またまた幕間なんですが、これまではブルゴーニュ全体についての書籍だったので、シャルル・ル・テメレールについての本もということで読んでみたのが『Charles the Bold』。筆者のRichard Vaughanは中世後期が専門の歴史家で、ヴァロア・ブルゴーニュ家について知りたかったらこの人の著作はまず読んどけ、という感じらしい。Vaughanはシャルル・ル・テメレールだけでなくヴァロア家のブルゴーニュ公4人ついてそれぞれ本を出してます。以前読んだ『L'Etat bourguignon』でも前書きのところでおすすめしていたな。でも、なぜかフランス語に訳されていないって書いてあったけど、なんでなんでしょうね。『Burgund』でも触れられていて、1970年代になってブルゴーニュの歴史を政治的文脈から離れて新しい資料の発見によって研究する流れが出てきたそうで、Vaughanは統治に関する文書を特に活用したって紹介していました。ちなみにVaughanは鳥類学者でもあるそうです。どういう経歴なんだ。まあとにかく、Vaughanはそれまでのシャルル・ル・テメレールのイメージを変え、より正確な形で描写しようとしたようです。猪突公とかとも訳されるLe Téméraireという呼び名にはネガティブなニュアンスがあるようだということは以前触れましたが、Vaughanはシャルルがseems to have been by no means over-ambitious, still less rash, conquerorとか、by no means rash in the sense of reckless, in spite of his nineteenth-century French nickname Téméraire: he was much too sensible or cautiousということを所々で書いて、シャルルはそんな無鉄砲じゃないよって伝えたいみたいですね。
この本は1467年にシャルルの父であるブルゴーニュ公フィリップ・ル・ボンが死去したときから始まっていて、1477年のナンシーの戦いでシャルルが亡くなるまでを描いているんだけど、本文がペーパーバック版で430ページほどあるので結構いい勉強になりました。
軍事的なことを結構書いているのが結構嬉しかったりします。おかげであの辺の地理も少しはわかるようになりました。シャルルがかかわった戦いとしてはLa guerre du Bien public(一般的になんて訳されてんの?公益同盟戦争?)とブルゴーニュ戦争が昔VaeVictis誌でゲームになっていて、両方ともL'or et l'acierシリーズですなんですけど、手に入んないだろうなあ。
ブルゴーニュ軍での傭兵についても書かれていて、イタリアの兵に特にシャルルは頼っていたそう。イタリア兵はブルゴーニュ軍で占める比率が次第に高まったそうで、1472年の夏の対仏戦役でシャルルの軍にイタリア兵が実質的いなかった状態が終わり、Grandsonを含む1476年の対スイス戦役ではブルゴーニュ軍はイタリア兵が主力を占め、少なくとも指揮官レベルではそうだったということを書いています。そういえばシャルルから約150年後の30年戦争でも、ブルゴーニュ公国にあたる地域がスペイン回廊Spanische Straßeと呼ばれてイタリアからスペイン領ネーデルラントへの兵の供給路となっていたんじゃなかったかなあ。でもあの時はイタリア兵じゃなくてスペインからの兵でしたっけ。あと、ブルゴーニュ軍ではイタリア兵に次いでイングランドの兵が重用されたそうですね。
Grandsonの戦いもこの本では数ページを割いて記述しています。この戦いのほんの3か月前、1475年12月はperhaps marks the high peak of Charles the Bold's political fortunes; the zenith of Burgundian power in Europa.なんてなことも書いていて、ほかの本でLa défaite inattendueとかeine überraschende Niederlageとか、Grandsonが思いがけない敗北って描写されていたのもよくわかりました。あと、AARを書いているゲームでユニット化されているScharnachtalやChâteau-Guyon、Campobassoといった名前もこの本で出てきて、ちょっと嬉しい。
相変わらず知らないことだらけで勉強になりまくりだったんですけど、シャルル・ル・テメレールに興味があるんだったらかなりためになる本じゃないですかね。シャルルが活躍するであろうVaeVictisの「Les Guerres de Bourgogne 1474-1477」や「La Guerre du Bien Public 1465」を何とか手に入れてプレイしてみたいって思いましたよ。
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