1850年代から90年代にかけてのロシア帝国の中央アジア征服をシミュレートしたS&T誌338号の「Russian Boots South」っていうゲームがあるんですけど、Twitterでフォローさせていただいているcou papaさんが先日プレイされていまして。
とりあえず急場を凌ぎましたので、S&T誌338号「Russian Boots South」を始めます。
— cou papa (@pendragon2716) August 27, 2025
今回はグランドキャンペーンをプレイします。特別ルールにより、第1ターンはロシア帝国が主導権を持ちます。
ドロープールに入れるチットですが、ロシア帝国は任意に選択できる一方、汗国側はランダムとなります。 pic.twitter.com/qZCjsJyWNj
おお、これってまさに『ザ・グレート・ゲーム』の時代じゃないか! と、久しぶりに読み返したくなったんですけど、結構いいお値段になっているんですよね。でも『The Great Game: On Secret Service in High Asia』のほうはキンドル版だと200円もしなくて、さっそく買って読んでみました。
いやー、面白かったです。キンドル版だと649ページあるって表示されるんですけど、中だるみすることなく最後までわくわく感が持続しました。筆者は先日読んだ『Setting the East Ablaze』と同じピーター・ホップカーク。読みやすい文章ですし、それに題材が題材ですからね。19世紀から20世紀初頭にかけて、中央アジアへの英露の進出競争を描いているんですが、現地の政治状況を探るために英露双方が諜報員と言ったらいいんですかね、軍人やらいろいろ派遣するので冒険的要素が多分にあります。というかそもそも地理もわかっていない地域も多いわけですよ。砂漠やら急峻な地形に守られて各地で独立を保っている現地勢力がまたやっかいで。そんななか、何カ月もかけて生死の危険にさらされながら未知の土地を踏破していく様子は冒険小説みたいなハラハラ感がありました。それに、中央アジアだけでなくコーカサスやチベットにまで触れられていて、そのスケールの大きさも魅力です。
個人の活動だけでなく、英露両政府の動きも勉強になりました。ロシアは失敗を繰り返しつつも着実に勢力を広げていく一方、イギリスはインド防衛のために対抗して中央アジアに積極的に進出すべきなのか、それとも財政的な負担を考慮してロシアを待ち構えておくにとどまるのか(masterly inactivityなんて表現されてました)の両端で政策が揺れる様子がよくわかりました。あと、征服というか保護国化というか、政治的に支配しようとするだけでなく、自国の商品の市場として英露両国が中央アジアを見ていたことも随所で描写されています。
まあでも自分なんか、ロシアがインドに攻めてくるなんて無理でしょ、なんて思ってしまうんですけど、歴史的に見たらアレキサンダーをはじめ繰り返しアフガン方面からインダスや北部インドは侵攻を受けているので、当時のイギリス側の懸念は結構リアルなものなんだったんでしょうね。本の中でもこんな風に述べられています。
those were the days of supreme imperial confidence, unashamed patriotism and an unswerving belief in the superiority of Christian civilisation over all others. With the benefit of hindsight, modern historians may question whether there was ever any real Russian threat to India, so immense were the obstacles that an invasion force would first have had to overcome. But to Burnes and the Pottingers, Burnaby and Rawlinson (←本書に登場するイギリス人たちです), it seemed real enough and ever present. Indeed, India's history appeared to bear out their fears.
それに今のアフガン、パキスタン、インド、中国の国境が接近しているあたり、要はパミールですけど、あの地帯は地理的には全く分かっていなくて、近代的な軍隊が通行可能かどうかイギリスは慌てて調査したりしています。
あと、ロシアにとって中央アジアって新しく奪い取る土地って感じだと思ってたんですけど、露軍がサマルカンドを落とした時は
To the Russians its fall had a special significance. For it was from here, nearly 500 years earlier, that the great Mongol commander Tamerlane had launched his fateful attack on Muscovy.
なんて書かれていて、攻められたことあったらそりゃ何とかしとかないとって思うよねってちょっと納得。それと、いろんな歴史がつながる楽しさを味わえました。
本書はどっちかというとイギリス側の描写のほうが多い印象ですが、ロシア側の活躍も描かれています。あと、アフガン侵攻の際の英軍についてこんなことが書いてあって、そりゃいかんだろって思うんですけど、当時の将官にとっては普通のことだったんですかね。
One brigadier was said to have had no fewer than sixty camels to transport his own camp gear, while the officers of one regiment had commandeered two camels just to carry their cigars.
さらにアフガンを占領した後は、イギリス高官の夫人がbringing with her crystal chandeliers, vintage wines, expensive gowns and scores of servants.なんてことやっていて、植民地支配する側の傲慢さが表れてるなって思いました。
ただ、英露の動きを描くのがこの本の主題だから仕方ないんですけど、現地の人々の動きももっと知りたいなと思いました。なんていうか、征服されるもしくは利用される側って感じなんですよね。そういえばこんな一文もあって、アジア人としてはムカッとしました。当時の状況を考えたらこういう言葉が出てくるのは仕方ないのかもしれませんが。
'But in Asia,' one Russian general explained, 'the harder you hit them, the longer they remain quiet.'
まあコーカサスでのチェチェン人の抵抗とか現地勢力の動きも描写されているんですけどね。アフガンがイギリスにとってかなりやっかいな地域だってこともよくわかるようになっています。カブールに駐留していた英軍がアフガン軍によって壊滅させられた時には、A mob of mere heathen savages, armed with home-made weapons, had succeeded in routing the greatest power on earth. It was a devastating blow to British pride and prestige.だそうです。しかしこういう歴史があるのに何でソ連はアフガンを攻めちゃったのかな。
それと東トルキスタンのヤクーブ・ベクも出てくるんですけど、陳舜臣の短編集『景徳鎮からの贈り物』を思い出しましたよ。あと最後のほうでこんなことが書かれてました。
As for the Indians themselves, they were neither consulted nor considered in any of this (←英の対露インド防衛政策ですね). Yet, like their Muslim neighbours across the frontier, it was largely their blood which was spilt during the imperial struggle.
初版は1990年と結構前に書かれた本なので、ソ連崩壊後に出てきた資料とかは反映されていないはずですが、読み物としては非常に面白かったです。発泡酒一缶ぐらいの金額で買えるんだから、こりゃゲットするしかないですよ。

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