ロシアのウクライナ侵攻以来、ソヴィエトのことをメディアがちらほら取り上げている印象があって、先日録画していたNHKでスターリン関連の番組を2,3見た。それで思い出したのが、10年近く前に読んだ『Young Stalin』。
この本は確か書店でたまたま見つけたんだけど、表紙を見て若いイケメンの肖像とStalinという文字がマッチせずに脳がバグッてしまいました。え、何これスターリン?!って感じで。慌てて手にとって読んでみると、これがまあ面白かったです。だってね、いきなり銀行強盗のシーンから始まるんですよ。で、その後もぐいぐい引き込まれて読み進めていった記憶があります。
今回読み直してみたんだけどやっぱり面白かったです。スターリンが生まれてから1917年の十月革命までを描いているんだけど、権力を握る前のスターリンってあんまり知られていないと思うんですよね。この本はそんな無名時代をビビッドに描いています。筆者サイモン・セバーグ・モンテフィオーリはスターリンの故郷グルジア(今のジョージア)まで行って取材したそうです。
同じ筆者が『Stalin: The Court of the Red Tsar』(和訳は『スターリン 赤い皇帝と廷臣たち』)というのを書いていて、権力を掌握した後のスターリンを描いているんだけどこっちの本のほうが『Young Stalin』より先に出されてかなり売れたはず。『Stalin: The Court of the Red Tsar』は具体的な場面の描写というかエピソードが多くてスターリンっていう人間を具体的に想像できるんだけど、『Young Stalin』もそんな感じです。
『Young Stalin』を読んでいると、若者が名誉欲や野心に駆り立てられて政府に立てつくという、痛快というと言いすぎだけど、ちょっとした冒険小説みたいな感じも受けました(あくまで個人の感想です)。だってシベリア送りとかになっているし。ロンドンにも行っていたなんて、知らなかったなー。若い頃は俺も無茶やってたぜ、みたいな感じで、それで更生していればあんな数々の悲劇を引き起こした冷血な独裁者にならなかったのに…。
しかし、なんであんなにモテるんだスターリン。危険な香りのするイケメンが理想に燃えて反政府活動に身を投じているって感じに映って、女性は惹かれるんですかね。
なお『Young Stalin』は、同じ筆者の『Stalin: The Court of the Red Tsar』と同じくエピソード中心で、当時の社会や政治について詳しく知りたいとか分析を読みたいという人には物足りないと思いますが、そういう本は結構出ているはずなのでそっちを読んでもらえばいいかと。
ちなみに『スターリン 青春と革命の時代』というタイトルで『Young Stalin』は和訳も出ているんだけど、表紙の印象が全然違うんですよ。もしかして別の本?って思うぐらい。
個人的には原著の表紙のほうが好きです。というか、黒地に青文字だと重い印象を受けてしまうし、写真も黒っぽいうえに制帽をかぶっていて堅苦しい感じで、あー粛清とかホロドモールとかいろいろやったスターリン……と読む前から気持ちが重くなるんですよね、自分は。
本の内容を考えたら、白をバックに若くてちょっとおしゃれな感じのイケメンがバーンと写っている表紙のほうがふさわしいんじゃないかな。日本の読者向けには独裁者スターリンのイメージを壊さないほうがいい、という版元の判断ですかね。ただ私は和訳のほうは読んでなくて、日本語だともっと暗い印象を受けるのかもしれませんが。
版元ではもう品切れで、アマゾンを見たら新品には結構いい値段がついていますね。原著のほうは、読みやすい英語で書かれていますしキンドルやペーパーバックだと数百円しかかからないのでありがたいです。