で知名度があると言ったらドイツ騎士団(チュートン騎士団)ぐらいですかね。13世紀は、中東にむかった十字軍の影響を受けて前世紀に始まった、いわゆる北方十字軍がバルト海東岸に進出していった時期。12世紀にキリスト教勢力がバルト海南岸を征服し、今のリトアニアやエスニアにも手を伸ばしてくるのである ― という、いわばLevy&Campaignシリーズ「Nevsky」(GMT)の前日譚にあたる時期なんだけど、マイナーですよね…。


 でも北方十字軍に関しては日本語で『北の十字軍』がある。これ一冊読めばだいたいOK、と素人の自分は思ってしまうんだけれども、他にも何かないかなと探してみたら、以前紹介した『十字軍全史』にも北方十字軍についてちょろっと述べられていた。それよりなにより、「Nevsky」のPlaybookに参考文献として挙げられた『The Northern Crusades』っていうのがあった。タイトルどおり一冊丸ごと北方十字軍なんだけれども、The Conquest of the East Baltic Lands, 1200-1292という章があって、デンマークのエストニア進出に関しては数ページを使って解説しているし、その前段階のバルト海南岸のデンマークの進出も別の章で叙述してある。

 それと、『Crusading and Chronicle Writing on the Medieval Baltic Frontier』収録の2章“Bigger and Better: Arms Race and Change in War Technology in the Baltic in the Early Thirteenth Century”と“Mechanical Artillery and Warfare in the Chronicle of Henry”が同じく「Nevsky」の参考文献に入っていたんだけど、タイトルからわかるようにウォーゲーマー向きの内容。この本はリヴォニア年代記についてのいろんな論文を集めたものなんだけど、個人的にはナショナリズムとこの年代記との関わりを論じた最後の章が面白かったな。それと、リヴォニア年代記は12世紀後半から13世紀前半にかけてのエストニアとラトヴィアのことが描かれているんだけど、筆者は実際に北方十字軍に参加した宣教師と考えられている。でもこの年代記が本格的に研究されるようになったのはこの数十年だそうで、考古学的発見も併せて新しいことがこれからわかるかも、という状況らしい。なんか楽しみ。


 ゲーム「Lyndanise 1219」が収録されているVaeVictis118号には北方十字軍に関して12世紀後半から13世紀前半にかけてのヒストリカルノートが8ページで載っている。もともとこの号のメインの付録ゲームは帯剣騎士団のエストニア進出を扱った「De Sang et de Tourbe」(血と泥)で、1ターン1年で1208年から1225年までカバーする戦略級ゲームである。そのためヒストリカルノートも長い期間をカバーしているのだけれども、Lyndaniseの戦いのコラムもある。ちなみにLyndaniseはLyndanisseとs二つにする表記もあるようだけれども、ゲームはsひとつでコラムは二つ。どっちかに統一してほしい。まあ、別のコラムではバルト諸国の歴史に関しては地名が問題、なんてことが書かれていて、エストニア語やラトヴィア語のほかにドイツ語やラテン語でも表記されるからややこしいらしい。

 このLyndaniseの戦いのコラムではダンネブロについての伝説ももちろん紹介してある。

デンマーク軍が苦戦する中、ルンド大司教が両手を天に向かって掲げ祈り始めた。するとすぐに、デンマーク軍は敵の攻撃を跳ね返した。だが両手を下ろした途端、敵が勢いを回復してしまう。そうしている間に疲れ切った大司教は、もう両手を掲げて祈ることはできなくなった。エストニア軍はここぞとばかりに攻め立て守るデンマーク軍を圧倒し始める。だがそのとき、神のご加護によって、白い十字が描かれた赤い旗が空から降ってきた。この奇蹟に鼓舞されたデンマークの兵たちは敵を打ち破ったのだった。

 そりゃずっと両手を上げていたら疲れるよね、ライブやフェスじゃあるまいし……って、そこじゃない。苦境に陥ったデンマーク軍に、十字架が描かれた旗が空から降ってきて勝利するなんて、キリスト教のプロパガンダじゃねえか。たしかコンスタンティヌス帝でもそんな感じのエピソードあったよな…と思っていたら、このコラムでもちゃんと指摘してありましたよ。

 でもまあ、こうやって歴史的背景や伝説を知るとゲームもより一層楽しめるんじゃないかな。Levy&Campaignシリーズは定評があるから、参考文献を読んでぜひ「Nevsky」を……って、違った、今回はLyndanisseの戦いのAARの幕間だった。面白いミニゲームなので上記関連書籍もおススメです。

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