2025年5月24日土曜日

30ドルしなかった古文書が数百万ドルに?! ー 『マグナ・カルタ』

  約80年前に$27.50で購入された古文書が、マグナ・カルタの原本だと研究者によって認められたっていうニュースが最近ありまして。ずーっとハーバード大学の図書館で死蔵されていたんですけど、イギリスの中世史の教授が電子化された画像を見て、調査を始め一年を費やしたそうです。いまじゃ数百万ドルの価値だとのこと。すげー。実際、2007年にニューヨークのオークションでマグナ・カルタの1297年の原本が2,100万ドルで落札されたそうです。

Cut-price Magna Carta 'copy' now believed genuine


マグナ・カルタと言ったら高校の世界史でも習うぐらいメジャーですよね。1215年、ジョン王の時代に制定されて、国王の権限を制限した歴史的な文書。今回見つかったのは1300年のものの原本で、あれ、どういうこと、1215年制定じゃないの? と思うかもしれませんが、上の記事にもあるように1215年から1300年にかけて何度か作成されていて、おそらく200の原本が作られただろうとのこと。

 せっかくなんでもうちょっとマグナ・カルタについて知っておきたい、と思って、Dan Jonesの『Magna Carta』を読み返してみました。だいぶ前に読んだんで結構内容を忘れているし。


 憲法史に残る文書だもんね、わくわく、と思っていたら、いきなり冒頭で、For the most part, Magna Carta is dry, technical, difficult to decipher and constitutionally obsolete.なんて書いてあるんですよね。まあ法に関する文書ってそういうもんでしょ、と気を取り直して読み進めると、すぐあとにThose parts that are still frequently quoted ... did not mean in 1215 what we often wish they would mean today.なんて言っているんですよね。がっくり。Magna Carta ought to be dead, defunct and only of interest to serious scholoars of the thirteenth century.とまで書かれていて、もう読むのやめようかと思いましたよ。

 でもそんなことが述べられたすぐ後に、Yet it is very much alive ... written into the consitutions of numerous countries, and admired as a foundation stone in the Western tradition od liberty, democracy and the rule of law.って続いていて、なんでそうなったのか、これは読まないとって思っちゃいますよね。筆者Dan Jonesの語り口にまんまんとはめられてしまいました。

 この本はマグナ・カルタ誕生の背景や経緯、制定後のゴタゴタを描写していて、加えて今日までの影響まで触れています。ジョン王の前と言ったらリチャード獅子心王ですが、Richard probably spent the least time - and took the least personal interest - in his English kingdom.なんて書かれていて、そりゃイングランドの貴族が王様に不満を持つわけだよ。ジョン王と甥のブルターニュ公アーサー(アルテュール)の確執にも少し触れられていて、『ブルターニュ花嫁異聞』を読んでおいてよかったと思いましたよ。

 本の半分近くを、マグナ・カルタの原文と英訳とかのAppendixが占めていて、本文は百ページちょいなので読みやすかったです。ジョン王については、ダメダメな王様というイメージしかなかったんですが、ジョンはジョンなりにいろいろやろうとしたということがわかって勉強になりました。第一次バロン戦争のゲームは持っていないけど、「Norman Conquests」のLewesとEveshamが第二次の戦いなんで、どっちかやってみようかな。

2025年5月18日日曜日

旧東ドイツ小史『小さな国、大きな壁』

  ベルリンの壁、と言ったら「ソ連」と同じく過去の遺物というかもう歴史として習うようなものになっているかと思いますが、Twitterでフォローさせていただいているケンケンさんがベルリンの壁を訪れられていていました。

そういや旧東ドイツについて書かれた本を持っていたはず、と本棚の奥からサルベージして読み返してみました。

 この本、『Kleines Land, große Mauer』はベルリンの壁崩壊から20年後に出ているんですけど、Für alle, die die DDR nur aus dem Geschichtsbuch kennen(ドイツ民主共和国を歴史の本でしか知らないすべての人に)なんて副題的なものがついています。実際、若いドイツ人の知り合いが、自分のように東西分裂時代を知らない世代こそこういう本を読むべきなんだって言ってました。まあ自分は旧東ドイツについて簡単な本がないかなって思って買っただけなんですけどね。


 旧東ドイツ、ドイツ民主共和国の成立から崩壊までの経緯や教育や経済など様々な分野についてわかりやすく書かれているだけでなく、文体も固くなくて自分にはありがたかったです。それはさておき、ベルリンの壁を越えようとして射殺された最後の犠牲者、Chris Gueffroyについても2ページを割かれていました。東ベルリンでウェイターをしていたChrisは、壁を越えようとしても撃たれることはない、という噂を信じて西側に行こうとしたそうです。Er war 20 Jahre alt, er wollte in den Westen. Mehr nicht.(彼は20歳で、西側に行きたかった、それだけなんだ。)という言葉でこの章が結ばれていますが、Chrisが撃たれた年、筆者は21歳で、まさに同年代です。壁の向こう側に行きたいという若者の気持ちはよくよくわかっていたでしょう。Mehr nicht.という簡潔な言葉に深い怒りを感じてしまいました。しかもこれは1989年2月のことで、9カ月後の11月にはベルリンの壁が崩壊し自由に西側に行けるようになるんです。「1989年2月には、誰もそんなことは予想できなかった。ほとんどの人は、国境が永遠に存在すると信じていた」と筆者は述べています。

 ベルリンの壁についても一章が割かれているんですが、壁の警備について同国人を撃った兵はどんな人間だったのかと疑問を呈していますね。徴兵制があって、運が悪ければ国境警備に就き、国から出ようとする人が警告しても止まらなかった時は撃たないといけなかった。そういう命令だったんだと書いています。でもその一方で、国境警備に付きたくないとはっきりと表明した兵はそのような地帯には送られなかったとも指摘しています。指揮官たちは信用できない兵士を非常に恐れたのだ、と。さらには、正確に狙って撃つ必要はなかった、「たまたま」外しても罰せられなかったのだから、と、西側に行こうとした人々を撃った兵たちを非難してます。筆者自身、徴兵で一年半、東ドイツで兵役に就いて実情を知っていただけに、許せない気持ちがあったんじゃないでしょうか。

 とはいえ旧東ドイツについて批判的なことばかり書いているわけではありません。冒頭に、旧東ドイツでは素晴らしい生活を送ったんだ、幸せな子供時代、それにいい思春期を過ごした、って言ってますし。


 久しぶりに読み返してみたんですが、また旧東ドイツに興味が出てきました。再統一から35年以上たってもドイツ国内の東西の違いはいまだに問題になっているようで、去年もこんな本が結構売れたみたいですし。なんか読みやすそうなのを探してみようかな。

2025年5月17日土曜日

城活にこの一冊(その2) — 今回は中世ドイツ、『騎士の城』

 前回紹介した『Castle』は中世イギリスの城についての本(ちなみに上の写真はイギリスのお城)だったので、別の地域はどうなのかな、と思ってドイツのを探してみました。だってね、中世のお城って言ったらノイシュバンシュタイン城とか、ドイツのイメージ、ありません? (しかし自分、いつもノイシュヴァインシュタインって言ってしまうんですよね。白鳥ではなく豚と言ってしまうところに己の俗物ぶりを感じて悲しい…)

 


 この本、『Ritterburgen』は「現代においてもっとも有名な城は20世紀から21世紀の変わり目に建てられた」なんて文章から第一章が始まっているんですが、え、どういうこと、と思っていたら、ハリポタのホグワーツのことを言っていました。高い壁と塔、そこには多くの出窓や胸壁があり、暗い廊下、秘密の通路、陰鬱な地下倉庫といった、中世の城によくあると思われているものがふんだんに盛り込まれているそうです。それだけでなく、「ちゃんとした」城と同様に、ホグワーツは最終的には攻囲され、強襲され部分的に破壊される。そして良い人々が城に立てこもって勇敢に悪の勢力の攻撃を防ぐ…といった典型的な中世のイメージを投影しているとか。

 でもこういったイメージは中世の実情を必ずしも忠実に反映しているわけではないそうです。この本の最後に、結びに代えて「城に関するもっともひどい12の誤解」なんてのも挙げられてますが、そうか、映画とかで流布している中世のイメージで考えちゃいけないんだと思いながら読みました。でもよく考えたら自分、あんまり具体的な中世の城のイメージって持ってなかったわ…。


 いろいろと面白い事例が載っていたんですが、必ずしも防御に有利な地形に城は築かれたわけではない、というのが結構意外。重要な交通路を抑えるために、より高い地点から攻撃されるような場所に城を築いたりとか。

 それと前回紹介した『Castle』でも、城は防御能力を必ずしも最重要視しているわけではないといった指摘がありましたが、実際の矢狭間を使った実験とかを挙げて、シンボル的な要素が城にとっては非常に重要だったと述べています。支配者の権力、地位を周囲にみせるために、低地から高地に城が築かれるようになったそうで、「垂直のシフト Vertikalverschiebung」なんて言葉もあるとか。

 あと、城を築くためにひつようなモルタル製造のために、大量の薪が必要だったとか、水も大量に消費しないといけなかったとか、具体的な数字を挙げています。城づくりで、建築材として木が伐採されるのは想像がつきましたが、石造りなだけにモルタルが必要で、そのためにすんごく火を炊かないといけないなんて知りませんでした。


 『Ritterburgen』では『Castle』同様、城とは何ぞや、ということについて冒頭で論じています。ややこしいのが、ドイツ語で城っていうとBurgのほかにSchlossっていう単語もあるんですよね。で、本の初っ端に「いつBurgはSchlossになったのか?」なんて書いてあります。SchlossはBurgの同義語として14世紀から使われ、19世紀になって、その歴史に反して、Schlossは城塞化されていないBurgの後継の建築物とみなされるようになった、そうです。うーん、ややこしい。Burgという単語に関しては他にも序文で「Ritterburgen」というタイトルに関して、もっと学問的に正確なAdelsburgやFeudalburgといった言葉はあるけれども一般にはまだ広まっていないので、この本の内容が簡単にわかるように「Ritterburgen」という言葉をタイトルに選んだって断っています。こういう細かい言葉のニュアンスや意味は自分はわからないんですが、bergやstein、fels、egg、eck、hausといった語尾がついている地名は城があった場所であることが多いっていうのはお役立ち知識かなと思いました。

 まあそれはそれとして、城(Burg)って何なのかってのを定義しようとしているんですが、中世を通じて城は変化し続けてきたので、城を定義すること自体が非常に難しいそうです。そりゃそうだ。それと言葉と言えば、中世を通じての城の変遷について一章設けて説明してくれているんですけど、知らん単語ばっかりで勉強になりましたよ。 


 ドイツで出版された本だけあって主にドイツの城の事例がふんだんに紹介してあります。もちろん他の地域のことにも触れられていて、例えばフランスで、中世の技術と材料を使って城を建てるというプロジェクトがあるんですが、その城Guédelonについてもいろいろと述べられていました。マーケティング的に非常に成功しているみたいで、一年のうち半年ちょいしかオープンしていないのに年間30万人が訪れるって、人気あるんですなー。それと再現と言えば、motte、ノルマン人が始めた土を盛り上げた城ですが、その再現が近年は博物館の屋外でなされるようになってきているとか。2010年にはこんなイベントもあったそうです。

Aufruhr 1215!

 この本、Bauwerk, Herrschaft, Kultur(建築、支配、文化)って副題みたいなのがついているんですけど、素人目には中世の城についてたいていのテーマはカバーしているように感じました。ちょうど新書ぐらいの手軽な分量で読みやすし。どこかの出版社が翻訳を出さないかなー。



2025年5月10日土曜日

城活にこの一冊 — ただし中世イギリスの

 城巡りって人気がありますよね。自分は城について詳しくなくて、虎口とか曲輪とか言われてもあんまりピンとこなくて、まあ有名な城は一応見ておいた方がいいかな、という感じでたまに行ったりしています。


 そんな感じであるお城に行ったんですけど、そこの売店で見つけたのがこの本。『Castle』ってそのまんまのタイトルだなと思いながらパラパラめくってみると、結構読みやすくて思わず買ってしまいました。

 筆者は子供のころから城が好きで、行くたびに甲冑をまとった騎士たちや、攻城戦の様子を想像してわくわくしてたとのこと。城は荒れたままであろうと修復されたものであろうと、magical placesだったそうです。でも、多くの砲が残されているのに王が食事をする場所がない城や、逆に豪華な寝室があるのに兵たちの寝る場所がないものがあったりして、城とは何ぞや、と疑問に思うようになったとのこと。

 城研究の古典的な本には、城とはbasically a fortified residence, or a residential fortressだって書かれているそうなんですが、筆者もだからこそ城にみんな惹かれるんだ、って言っています。how can a building be warlike and homely at the same time?と。ただ近年ではこの城の定義は疑問視され始めているそうで、見た目は城っぽいのに防御力にほとんど注意が払われていないものは城に含まれなくなってしまうからだそうです。建てられた当時、人々が城と呼んでいたのに、21世紀の我々の方がよくわかっているから城に含めないとするのは、非常に傲慢なことであろうと筆者は書いています。

 この本は"A History of the Buildings that Shaped Medieval Britain"っていう副題のとおり、11世紀のノルマン・コンクエストからイギリスの城について書かれているのですが、上記のとおり軍事面以外の城の機能というか役割についても結構言及しています。特に面白かったのは14世紀にたてられたBodiamという城についての章。この城、見た目は中世の城って感じがするんですよね。

Bodiam城の外観

写真を見ると、自分だったらこんな城攻めたくないなあと思ってしまいます。筆者曰く、すべての角には塔がたっているし、城壁のうえは胸壁になっているし、堀もある。城の見た目の特徴項目リストを作ったら、Bodiamはほぼすべての項目を満たすだろうとのこと。

 でも、あまりにも弱点が多くて、しかも外から見てわかるようになっているそうです。南面と東面には大きな窓があり、他の小さな窓も矢狭間になっていない。そもそも矢狭間がこの城にはない。城壁も薄く、堀の水もすぐに抜けるようになっている…と、これでもかというぐらい防御の弱い点が挙げられています。

 じゃあなんでこんな城が建てられたのか。14世紀の当時、イギリスは百年戦争の真っ最中ですが、そのころの社会状況と絡めて筆者は説明してくれていて、ふんふんと合点がいきました。


 こんなふうに書くとこの本では軍事的なことがあんまり説明されていないと思われるかも知れませんがそんなことはなくて、いろいろと勉強になりました。machicolationとかportcullisとかいった単語、知らんかったよ…。エドワード一世が建てたCaernafon城ではクロスボウの狭間がどうなっているか図解で説明してあったり。もちろん城の防御だけでなくて、trebuchetなど攻城兵器についても触れられていました。

 でも自分が面白いなと思ったのは、この本全体の傾向として個々の軍事技術というよりは当時の社会状況と絡めて城を説明している点。なぜmotteはフランスで11世紀に建てられるようになったのか、といった考察とか、薔薇戦争のときの城の状況とか。スコットランドについても、It would be wrong ... to suppose that just because Scotland has a lot of castles, it was a place where violence was an everyday occurence.なんて指摘は新鮮でした。だって中世のスコットランドって北斗の拳状態だったっていうイメージしかなくて…。

 17世紀の内戦、いわゆる清教徒革命のときまでこの本はカバーしているんですが、Pontefract城のエピソードが面白かったです。議会派は数ヶ月包囲したものの強襲では落とせず、兵糧切れになってやっと王党派の守備隊が降伏したという堅固な城塞だそうです。王党派は奪還を目論んで、夜、密かに自分たちの兵を城に入れるように議会派の守備隊の隊長を説得したとのこと。でもその隊長、酔っぱらってしまって別の夜警が立つことになり、王党派の兵は急いで退却します。このことを聞いた議会派政府は城の守備隊を増やすことに。これで防御完璧、となったはずが、兵が増えたせいで寝場所が足りなくなり、追加のベッドを城に運び入れることになりました。王党派の兵はベッドの運搬業者に変装して城に入り込み、まんまと城を奪還……ギャグですかって言いたくなる展開ですよね。

 

 城に関する知識がないまま読んだんですが、自分にはちょうどいい感じの内容で、最後まで一気に読めました。ペーパーバックで270ページほどしかないですし。それとこの本の最後には、現在では多くの城の修復が進んでいて、It only requires us to visit them and use our imaginations, and their restoration is complete.なんて書かれています。イギリスの城にかぎらず日本の城でもこれからは想像力を働かせようと思いました。でもその前に基本的な知識をもっと知っとかないと。とほほ。


Battle of Wada (Bushi Life #5) AAR part5

-Turn 7  The Wada restored their forces to full readiness. While the Bakufu had conducted a successful volley in the previous turn, it was t...