2025年8月28日木曜日

『東方に火をつけろ』

  先日読んだアントニー・ビーヴァ―のロシア内戦の本が面白かったので、もっとないかなと思って探してみると、『Setting the East Ablaze: Lenin's Dream of an Empire in Asia』っていう本があったので読んでみました。キンドルで600円もしなくて財布に優しかったしね。『東方に火をつけろ: レーニンの野望と大英帝国』という和訳も出ているみたいです。ちなみに東方って聞くと中国やらバイカル湖あたりやら極東やらをイメージしてしまうんですが、ヨーロッパから見た東のことのようで、この本では中央アジアやインドのことも描かれています。というか本の前半はほとんど中央アジアの話。東方って言っても霊夢や魔理沙は出てこないからね。筆者は『ザ・グレート・ゲーム』『チベットの潜入者たち』を書いたピーター・ホップカークで、期待にたがわず無茶苦茶面白かったです。

ロシア革命でボルシェビキが政権を奪って間もない1918年2月、イギリスは混乱状態の中央アジア情勢を探るためスパイを派遣することを決定。そうして中国西部のカシュガルから天山山脈を越えて旧ロシア領に入ったFrederick Bailey中佐の、冒険行といっていい活躍がこの本の前半の主要部を占めます。ボルシェビキの新政府に対するイギリスの平和的な外交使節の体を装うんですけど、国境を越えてすぐ、イギリス軍が中央アジアに侵攻してくるという噂が流れていることを知って前途多難さが予想されます。英露関係が悪化して潜伏せざるを得なくなった後はもう大変で、

One night a commissar from another town stayed the night in the house where he (Baileyのことです) was sheltering. His boasts about what he did to counter-revolutionaries he caught, and how he could always spot them, made Bailey feel somewhat uncomfortable as they shared a bowl of soup together, and later slept on the floor under the same quilt.

とか、

Once, by ill-chance, he (これもBaileyのことです) found himself at the barber’s shop occupying the next chair to one of the Cheka officers who had arrested him the previous year.

とか、映画か小説ですかって言いたくなるようなことが起きたりします。しかも中央アジアからイギリス勢力圏に脱出するときは、チェーカーの密偵になるんですよ。"Bailey Joins the Soviet Secret Service"なんて章タイトルが出てきて、え、どういうこと? って思ったんですけど、自分を追っている秘密警察のスパイになるなんてホント訳が分からんです。


 こういった派手というかかっこいい行動に目を引かれてしまうんですが、この当時もイギリスの諜報網はすごかったらしく、ある将軍は後にこんな風に述べているそうです。マジかよ。

I had agents up to a distance of a thousand miles or more, even in the government offices of the Bolsheviks. I had relays of men constantly coming and going in areas which I deemed important. There was hardly a train on the Central Asian railway which had not one of our agents on board, and there was no important railway centre which had not two or three men on the spot.


 ところでWWIでロシア軍の捕虜になっていたドイツ兵やオーストリア兵が中央アジアにもいて、一部はボルシェビキ側に参加したみたいで、彼らの支援なしにはボルシェビキは重要拠点を失っていただろうなんてことが書かれています。中には現地の女性と結婚して定住しようとした捕虜もいたそうですが、ある結婚式では、花婿にはオーストリアに奥さんがいるんだって暴露された、なんてエピソードも載っていました。そりゃいかんだろ。それと、まだ潜伏前の英将校として行動していたBaileyに対してthey would good-humouredly strike up with It’s a Long Way to Tipperary.なんてあるんですけど、あの曲、映画「Uボート」で艦内でかけられるシーンがありましたが、イギリス以外でも人気だったんですかね。


 ところどころ自分は笑いそうになった部分があったんですが、まだBaileyが潜伏する前、平和的な英使節としてふるまっていたころ、ペルシアから派遣された英軍とボルシェビキ軍との間で武力衝突があり、ボルシェビキ軍が敗走するという事態が起こります。For the first time in the history of Anglo-Russian rivalry in Asia, British and Russian troops had fired on one another in anger.なんて書かれているんですけど、Baileyにとってはかなりまずい状況で、コミッサールがBaileyに説明を求めるんですね。Baileyは、英軍が武力衝突に関与してたって証拠は何があるんだって反論するんですけど、

The Russian’s reply, to quote Bailey, was both ‘simple and flattering’. The artillery fire, he told the Englishman, had been far too accurate to be Russian.

自虐ギャグかって思いましたよ。


 中央アジアでの冒険行だけでなく、英ソ両政府間の駆け引きなんかも少し描写されているですが、この本の後半は舞台が中国に移り、コミンテルンの活動も描写されています。本のタイトルどおりなんですけど、For thirty years the East had stubbornly refused to ignite to the Bolshevik torch. Somehow, somewhere, it had all gone wrong. The Comintern’s shadowy operations in Asia, just as in Europe, had largely been a waste of money and effort. Moscow’s one permanent gain had been Mongolia.なんてまとめられていますね。

 しかしアントニー・ビーヴァ―の『Russia: Revolution and Civil War 1917-1921』もそうでしたけど、本全体を通じて残虐行為が出てくるたびに気持ちがずーんと重くなりました。liquidateって言葉を見るの、嫌になりましたよ…。


 と、前半と後半でちょっと雰囲気が違うように感じられたこの本ですが、どちらのパートも読む手が止まりませんでした。約40年前、まだ冷戦のころに出たの古い本なので、旧ソ連側の資料へのアクセスはかなり制限されていたかと思うんですが、読み物としてはハラハラドキドキで非常に面白かったです

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