AARを書いているGrandsonの戦いはブルゴーニュ公率いる軍隊とスイス軍の戦いですが、ブルゴーニュの歴史ってよくわからないんですよね。薔薇戦争とかその他14-15世紀のヨーロッパの本を読んでいると「ブルゴーニュ公国」って言葉がちらほら出てきて、なんじゃらほいとずっとモヤモヤした気がしてたので、概説書を見つけて読んでみました。だってね、領土がフランス王国に含まれているうえに百年戦争中はアルマニャック派と対抗するブルゴーニュ派なんてものが出てきて、フランス王国の一部なのかなとぼんやり思っていたら、イギリスと同盟して仏王に対抗したりしているし。地図を見たら今のオランダ・ベルギーから独仏国境地帯にかけて広がっていて、神聖ローマ帝国も一部入っているし、うーん、よくわからん。
で、見つけた本はタイトルもそのまんまの『L'État bourguignon』。14世紀後半から15世紀後半にかけてブルゴーニュ公となったヴァロア家の時代を扱っています。シャルル・ル・テメレールはヴァロア・ブルゴーニュ家最後の公ですね。この本の裏表紙によると、フィリップ・ル・アルディ(1363-1404)からシャルル・ル・テメレール(1467-1477)まで、ブルゴーニュ公たちは南はブルゴーニュ公領から北はオランダまで広がる領土を支配下に置き、百年戦争、十字軍、そして外交や経済的な争いに加わった、とのこと。
筆者はフランスの大学教授で14-15世紀のブルゴーニュを専門にしているそうで、本のタイトルにÉtat(国)という言葉を使ったことについては、実際に14世紀から15世紀までブルゴーニュという「国」が存在したと考えているからだ、と前書きで述べています。ただし近代的な意味での国家、つまり国民国家や主権国家ではないと断っていますが。うーん、ややこしい。ブルゴーニュ公たちによって創設され発展されたのはun État princierだそうですけど、なんて訳せばいいんですかね。そういった国家は君主の一家に体現される政治権力、その国独自の行政、司法、財政そして軍事制度、政治的な集団と特定の考えの発展、それに自立的な外交の展開によって特徴づけられるそうですけど、素人の私にはわかったようなわからなかったような。まあ細かいことはいいんですよ。ははは。
この本はヴァロア・ブルゴーニュ家の約百年を時系列的に追いつつ、制度なども解説しています。Les armées des ducs de bourgogne(ブルゴーニュ公の軍隊)という章があって当然そこに目が引かれたんですけど、15世紀前半では外国出身の兵が4分の1を占めていたとか。それに14世紀後半から15世紀前半にかけて徴募兵、弓兵とクロスボウ兵の比率が上昇し、10%ちょいから70%ぐらいにまでなったとのこと。これはイギリスとの同盟による影響が反映されているって分析していますね。あと砲の普及についても説明していて、AARを書いているGrandsonの戦いでもそういえばブルゴーニュ軍には砲や弓兵が多かったなあと納得。 それとこの章にはLes réformes au temps de Charles le Téméraire(シャルル・ル・テルメールの時代の改革)という節が面白かったです。領土拡大をしフランス王と抗争を繰り広げていくにあたって、常備軍をもつ仏王に対抗するためにブルゴーニュ公国でも常備軍を整備していく必要があったとのこと。そういや百年戦争の後期にフランスは常備軍を創設していたなあ。
十字軍という章も設けられていて、時代的にあれ?と思ったんですけど、いわゆる第7回まであった十字軍ではなくて、対オスマン帝国の十字軍。ブルゴーニュ公は艦隊を編成して派遣していて、ブルゴーニュに海軍のイメージがなかったので意外でした。まあ、政治的状況のせいでブルゴーニュ公が最後に計画していた十字軍は実現しなかったようですが。
Grandsonの戦いにも触れていて、La défaite inattendue(思いがけない敗北)って書かれていました。兵的な損失は少なかったけど、物資や砲が敵の手に渡ってシャルルは結構落ち込んでいたそうです。でもすぐにGrandsonの敗戦の教訓から軍を再編成し、<<piquenaires>> suisses(スイスの「槍兵」)の戦術に対応するために歩兵を強化したとか。でもGrandsonの3か月後にはまた負けてしまうんですけどね。
この本、知識のない自分にとっては消化不良な部分も結構ありましたが、というかヴァロア・ブルゴーニュ家4代のことなんて新しく知ることばかりだったんですけど、いい勉強になりました。AARを書いているGrandsonの戦いに限らず、ブルゴーニュが出てくるゲームをやるときは思い入れが変わってくるんじゃないかなと思います。