2025年6月14日土曜日

『ノルマン騎士の地中海興亡史』が復刊! ということで併せて読んでみた、『中世軍事史の研究』

  「書泉と、10冊」っていう企画で入手困難な本が復刊していますね。『鉄腕ゲッツ行状記』やオスプレイの戦史シリーズなどがこれまで出ていますが、げにありがたし。今回、5月末には『ノルマン騎士の地中海興亡史』が出ましたね。

 ヨーロッパ全域で暴れまわったノルマン人、それにビザンツとイスラム、西欧勢力という三つ巴の11~12世紀の地中海世界、この二つが合わさったら面白くないわけがないですよね。それなのに日本語で読める本って言ったらこれ以外にあんまりないので、この本はマストリードですよ。今回復刊にあわせて読み返してみたんですけど、いやー、途中で止まらなくて一気読みでした。

 ノルマン人に関しては『The Norman Commanders』、12世紀の地中海に関しては『La Méditerranée au XIIe Siècle』といった本をブログでこれまで紹介しましたが、今回『ノルマン騎士の地中海興亡史』と併せて読んだのがこれ、『Studi di Storia Militare Medievale』という本。タイトルからは中世軍事史一般について書いているのかなと思えるんですけど、実際は11~13世紀の南イタリアのことがほとんどです。しかも「Fino alle mura di Babilonia. Aspetti militari della conquista normanna del Sud(バビロンの壁まで。南方のノルマン・コンクエストの軍事的側面)」という章があって、この本の4分の1近くを占めています。伊語はあんまり得意じゃないけど、頑張って読みましたよ。だって、向こうの研究者はどんなことを書いているのかなって気になるじゃないですか。

 ノルマン軍に関していろいろ書かれていて勉強になったんですけど、ビザンツ軍との比較が面白かったです。両軍の基本的な違いは、ビザンツ軍は結束と規律を基本としていたが、それは多くの軍事技術書に書かれた理論に基づいて厳しく訓練されたことから生まれていたのに対し、ノルマン軍は獲得物への欲、それに指揮官への忠誠というゲルマンの意識がその強さの基にあったとのこと。たしかにノルマン騎士はどんどん征服していってますからね。ボエモンドとか。それと、ノルマン軍の戦術的な優越を有していたものの、ビザンツ帝国に対しては戦略で劣っていた、という指摘が面白かったです。まあほかにもノルマン騎兵の活用についていくつか会戦の例を挙げていて、「Norman Conquests」に入っているCivitateも何回か触れられていました。


 「中世南伊の軍事史における弓兵とクロスボウ (Arcieri e balestrieri nella storia militare del Mezzogiorno medievale)」という章では、フランドルや北イタリアなどの歩兵のように長槍を装備し密集隊形で戦った歩兵はほとんど見られない、と述べていました。弓兵やクロスボウに比べると、このような歩兵は接敵しないと攻撃できないため重騎兵を支援するには明らかに劣っているという趣旨のことを書いています。たまたまポワティエの戦いについて書かれた本を並行して読んでいて、イングランド軍は有利な地形に布陣したものの衆寡敵せず危うくなるんですけど、そこで黒太子が仏王の部隊を騎兵で襲撃するという賭けに出ます。そのとき、騎兵の攻撃を支援するために長弓兵を使ったっていう描写があって、南伊での話とつながってなんだか嬉しかったです。


 もちろんこの本にはアンナ・コムネナの名前は何度も出てきました。Fino alle mura di Babilonia. (バビロンの壁まで)という章タイトルもアンナからの引用で、「騎乗したケルト(西欧人のこと)はバビロンの壁まで道を切り開いていけるだろう」という言葉からのようです。ちなみに馬に乗っていないノルマン人はそれほど強くなかったようで、乗馬時と下馬時を比較したアンナの言葉も引用されています。


 それと、「イスラム弓兵の歴史(Storia dell'arcieria islamica)」っていう章が4つ入っているんですけど、イスラムの軍隊については漠然としたイメージしかなかったので勉強になりました。イスラムと言えば7世紀にアラビア半島から勃興して東西を征服していくわけですが、もともとアラブには弓騎兵が無かったそうです。トルコ系の民族など中央アジアの勢力との接触から弓騎兵がイスラム勢力に取り入れられていったって言うのを初めて知りました。そういえばMen of Ironシリーズの「Infidel」は十字軍とイスラム勢力の戦いが収録されていて、セルジュークなどは弓騎兵が主力なんですが、Ascalonのシナリオではアイユーブ朝の軍には弓騎兵が無かったというのを思い出しました。アイユーブ朝は弓騎兵を持っていなかったってたしかシナリオブックに書いてあったけど、あの王朝は北アフリカのチュニジアからアルジェリアにかけての地域から起こった勢力だもんね。弓兵と言ったら歩兵だったのも納得です。


 ウォーゲームの中でもマイナーな中世にあっても南伊はさらにマイナーだと思いますが、ロベール・ギスカールとかノルマンの冒険野郎のことを知るとほんと面白いですし、アンナ・コムネナが生きた時代・地域に大きくかかわっているので、漫画『アンナ・コムネナ』にはまった人は読んでみてもいいんじゃないでしょうか。どこかが新書で和訳を出してくれないかな。






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