黒太子っていったらもうね、説明の必要もないくらいの名将ですよね。ポワティエで寡兵でもってフランス軍を叩きのめし仏王ジャン2世を捕虜にしたのを筆頭に、ナヘラでは敵を側面から奇襲して完勝、10代半ばにしてクレシーでも戦っていてるという、百年戦争時代のイングランド軍を代表する指揮官の一人。黒太子っていう呼び名もなんかカッコいいし。
でも、上記の戦い以外は騎行でフランスの領土を荒らしまわったとか、ナヘラで勝ったはいいけど財政的にはかなり厳しくなったとか、そういうことぐらいしか知りませんでした。なんかいい本ないかなと思っていたところに見つけたのがこれ。タイトルもそのまんまの『The Black Prince』です。
鎧関係の博物館の売店で売っていて、ここがおすすめしているんだったらあんまり外れの本ではないだろうと買ってみました。と思ったらその約一週間後にcou papaさんが「」Men of Iron」の「ナヘラ」をプレイしたってつぶやいていたんですよね。
GMT「Men of Iron」の「ナヘラ(Najera)」をオプション初期配置でプレイしました。
— cou papa (@pendragon2716) April 26, 2025
途中まで競っていましたが、パーシー卿、黒太子が相次いで倒れたイングランド軍が崩れ始め、ゲクラン、デニア伯が奮戦したカスティーリャ・仏軍が勝ちました。
この配置では、イングランド軍も簡単には勝てませんね😊 pic.twitter.com/dRZupAk9aG
おお、こんな偶然があるなんて、早く読めという天の導きに違いない。でも、自分は読むのが遅いので結構時間がたってしまいましたよ。とほほ。
この本は黒太子の生誕から死去までを追っているんですが、太子の生涯においては父王との結構問題のある関係が影響していて、そのことをより良く理解するためには父王エドワード三世の人生、とくにエドワード三世が大人になるときに起こったことをまずは知っておいた方がいい、なんて筆者は冒頭に言っています。そのため時代をさかのぼって黒太子が生まれる5年前から書き始めているんですが、エドワード三世の父と母の確執から始まって、対スコットランド戦の大敗とそのリターンマッチ、そしていよいよ対仏戦に乗り出して絶妙な機動を繰り広げてクレシーで仏軍を迎える……あれ? エドワード三世の本を読んでいたんだっけ? なんて思えるぐらい、黒太子の父王について書かれています。まあ、エドワード三世の話も面白いからいいんですけどね。クレシーの戦いでは当然、黒太子が苦戦に陥ったときのエドワード三世の台詞「let the boy win his spurs」も紹介されています。しかしまあ、スパルタ親父ですな。そのおかげで黒太子も鍛えられたと思うんですが。
でもちゃんと途中から黒太子が主人公になっていろいろと熱い展開があるんですが、1355年の南仏での騎行なんて、敵の裏をかく行軍でさすが黒太子、かっけーと思いましたよ。ポワティエ戦の前、黒太子の軍が仏領で孤立する一方で仏王の大軍が接近してきていたときは、the Prince always an instinctive commander, felt that his men's morale was faltering and that the best remedy was to involve them in some action.と、敵の城塞を激しい攻撃で陥落させることで軍の士気を引き締めたりしています。ポワティエ戦が始まろうとしている時も、斥候が戦場を埋め尽くすような敵の大軍について報告すると、黒太子は簡潔にlet us now study how we shall fight with them to our advantageと答えた、と書かれています。うーん、かっこいい。……しかし自分、カッコいいしか書いていなくて結構バカっぽい? でも黒太子カッケーと読んでいて何度も思ったのは事実なんですよ。
それと、財政的に大きな負担になったナヘラ戦を含むカスティーリャへの軍事介入ですが、もともと黒太子は反対していたそうで、父王エドワード三世の命令で仕方なくピレネーを越えて遠征したって描写されています。ここに限らず、エドワード三世の老害っぷりが次第にひどくなっていくんですよね。その一方で黒太子の病がどんどん進んでいって、ナヘラ以降は読んでいくのが結構つらくなりました。
でも黒太子をほめまくっているわけではなく、出費には鷹揚で臣下にも大盤振る舞いをしたということが繰り返し書かれています。とはいえ、黒太子の汚点として伝えられている晩年のリモージュの住民虐殺については、The 'blackening' of his reputation, in part through the insinuations of Jean Froissart, can now be righted.と、このことについて下記残しているフロワサールを批判していますね。The chronicler Jean Froissart presents a challenge for every historian: at his best, he is well sourced and brings the period to life; however, he can also be unreliable and cavalier with the facts.なんて書いているですが、cavalierって言葉をこういうふうに使うんだ、うまいなーって思いました。
と、本文400ページ強の中でここがよかったぜーという部分はもっといろいろあるんですが、キリがないのでこの辺で。この本は私のように黒太子についてもっと知りたいっていう場合にはピッタリだと思います。それに百年戦争に興味がある人も読んでみると面白いんじゃないでしょうか。







