1944年9月17日の午後、アルンヘムに駐留していた独国防軍砲兵士官のJoseph Enthammer中尉は晴れわたった空を凝視していた。自分が目にしているものが信じられなかったのだ。上空には白い「雪」が漂っているように見えた。「ありえない」とその士官は思った。「9月に雪なんて絶対に降らない!」
とまあ、いきなりある本からの引用で申し訳ないんですが、今年は1944年から80年。ということでノルマンディーやバルジの80周年ですね。そういえばうちにある本でパリの出版社から出されたのがあるんですけど、初版が1944年。え、パリ解放の前?後?と内容よりもそっちが気になってしまいましたよ。
自分は最近あんまりWW2のゲームはやらないんですけど、SNSの知り合いで第二次世界大戦ものなんてスルーするでしょって思ってた方が、80周年だからか「Monty's Gamble:Market Garden」(MMP)をやり込まれていて、それに刺激されて興味が湧いてきたのがマーケット・ガーデン。
マーケット・ガーデンと言ったらまずは映画「遠すぎた橋」が思い浮かびます。印象的なシーンが盛りだくさんなんですが、一番好きなのがこれ。
降伏を勧告されても「Nuts!」みたいな直截な言葉ではなく、イギリス人っぽい返しがなんとも。自分もマーケット・ガーデンのゲームをやるときはあのセリフ、言ってみたいなあ。
「Arnheim auslöschen」(アルンヘムを叩き潰せ)
いやそっちかい! ちなみにアルンヘムは当然ですがドイツ語で「アルンハイム」って言ってますね。
この映画の原作は『遥かなる橋』ってタイトルで和訳も出ていたけど、今は結構なお値段がついていますね。と思っていたら、原著『A Brigde Too Far』がキンドルで数百円で売っていたので買ってみました。結構分量があるので拾い読みしたんですけど、いやー、いいわー。
それはさておき、マーケット・ガーデンの80周年では各地で式典が催されたようですね。例えばこれ。
https://www.cwgc.org/liberation/arnhem/
「Out of ammunition. God save the king.」とか、泣けてくるじゃないですか。ちなみにこの言葉、『A Bridge Too Far』にも出てきます。
80周年の記念グッズ的な物も出されたようです。
https://www.airborneshop.com/clothing/embroidered-clothing/operation-market-garden-80th-para
と気分は盛り上がったんですが、いかんせんマーケット・ガーデンのゲームはコマンドマガジン74号付録の『マーケット・ガーデン作戦』しかやったことがないんですよね。しかもあれはたしか米英の空挺部隊の死闘というよりは、9月から11月にかけての西部戦線を巨視的に扱っていたんじゃなかったかな。で、もっとあの戦いについて知りたいと思って読んでみた本がこれ、『It Never Snows in September』。 タイトルに引かれて買ったんですけど、このブログ冒頭の引用はこの本の裏表紙に書かれていたもの。読みたくなりません? そういえば「It Never Snows」(MMP)というゲームもありますね。
『It Never Snows in September』は「The German View of Market-Garden and the Battle of Arnhem, September 1944」という副題のとおり、ドイツ軍側から見たマーケット・ガーデン。筆者のRobert Kershaw自身、1973年からイギリスの空挺部隊に所属していて湾岸戦争やボスニアにも派遣されています。軍務で西ドイツに駐留していた1980年代後半に、マーケット・ガーデンの戦いに加わったドイツ兵の生存者たちにインタビューしていったそうですが、今じゃもうそんなこと無理ですよね。そういう意味では貴重な本かと。第10SS装甲師団の師団長だったHeinz Harmelは、煙草をくゆらせながら地図を広げて直接あの戦いについて語ってくれたそうです。
フランスからの敗走でボロボロのドイツ軍が連合軍の大規模な空挺作戦と地上攻撃を受け、大急ぎで部隊をかき集めていた様子が如実に描かれています。空軍所属だったのにろくな訓練も受けないまま地上部隊として投入されたり、休暇で2年ぶりに故郷に戻っていた兵士が2時間後にはまた家族から引き離されたり、第一次世界大戦を経験した老兵まで徴集されたり。連合軍が降下した一帯には、フランスで被った大損害から再編成中だった第9SS装甲師団ホーエンシュタウフェンと第10SS装甲師団フルンツベルクが駐留していたのはよく知られていますが、第9SS装甲師団は装備を第10SS装甲師団に渡してドイツ本国に移動するところだったとか。でもまあ、この両師団はノルマンディーの前から敵の空挺降下作戦への対応をずっと訓練していたそうで、少しはドイツ軍に有利な要素があって読んでいてちょっとほっとしました。
基本的にドイツ軍の状況が描かれているのですが、アルンヘムで奮戦した英第一空挺師団のジョン・フロスト中佐は何度か登場していました。このフロストは映画「遠すぎた橋」でアンソニー・ホプキンズが演じていましたね。赤い悪魔の奮戦はよく知られているかと思いますが、ほんと、ドイツ軍がずっと手を焼いているので早く降伏してくれって思ってしまいました。それだけでなく、この本は最初から最後までドイツ軍が苦戦した様子がこれでもかというぐらいずっと描かれていて、読んでいてちょっとしんどくなりました。ティーガーIIが登場したと思ったら、想定よりも効果がなかったなんて書かれているし。個々の兵士の証言や日記などが随所で引用されていて、臨場感があるだけにどれだけドイツ軍にとってこの戦いが厳しいものだったかが伝わってきました。
でも最後の方でちょっとだけ、独軍がマーケット・ガーデンを失敗に終わらせた原因について分析していましたが。敵の空挺降下に対する素早い対応が挙げられていましたね。臨機応変に、使える輸送手段は何でも利用したそうで、薪で走る民間車両や消防車まで使ったとか。
ということで、マーケット・ガーデンのゲームをどれか入手してプレイしたくなりましたよ。プレイするときにはもちろん、「9月に雪なんて絶対に降らない!」と言うと思います。連合軍側だったら、「We'd like to, but we can't accept your surrender. 」って傘を手に持ちながら言いたいなあ。