2023年9月23日土曜日

「アウエルシュタットの戦いは、どの場所で始まったのか?」に便乗して

 DSSSMさんがブログに書かれていたんですがアウエルシュタットの戦いがどこで始まったかについて、資料によってはHassenhausenのほかに、Poppelという記述があるそうです。いやーしかし、いろんな資料に当たられてすごいなー。

このDSSSMさんのブログを受けて、Bernadotte66さんが『Campagne de Prusse, 1806』というフランス語の資料はHassenhausen説をとっていると紹介されていました。
アウエルシュタットの戦い開始位置

自分もちょっと興味をひかれて調べてみました。ただ前もって断っておくと、私はナポレオニックは全然知りません。すみません。

で、見つけたのが、ご当地Hassenhausen博物館のサイト。
http://museum-hassenhausen.de

Auerstedtにプロイセン軍の司令部が置かれていて、Hassenhausenで戦いが行われた

と書かれていますね。
(原文は
In Auerstedt war das königlich- preußische Hauptquartier, Hassenhausen war der Ort, an dem die größere der beiden Schlachten ausgetragen wurd
ここのdie größere der beiden Schlachtenでアウエルシュタットの戦いを指しているようですが、イエナよりアウエルシュタットの戦いのほうが大きかったんですかね??)

ちなみに、Bernadotte66さんが紹介していた『Campagne de Prusse, 1806』では

王自らがそこ(ブリュッヒャー率いる前衛部隊)にいて、先頭に立って行進した。
Le Roi y était en personne et marchait à la tete.

なんてことが書かれてあって、両軍が遭遇した際にプロイセン王が陣頭に立っていたみたいに読めるんですけど、そんなことってあるんですかね。
戦いから約80年後の1887年に出された本のようですけど、当時はそういう説が有力だったのかな。
ちなみにこちらで全ページ公開されています。
https://archive.org/details/campagnedepruss01foucgoog/pag...

あと、Poppel説のほうもちょっと調べてみたところ、

普軍の先頭に立っていた竜騎兵がPoppel村とTaugwitz村の近くで仏騎兵の小部隊に遭遇し撃退した。

という趣旨の記述を見つけました。
http://preussenweb.de/jena.htm

プロイセンの歴史好きの方がやっている(いた)らしいサイトで、結構詳しく調べている印象ですが、残念ながら参照元の文献などが明記されていないです。でもRegiment Königin-Dragoner(女王竜騎兵連隊)なんてのがあるんですね。知らなかった。

ちなみに、イエナ・アウエルシュタットの戦いの博物館Museum 1806なんてのも見つけました。
https://www.stadtmuseum-jena.de/de/822701
5年ごとにイエナの戦いを再現しているようですね。気合入ってるなー。軍装とかぜんぜんわからないんですけど。

2023年9月15日金曜日

「Plantagenet」(GMT)をやるなら薔薇戦争のこの2冊(その1)

  Levy & Campaignシリーズの新作「Plantagenet」(GMT)が出ましたね。今回は薔薇戦争。薔薇戦争と言えば、Dan Jonesの『The Hollow Crown』の和訳、出ないですかね、薔薇戦争の本って日本語だとあんまりないし、とつぶやいていたら、「Plantagenet」のデザイナーFrancisco Gradaille氏が『Battle Royal』と『Blood Royal』という本をおススメしてくれました。


デザイナーさんご本人から推薦図書を教えてもらえるなんてラッキー、と思っていたら、この2冊、「Plantagenet」のBackground Bookで参考資料として真っ先に挙げてあるんですよね。でも教えてもらえたのはうれしいです。

 ということでさっそく読んでみました。この2冊、セットになっていて、『Battle Royal』は薔薇戦争の前半を、『Blood Royal』は後半をカバーしています。今回紹介するのは『Battle Royal』のほうなんですけど、薔薇戦争って言ったら一般的には1455年の第一次セント・オールバンズの戦いから始まると考えられているようですが、日本語ででている『薔薇戦争』や『薔薇戦争新史』、それに先述した『The Hollow Crown』と同様、『Battle Royal』もそれよりもっと前から書き起こしています。

 薔薇戦争っていろんな貴族が出てきて、それがまたややこしいんですよね。しかも爵位で呼ばれたりするから、これどのサマセットだよ、となったりして。SalisburyがキングメーカーWarwickの父親だってつい忘れそうになるし。まあ、自分の知識不足のなせる業ですが。しかも親子で同じ名前だったりするのがさらにややこしい。でもこの本ではランカスター家やヨーク家だけでなく、ボーフォートやネヴィルと言った家系についても説明してくれていて、なんとなく人間関係がわかるようになってきました。

 でもまあ、やっぱり興味があるのはもっと軍事的な面なので、読んでいて第一次セント・オールバンズ戦以降のほうが面白かったです。重要な戦いは戦況図付きで説明してくれているうえ、戦場までのアプローチがわかる道路網の図も載せてあって、両軍の機動がわかりやすくなっていました。薔薇戦争の最大の戦いともいわれるタウトンの戦いなんか、金属探知機を使って10年以上かけて戦場を調べた人がいるらしくて、金属反応が多いところがおそらく激戦だっただろうということがわかる図まで載せていました。こういう地道な調査はありがたいですよね。それに『Battle Royal』は2015年に出ているんですが、こういう最近の知見も入っているのが嬉しいです。

 それと、the English were renowned for their ferocity and were not temperamentally suited to positional warfare, which may explain why castle played such a peripheral role in the conflict.なんて書いてあって、そういや薔薇戦争で攻城戦って聞かないな、やっぱ中世のイングランド人って血の気が多いのかなってなんか納得しました。

 騎行(chevachée)と身代金という二つの戦費調達手段が薔薇戦争では封じられていたという指摘も、ちょっと新鮮でした。少し考えれば当然だとわかることですけどね、ははは。だって内戦で騎行のようなぺんぺん草も生えないような略奪は行えないし、薔薇戦争で貴族が殺されまくったというのは有名ですしね。

 あと、薔薇戦争の主要登場人物の一人、ヘンリー六世王妃マーガレットについて結構書かれていたのも勉強になりました。フランスから嫁いできたってのは知っていたけど、頼りないヘンリー六世に代わってランカスター派を切り盛りした、ぐらいのイメージしかなくて、仏王シャルル七世の姪だったとか、どこかで読んだことがあったかもしれないんですけどすっかり忘れていましたよ。マーガレットの母親のイザベル・ド・ロレーヌも女傑だったようで、マーガレットはgrew up witnessing how strong women could make something of weak menなんて書かれていました。


 というわけで薔薇戦争についてもっと知りたい、という人にはいいんじゃないでしょうか。でも「Plantagenet」(GMT)をやるなら、とか偉そうにタイトルに掲げておきながら、自分はまだ買っていないんですよね。すみません。地道に計画的な部隊運用を要求されるゲームって、なんか気後れしてしまって。テーマ的にはドンピシャなんですけどね。今のところAARを見て楽しんでいます。

2023年9月1日金曜日

「Land and Freedom」関連書籍その4 ジョージ・オーウェル『カタロニア賛歌』

 スペイン内戦を描いたゲーム「Land and Freedom」ではジョージ・オーウェルもカードになっているんですよね。

なので、オーウェルの著書『カタロニア賛歌』を読んでみました。オーウェルは義勇兵としてスペイン内戦に参加しているんだけど、POUMの民兵として戦っているんですよ。あのPOUMですよ。映画「Land and Freedom」を見た人だったら熱くなるんじゃないでしょうか。

 でもオーウェルの作品は『1984年』と『パリ・ロンドンどん底生活』しか読んだことがなくて、前者はまあ読んでおいたほうがいいかなぐらいの気持ちで手に取ったんだけど、個人的にはうーん、あんまりはまりませんでした。でも『パリ・ロンドンどん底生活』のほうは、ぐはー、おもしれーとむさぼるように読んでしまい、あまりの印象の違いに同じ筆者が書いたとは思えないぐらい。(まあ、両方とも和訳は読んでいないので、日本語で読むとまた受け止め方が変わるのかもしれませんが…)

 『カタロニア賛歌』はどうだろうな、と思って読み始めてみたら、いやこれまた面白かったです。前線での生活やら市街戦やらでの体験が一人称で書かれているんだけど、淡々とした感じででもリアリティを感じさせるんですよね。敵陣に夜襲をかけているところとか。あと、のどを喉を撃たれるんですけど、しゃべろうとすると口の中に血が泡になって溢れてくるみたいなこと書いていて、いやーよく生きていたなと思います。

 それと、『誰がために鐘は鳴る』を読んでいたときはワインを飲むシーンが結構出てきて自分もワインがほしくなったけど、この本ではそんなことなかったな。というか、物資の欠乏をいろんなところで書いていて、まあそれが現実だったんでしょうな。

 

 オーウェルってスペインでの経験で反共産主義になったらしいってことは知っていたけど、POUMが共産勢力のせいで弾圧されることになるバルセロナでの内紛でも銃をとっているんですよね。ゲーム「Land and Freedom」でも共産主義者が使えるカードとして、バルセロナでの内紛やPOUMの非合法化なんてのがあります。『カタロニア賛歌』を読んだ後だともうこの二つのカード、怒りしか湧いてこない…。


 でもオーウェルの文章は共産主義者を声高に批判する感じはなく、あくまで抑えた筆致の印象。POUMが弾圧されている間も民兵たちは共和国を守るために前線で戦っていて、後方では新聞が自分たちのことをファシストと呼んでいることを知らずに死んでいった兵士が多くいたはずだ、とは述べています。その後にThis kind of thing is a little difficult to forgive.って書いていて、イギリス人がこういう書き方をしているってことは心底憤っているんだろうなと思えて、オーウェルの悔しさがひしひしと伝わってきました。

 こんな感じでスターリン主義者への怒りを抑えて書いていたのかな、と思っていたら、最後にappendixとして2章がついていて、共産主義者たちがいかにPOUMに罪を擦り付けたかをガンガン書いていました。

 あくまで冷静かつ客観的な姿勢は保ちつつ、The accusation of espionage against the POUM rested solely upon articles in the Communist press and the activities of the Communist-controlled secret police.とか述べています。

 この2章はもともとは本文の途中に入っていたんだけど、オーウェル自身の判断でappendixとして最後にもってこられたらしい。内容がかなり政治的で、基本的に自分の体験をつづった他の章とはまったく雰囲気が違うからなあ。でも勉強になりました。共和国側内部での勢力争いについて言及しつつ、でも戦争に負けてしまったら民主主義や革命、社会主義や無政府主義などは無意味な言葉になってしまうと述べていて、これってまさにゲーム「Land and Freedom」じゃないですか。


 ということで、本文とappendixは別作品のような印象を受けますが、逆に一冊で2作読めた感じでお得な気持ちになれました。しかしオーウェル、生き様がかっこいいわー。


マーケット・ガーデン80周年なので読んでみた、『9月に雪なんて降らない』

 1944年9月17日の午後、アルンヘムに駐留していた独国防軍砲兵士官のJoseph Enthammer中尉は晴れわたった空を凝視していた。自分が目にしているものが信じられなかったのだ。 上空には 白い「雪」が漂っているように見えた。「ありえない」とその士官は思った。「9月に雪な...