ナポレオニックってウォーゲームでは人気分野の一つだと思うんですけど、自分の知識って雑誌記事からのものばかりで、ちゃんと一冊読まないとな、と思って選んだのがこれ、"Russia Against Napoleon"。筆者のDominic Lievenはロシア史が専門のケンブリッジ大学教授だし、出版されたのは2010年なので比較的最近の研究結果も反映されているかなって思ったんですよね。Kindle版だと安いし。
でも冒頭で、これまで西欧においていかにナポレオン戦争におけるロシア軍の役割が研究されてこなかったのかということを力説しています。え、もしかして一般的に流布しているナポレオン戦争のイメージとは違う本を選んじゃった?ってちょっと焦りましたよ。
筆者によるとNo Western professor has ever written a book on the Russian war effort against Napoleon.だそうですし、the Russian side of the story is ignored or misinterpreted, with historians largely seeing Russia through the prism of French- or German-language sources.だそうです。まあ確かにね、フランス軍かっこいいし、イギリス軍はなんつったってワーテルローでナポレオンを破っているし、プロイセンは参謀本部とか創設したりしてるもんね。それ比べるとロシア軍ってなんか地味っていう印象。実際、Studies of the 1812 campaign in English mostly concentrate on Napoleon’s mistakes, on the problems created for the French by Russia’s geography and climate, and on the horror but also the heroism in evidence in Napoleon’s army during the retreat from Moscow.だそうです。
でも、
Napoleon destroyed his army in 1812 in large part because of logistical failures. By contrast, one of the key triumphs of the Russian war effort was its success in feeding and supplying more than half a million troops outside Russia’s borders in 1813–14.
とか、
One entirely true reason why Russia defeated Napoleon was that many able young officers were promoted on merit to key positions during the war.
とか、おお、そうなんだと知識不足の自分には目からうろこでした。
大学教授が書いた本だからお堅いかと思うとそんなことなくて、結構個々の戦いの描写も詳しいんですよね。「Against the Odds」誌の最新号はクルムの戦いみたいですが、この本でも結構分量を割いて書かれていました。もちろん、本の冒頭でロジスティクスについて触れられているように、ロシアの兵や糧食の補充体制、とくに自国から遠く離れた前線への輸送体制の整備とかが説明されています。でも個々の士官のエピソードなんかも結構入っていて、この本は結構ページ数があるんですけど最後まで飽きずに読むことができました。1814年のフランス戦役のところでは、連合軍の指揮官が会議のために集まるんですけど
When the time to begin the meeting arrived, apparently Blücher was nowhere to be found and the various dignitaries scattered to track him down. It was Alexander who discovered him, deep in the wine cellars, plucking the best bottles from the racks.
この描写、この流れの中で必要?って突っ込んでしまいました。自分にとっては面白かったんでいいんですけど。あと、アレクサンドル一世を随所でほめています。もちろん野戦指揮官としてではなく戦略家、政略家としてですけど。
ナポレオニック関連の本でロシア中心のものは少ない(よね?)と思いますし、ナポレオニック関連書籍や資料を渉猟されているDSSSMさんもこの本をどこかでお勧めしていた記憶があるので、ナポレオン戦争に興味がある人だったら読んで損はないんじゃないでしょうか。








