2025年2月18日火曜日

紙の王冠なぞ被るか! The Battle of Wakefield (C3i Nr31) AAR part2

  ヨーク軍は左翼ヨーク公、中央のソールズベリー伯と活性化が続いたが、さらにヨーク公が再び活性化。左翼(マップ左方)から全力で攻撃する。先ほどの突撃で混乱状態だったランカスター軍歩兵は重装騎兵の攻撃で壊滅。怒涛の波状攻撃でヨーク軍がランカスターの戦列に食い込んだ。


 ここでやっとランカスター軍の自由活性が回ってくる。右翼(マップ左方)のパーシーの部隊がヨーク公に反撃。敵の好きなようにさせてたまるか。指揮官パーシーが陣頭に立ち、突出している敵歩兵に打撃を加えた。

 続いて左翼(マップ右方)サマセット公が動く。敵最後尾のトマス・ネヴィルの部隊が遅れていて右翼(マップ右方)が手薄になっているのを見て取るや、歩兵が前進。敵の射撃を避けるようにして長弓兵の側面に回り込み、白兵戦をしかける。歩兵2ユニットの攻撃でソールズベリー伯の長弓兵は混乱状態となった。

「あれ、ランカスター軍は反撃なんかせず守りに徹したほうがいいんじゃないの? 増援が来るまで時間を稼げばいいんだしさ。無理に攻撃して、下手したら自滅するよ」

「いやいや、そんな口車には乗るかっての」


 先述のようにランカスター軍はほとんど歩兵のみの一方、ヨーク軍は歩兵のほかに長弓兵と重装騎兵も擁しバランスのいい兵種構成となっている。重装騎兵は白兵戦で攻守ともに歩兵に対して有利に戦えるし、長弓兵の射撃で混乱させたところに重装騎兵を突っ込ませたり歩兵で白兵戦をしかけたり、というコンボ攻撃もヨーク軍は可能なのだ。そのためランカスター軍は少々のリスクを冒しても適宜反撃して敵の攻撃力を削いでいく必要があると思われる。でもまあ、ヨーク軍中央のソールズベリー伯の活性化値5を考えると、反撃に出たはいいけれどもヨーク軍が連続して活性化してボコボコにされる、という可能性も高いのだけれども。


 ランカスター軍の反撃に対し、ヨーク軍は素早く対応。最後尾にいたトマス・ネヴィル自らが重装騎兵を率いて突撃。ソールズベリー伯の長弓兵に対する攻撃のため側面をさらけ出していたランカスター軍歩兵はたまらず壊滅する。トマス・ネヴィルの勢いは止まらず、さらに継続攻撃で敵歩兵1ユニットに損害を与えた。

 このトマス・ネヴィル、同じくウェイクフィールドで戦っているソールズベリー伯の息子である。有名なキングメーカー、ウォリック伯はトマスの兄にあたる。つまりウェイクフィールドの戦いではウォリックの父親と弟が加わっていたのだけれども、二人ともこの戦いで亡くなっている。ソールズベリー伯はウェイクフィールドの戦いの前年にブロア・ヒースでランカスター軍に大勝するなど有能な指揮官だったようで、このゲームでは活性化値が5とかなり高い。「薔薇戦争」(GJ)でもヨーク派貴族として登場しており、星二つの2-7である。ちなみにトマスのほうは31歳と比較的若くして亡くなったせいかぱっとした戦歴がなく、父親が大勝したブロア・ヒースの戦いでは逆にランカスター軍の捕虜になったりしている。うーん、兄のウォリックとなんかかなり差があるなあ。


 息子に救われた形になったソールズベリー伯。トマスに続け。ネヴィル家の団結力をみせてやるのだ。だがソールズベリー伯は継続活性に失敗して動かず。あれれ。活性化値5はどうしたんだよ。

 

 敵の連携が乱れている隙に、ランカスター軍は右翼(マップ左方)のパーシーがヨーク公に反撃。突出していた混乱状態の敵歩兵を壊滅、斜面を下ってそのままパーシー自ら敵陣に切り込んだ。ヨーク公の歩兵はその勢いを押しとどめることができず後退してしまう。

 

 おし、このモメンタムを持続させるのだ。活性化値4と優秀なサマセット伯がマップ右方でも攻撃、と思いきや、そうはさせじとヨーク軍がSeizureカウンターを使用。継続奪取に成功し、右翼(マップ右方)のトマス・ネヴィル隊を活性化。「マジかよ、このまま勢いに乗りたかったのに」とぼやくランカスター軍プレイヤーを尻目に、先ほどトマス自らの突撃で混乱状態にしていた敵歩兵にとどめを刺し壊滅させた。

つづく


2025年2月14日金曜日

紙の王冠なぞ被るか! The Battle of Wakefield (C3i Nr31) AAR part1

  薔薇戦争の初期の1460年、王位を狙うヨーク公リチャードはヘンリー6世を捕え、マーガレット王妃をはじめとするランカスター派に対して戦いを有利に進めていた。だが12月30日にウェイクフィールドの戦いで数的優勢なランカスター軍に大敗を喫し、ヨーク公は戦死してしまう…というのが今回のゲーム「The Battle of Wakefield」である。Men of Ironシリーズの一つで、C3i誌の31号に付いたもの。なんでこれをプレイしたかというともちろんMoIが好きだから、というのもあるんだけど、ウォーゲーマーだったらよく知っているようにカリフォルニアの火災でRodger MacGowan氏の自宅兼仕事場が焼失してしまって、C3i製作に必要な機材などもなくなってしまったという衝撃的なニュースが1月にありまして。少しでも応援になればとC3iのゲームをプレイすることにしたわけです。いやプレイだけじゃなくてゲームも買えよ自分。ちなみにMacGowan一家への寄付はこのブログを書いている2月13日現在も受け付けています。

Support Rodger, Mae and Steven post-Palisades Fire


 このウェイクフィールドの戦い当時、ヨーク公はサンダル城に入って援軍を各地から集めようとしていた。だが食料調達に出た兵たちが敵と小競り合いを始めたのを見て、城から打って出る。そしてランカスター軍の待ち伏せをくらい両翼から包囲されて惨敗した―とよく言われているらしい。だがデザイナーは、数千のランカスター軍が布陣していたのならサンダル城からも見えたはずで、数的に劣勢だとわかっているヨーク公がわざわざ城から出て敵の罠の中に突っ込んでいくなど馬鹿げたことをやるはずがない、と書いている。まあ、12月の末なんで降雪や悪天候で視界が悪かったからヨーク公も敵の状況を誤認した、という説もあるらしいけど。いずれにせよ突出したヨーク軍に対し待ち受けていたランカスター軍が挟撃、というのはゲームのシチュエーションとしては面白く、このゲームでもランカスター軍の増援がマップ左右の両端から登場しヨーク軍の側面や後方を襲う、という形をとっている。増援が現れる前にランカスター軍を敗北に追いやりたいヨーク軍、かたやランカスター軍はひたすら耐えて増援を待つ、という展開になる。

 初期配置は写真のとおり。ヨーク軍の各部隊は歩兵(Infantry, Inf)、長弓兵(Longbow, LB)、重装騎兵(Mounted Men-at-Arms, MM)と兵種のバランスが取れているのだが、部隊ごとの兵力は少なく、各部隊5~6ユニットとなっている。一方のランカスター軍はほとんどが歩兵で、長弓兵は各部隊に1ユニット、重装騎兵はサマセットの部隊にのみ1ユニットだ。ただしランカスターの両部隊とも歩兵を8ユニット擁しており、増援が現れるまでひたすら防御するのには向いているのかもしれない。


 というわけでプレイ開始である。

「敵の増援? んなもん気にすんな。初っ端からフルスロットルで攻撃!」

 ヨーク軍は全部隊を急進させ、左翼(マップ左方)のヨーク公から攻撃をしかける。敵長弓兵を射撃戦で混乱状態にし、そこに歩兵が切り込んだ。たまらずランカスター軍の長弓兵は散り散りになって軍旗まで敗走。さらにヨーク公の部隊の最左翼では重装騎兵2ユニットが降り積もった雪を蹴散らしながら突撃、敵歩兵を混乱状態に陥らせた。

 続いてヨーク軍中央のソールズベリー伯リチャード・ネヴィルがヨーク公を支援。長弓兵でランカスター軍唯一の重装騎兵に射撃を加える。Men of Ironシリーズでは重装騎兵は射撃を受けた場合、条件さえそろえばカウンターチャージが行える。チェックに成功しさらに射撃でも損害を受けなかった場合、射撃をしてきた長弓兵ユニットに突撃ができるのだ。

 だが、たしかにカウンターチャージに成功すれば敵長弓兵を敗走させられる可能性が高いが、その結果重装騎兵が単独で突出することになる。ランカスター軍は増援が到着するまで防御に専念していればいいのだ。敵の挑発に乗ることはない。

 そう考えて自重したランカスター軍だが、百年戦争でもその威力を発揮したロングボウによって強制下馬(Unhorsed)の結果を被る。強力なはずの重装騎兵が、歩兵よりも脆弱なユニットになってしまった。

「げ、ランカスター軍唯一の騎兵ユニットなのに、馬をなくしちゃったの?! My kingdom for a horse!」

「そのセリフ、言っていいのはリチャード三世だけだからね」

つづく


おまけ。出先でぶらぶらしていたらたまたま見つけたウェイクフィールド通り



2025年2月1日土曜日

アイラウの親衛隊、動く 「La Garde veille!」(VV178)

  VaeVictis最新号の発売が遅れたので日本にもいつ届くのかなーっていうブログを昨日書いたばかりですが、届きましたよ、VV178号。ははは。まあ、もしかしてアイラウ戦の日に届くのかな、なんてなこと書いたのももう先月の話だしね。


 今号のゲームはアイラウの親衛隊ということで、例によってアイラウ戦のことも全然知らないからヒストリカルノートを読んでみました。でもメインタイトルあたりにLA GARDE DONNE!なんて見出しがついていて、ん?どういうこと?donnerって与えるって意味だよね、といきなり戸惑いました。ヒストリカルノートによると、アイラウ戦までは親衛隊が投入されたのはマレンゴとアウステルリッツだけで、Bulletin de la Grande Armée(大陸軍広報って訳せばいいんですかね)は通常、La Garde n'a pas donné.という文言で終わっていたそうです。この文言、「親衛隊は投入されなかった」とか「親衛隊は動かなかった」とかいう意味になると思うんですけど、定訳あるんですかね。でもほんと、donnerにそういう使い方があるって知らなかったので勉強になりました。まあそれはともかく、ヒストリカルノートのLA GARDE DONNE!(親衛隊、動く!)ってのは大陸軍広報の常套句を踏まえての言葉なんでしょうね。

 話がずれちゃったけど、ヒストリカルノートには結構名セリフが紹介されていて、ナポレオンのいるアイラウ村にロシア軍の激しい砲撃が降りかかってきたときに親衛隊騎兵を率いるLous LepicがHaut les têtes, la mitraille, c'est pas de la merde!(頭を上げろ、砲弾だ、糞じゃないぞ!)と檄を飛ばしたとか。この言葉、普通はなんて訳されているんですかね。ちなみに今号のゲーム「La Garde veille!」の2つのシナリオのうち一つは、Lepicによる親衛隊騎兵の突撃を扱っています。

 ほかには、仏軍が苦境に立った時に親衛隊が反撃するんですけど、その際に擲弾兵を率いていたDorsenneが言ったセリフ、Halte au feu grenadiers, et l'arme au bras, la Vieille Garde ne se bat qu'à la baïonnette!(射撃をやめよ、擲弾兵たちよ、そして武器を構えよ。老親衛隊は銃剣でのみ戦うのだ!)とか。うーん、いいですなー。しかし毎回思うんですけど、通常は日本語にどう訳されているのかな。知識の無さをいつも痛感します。


 ええと、なんかヒストリカルノート紹介みたいになってしまいましたが、VV178号の付録「La Garde veille!」は2つのシナリオ両方とも4ターンしかなく、ユニット数もかなり少ないのでサクサク遊べるんじゃないと思います。しかしこのタイトル、最初は「La Garde vieille!」(老親衛隊!)って間違って読んじゃったよ。たぶん狙ってるよね。違う?まあ自分、仏語はよくわからないんですけど。

 悪天候を反映して砲撃の効果が薄れていたり、ちょっとした特別ルールはありますが「La Garde Avance!」やほかのJours de Gloireシリーズをやったことがあればすぐにプレイできるんじゃないかと。老親衛隊の反撃のシナリオではアイラウ村を防衛していた仏第四軍団の歩兵はユニット化されず、村へクス固有の防御値、みたいな処理になっていて、「La Garde Avance!」同様に親衛隊の攻撃に集中できるようにデザインされている印象。

 また、アイラウの教会は仏軍の野戦病院になっていたそうで、ゲームでは負傷兵ユニットなんてのがあったり、仏軍医のLarreyがユニットになっていてロシア軍の手に落ちるとVPが発生するとか(なので仏軍は必死に守らないといけないんでしょうね)、ちょっとしたフレイバー付けがしてあります。あと、JdGシリーズではゲーム終了時に敗走したり壊滅しているユニットは敵の得点になるんですけど、鷲のマークがついている親衛隊ユニットのVPが高いこと高いこと。ロシア軍にも擲弾兵マークがついているユニットが一部あって、通常ユニットより高VPにはなっているんですけど、仏軍は損害を抑えつついかに戦うかがポイントになってくるのかなあ。

 ということで時間を見つけて早くプレイしてみようと思います。ミニミニゲームだしね、気軽にやってみようかな。まあその前にもっとアイラウ戦について勉強しないと。


2025年1月31日金曜日

VV最新号は「アイラウの親衛隊」、なんですが…

  あと一週間ほどでアイラウの戦いがあった日ですが、VaeVictis誌最新号のゲームはアイラウの親衛隊を扱った「La Garde Veille ! - La Garde à Eylau, 1807」。タイトルそのまんまで、アイラウでの親衛隊の戦いです。Jours de Gloire(JdG)シリーズで、シナリオは2つでそれぞれ別のマップが用意されていて、親衛隊の反撃、それに親衛隊騎兵の突撃を扱っています。

 JdGシリーズで親衛隊と言ったら、VV161号の「La Garde Avance!」が面白かったので今回のも楽しみ。というか以前、「La Garde Avance!」についてのユーチューブ動画で、過去のJdGシリーズのゲームを再版しないのかって質問が出たときに、デザイナーさんが主要な戦闘の親衛隊がかかわった部分だけ切り取ったゲームをVaeVictisから出すだろう、おそらくアイラウって感じのことを言っていたんですよね。

(19:56から21:30あたり)

早く出ないかなーと思っていたら、アイラウ戦のタイミングでの出版となったようです。

(画像はVaeVictis公式サイトから)

 VaeVictis誌のサイトにあがっている画像を見ると、仏軍はCohésion値が7や8という化け物ぞろいです。さすが親衛隊。JdGシリーズのゲームはこれまでBANZAIで和栗南華氏が記事を書いているから、このゲームも同誌でレビューされるかもしれませんね。


 ということで早くプレイしたいんですけど、このVV178号、発売が大幅に遅れたんですよね。どうやらカウンターの輸送会社の手違いがあったそうです。フランスの掲示板では、まだ来ないよーという書き込みが結構あって、「輸送会社がアイラウの雪でまよっちゃったんだよ」とか、「次の号と一緒に出るんじゃないの?」なんてのもありました。

 やきもきしていると、先週の金曜日になってやっと手に入れたって書き込みがあり、その後も各地での入手報告が続いて一安心。VaeVictisはボードウォーク岡山のiOGMさんが扱っていますが、日本にはいつ届くのかなー。もしかしてアイラウ戦の日とか?


2025年1月19日日曜日

欧州のウォーゲーム界が熱い! 『EuroWarGames』

  ウォーゲームと言ったら昔はSPIやAvalon Hillなどアメリカが本場って感じがあったみたいですよね。でも最近はスペインをはじめフランス、ドイツ、イタリアで規模は小さいながらもいろんなパブリッシャーが生まれていて、なんかヨーロッパが元気みたい。と思っていたら、『EuroWarGames』という本が出たので読んでみました。いや、正確に言うとKickstarterで思わず蹴ってしまってそれが届いたので読んでみたんですけどね。


 この本にはThe history, state and future of professional and public (war)gaming in Europeって副題っぽいのが付いていて、様々な国から十数人の執筆者が寄稿しています。ですが、それよりも裏表紙にあったWargaming is on the rise again. Or did it never falter?っていう惹句的なものに惹かれてしまいました。

 過去二、三十年の間、ユーロゲームの流行によってウォーゲームは陰りが見えてきた。その一方で、ヨーロッパのウォーゲームのコミュニティは地理的にはお互い近くに集中しているのに言語的障害と歴史的要因から国境によって分断されてきていた。その結果、ヨーロッパの多様で豊かなウォーゲームの活動は世界的には知られてこなかった…

 なんてことも裏表紙に書かれているんですけど、「ユーロゲーム」って言葉、自分は聞いたことあるけどその定義はよく知らなくて、ここんとこ流行っている(らしい)ボードゲームのことなんだろうなって漠然と思ってるんですけど、あってる?すんません、カタンぐらいしかしたことありません…。

 日本でもゲームマーケットが盛況だったりボドゲカフェが各地にできていたりしますが、ユーロゲームの流行は世界的なものらしいです。ウォーゲームは当然その影響を受けているようですが、その是非が一番最初の章「Attack of the Hybrids! Wargames and Eurogames-derived mechanics」で論じられています。ユーロゲームの影響を受けたウォーゲームが多く出てくることで、多くのハードコアなウォーゲーマー(grognardって呼んでますね)はfeel threatened by this sudden evolution, fearing that such an approach could "betray" the purity of age-old mechanics and conventionsなんて書かれています。日本でもそういうウォーゲーマー、結構いるんじゃないでしょうか。Euro-invaders of the simulation worldなんて表現もありました。でもこの執筆者は、ユーロゲームとウォーゲームのハイブリッドについて、デザイナーにとって簡単ではないがthe challenge surely is worth the try if we want to persevere in the oldest tradition of wargame design: innovationって言っています。

 他にもいろいろと面白い章があったのですが、真っ先に目を引かれたのはスペイン関連の記事。スペインのウォーゲーム業界ってほんと、元気がありますよね。この本に収録されているのは、Bellotasというタイトルの章で執筆者はLevy&CampaignやCoinシリーズのデザイナーVolko Ruhnke氏です。BellotaConという毎年1月にスペイン南西部の街Badajozで開かれているウォーゲームコンベンションについて、2018年の第一回から参加したときのことを書いています。

 ちなみにBellotaConはこの1月23日~26日に第8回が予定されています。おお、もう直前じゃん。

https://bellotacon.es/

 この章では、スペインでも何十年にわたってウォーゲーム界を悩ませてきた問題、すなわち高齢化がある、なんてなことも書かれていて、これは日本とも共通なのかな。でもその一方で、昔ボードゲームを遊んだ世代はもう子供が独立し仕事も安定しているので、ウォーゲームに戻ってきているんだそうです。それだけでなく、ヨーロッパ全体と比較してスペインではウォーゲーマーが高い割合で増えていっているという根拠もいろいろあるんだとか。うーん、いいなあ。

 それと、BellotaConのBellotaってスペイン語でドングリという意味ですが、ドングリを食べさせた豚から作るハムがこの地域は有名だそうで、そこからこのコンベンションの名前をとったと書かれていました。へー、知らんかったよ。BellotaConはもともと少人数のウォーゲーム愛好家たちが始めたもので、そういった人たちの献身的なコミットメントがあってこそ成立していたとのこと。どんどん成功して参加者が増えるにつれ、長期的にはパブリッシャーも単にサポートするだけでなく積極的にかかわっていく必要がある、ということは以前から指摘されていたそうです。でもCOVIDの時期をDiscordなどオンラインでの開催で乗り越えていったとのこと。今年の第8回も盛況になることでしょう。

 

 ほかには、イタリアでのウォーゲームの盛り上がりについても書かれた章がありました。たまたまこれを読んでいたので、先日ブログで紹介したユーチューブも興味深く視聴することができましたよ。ちなみにあのユーチューブ動画のRiccardo Masini氏は『EuroWarGames』の編者の一人に名前が入っています。

 イタリアでは月に計2万5000部売れているゲームマガジンがあるって書かれているんですが、マジ? そして一般的なボードゲームとウォーゲームのオーバーラップが見られるそうで、ウォーゲーマーの数は限られているとのこと。イタリア産のウォーゲームの強みとしてはクリエイティビティを挙げています。アメリカの主要パブリッシャーと競争するのは意味がないため、ほとんどのイタリアのパブリッシャーは第二次世界大戦の独ソ戦やアルデンヌ、ゲティスバーグやワーテルローといったメジャーなものは作っておらず、様々なテーマで多様なシステムを採用していて、そういったニッチさからクリエイティビティに価値を置くことになっている、とのこと。イタリアのウォーゲームがユニークなテーマを扱っていることに惹かれて、外国の業者が取り扱うようになるというトレンドが生まれているそうです。

 面白かったのは、イタリア統一戦争と第一次世界大戦は軍事面に関してはほとんど知られていないとのこと。イタリア人にカポレットやソルフェリーノがどこにあるか聞いても答えられないんだそうです。そのため、記事の執筆者はゲームが歴史の知識を広めるのにも役立つと指摘しています。


 ところでヨーロッパのウォーゲームと言えば、小さなウォーゲーム屋さんが精力的に輸入、日本に紹介していますね。と思っていたら、こんなことが書かれていました。

half of Europa is courting Bonsai Games to translate Yasushi Nakaguro's games

へー、Bonsai Gamesはヨーロッパでモテモテなんですね。


 あと、たかさわさんが紹介していたこの記事を併せて読むともっと面白いと思います。ちなみにセイビン教授はこの本でも言及されています。



 とまあ、いろいろと勉強になったんですが、一番印象に残っているのはイントロダクションの最後の方に書かれていたこの言葉。

our hope is that this initiative(この本のことですね) will be of further encouragement for all the different national wargaming communities to strengthen their connections, multiply their contacts, share their experiences in a scenario of mutual growth and cooperation.

ほんと、そんなふうになるといいなあと思います。

2025年1月17日金曜日

イタリアで語る、日本のウォーゲーム事情

  つい最近、ヨーロッパのウォーゲーム事情についての本を読んだんですけど、たまたまイタリアのウォーゲーマーが日本のウォーゲームについてユーチューブで語るというをTwitterで見つけたので見てみました。

10歳の時からウォーゲームをしているというRiccardo Masini氏の番組に、日本のウォーゲームに詳しいAndrea Pavanさんが登場。ちなみにAndrea Pavanさんは去年の夏に日本に来ていたようです。

それと、武士ライフ第伍號の「和田合戦」をイタリア語に訳したりしています。いやー、武士ライフ好きとしては嬉しいなー。

 Riccardo Masiniさんは動画の中でもいくつか日本のウォーゲームを取り出してましたが、ウォーゲームだけでなく歴史にも詳しいみたいで、今後出るであろうゲームの話題の中で日本と中国の戦争のもの、とAndreaさんが言ったら、それって日露戦争の前の戦争、それとも後?って即座に聞いていました。日清戦争ってマイナーだと勝手に思っていたんですけど、知っている人は知っているんですね。

 この動画ではざっと日本のウォーゲームの歴史を振り返ったりしていましたが、鈴木 銀一郎、黒田 幸弘、中黒靖、中村テツヤ、山崎雅弘、福田誠といった日本人デザイナーが挙がっていました。今後注目するデザイナーを聞かれたAndreaさんは、堀場わたるって答えてましたね。子猫のゲームを作ったりするけどって笑ってましたけど。でもこの動画を通して一番よく触れられていた名前はナカグーロでした。

 日本のウォーゲーム雑誌もBANZAIを中心に紹介されていたんですけど、「武士ライフ」も出てきて嬉しかったです。ミニ雑誌だけど、コンパクトなゲームと、関連した歴史的な記事がついているって紹介していましたね。こういった中世の日本を扱ったものは、我々には手が届かないニッチなマーケットだって言っていました。あと、「A Victory Lost」(激闘!マンシュタイン軍集団)や「Most Dangerous Time」(信長最大の危機)は海外でもよく知られているようですが、これらはもともと雑誌付録だったとAndreaさんが言うと、Riccardoさんには意外だったようですね。

 日本のウォーゲームの特徴として、シンプルさというウォーゲームの古典的な部分と革新的なものを組み合わせている、と言っていましたね。シンプルさについては、少ないルールで誰でもプレイできるようになっているけれども、歴史性の深みも兼ね備えている、と。革新的なものは、「激闘!マンシュタイン軍集団」や「ワルシャワ1920」が挙げられていました。それとBANZAI20号の「ロンメルがゴーグルを拾うとき」は、すごく要求の高いプレイヤーでも楽しめるだろうって言ってましたね。あ、もちろん日本のウォーゲームの品質の高さもほめていて、見た目が美しいだけでなくちゃんとテストプレイもしている、ってことも指摘していました。

 ところでウォーゲームとは関係ないけどTakeshi's Castleって言葉がちらっと出てきて二人とも笑っていたんだけど、これって「風雲たけし城」のことですよね。イタリアでも放送されていたのかなあ。

 あと、RiccardoさんはBANZAIを取り出して、日本語はわからないけどグーグル・レンズで訳して読んでいるって言っていました。こうやって自動翻訳が便利になり普及していくのを見ると、言語の障害がどんどんなくなっていろんな言語圏との交流から新しい流れが出てくるといいな、なんて思いました。とにかく二人が楽しそうに日本のウォーゲームについて語るのを見ていると、日本のいちウォーゲーマーとしては嬉しい限りでした。「武士ライフ」とかがいろんな国で紹介されてプレイされるといいなあ。


2024年12月26日木曜日

『マーク・ハーマンが語るウォーゲーム』

 マーク・ハーマン先生と言ったらウォーゲーム界の大御所。SPIの時代から約50年のキャリアを誇るウォーゲーム・デザイナーで、「For the People」や「Empire of the Sun」など数十のゲームをデザインしてきた…

 なんて説明は不要なぐらい有名だと思うのですけど、そのマーク・ハーマンが『Wargames According to Mark』という本を出したので読んでみました。タイトルどおり、ウォーゲームとはこうあるべきという内容ではなく、あくまで自分はこうやってウォーゲームをデザインしてきた、というもの。My Views on Wargame Designっていう部があって、The Sequence of Play and Initiative or How to Organize ChaosやWargames CRTs or How to Resolve Chaosといった章が並んでいます。最後のほうには「We The People」や「Fire in the Lake」などいくつかのゲームのデザイナーズノートも付いていました。

  この本では「Empire of the Sun」とか「Churchill」とか、マーク・ハーマンがデザインしたゲームを多数取り上げてどうデザインしたのか、ということを論じてくれていて、実際にプレイしたことのある人だったら、あー、なるほど、そういう考えでデザインしたのか、と膝を打つような感覚が続出するんだろうなあと読みながらずっと思いました。実は自分、プレイしたウォーゲームの数も所持数も少ないから、この本に出てくるゲームって名前を聞いたことはあるけどってものばかりなんですよね。それによく考えたらアメリカのパブリッシャーのものってあんまり持ってないんで、余計に縁遠いというか。も、もちろんSPIのことは知っていますよ。ははは…。あと、この本を読んで気が付いたのが、自分はそれほどゲームシステムには関心がないんだな、ということ。デザイナーさんとか、システムに興味がある人だったらもっとこの本でマークが述べていることがいろいろと勉強になるんだろうなあと思いました。とほほ。

 それでも、Experiencing the dynamics of a battle is what separates wargames from narrative history.なんて言葉にうんうんとうなずいたり、When I am designing an historical wargame, by definition I am creating alternative history.っていうところにもそうなんだろうなと思えたりしました。あと、Due to the limits of my allowance when you got a new game, you played it a hundred times. That world is gone and while I may be nostalgic for that in my life, the competition for personal time precludes that level of commitment except to a few personal favourites.

って書いていて、先日ブログでも触れましたがつい最近ウィリーさんが同じようなことを言っていたのが思い出されました。

師走に書いても鬼は笑うか?

 と、まあちょっと消化不良気味なんですが、how does one capture the psychological element of uncertainty even as you have visual and textual information not available to your historical persona?とかウォーゲーマーだったら関心がある点が結構述べられていて楽しめました。いろいろとゲームをプレイしながら、「そういえばああいうこと書いてあったな」と振り返るんだろうなと思います。デザイナーさんやウォーゲームに詳しい人の感想を聞いてみたいなあ。




 


紙の王冠なぞ被るか! The Battle of Wakefield (C3i Nr31) AAR part2

  ヨーク軍は左翼ヨーク公、中央のソールズベリー伯と活性化が続いたが、さらにヨーク公が再び活性化。左翼(マップ左方)から全力で攻撃する。先ほどの突撃で混乱状態だったランカスター軍歩兵は重装騎兵の攻撃で壊滅。怒涛の波状攻撃でヨーク軍がランカスターの戦列に食い込んだ。  ここでやっと...