2024年4月28日日曜日

(幕間)北方十字軍関連の書籍

  13世紀のバルト海沿岸って言ったらウォーゲームでもマイナーで、ある程度知られているのは1242年の氷上の戦いぐらいじゃないかなと。ソ連のエイゼンシュテインが映画にしているし、凍った湖の上での戦いっていうのもキャッチ―だし。あとこの時期のこの地域で知名度があると言ったらドイツ騎士団(チュートン騎士団)ぐらいですかね。13世紀は、中東にむかった十字軍の影響を受けて前世紀に始まった、いわゆる北方十字軍がバルト海東岸に進出していった時期。12世紀にキリスト教勢力がバルト海南岸を征服し、今のリトアニアやエスニアにも手を伸ばしてくるのである ― という、いわばLevy&Campaignシリーズ「Nevsky」(GMT)の前日譚にあたる時期なんだけど、マイナーですよね…。


 でも北方十字軍に関しては日本語で『北の十字軍』がある。これ一冊読めばだいたいOK、と素人の自分は思ってしまうんだけれども、他にも何かないかなと探してみたら、以前紹介した『十字軍全史』にも北方十字軍についてちょろっと述べられていた。それよりなにより、「Nevsky」のPlaybookに参考文献として挙げられた『The Northern Crusades』っていうのがあった。タイトルどおり一冊丸ごと北方十字軍なんだけれども、The Conquest of the East Baltic Lands, 1200-1292という章があって、デンマークのエストニア進出に関しては数ページを使って解説しているし、その前段階のバルト海南岸のデンマークの進出も別の章で叙述してある。

 それと、『Crusading and Chronicle Writing on the Medieval Baltic Frontier』収録の2章“Bigger and Better: Arms Race and Change in War Technology in the Baltic in the Early Thirteenth Century”と“Mechanical Artillery and Warfare in the Chronicle of Henry”が同じく「Nevsky」の参考文献に入っていたんだけど、タイトルからわかるようにウォーゲーマー向きの内容。この本はリヴォニア年代記についてのいろんな論文を集めたものなんだけど、個人的にはナショナリズムとこの年代記との関わりを論じた最後の章が面白かったな。それと、リヴォニア年代記は12世紀後半から13世紀前半にかけてのエストニアとラトヴィアのことが描かれているんだけど、筆者は実際に北方十字軍に参加した宣教師と考えられている。でもこの年代記が本格的に研究されるようになったのはこの数十年だそうで、考古学的発見も併せて新しいことがこれからわかるかも、という状況らしい。なんか楽しみ。


 ゲーム「Lyndanise 1219」が収録されているVaeVictis118号には北方十字軍に関して12世紀後半から13世紀前半にかけてのヒストリカルノートが8ページで載っている。もともとこの号のメインの付録ゲームは帯剣騎士団のエストニア進出を扱った「De Sang et de Tourbe」(血と泥)で、1ターン1年で1208年から1225年までカバーする戦略級ゲームである。そのためヒストリカルノートも長い期間をカバーしているのだけれども、Lyndaniseの戦いのコラムもある。ちなみにLyndaniseはLyndanisseとs二つにする表記もあるようだけれども、ゲームはsひとつでコラムは二つ。どっちかに統一してほしい。まあ、別のコラムではバルト諸国の歴史に関しては地名が問題、なんてことが書かれていて、エストニア語やラトヴィア語のほかにドイツ語やラテン語でも表記されるからややこしいらしい。

 このLyndaniseの戦いのコラムではダンネブロについての伝説ももちろん紹介してある。

デンマーク軍が苦戦する中、ルンド大司教が両手を天に向かって掲げ祈り始めた。するとすぐに、デンマーク軍は敵の攻撃を跳ね返した。だが両手を下ろした途端、敵が勢いを回復してしまう。そうしている間に疲れ切った大司教は、もう両手を掲げて祈ることはできなくなった。エストニア軍はここぞとばかりに攻め立て守るデンマーク軍を圧倒し始める。だがそのとき、神のご加護によって、白い十字が描かれた赤い旗が空から降ってきた。この奇蹟に鼓舞されたデンマークの兵たちは敵を打ち破ったのだった。

 そりゃずっと両手を上げていたら疲れるよね、ライブやフェスじゃあるまいし……って、そこじゃない。苦境に陥ったデンマーク軍に、十字架が描かれた旗が空から降ってきて勝利するなんて、キリスト教のプロパガンダじゃねえか。たしかコンスタンティヌス帝でもそんな感じのエピソードあったよな…と思っていたら、このコラムでもちゃんと指摘してありましたよ。

 でもまあ、こうやって歴史的背景や伝説を知るとゲームもより一層楽しめるんじゃないかな。Levy&Campaignシリーズは定評があるから、参考文献を読んでぜひ「Nevsky」を……って、違った、今回はLyndanisseの戦いのAARの幕間だった。面白いミニゲームなので上記関連書籍もおススメです。

2024年4月24日水曜日

天からデンマーク国旗が降ってきた Lyndanise 1219(VV118) AAR②

 ●第1ターン(続き)

 エストニア軍の奇襲で大きな損害を受けたデンマーク軍だが、ダンネブロをゲット。このマーカーは、同じヘクスおよび隣接へクスのユニットの戦闘力と士気に1プラスする。このゲームではスタック禁止で多くのユニットが戦闘力2か3なので、+1となるのは大きい。


 奇襲効果で1ステップロスで配置されたデンマーク軍だが、自軍開始時に敵と隣接している場合は自動的に正常状態に戻る。それ以外のユニットは自軍ターン開始時にサイコロを振り、第1ターンは3分の1の確率で混乱から回復する。第2ターンは3分の2の確率、そして第3ターンはすべて回復するため、デンマーク軍にとっては最初は損害を抑えつつ時間を稼ぐのが重要となる。逆にエストニア軍としては敵が奇襲効果が続いているうちになるべく多くの敵を壊滅させる必要がある。


 このターンでは騎兵を中心としてデンマーク軍の一部が混乱から回復した。 エストニア軍の強力な部隊はマップ右下方面にいるので、デンマーク軍は左方に部隊を後退させる。まだ混乱しているユニットが回復するまで時間を稼ぐのだ。その一方で、ダンネブロを得て戦力が向上している騎兵部隊が敵歩兵に反撃、損害を与える。さらに先ほどの攻撃失敗でステップロスしていた敵を、デンマーク軍指揮官が壊滅させた。

 このゲーム「Lyndanise 1219」が属する「A la Charge!」シリーズでは、低比率でも防御側士気チェック(DT)を含め攻撃側が有利な戦闘結果が出る確率が高い。戦闘力=士気なので、戦闘力の低いユニットはすぐにチェックに失敗して損害を被ってしまう。逆に戦闘力が高いユニットや指揮官とスタックしているユニットは士気チェックに成功する可能性が高く、DTの結果を被っても無傷でいられる。そのため、敵の強力なユニットに対して戦力をかき集めて高比率で攻撃するよりも、低比率で戦闘力1や2のユニットを狙い撃ちにして攻撃し敵にじわじわと出血を強いる、という戦い方も有効である。


 ちなみに、このターンにデンマーク軍が撤退したマップ右下に展開する強力なエストニア軍だが、Revalaの部隊。このゲームのエストニア軍のユニットにはエストニアの旧地方名が書かれて、Revalaと言ったらこの戦いのあったLyndanise、今のタリンを含む地方だ。地元なだけに多くの兵を集められたということか。なおタリンはドイツ語では、地方名のRevalaからRevalと呼ばれていた。タリンはエストニア語で「デーン人の城」という意味だったらしく、ヴァルデマールが築いた城に由来する。


●第2ターン

 後退していくデンマーク軍をエストニア軍が猛追する。マップ上方で先ほど混乱から回復したばかりの敵歩兵を3対1の集中攻撃で壊滅させた。マップ下方では、ダンネブロを得たもののまだ混乱状態から回復していない騎兵を攻撃、後退させる。さらに戦闘力4と3の強力なユニットの攻撃で敵歩兵に損害を与えた。


 第1ターンから大きな損害を被っているデンマーク軍の累積損害は15。20に達したら負けである。だがこのターン、混乱状態で残っていたユニットがすべて回復した。敵の包囲網が縮まり行動の自由が奪われてしまう前に反撃すべし。マップ下方の敵は比較的強力だが、上方はほとんどが戦力2のユニットだ。狙うならそれらの弱小ユニット。下方の守りを指揮官とダンネブロに任せればいい。ダンネブロとスタックした騎兵ユニットには指揮官もいて、合計5戦闘力になるため下方からの敵を食い止める支柱になるだろう。デンマーク軍は騎兵を中心にして上方の敵に反撃を開始。敵1ユニットに損害を与えたものの、こちらも歩兵がステップロスと痛み分けに終わった。


つづく


2024年4月20日土曜日

天からデンマーク国旗が降ってきた Lyndanise 1219(VV118) AAR①

  先日、「デンマーク侵攻のゲームはあるかな?」ってつぶやきを見て、そういや4月9日はドイツ軍がデンマークに侵攻した日だったなと思い出した。

デンマークは一日も持たずあっさり降伏したのでそりゃゲームにはなりづらい。まあ、ASLのシナリオではデンマーク戦があるらしいし、「Noruega 1940」というノルウェー侵攻を扱ったゲームのシナリオとして、ALEA38号にデンマーク侵攻の仮想戦が載っているけど。

 ぶっちゃけWW2ではデンマークってしょぼいというか、思いっきり弱小国の印象だけど、でもね、昔っからそんな感じだったわけじゃないんですよ。かつては北欧の強国で、トルフィンの時代に西はイングランドを征服しているし、東はバルト海に勢力を広げている。クヌートのイングランドの戦いは以前プレイしたことがあるので、今回はバルト海方面での戦いをやってみた。


 プレイしたのは1219年に今のエストニアの首都タリンにあたる場所で起こった戦い。11世紀末に始まった十字軍の影響でバルト海沿岸もキリスト教勢力による征服が進んだ。12世紀末ごろには今のリトアニア、そしてエストニアもキリスト教化の対象となる。だが先住民である異教徒の執拗な抵抗にあい、デンマーク王ヴァルデマールII世に援軍を派遣するよう要請が来る。1219年、ヴァルデマールII世は大艦隊を率いて現在のタリン付近Lyndaniseに上陸した。強力なデンマーク軍にエストニア人は抵抗するべくもなく降伏を申し出る。だが、そうして油断させておいたところにエストニア人は奇襲をしかけた、という戦い。

 ゲームは「Lyndanise1219」といってVaeVictis118号の付録で、前回AARを書いた「Basileus II」と同じく中世の会戦を簡単なルールでシミュレートしたA la Charge!シリーズである。

 デンマーク軍をエストニア軍が挟撃する形になるのだが、奇襲効果でデンマーク軍は最初はステップロスの状態となっており、時間がたつにつれ回復していく。またデンマーク軍の指揮官は3ユニットあるが、そのうち1ユニットだけが本物のヴァルデマールII世でほかの2つはダミー。どれが本物かはエストニア軍にはもちろん、奇襲による混乱を反映してデンマーク軍にもゲーム中盤になるまでわからない。

 このLyndaniseの戦いでは、デンマーク軍は油断しきっていたところにエストニア軍の攻撃を受けて苦戦に陥る。危うしデンマーク軍! そのとき、天から白い十字架が描かれた赤い旗が降ってきた。おお、これこそ神のご加護が我らにあることの印! デンマークの兵たちはこの奇蹟に奮起、エストニア軍を打ち破った。そしてこの時現れた旗がのちのデンマーク国旗ダンネブロになったのである……という伝説があったりする。このゲームでも、デンマーク軍の壊滅したユニット戦闘力合計が12になるとダンネブロが現れることになっている。

 このゲーム、以前MAでAARを書いたことあるけど、ルールはシンプルでコマ数が少なく5ターンなのでサクッと終る。そのわりには上記のようにいくつか仕掛けがあるので飽きがこず、個人的には気に入っている。


●第1ターン

 エストニア軍が東西(マップ下と上)から奇襲をしかけた。混乱状態のデンマーク軍は次々と壊滅していく。唯一、マップ下方では攻撃側にも出血を強いたものの、その隣の精鋭騎兵が士気チェックを強いられ失敗、兵は恐慌状態となり戦場から逃げ出した。この騎兵ユニットは正常状態だと戦闘力4とデンマーク軍最強なので、初っ端から壊滅してしまうのは非常に痛い。

 だがその時、おお、天からダンネブロが降ってきた。神のご加護を信じて戦うのだ!


つづく

2024年4月17日水曜日

ビザンツ帝国軍vs歴戦の傭兵部隊。フランク重騎兵は裏切るのか、ヴァリャーギ親衛隊は敵の猛攻をしのげるのか Pont de Zompos 1074 - Basileus II(VV162) AAR③

 ●第5ターン(続き)

 ついに強力なフランク重騎兵が敵に寝返ってしまい、ラテン軍の攻撃で壊滅する部隊が出てきたビザンツ軍だが、必死に反撃。先ほどフランク騎兵の攻撃をしのいだマップ左端の騎兵が逆に敵の歩兵を壊滅させる。そして弓兵と弓騎兵をかき集め、突出してきているラテン軍騎兵に集中射撃、4戦闘力の敵精鋭騎兵をステップロスさせた。


●第6ターン

 指揮官のルーセル・ド・バイユールが陣頭に立ち、中央部で激しく攻め立てる。マップ左方ではヴァリャーギ親衛隊が意地を見せラテン軍騎兵2ユニットの攻撃を撃退したものの、これまでの激戦で消耗していたビザンツの歩兵が次々と壊滅していった。これでビザンツ軍の累積損害は一気に15に上り、ラテン軍の損害を上回ってしまった。


 そして迎えたビザンツ軍ターン。これまで静観していたビザンツ軍右翼だったが、友軍の苦戦を見かねてついに動いた。前進して敵の左翼(マップ右方)を抑えにかかる。


 このビザンツ軍右翼を率いるニケフォロス・ボタネイアテスは戦闘経験豊富で、戦いの前に指揮官のドゥ―カスに対して慎重に行動するように進言したが、ドゥ―カスは聞かずにZompos橋を渡って敵に攻撃をしかけたらしい。ちなみにこの戦いの4年後に皇帝となるが、1081年にアンナ様のお父様によって帝位を奪われている。


 やっと動いたニケフォロスの部隊に戦場の右方はまかせ、指揮官のドゥ―カスが中央に転進してルーセルに突撃。傭兵の分際でビザンツ帝国に反旗を翻すやつは生かしておけん! ヴァリャーギ親衛隊の支援も受けて、ルーセル直属のラテン精鋭騎兵に損害を与える。さらにはマップ左方で敵騎兵を壊滅、ラテン軍の累積損害は14とビザンツのそれに迫った。


 この戦いのビザンツ軍の指揮官ヨハネス・ドゥ―カスは名門ドゥ―カス家の一員で、当時の皇帝ミカエル7世の叔父。だがこの戦いで敗北しルーセル・ド・バイユールの捕虜となった。その後ルーセルがコンスタンティノープルの皇帝ミカエル7世の政権を転覆させるためにこのヨハネス・ドゥ―カスを皇帝に擁立、ヨハネス・ドゥ―カスは甥である皇帝に反旗を翻すことになる。だがビザンツと手を組んだセルジューク・トルコによって捕えられるという人生を送っている。


●第7ターン

 戦場の中央と左方で激戦が続き、両軍とも消耗が激しい。ラテン軍はいまだ無傷でいるマップ右方の騎兵2ユニットを中央にシフトさせようとするも、猪突猛進のチェックに失敗、全く意のままに動かない。この激戦でラテン軍騎兵は興奮しているのか、さきほど前進してきた、目の前のビザンツ軍右翼にむかってしまった。

 マップ左方ではビザンツ騎兵を包囲、寝返ったフランク騎兵が攻撃するもAR。やはり裏切者に対してはビザンツの兵たちも通常以上の力が出るのか。しかし、これまで攻守ともにビザンツ軍を支えてきた精鋭のヴャリャーギ親衛隊が、ルーセル・ド・バイユールの攻撃でついに壊滅した。


 これでビザンツ軍の累積損害は19となった。20に届いたら負けである。自軍が崩壊する前に敵を打ち破らなくては。指揮官のドゥ―カスが猛攻、敵騎兵をステップロスさせる。自軍指揮官の奮戦に士気が上がったか、マップ左方でこれまで何度も敵の攻撃をはねえしてきたビザンツ騎兵がラテン軍歩兵を蹴散らす。そして弓兵と弓騎兵の集中射撃でラテン軍の弓兵が壊滅。ラテン軍の累積損害が17に上る。ラテン軍は累積損害が18になったら負けなので、ビザンツ軍同様に後がなくなってしまった。


●第8ターン

 両軍ともに、あと1ユニット敵を壊滅すれば勝ちである。ラテン軍は各所で必死に攻撃して敵に損害に与えるものの、除去には至らず。逆にビザンツ軍は、指揮官のドゥ―カスが陣頭に立って敵騎兵を包囲、殲滅した。これでラテン軍は累積損害が18を超えてしまい、敗北となった。


 傭兵の反乱は抑えられ、ビザンツ帝国は一息つけることになる。だが一筋縄ではいかないルーセル・ド・バイユールはこの戦いに敗北しても性懲りもなく帝国に反旗を翻すことが予想される。実際、史実ではルーセルはこの勝利するもののその後アンナ様のお父様に捕らえられ、釈放されて反乱鎮圧に派遣されるもののもまた反乱に加わっている。こんなノルマン傭兵を使わざるを得ないビザンツ帝国の苦悩がうかがえますな。しかもZomposの約20年後にはセルジューク・トルコに対抗するため西欧から蛮族を呼び寄せたと思ったら、宗教的熱狂に包まれた騎士たちが大挙してやってきちゃったという。よくまあビザンツは千年続いたもんだとまたも思ってしまいます。


 この「Basileus II」、ルールはもちろんヒストリカルノートも和訳しているんで、ご興味持たれた方はぜひプレイしてみてください。


2024年4月13日土曜日

ビザンツ帝国軍vs歴戦の傭兵部隊。フランク重騎兵は裏切るのか、ヴァリャーギ親衛隊は敵の猛攻をしのげるのか Pont de Zompos 1074 - Basileus II(VV162) AAR②

 ●第3ターン(続き) 

 敵ラテン軍の一斉攻撃を受けたビザンツ軍だが、ひるむことなく反撃。将軍ドゥ―カスは精鋭騎兵のAthanatoiを率いて突撃する。ちなみにこのAthanatoi、「不死」という意味らしい。中央では3ユニットいるヴァリャーギ親衛隊が奮戦。ビザンツ軍の激しい攻撃でラテン軍も損害を被っていった。


●第4ターン

 両軍がやっとぶつかったこのタイミング。フランク騎兵よ、寝返ってくれ! というラテン軍の思いに反して、またもビザンツを裏切らず。このフランク騎兵は戦闘力4と強力なので、相対している右翼(マップ左方)が危ない。ラテン軍は中央の精鋭騎兵を右翼の支援に回そうとするが、猪突猛進(Impétuosité)のチェックに失敗。目の前の敵に突っ込んでいってしまう。マップ右方の騎兵も左方にシフトさせようとするが、これまたチェックに失敗しすぐ近くの敵に向かって突進してしまった。ええい、この脳筋どもめ、目の前の敵に飛びかかるのではなく、もっと頭を使え! 頭に血が上っている兵たちを思うように動かせないラテン軍だったが、右翼(マップ左方)で反撃、敵を壊滅させ包囲されていた騎兵を救出した。

 また中央では指揮官のルーセル・ド・バイユールが精鋭騎兵を率いてヴァリャーギ親衛隊を強襲。ルーセルはスタックしているユニットの戦闘力に+2できるため、さしものヴァリャーギも損害を被って後退した。

 ヴァリャーギはビザンツの精鋭部隊で、皇帝の親衛隊となっていた。主にスカンディナビア出身の兵からなっていたが、北欧から西にむかって略奪行を繰り返したのがヴァイキングと呼ばれていたのであり、東に向かってビザンツに雇われたのがヴァリャーギなわけである。

 「ヴィンランド・サガ」でいい味出しているキャラの蛇は、漫画でははっきり描かれていなかったけどアニメではビザンツでヴァリャーギとして戦っていたことが示唆されていましたね。以前紹介したヴァイキング小説「The Long Ships」はスウェーデン南部が主な舞台の一つですが、ビザンツ皇帝に仕えたって人が登場していました。それになにより、漫画「アンナ・コムネナ」の第一巻でも金髪碧眼でひげもじゃのヴァリャーギ親衛隊とアンナ様が会話しているシーンがちょろっと出てきますね。

 ただ1066年にビザンツから遠く離れたイングランドでノルマン・コンクエストが起き、敗北したアングロ・サクソン系の兵がビザンツに流れ来たそうだ。Zomposの戦いがあったのは1074年で、この時期のヴァリャーギにはイングランド出身の兵が多く含まれていたと推測する資料もあった。


 ラテン軍の激しい攻撃に対してビザンツ軍も負けずにやり返す。マップ右方では指揮官のドゥ―カスが陣頭で奮戦、敵騎兵を壊滅させる。またマップ左方ではビザンツ陣営にとどまっているフランク騎兵がその戦闘力を発揮、敵騎兵を蹴散らした。そしてステップロスして1戦闘力となっているラテン軍歩兵をヴァリャーギ親衛隊が鎧袖一触。合計ラテン軍3ユニットを壊滅させた。


 A la charge!シリーズでは基本的に、勝敗は敵に与えた損害の数で決まる。両軍とも壊滅したユニットの戦闘力を合計していき、シナリオで決められた軍士気閾値(seuil de Moral d'Armée)に達すると負けとなる。このZompos橋の戦いでの両軍の士気閾値は、ビザンツ軍は20、ラテン軍は18だ。

 このターンのビザンツ軍の攻撃でラテン軍の累積損害は8に上った。一方、ビザンツ軍はまだ3。フランク騎兵が早く寝返らないとラテン軍としては苦しい戦いとなる。


●第5ターン

 形勢不利となってきたラテン軍だが、ここでフランク騎兵が寝返り! ビザンツを捨て、同じ西欧出身の傭兵としてルーセルたちと運命を共にする気になったのか。

 マップ左端で孤立することになったビザンツ騎兵を歩兵とともにフランク重騎兵が攻撃するも、傭兵の裏切りに憤ったビザンツの兵たちが奮戦、3ユニットによる攻撃を持ちこたえた。だが中央では再びルーセル・ド・バイユールの攻撃を受けたヴァリャーギ親衛隊が消耗、さらにはマップ右端でこれまで敵の猛攻をしのいでいたビザンツ騎兵もついに力尽きて壊滅した。


つづく


2024年4月10日水曜日

ビザンツ帝国軍vs歴戦の傭兵部隊。フランク重騎兵は裏切るのか、ヴァリャーギ親衛隊は敵の猛攻をしのげるのか Pont de Zompos 1074 - Basileus II(VV162) AAR①

  漫画「アンナ・コムネナ」の第5巻が出ましたね。これでビザンツ関連の話題がまた盛り上がると思うんですけど、おりしもVaeVictisの最新号の付録ゲームは、6世紀東ローマ帝国を扱った「Romanitas」。プレイの例までデザイナーさんが公開してくれていたので和訳したし、ルールも和訳したし、それにソリティアだからプレイのハードルはかなり低いはず。アンナ様より数世紀前のビザンツが、ユスティニアヌス帝のもとでかつての栄光を回復し、その後は四方を敵に囲まれながら帝国を存続させる過程を味わえます。みんなプレイしようね!


 と一人で盛り上がっていたんだけれど、ビザンツの戦いをやりたくなって出してきたのがVaeVictis162号の「Basileus II」。10~11世紀のビザンツ帝国の東方での戦いが5つ収録されている。でもね、5つの戦いのうちビザンツが勝ったのは1つだけなんですよ。そのうちの一つはビザンツが大敗したマンジケルト。この時期の中東方面の戦いでマンジケルトは外せないってのはわかるけど、でも他のはビザンツ勝利のものをもっと選んでくれてもよかったんじゃない、とちょっと文句言いたくなる。


 それはさておき今回プレイするのはZompos橋の戦い。場所は現在のアンカラの南西のほうらしい。西欧からやってきた傭兵隊長ルーセル・ド・バイユールRoussel de Bailleulが反乱、アナトリア地方に自分が支配する地域を打ち立てようとするが、3年前のマンジケルトで大敗してから落ち目のビザンツ帝国としてはそんなことを認めるわけにはいかず討伐軍を送った、というもの。時代的には第一回十字軍の約20年前で、アンナ様のお父様のアレクシオス一世はまだ帝位についていないどころか20歳前後の若造だったころ。

 この戦いでもビザンツ側は負けたんだけど、なんでこのシナリオを選んだかというと、以前読んだ『The Norman Commanders』にルーセル・ド・バイユールが出ていたから。11世紀後半、南伊で急速に勃興したノルマン勢力のもとで戦歴を積んだ後、ビザンツの傭兵となり重騎兵を率いて活躍したというこの人物、いっぺん戦わせてみたくなるじゃないですか。

 このZompos橋の戦いのシナリオは、両軍が相対しての初期配置となる。マップ上には橋はないが、ビザンツ軍は橋を渡り、ルーセル・ド・バイユールの軍勢にむかって進軍してきたそうだ。

 ビザンツ軍はラテン軍(ビザンツでは西欧人のことをラテンと呼んだ)よりわずかに数で勝っているように見えるが、右翼の4ユニットは毎ターン動向チェックがあり、20%弱の確率でしか動かない。しかもサイの目によっては移動のみで戦闘不可とか、2ユニットのみ移動・戦闘可能などかなり制限があるため、ビザンツ軍は右翼をあてにできなくなっている。それに加えて、ビザンツ軍の左翼にいる強力なフランク騎兵は敵に寝返る可能性がある。そのため、ビザンツ軍はかなり不確定要素を抱えながら戦うことになる。

 一方のラテン軍は戦闘力+2となる強力な突撃能力をもつ騎兵が主力。ただし同軍の騎兵はすべて猪突猛進(Impétuosité)の性質を持ち、敵の3へクス以内で移動しようとすると3分の1の確率で一番近い敵に向かって移動してしまう。血気盛んな西欧の傭兵たちが、指揮官の言うことを聞かず目の前にいる敵に突進していくって感じかな。このため、ラテン軍は計算どおりに攻撃できないということが起こりえるのだ。


●第1~第3ターン

 ラテン軍は少しずつ距離を詰めていく。敵左翼にいるフランク騎兵は毎ターン寝返りチェックがあり6分の1の確率で裏切るため、時間を稼いで裏切りが発生したときにここぞとばかりに攻撃すればいいのだ。

 一方のビザンツ軍もじわじわと敵に前進していく。フランク騎兵が寝返る前に攻撃したいが、ビザンツ軍の主力は歩兵で移動力が2しかなく、歩騎が協調して攻撃するためには歩兵の移動力に合わせる必要がある。またラテン軍の騎兵は戦闘力が+2となる突撃が行えるが、そのためには3へクス離れたところから移動してきて攻撃する必要がある。敵の強力な突撃を封じるよう、ビザンツ軍は距離を詰めていった。

 先にしびれを切らしたのはラテン軍の方だった。フランク騎兵が裏切るまで交戦を避けて後退しようにも、敵を眼前にして興奮した騎兵たちが勝手に攻撃をしかけてしまうかもしれない。ならばこちらから打って出る! と早くも第3ターンに攻撃をしかけた。このゲームは「A la charge! (突撃!)」というシリーズの一つなのだが、このシリーズでは1.5対1の低比率でも3分の2の確率で攻撃が成功するため、積極的に攻撃したほうがいい場合が多い。


 マンジケルトで惨敗したビザンツ帝国など恐るるに足らず。俺たち傭兵がいなけりゃろくに戦争もできないだろうが! 一斉にビザンツ軍に襲いかかったラテン軍。敵中央のヴァリャーギ親衛隊の奮戦で指揮官ルーセルが撃退されたものの、ビザンツ軍に次々と損害を与えていった。


つづく

マーケット・ガーデン80周年なので読んでみた、『9月に雪なんて降らない』

 1944年9月17日の午後、アルンヘムに駐留していた独国防軍砲兵士官のJoseph Enthammer中尉は晴れわたった空を凝視していた。自分が目にしているものが信じられなかったのだ。 上空には 白い「雪」が漂っているように見えた。「ありえない」とその士官は思った。「9月に雪な...