2023年4月28日金曜日

第一回十字軍最後の戦い Ascalon 1099 - Infidel, Men of Iron Tri-pack(GMT) AAR ⑤

 すでに消耗が激しい十字軍は、これ以上マムルーク重騎兵の攻撃をくらい続けると崩壊してしまう。自軍が限界を迎える前に敵軍を出血多量に追い込むしかない。やるかやられるかだ。左翼(マップ右方)のゴドフロア隊(青)が、敗走ポイントの高い敵中騎兵を全力で攻撃する。弓兵が射撃を加え、槍兵が突進。指揮官のゴドフロアも混乱状態の騎士を叱咤して敵重騎兵に損害を与えた。
 これでファーティマ朝軍の累積敗走ポイントは21に。敗北チェック(Loss Check)では50%の確率で負けとなってしまうが、アッラーのご加護でサイの目は4。イスラム軍は踏みとどまる。

 十字軍右翼(マップ左方)のレーモン隊(黒)も、ゴドフロア隊に続いて死に物狂いの攻撃。ここで敵にとどめを刺さないとこっちが危ない。弓兵、槍兵、騎士と手持ちの兵で攻撃できるものはすべて投入した結果、ファーティマ朝軍の累積敗走ポイントは23となった。



 もう後がないファーティマ朝軍。マムルーク重騎兵が左右両翼で突撃する。温存されていたためマムルークはほぼ無傷。その突撃によって、すでに多くが混乱状態の十字軍が次々と蹴散らされていく。防御ユニットが混乱状態の場合、突撃では(DRMゼロの場合)90%の確率で防御ユニットは敗走もしくは壊滅するのだ。左翼(マップ右方)のゴドフロア隊は半壊し、正常状態なのは弓兵1ユニットのみとなった。右翼のレーモン隊もほとんどが混乱状態。そして十字軍の累積敗走ポイントは14となった。
 自由活性化終了時には両者敗北チェックがある。このシナリオでの十字軍の敗走レベルは20だ。サイの目は5でセーフ。一方のファーティマ朝軍のサイの目は1。ふー。ぎりぎりで耐えた。

 このシナリオのマップ下端にはファーティマ朝支配下だったアスカロンの街が描かれていている。アンティオキアのシナリオでの十字軍同様、敗走するファーティマ朝軍はこの市内に逃げ込めるかと思いきや、史実では固く門を閉じて敗走するファーティマ朝軍を入れなかったらしい。このシナリオでも市街は進入不可となっており、地形効果表には「住民はエジプト軍に対して門を閉じていた。いい連中だ」なんて皮肉の聞いた注釈が入っている。ファーティマ朝軍としてはこの戦いに負ければ遠く敗走するしかない。

 マムルーク重騎兵隊の突撃で甚大な被害を被った十字軍にとどめを刺そうと、ファーティマ朝軍が継続活性を試みる。だがここで十字軍がSeizureカウンターを使用。活性奪取(Seizure)を試みる。このままファーティマ朝軍の攻撃を受け続けると致命傷になりかねない。活性奪取でこちらが攻撃するのだ。奪取は80%で成功だったのだが、惜しくも失敗。再びファーティマ朝軍に自由活性が回ってきた。
 少しでも多くの十字軍を壊滅もしくは敗走させるため、ほとんどが混乱状態となっているロベール隊(赤)にファーティマ朝軍弓兵部隊がとどめを刺す。まずは熾烈な射撃でロベール隊の弓兵が壊滅、槍兵が敗走(Retire)。そしてスーダン弓兵がフレイルを振って突進。白兵戦でレーモン隊の槍兵、ロベール隊のクロスボウがたまらず敗走する。十字軍の累積敗走ポイントは18に上った。


 ここで再び両者敗北チェック。サイコロを振る手に両プレイヤーとも力が入る。ファーティマ朝軍のサイの目は5。これまで粘ってきたがついに全軍士気崩壊となる。だが、十字軍のサイの目は3で敗走レベルを超え、こちらも破断界を迎えることに。最後まで両者の激しいぶつかり合いとなったこの戦いは引き分けに終わった。

 いやー、最後はどっちが負けてもおかしくない状態で、両プレイヤーともに緊張感を楽しめました。シナリオ集であるBattle Bookにはこのシナリオのバランスは十字軍有利と書いてあって、実際、ゲーム開始時に十字軍がイニシアティブを握れば、ファーティマ朝軍は混乱状態で初期配置されるマムルーク重騎兵を回復させる余裕もなくやられてしまう、ということもあり得ます。まあそれが史実らしいけど。
 でもFPが低くいので消耗しても痛くないわりに結構使えるのが中央のスーダン弓兵で、まずは彼らに粘らせておいて、キリスト教軍の数が限られている騎士を混乱状態にして敵の衝力を奪うようにすれば、イスラム教軍も結構いい戦いができるんじゃないかなと思います。

2023年4月22日土曜日

第一回十字軍最後の戦い Ascalon 1099 - Infidel, Men of Iron Tri-pack(GMT) AAR ④

  敵中央部隊の攻撃で自軍が分断された十字軍だが、左翼(マップ右方)のゴドフロア隊(青)で反撃する。騎士の威力を見せてやる!と+3DRMで攻撃するものの、サイの目はゼロでまさかの攻撃側混乱。だがそれ以外では敵右翼の槍兵と中騎兵に損害を与えていった。


 このゴドフロア隊だが、フランス南東部のブルゴーニュとロレーヌ地方の兵から成る。「Infidel」の十字軍ユニットには出身というか所属地方が書いてあるのだが、ロベール隊(赤)はノルマンディとフランドル、レーモンはフランス南西部のアキテーヌと南部のプロヴァンスの兵から成っている。どこの兵かはルール上は全く関係ないのだが、WW2のゲームで師団名が書かれていると気分が盛り上がるのと同じような感じかな。

 第一回十字軍は、教皇ウルバヌス二世がフランス中央のクレルモンで開かれた公会議で呼びかけたことで始まったこともあって、フランスからの参加が主だった。ウルバヌス二世もフランスの地方貴族の家の出で、フランスにあるクリュニー修道院に入っているから、フランスの騎士たちに訴えかけやすかったんだろうなあ。

 ちなみに兵站が未発達のこの時代に万単位の軍を遠征させること自体が難事業だったそうだ。ローマ帝国のころとえらい違いだけど。前回紹介した『Victory in the East』によると、パリから南伊経由でギリシアのテッサロニキまでですでに約2,400kmと、鹿児島から稚内よりも約600km遠い。さらにそこから十字軍主力はアンナ様のいるコンスタンティノープル経由でイェルサレムに向かったわけで、その距離約2,000km。つまりフランスからやってきた兵たちは約4,000kmの行軍をしていて、しかも小アジアに渡って以降は敵地の真っただ中、かつ険しい地形や酷暑に悩まされていた。そういう苦難に負けないぐらい聖地奪還への宗教的使命にみなさん燃えていたんでしょうな。イスラム側からしたらとんでもない厄災だけど。


 ゴドフロア隊に続いて右翼(マップ左方)のレーモン隊(黒)が攻撃。混乱状態の中騎兵を狙って騎士や槍兵が白兵戦をしかける。たまらず中騎兵1ユニットが自軍の軍旗目指して逃げ出し、さらには2ユニットが壊滅した。砂浜から側面に回り込み混乱状態の中騎兵を攻撃したレーモン隊の槍兵は、騎兵を蹴散らした勢いに乗って継続攻撃(Continued Attack)。だがそこでベルベル中騎兵の中でも防御力の高いユニットにぶつかり、逆に混乱状態となるというおまけつき。指揮官のレーモンは騎士とともに敵に囲まれていたが、隣接する槍兵を瞬殺。ファーティマ朝軍の累積敗走ポイントは18に上った。

 このシナリオでのファーティマ朝軍の敗走レベル(Flight Level)は25で、累積敗走ポイントに10面体サイコロの目を足した数がこれを超えると負けてしまう。焦るファーティマ朝軍。一方、十字軍の累積敗走ポイントはいまだに2だ。だがこれまでの戦闘で混乱状態のユニットが増えてきているため、楽観視はできない。



 ここでファーティマ朝軍に自由活性が回ってくる。中央の弓兵部隊で、弱体化している敵ロベール隊(赤)に追い打ち。さらには左右の敵部隊にも射撃によって損害を与えていく。十字軍はまだ累積敗走ポイントが5にとどまっているものの、3部隊とも消耗が激しい。騎士9ユニットのうち正常状態で残っているのは最左翼(マップ右方)で突出しているゴドフロア隊(青)の1ユニットのみとなった。


 ころはよし、とファーティマ朝軍は後方で温存していたマムルーク重騎兵を解き放つ。マップ右方のゴドフロア隊に向かってチャージ、チャージ、チャージ!! さすがの騎士もこれまでの戦いで疲労していたか、砂塵を巻き上げながら突進してくるマムルークの突撃を受け止めきれずに2ユニットが壊滅した。騎士は壊滅時の敗走ポイントが3なので結構な痛手である。



 マムルークとは奴隷の意味らしいが、奴隷は奴隷でも軍人奴隷で、実際は騎兵のエリート軍人層。多くは遊牧民の出身で忠誠心も強かったそうだ。10世紀あたりからイランやシリア、エジプトなどのイスラム圏で有力な軍事力となり、サラディンもマムルークを活用している。1250年にはエジプトでマムルーク朝が成立しているけど、そのバイバルスがモンゴル軍を破ったのは有名なんじゃないかな。


つづく


2023年4月14日金曜日

(幕間) 第一回十字軍の軍事史 - 『東方における勝利』

  十字軍って中世の歴史の中では日本でも比較的メジャーなようで、読みやすい本としては塩野七生の『十字軍物語』やダン・ジョーンズの『十字軍全史』とかがある。でももうちょっと詳しく知りたいな、と思って、「Infidel」のシナリオ集「Battle Book」に参考資料として載っていたJohn Franceの『Victory in the East』を読んでみました。


 塩野七生の『十字軍物語』は読みやすいし入手も容易なのでいいんだけど、西欧中心の視点だし、筆者の選り好みを結構感じてしまうんですよね。あくまで個人的な感想ですが。まあ、「物語」だしね。ダン・ジョーンズの『十字軍全史』もかなり面白いんだけど、地理的にも年代的にもかなり広範囲にカバーしているから、アスカロンの戦いで終わった第一回十字軍のことを詳しく知りたいのにいろんなところに話が広がって迷子になりそう。

 というかですね、『Victory in the East』の表紙にはa military historyなんて書かれてあって、ウォーゲーマーだったら読みたくなるじゃないですか。『東方における勝利』というタイトルには、極東の民草の一人としてちょっと引っ掛かりますけど。



 『Victory in the East』は一冊すべて第一回十字軍関連。「Infidel」に入っているアンティオキアのシナリオはこの本の記述に基づいたそうで、実際、アンティオキアの戦いについては攻囲戦も含めると約100ページに渡って詳述している。

 個人的にはセルジューク・トルコのことも結構書いてくれているのがうれしい。あとビザンツについても触れられていて、アンナ様も出てきます。「アレクシアス」を参照した部分もたっぷり。第一回十字軍の歴史を書くうえで「アレクシオス」 は避けて通れないから当然と言えば当然か。でも筆者のジョン・フランス先生、ちょこっとアンナ様に対して辛口のコメントのようなものを入れたりしていますね。ほかに、民衆十字軍はただの非戦闘員の集まりではなかったとか、いろいろと面白い分析もありました。


 でもね、この本、第一回十字軍そのものだけじゃなくて、その時代背景についても結構書いてくれているんですよ。第2章「War in the West」から第3章「Campaigns, generals and leadership」にかけて11世紀の西欧の軍事事情についてかなり書かれていて、十字軍の本を読んでいるってことを忘れるぐらい。現代の我々はクラウゼヴィッツの影響を受けていて、決戦による敵戦力の撃滅を重視するが中世はそうではなかったとか、そういういことを書いてくれています。あと、1066年のノルマン・コンクエストについて結構分析することでこの時代の動員・兵站の負担とか戦術とかを説明してくれるんだけどかなり詳述していて、あれ、この本って征服王ウィリアム一世についての本だったったけ、と思ってしまいました。面白かったですけどね。

 あと、ローマ時代の軍事思想家ウェゲティウスにも結構触れています。「平和を欲さば、戦への備えをせよ」という警句ができるもとになったと言われている人ですね。ちなみに「戦への備えをせよ」はラテン語でpara bellumですけど、イタリアのウォーゲーム誌「Para Bellum」っていうのがありますね。最新の11号の付録ゲームはご当地ネタ、第一次世界大戦のイゾンツォの戦い


 筆者のジョン・フランスは十字軍研究の専門家。イギリスの大学の名誉教授のようで、アメリカのウェスト・ポイントでも教えていたらしい。『Victory in the East』には主要参考文献リストにあたる(のかな?)Select bibliographyっていう項目というか章があって、それが25ページもあってクラクラしてきました。selectって言っているんだからもうちょっと厳選して数を減らしてくれないと、初心者としては次に何読んでいいかわからないですよ。まあ、研究者向けに書いているんでしょうけれど。


 約30年前に出た本なので最近の研究ではまた新たな発見や分析がされているのかもしれないけど、第一回十字軍でどのような軍事行動が展開されたのかに興味がある方にはこの本がおススメ。読みやすい英語で書かれているし、本文は実質300数十ページなのでまあ負担にならない分量と言えるかと。で、「Infidel」をぜひプレイしてみてください。




2023年4月9日日曜日

第一回十字軍最後の戦い Ascalon 1099 - Infidel, Men of Iron Tri-pack(GMT) AAR ③

  十字軍の左右両翼の部隊から攻撃を受けたファーティマ朝軍は左翼のベルベル中騎兵で反撃。さらに右翼でも反撃を、と言いたいところなのだが、継続活性に失敗する。


 このシナリオのファーティマ朝軍は弓兵、槍兵、重騎兵など兵種ごとに5つの部隊に分けられているのだが、登場する指揮官はアル・アフダルのみで、どの部隊も活性化にはアル・アフダルの活性化値を使う。

 なぜ指揮官が一人しか登場しないかというと、イスラム側の資料で入手できるものが非常に限られているからだそうだ。日本語でもイスラムに関する資料って(少なくとも一般人にとっては)限られている印象だけど、英語でもそうらしい。そういえば、GMTのLevy&Campaignシリーズの新作として11世紀半ば、アナトリアでのセルジューク・トルコとビザンツ帝国の衝突をシミュレートした「Seljuk: Byzantium Besieged, 1068-1071」がP500に入っているけど、このゲームのデザイナーも英語で手に入るイスラム側の資料ってかぎられているんだよねって言っていたな。Andrew C.S. Peacockっていう学者の著書を教えてもらったけど。


 ちなみにファーティマ朝は北アフリカのベルベル人を支持基盤として東西に領土を広げ、モロッコからシリアまでを支配していた。ファーティマ朝の時代にカイロが建設されて繫栄する。この王朝はイスラム教のシーア派で、創始された11世紀初頭にはバグダッドでアッバース朝君主がイスラム教最高指導者カリフとなっていたが、ファーティマ朝の君主もカリフを名乗る。同時期、イベリア半島で後ウマイヤ朝もカリフを名乗っていたため、11世紀前半は3カリフ鼎立の時代となっていた。ちなみにアッバース朝は歴史が長く、1258年にモンゴルのフレグに滅ぼされるまで宗教的権威を保っていたらしい。あと、第一回十字軍より300年ほど前にアッバース朝が751年にタラス河畔の戦いで唐軍を打ち破り、製紙法が西方世界に伝わることになりましたね。


 このファーティマ朝軍の指揮官アル・アフダルだが、活性化値が3と凡庸なのである。そのため連続して部隊を活性化することがそれほど期待できず、イスラム側としては数的な優勢を活かすのは難しい。一方の十字軍は中央のロベールが3だが、左翼(マップ右方)のゴドフロアは4,右翼のレーモンは5と高く連続攻撃がやりやすくなっている。

 

 連携の取れていないファーティマ朝軍がまごついている間に、十字軍は左翼(マップ右方)のゴドフロア隊(青)、そして右翼のレーモン隊(黒)と連続攻撃。マップ右方に展開していたゴドフロアの部隊はさらに右方にシフトし、脆弱な槍兵や中騎兵に次々と損害を与えていく。続いて右翼(マップ左方)のレーモン隊(黒)は、突出していた騎士に槍兵が追いつき敵中騎兵を攻撃。包囲されている騎士を救出した。



 ファーティマ朝軍は両翼で押され気味となる。やはり中騎兵では、騎士を基軸にした敵の攻撃をしのぐのには無理がある。後方で待機しているマムルーク重騎兵であれば白兵戦でも騎士とある程度互角にやりあえるうえ、総計10ユニットもある。十字軍に寝込みを襲われたもののすでに混乱状態から回復している重騎兵部隊を両翼に投入すべきか。


 だがファーティマ朝軍プレイヤーは重騎兵温存を選択する。今両翼の救援に回しても中騎兵ユニットと混在してしまい効果的な攻撃は行えない。それに重騎兵は敗走ポイント(Flight Points, FP)が3と高い。一方中央の弓兵の敗走ポイントは1で、重騎兵が壊滅した際に弓兵の3倍の勝利得点を敵に献上するような形になる。焦ってマムルークを投入するよりもまずは弓兵で消耗戦に持ち込むべし。敵の両翼部隊が自軍中騎兵部隊を突破したその瞬間に、重騎兵はその機動力と数、それに突撃の破壊力を活かして敵のスピアヘッドを叩き潰せばいい。


 そのような方針のもと、ファーティマ朝軍最前列中央の弓兵部隊が敵ロベール隊(赤)に向かって前進。弓兵の射撃の援護を受けながらスーダン弓兵がフレイルを振り回して白兵戦を仕掛ける。ロベール隊は1ユニットが敗走(Retired)、もう1ユニットが壊滅した。十字軍初の壊滅である。

 さらにファーティマ朝軍は、十字軍の両翼部隊がマップの左右にシフトしていった結果、中央ロベール隊との間が手薄になっているのを見逃さなかった。敵部隊の間隙にスーダン弓兵が突進していく。十字軍は3つの部隊が分断された形となった。



つづく

2023年4月5日水曜日

「The Charge of the 3 Kings」(NAC) 追加シナリオ和訳


 1212年、スペイン南部のコルドバ近くで起きたナバス・デ・トロサの戦い。カスティーリャ、ナバラ、アラゴンのキリスト教3王国が連合してイスラム教勢力のムワッヒド軍を打ち破り、レコンキスタにおけるキリスト教勢力の優位を確立した戦いである。キリスト教軍は敵の半分以下の兵力だったのにもかかわらず大勝しているのだが、ナバラ王の"el Fuerte"(剛勇王)サンチョ7世が自ら敵本陣に突入したり、カスティーリャ王アルフォンソ8世が死ぬ覚悟を決めたりといろいろと逸話があって中世の会戦としては有名らしい。

 この戦いは、同じくレコンキスタを扱ったLevy&Campaignシリーズの「Almoravid」(GMT)の時代より約130年後。「Almoravid」の時代にキリスト教勢力はイベリア半島中央部の古都トレドを陥落させるのだが、直後に1086年のサグラハスの戦いでムラービト朝に惨敗を喫し、その後はキリスト教とイスラム教の両勢力の均衡状態が続く。両勢力とも結構内紛をしていて、1143年にはポルトガル王国がレオン・カスティーリャ王国から独立したりしている。一方同じころのイスラム勢力では、モロッコでムワッヒド朝が勃興しムラービト朝が滅亡、ムワッヒド朝はイベリア半島のアンダルス(イスラム勢力圏下の地域)を支配下におさめキリスト教勢力を圧迫する。

 カスティーリャ王のアルフォンソ8世は1195年にアラルコスの戦いでムワッヒド軍に大敗し10年の休戦協定を結ばされるが、休戦期間が終わるや再び対立、ナバラとアラゴンの両王国、それにテンプル騎士団やホスピタル騎士団の増援を得てナバス・デ・トロサで兵数2倍以上の敵と対峙するのである。


 ナバス・デ・トロサはキリスト教軍中央の突撃で戦いが始まるが、突撃したカスティーリャ軍は次第に疲弊、敗走の恐れが生じた。そしてムワッヒド軍の騎兵によってキリスト教軍は両翼から包囲される危険にさらされる。このとき、カスティーリャ王アルフォンソ8世は従軍していたトレド大司教ドリゴ・ヒメネス・デ・ラダに「我々二人とも今日ここで死のう」と叫び、予備の精鋭部隊とともに戦列中央部で突撃。そこにアラゴン軍が左翼から、ナバラ軍が右翼から突撃(なので3人の王の突撃になるんですな)。特にナバラ王"el Fuerte"サンチョ7世は太い鎖で守られていたムワッヒド軍本陣に突入、戦いの帰趨を決めた。ちなみにこのことにちなんで、ナバラ王国の紋章には金の鎖があしらわれるようになったらしい。ナバラ王国の紋章はこんな感じ


 この戦いは昔Vae Victis 62号で付録ゲームになっているけど、スペインのNAC Wargamesから「The Charge of the 3 Kings」というタイトル(スペイン語では「La Carga los 3 Reys」)でゲームになっていて、日本語訳付きで小さなウォーゲーム屋さんから発売されています。このゲームをWilandorさんがブログで詳しく紹介してくれました。

一斉チャージを見てみたい(怖いけど)…The Charge of 3 Kings(NAC)

いやもうこのブログを読むだけでどんなゲームかよくわかりますし、やってみたいっておもうんじゃないでしょうか。うーん、こういう紹介記事が書けるように自分も見習わなくては。

 で、そういえばALEA38号にこのゲームの追加シナリオが2本載っていたぞと思い出し、和訳して小さなウォーゲーム屋さんで公開していただきました。わざわざNACにまで許可をとっていただきありがとうございました。

【日本語PDFルールあり】The Charge of the 3 Kings

 追加シナリオはひとつがキリスト教軍が中央に兵力を集中していたらという仮想シナリオ。もう一つはムスリム側にも勝機があった瞬間から始まるショートシナリオです。

 仮想シナリオの方は、イントロダクションがいきなり長ーい独白というか手記の体で始まっていてちょっと面食らったんですが、この戦いの前日、軍議で中央の正面突破が決まった、という様子を描いています。

 ナバス・デ・トロサの戦いの10数年前、アラスコスの戦いでアルフォンソ8世はムワッヒド軍にぼろ負けしているんですけど、この戦いでキリスト教軍は突撃したはいいものの、ムワッヒド軍の偽装退却に引っかかって包囲されるんですね。

 ALEA38号の付録ゲームSagrajas1086は、アルフォンソ8世の祖先にあたるカスティーリャ・レオン王アルフォンソ6世が重騎兵で思い切り突撃したはいいもののムラービト軍に側面から奇襲されてぼろ負けした、というもので、あれから約100年後のアラルコスでも同じような目にあっているんですなあ。

 ちなみにアラルコスで中央部隊を率いていたのが、ナバス・デ・トロサの戦いでの中央部隊の指揮官ディエゴ・ロペス・デ・アロです。アラスコスでの惨敗を教訓にして、ナバス・デ・トロサの戦いでは両翼をかなり強力にするとともに中央部隊はむやみに敵陣に突っ込まないようにしたのですが、仮想シナリオではその教訓が生かされなかった、という想定になっています。ナバラとアラゴンの王、それに騎士団の代表など多くはキリスト教軍の強さを過信して騎兵による正面突撃を主張。アラルコスの敗戦を知っているディエゴ・ロペス・デ・アロは「マジで?……でもそう決まったんなら仕方ありません。前衛を率いて戦います」と受け入れた、という想定だそうです。

 もう一つの追加シナリオは、キリスト教軍中央部隊が突撃で疲弊、一方ムスリム側は両翼の騎兵部隊がキリスト教軍の側面に回り込もうとする、という状況から始まります。 デザイナーズノートによると、キリスト教軍は包囲の脅威にさらされる状況で、予備の精鋭をいつ突撃させるか決定しないといけないそうです。

 「The Charge of the 3 Kings」をお持ちの方は追加シナリオを試していただけると嬉しいです。このブログを書いている時点で小さなウォーゲーム屋さんではもう在庫わずか1になっているので、欲しいと思った方は善は急げですよ。あ、私、小さなウォーゲーム屋さんやNACの回し者ではないですからね。ここんとこスペインのウォーゲーム界が活気づいているので、それにあやかりたいと思っているだけです。このあいだもバスクのほうでウォーゲームのイベントありましたし。いいなー。

2023年4月1日土曜日

第一回十字軍最後の戦い Ascalon 1099 - Infidel, Men of Iron Tri-pack(GMT) AAR ②

  このシナリオでは最初に両プレイヤーがサイコロを振り、大きい目を出した側から活性化が始まる。アッラーの恩寵か、最初の活性化を獲得したのはファーティマ朝軍となった。十字軍が接近! 眠りこけているマムルーク重騎兵部隊(紫)に警報を与えてたたき起こす。

 十字軍は、敵が態勢を整える前に一気呵成に攻撃しようと中央のノルマンディー公ロベール二世(Robert II, Duke of Normandy)の部隊(赤)を前進させるが、後が続かない。対照的にファーティマ朝軍は先ほど警報を与えたマムルーク重騎兵を混乱状態から回復させ、続いてその前面に布陣しているのベルベル中騎兵部隊(緑)も回復させる。


 さらにファーティマ朝軍は、混乱から回復したベルベル中騎兵部隊を左翼に展開、歩兵部隊の側面を守らせる。一方の十字軍は各隊をやっと攻撃できる距離まで前進させた。あれ、イスラム側は虚を突かれたんじゃなかったっけ。こりゃ奇襲失敗だろ。



着々と防御態勢を整ていくイスラムの軍勢を見て焦る十字軍は、中央のロベール隊(赤)に攻撃を命ずる。まずは敵のスーダン弓兵に射撃戦を仕掛けた。このスーダン弓兵はフレイルを装備した弓兵(Archers with Flails, AF)という、特殊な弓兵となっている。

 ファーティマ朝の軍には多くのスーダン人が含まれていて、その弓兵はフレイルというチェーンでつながった棍棒のようなものを持っていた。まあ、たぶんこんな感じ↓でしょうね。

flail - Google 検索

接近戦ではこのフレイルを振り回して敵をぶん殴っていたらしい。当たったら鎧もろとも骨を砕かれそうで怖い。Men of Ironシリーズ(MoI)では通常の弓兵は白兵戦では脆弱なのだが、スーダン弓兵はこんな狂暴な武器を持っているため強力で、攻防ともに槍兵に勝る。

 ただし、スーダン弓兵は射撃をしてしまうとその活性化中は弓兵扱いとなり白兵戦では脆くなる。スーダン弓兵は弓兵同様、敵から射撃を受けると応射(Return Fire)ができるのだが、その直後に白兵戦に巻き込まれると不利なのだ。そのためまず十字軍は射撃戦を仕掛けたのち、すぐに騎士3ユニットを突撃させた。


 射撃をしていたスーダン弓兵はフレイルに持ち帰る余裕もなく騎士の突撃を受ける。MoIでは弓兵は前面に敵が移動してきたら対応射撃(Reaction Fire)ができるのだが至近距離からの射撃をものともせず騎士が突っ込む。聖地を奪還して士気が最高潮の騎士が異教徒の弓矢に怯むわけがないだろうが! だが突撃のサイの目が振るわず、3ユニットのうち2つが混乱状態となってしまった。


 残りの2隊もロベール隊に続くのだ。高い活性化値の真価を見せろ!! と十字軍プレイヤーが両翼の部隊を叱咤するも、継続活性失敗。キリスト教徒たちが躊躇している隙にファーティマ朝軍の弓兵部隊がロベール隊に弓矢の雨を降らせ、次々と混乱させていった。



 自軍中央部隊の苦境を見て奮い立ったか、左翼のゴドフロワ・ド・ブイヨン(Godfrey of Bouillon)、そして右翼(マップ左方)のトゥールーズ伯レーモン・ド・サン・ジル(Raymond IV, Count of Toulouse)が動く。まずはゴドフロアの部隊(青)が射撃戦、そして騎士が突撃。たまらずスーダン弓兵が蹴散らされる。レーモンの騎士もベルベル中騎兵に突撃。敵陣に切り込んでいった。


 左右両翼から十字軍の猛攻を受けたファーティマ朝軍は左翼のベルベル中騎兵を動かす。先ほどの突撃で突出してるレーモン隊(黒)の騎士を4ユニットで包囲攻撃。強力な騎士も数の暴力には勝てず、損害を被る。



 以前アンティオキアのAARでも書いたが、騎士はすさまじいほど強力なのに中騎兵は弱い。どれくらい弱いかというと槍兵と同程度であり、足の速い歩兵、ぐらいの感じである。騎士に対抗する手段としては、突出してきた相手を多くのユニットで包囲して袋叩きにする、ぐらいしかないのだ。



つづく

マーケット・ガーデン80周年なので読んでみた、『9月に雪なんて降らない』

 1944年9月17日の午後、アルンヘムに駐留していた独国防軍砲兵士官のJoseph Enthammer中尉は晴れわたった空を凝視していた。自分が目にしているものが信じられなかったのだ。 上空には 白い「雪」が漂っているように見えた。「ありえない」とその士官は思った。「9月に雪な...