2022年9月29日木曜日

重騎兵の突撃、そして側面からの奇襲 Sagrajas 1086 (Alea 38) AAR ④

 ●2ターン目(第4ターン)

―イスラム教軍ターン 

 潰走ユニットが1ユニット、戦場から逃走。そしてもう1ユニットはがっちりと戦列を組んでいる味方ユニットに阻まれ壊滅した。

 押され続けているイスラム教軍だが、残存兵力で反撃する。戦列中央ではこの前のキリスト教軍ターンで、潰走したイスラム教軍ユニットを追ってキリスト教軍騎兵が戦闘後前進していており、その結果わずかながら戦列に隙間が生じていた。戦闘結果で防御側が潰走すると戦闘後前進はマストなのだ。

 このゲームではいわゆるZOCはユニットの正面ヘクスにしか生じず、側面や背面は敵の移動を妨げない。イスラム教軍は乱れた敵戦列の間隙を見逃さず、騎兵の側面から背面に回り込み壊滅させた。


 2ターン目(第4ターン)終了時でキリスト教軍の勝利得点は60で、イスラム教軍の約2倍半だ。次ターンには敵騎兵集団が高地から降りてくるだろう。キリスト教軍はこの得点差を大きく減らすことなく退却できるのかどうか。逆にイスラム教軍は得点差をどれだけ埋めることができるのか。


●3ターン目(第5ターン)

―キリスト教軍ターン

 このターンにムラービト軍騎兵集団が高地から降り始めるはず。というのも、それ以上遅らせてもアルフォンソ六世がマップ外に離脱可能になるターンは変わらない。イスラム教軍としてはアルフォンソが脱出してゲームが終了する前になるべく多くのキリスト教軍ユニットを壊滅させなければならず、主力である騎兵集団の投入を遅らせる意味はないからだ。


 となればキリスト教軍は後退すべし、と慎重なプレイヤーなら考えるかもしれないが、「突撃できる騎兵は突撃するんじゃ-!」と混乱状態から回復して突撃能力を取り戻した右翼(マップ左方)の騎兵たちを突っ込ませていく。3ユニットの連続突撃でムラービト軍歩兵を蹴散らし、敵陣深く切り込んでいった。

 でも、キリスト教軍の右翼って横から敵騎兵集団が現れる方面じゃないですか。だが「側面? そんなもん、敵に気にさせとけ!」とのたまうキリスト教軍プレイヤー。実際は、こちらの方面は敵騎兵に捕捉される可能性が高く、そのうち壊滅させられるのであれば突撃の破壊力を発揮して少しでも多くの敵を除去しておいたほうが得策、という冷静な計算のもとでやっていたそうである。

 それに突破した先にいる敵戦列第二線の左翼はC3の弓兵。突撃後に混乱状態になった騎兵はC4で、弓兵相手にも有利に戦える。もし突破してきたキリスト教軍騎兵の排除のために敵が騎兵を一部派遣してきたら、それこそ敵兵力の誘引となる、との考えだったらしい。リーダーユニットを間違って配置したプレイヤーとは思えない。



―イスラム教軍ターン

 ついにユースフ率いるムラービト軍騎兵集団15ユニットが高地を下り始める。そして中央ではムラービト軍がジャベリンで敵騎兵を混乱させ、セビリア・タイファ軍の精鋭A4騎兵がとどめを刺した。


  ジャベリンと言えば今次のウクライナ侵攻で有名になったが、このゲームで登場するのはもちろん、投槍のことである。古代ギリシアやローマの時代から使われていた由緒ある武器ですね。

 イスラム教徒の軍隊に関する資料で手に入りやすいものは少ないと思われるが、OspreyのMen-at-Armsシリーズ『El Cid and the Reconquista 1050-1492』によると、ムラービト軍の歩兵はもともと、ファランクスのような密集陣形で戦っていたらしい。第一列が長い槍、大きな盾で守り、その後方からジャベリンを投げる。機動性はないががっちりと守るというイメージか。

 

●4ターン目(第6ターン)

―キリスト教軍ターン

 敵主力が遂に側面から現れた。敵の奇襲にお約束で驚愕するキリスト教軍プレイヤー。これ以上の攻勢は無理だと判断したキリスト教軍は後退を始める。

 3ターン目(第5ターン)終了時で両軍の勝利得点はキリスト教軍77、イスラム教軍33と、いまだ2倍以上の開きがある。敵騎兵集団のいるマップ左方の部隊を足止めに使い、その他の方面ではなるべくユニットを温存しながら、アルフォンソ脱出が可能になる7ターン目(第9ターン)まで粘るしかない。

 

 だがこのゲームでは、敵ユニットの正面ヘクスにいるユニットは1へクスしか移動できない。そのため、遅々とした後退になってしまう。


 幸い、キリスト教軍騎兵は練度・戦闘力ともに高く、混乱状態でもほとんどのユニットがC4だ。諸タイファ軍のB4ユニットやムラービト軍歩兵のA3ユニットが攻撃する場合、DRM+1にしかならないうえ、戦闘結果で混乱が出てもすでに混乱状態のユニットには影響がない。損害を受ける確率は8分の3、37.5%で、攻撃側が混乱する確率は8分の2、25%あるため、攻撃側にとって大きく有利なわけではない。しかも正常状態のキリスト教軍騎兵が守る場合はさらに攻撃成功の可能性が低くなる。中央やマップ右方では何とか守りながら後退していけるだろうというのがキリスト教軍プレイヤーの希望的観測である。


つづく



(以前、SNSマストアタックに書いたものです。修正を加えている場合があります)

2022年9月27日火曜日

重騎兵の突撃、そして側面からの奇襲 Sagrajas 1086 (Alea 38) AAR ③

 ●初回ターン(第3ターン)

―イスラム教軍ターン

 このゲームでは、移動フェイズの最初に潰走ユニットは自軍マップ端に向かって全移動力を使って移動しなければならない。しかも通常の移動力は3だが、潰走中は4に増える。必死に逃げているんでしょうなあ。

 マップ外へ移動したユニットは壊滅あつかいとなる。また潰走中、移動先に自軍ユニットがいる場合、その自軍ユニットは後退し潰走が続くが、後退できない場合は潰走ユニットは壊滅する。必死に逃げているのに味方が避けてくれなくて部隊が散り散りになった、という感じか。がっちりと後方で戦列を組んでいたムラービト軍歩兵に阻まれ、潰走していた2ユニットが壊滅した。


 敵の重騎兵集団の強烈な突撃をくらったイスラム教軍だが、ムラービト軍歩兵を前進させ、積極的に反撃を行う。キリスト教軍騎兵は突撃で混乱状態になっていたが、ほとんどの反撃を跳ね返す。だがそれでも2ユニットが壊滅、1ユニットが潰走した。8面体ダイスって、10面体ほどじゃないけど極端な目がでることがありますよね。

 さらに左翼の高地でムラービト朝の君主ユースフ率いる騎兵集団が前進。キリスト教軍の側面を脅かし始めた。




 数では優位に立っているイスラム教軍は、左翼のムラービト軍騎兵集団を最初から投入すればキリスト教軍を圧倒できるはずだ。だが史実では、ムラービト朝君主ユースフはキリスト教軍と諸タイファ軍を戦わせている間に側面に回り込んでいる。ユースフにとっては諸タイファは信頼のおける同盟相手とはいいがたく、キリスト教軍と諸タイファの軍勢がつぶしあっていくのを冷静に眺めていたらしい。

 ムラービト軍騎兵が早い段階で投入されるのを抑制するために、このゲームでは騎兵集団が丘を降り始めるとキリスト教軍の援軍の登場が早まるというルールがある。敵の奇襲に気が付いたアルフォンソ六世が、後方の野営地に残してきた歩兵を急いで戦場に呼び寄せる、ということらしい。


 それよりなにより、ムラービト軍騎兵の投入はゲームの終了に大きくかかわる。このゲームはアルフォンソ六世がマップ上端からマップ外に離脱したターンに終了する(もしくは10ターン目、第12ターンに終了)。離脱が可能になるのは騎兵集団が高地を降り始めてから4ターン後、もしくは7ターン目(第9ターン)からだ。

 アルフォンソがいつまで粘るかにもよるが、騎兵集団が敵を補足して攻撃するのに使える時間は多くない。そのためイスラム教軍としてはいつ騎兵集団を投入し、そのうちどれだけをマップ上端から突破させるのか考えなくてはならない。デザイナーズ・ノートにも書かれているが、イスラム教軍が早い段階で騎兵集団に丘を下らせてしまったら、キリスト教軍は最初の諸タイファ軍への攻撃で得た勝利得点を維持してさっさとマップ外に離脱してしまえばよくなるのだ。

 逆にキリスト教軍は1ターン目の突撃から継続しての攻撃で多くの敵ユニットを除去して得点を稼いだあと、どのタイミングで守勢に回るかを見極める必要がある。なお、キリスト教軍はアルフォンソがマップ外に脱出したターン数と同じVPを得られる(そのため、開始ターンを第3ターンにしてキリスト教軍が得られるVPを加算していると思われる)。いつ守りに入るかだけでなく、いつまで粘るのかを判断するのもキリスト教軍プレイヤーの楽しみ(苦しみ?)である。


●2ターン目(第4ターン)

―キリスト教軍ターン

 初回ターンの突撃のモメンタムを維持するのだ。どうせ守りに回っても敵に捕捉され、側面から騎兵集団の攻撃をうけるだけ。ならば優勢ないまのうちに少しでも多くの敵を除去しておいたほうがいい。

 そう考えたキリスト教軍プレイヤーは、後続の騎兵集団の一部も投入しこのターンも攻撃に出る。敵に隣接しているため突撃が行えないユニットがほとんどだったが、2ユニットを壊滅、中央部では1ユニットを潰走させた。


 さらに回復フェイズで混乱状態の3ユニットが回復。だが潰走ユニットはリーダーと同じもしくは隣接するヘクスにいないと回復が行えない。マップ上端を目指して潰走していたユニットにアルフォンソ六世が駆け付け、我先にと逃げる兵たちを押しとどめようとしたが失敗に終わった。



 このアルフォンソはキリスト教軍プレイヤーの配置ミスで別のリーダー、アルバル・ファニェスのユニットとなっている。

「偽物の王様っぽくて兵たちも言うことを聞かないんだよ。やっぱり最前線にいるリーダーをアルフォンソってことにする?」

「すんません、それだけは勘弁してください…」


つづく



(以前、SNSマストアタックに書いたものです。修正を加えている場合があります)

2022年9月23日金曜日

(幕間)Sagrajas 1086(ALEA38)ヒストリカルノートの和訳

  サグラハスの戦いがあった11世紀後半のイベリア半島の状況ってほんと、ぜんぜん知らないのでALEA誌のヒストリカルノートを訳してみました。

 小さなウォーゲーム屋さんにマストアタックで和訳を公開してもいいですかと聞いてみたら、版元Ludopressまでわざわざ確認してくました。ありがたや。お手間を増やして恐縮しました。

 で、Ludopressの公式ツイッターで拙訳をシェアしてくれました。ご興味ある方はどうぞ。

 ヒストリカルノートを読んでみると、イスラムのタイファ諸国が内輪もめばっかりしていて、なんだか十字軍の時期の中東と似た印象。ムラービト朝って名前しか知らなくて勝手にマイナーな印象をもっていたけど、イケイケだったアルフォンソの野望をくじいたってのをこのヒストリカルノートで初めて知りました。

 それと、スペインの主要都市といったらマドリードで、トレドは(というかトレドも)名前しか知らなかったけど、イベリア半島中央部に位置する重要都市だったんですね。サグラハスの前年にアルフォンソにとられるんだけど、そのショックでタイファ諸国が一応手を組んでキリスト教勢力に対抗した、ということから逆説的にトレドの重要性がよくわかる。数百年前に西ゴート王国の首都になっていたというのも知りませんでした。


 あと、今年4月に出たGMTのLevy & Campaignシリーズの新作『Almoravid』が1085-1086年のスペインを扱っていて、時代と地域がこのヒストリカルノートとかなり重なるんじゃないかと。


 中世のスペイン、で思い出すのが英雄エル・シド。といっても名前はなんか聞いたことがあるな、ぐらいなんだけど、チャールトン・ヘストン主演で映画になったりしている。OspreyのMen-at-Armsシリーズでは『El Cid and Reconquista 1050-1492』っていう本が出ていて、400年以上続いたレコンキスタよりもエル・シドが先にくるタイトルですよ。欧米ではそんなに有名なんですかね。エル・シドを描いた叙事詩は『エル・シードの歌』というタイトルで和訳が岩波文庫から出ているけど。

 そのエル・シドはちょうどサグラハスの戦いの時期の11世紀後半の人物で、サグラハスでは大活躍、と思いきや、この戦いには参加していない。なんで加わっていなかかったのかもヒストリカルノートのコラムで説明がしてあります。 


 Sagrajas 1086のデザイナーズノートは英訳されていて、公式サイトからダウンロードできます(英文ルールの最後についています)。ご興味ある方はどうぞ。

https://alealudopress.com/wp-content/uploads/2022/03/Sagrajas1086-ENG-rules.pdf


 ちなみに、Sagrajas1086がついているALEA誌38号には『Red Storm』(GMT)の機種カード6枚と追加ユニットが含まれています。

 ALEA誌の前号37号では第二次世界大戦のトーチ作戦の後、連合国軍がスペイン保護領モロッコに侵攻した『Operation Backbone』が付録ゲームになっています。36号では1921年のモロッコでのスペイン軍の戦いを再現した戦術級ゲーム『Cuestion de Honor』がついていて、サグラハスも含めご当地スペインのパブリッシャーならではのラインアップ。過去にはテルシオの16世紀の戦いも出していてもう絶版のようだけど、イタリア戦争あたりのゲームを出してくれないかな。



(以前、SNSマストアタックに書いたものです。修正を加えている場合があります)

2022年9月17日土曜日

重騎兵の突撃、そして側面からの奇襲 Sagrajas 1086 (Alea 38) AAR ②

●初回ターン(第3ターン)

―キリスト教軍ターン

 ゲームは第3ターン、キリスト教軍のターンから始まる。なんで第1ターンにしないかというと勝利得点に関係してくるからだと思うんだけど、それはまた後述する予定。


 キリスト教軍は当然、重騎兵集団が怒涛の突撃。烏合の衆など敵ではないわ! と突っ込んでくる騎兵に、グラナダ、セビリア、バダホスの諸タイファ軍は吹っ飛んでいった。敵を蹴散らしていくこの快感。初回ターンの突撃だけでもキリスト教軍やっててよかったと思えるんじゃないかな。


 Sagrajas1086では各ユニットは、A~Cの練度と、数字で表された戦闘力を持つ。戦闘の際は攻撃側と防御側の練度と戦闘力の差をDRMとするのだが、使うサイコロが8面体ダイスなのである。BGGでは、8面体ダイスなんて誰が持っているんだよという書き込みがあったけど、ほんと、8面体ダイス持っている人ってどれくらいいるんでしょうね。でもその書き込みは続けて「俺はRPGやるから持っているけど」なんて書いている。持ってるんかい。自分は10面体で代用しました(0や9の目が出たときは振りなおし)。


 キリスト教軍の騎兵の多くはA5(練度・戦闘力。以下同じ)で、突撃能力を持つ。突撃をするとDRM+2で実質的に戦闘力が2アップする。対して諸タイファ軍ユニットは基本的にB4で、キリスト教軍のA5騎兵が突撃をすると8分の5、62.5%の確率で防御側は壊滅だ。潰走の結果も含めれれば75%の確率で防御ユニットが吹き飛ぶことになる。


 これだけでもキリスト教軍の騎兵の突撃は恐ろしいのだが、突撃によってユニットが壊滅すると周辺のユニットの潰走も引き起こす可能性がある。このゲームではユニットが戦闘で壊滅すると、隣接する友軍ユニットはすべて士気判定を行い、6面体ダイスを振って自軍の士気以上の目が出るとそのユニットは潰走する。

 士気はキリスト教軍の騎兵、歩兵、ムラービト軍の騎兵、歩兵、それに各タイファ軍ごとにそれぞれ設定されており、グラナダは7、他の2タイファは8と比較的低い。しかも所属ユニットが壊滅するごとに士気は下がっていくため、味方がやられていくのを見て士気喪失していき、つられてすぐに潰走してしまう、という状況になる。特にグラナダ・タイファ軍は1ユニット壊滅するだけで士気が6に下がり、隣接ユニットは6分の1の確率で潰走するのだ。


 結果、計14ユニットの突撃で諸タイファ軍は8ユニットが壊滅し、4ユニットが潰走した。恐ろしや。アルフォンソ六世がタイファの軍勢をなめていたのもよくわかる。


 突撃をしたユニットは自動的に混乱状態となり、練度と戦闘力が下がる。例えばA5の騎兵は混乱状態だとC4だ。さらに突撃能力もなくなるため、攻撃の威力がかなり落ちる。だが戦闘フェイズの後に回復フェイズがあり、正面2へクスに敵ユニットがいなければ4分の1の確率で回復するのだ。突撃を行った騎兵集団のうち3ユニットが回復した。


 Sagrajas1086での勝利得点は基本的に、壊滅した敵ユニットの戦闘力の総計、それにイスラム教軍はマップ上端からマップ外に突破した騎兵1ユニットにつき2点獲得し、相手より10点以上多い側が勝利する。お互いにより多くの敵を撃破し、イスラム教軍は多くの騎兵をマップ外に突破させないといけない。そのためキリスト教軍は初回ターンで全力で突撃しなるべく多くの敵ユニットを壊滅させたわけである。


なお、レオン・カスティーリャ王アルフォンソ六世もしくはムラービト朝君主ユースフが戦死したらその時点でサドンデスである。リーダーは戦闘に参加すると6分の1の確率で戦死するので、アルフォンソもユースフも最前線には投入できない。

「でも、あれ、騎兵と一緒に突撃してきたの、アルフォンソじゃない?」とイスラム教軍プレイヤー。

「え、うそ。アルフォンソはちゃんと後方に配置したはず……げ、間違えた!」

 キリスト教軍にはアルフォンソ六世とアルバル・ファニェスの2人のリーダーがいるのだが、アルフォンソを最前線に置いてしまったらしい。なお、能力に違いはない。

「陣頭に立っているのは王の影武者ということで、なにとぞご容赦を」

「うーん、どうしよっかな~。まあすぐにゲームが終わってもつまらないから、後方にいるのを本物のアルフォンソってことにしてあげるけど、面白いからリーダーユニットはこのままで」

 相手をいじるネタができて喜ぶイスラム教軍プレイヤーである。


つづく



(以前、SNSマストアタックに書いたものです。修正を加えている場合があります)

2022年9月15日木曜日

重騎兵の突撃、そして側面からの奇襲 Sagrajas 1086 (Alea 38) AAR ①

  SNSの知り合いnyaoさんに教えていただいた『十字軍全史』という本でイベリア半島のレコンキスタについても書かれていて、そこで1086年のサグラハスの戦いにもちらっと触れられていた。サグラハスってどっかで聞いたことあるな。そうだ、ウォーゲーム誌Alea38号の付録ゲームだ。スペインのLudopressというところが出していて、小さなウォーゲーム屋さんで和訳ルール付きで売っている


 1086年と言ったら第一回十字軍の約10年前で、コンスタンティノープルではアンナ・コムネナ様がまだ幼児。20年前にはノルマンディーからイギリスを征服したノルマン・コンクエストがあって、という時代なんだけど、当時のイベリア半島の状況って全然知らない。

 8世紀前半にイスラム勢力のウマイヤ朝が北アフリカからヨーロッパに攻め込み西ゴート王国を亡ぼしたものの、732年にトゥール・ポワティエ間の戦いでフランク王国のカール・マルテルが撃退した、ということは世界史で習ったけど、そのあとは1492年のグラナダ陥落でレコンキスタの完了、ぐらいしか覚えていなくて、700年ぐらいすっぽりと知識が抜けている。日本だったら平安時代から鎌倉、室町ですよ。


 ということでAlea誌のヒストリカルノートを読んでみた。この当時イベリア半島は北部はキリスト教、南部はイスラム教の勢力下にあったんだけれど、単純にキリスト教とイスラム教が対立していたわけではない。イスラム教側はタイファと呼ばれる小王国に分裂しそれぞれ対立、一方でキリスト教側もカスティーリャ、レオン、アラゴンなどいくつかの王国に分裂していた。タイファはキリスト教国にパリアと呼ばれる軍事貢納金を支払うことで平和を買う一方でキリスト教勢力の軍事力を利用しており、スペインの英雄エル・シドもイスラム側の傭兵隊長として一時期活躍している。

 だがレオンとカスティーリャ両国の国王となったアルフォンソ六世によってイベリア半島中央部の重要都市トレドが陥落。危機感を抱いたタイファ諸国は、当時北西アフリカで台頭しつつあった同じイスラム教勢力であるムラービト朝に救援を求める。アルフォンソ六世の軍と、ムラービト軍の援軍を加えた諸タイファの軍がぶつかったのが、今回プレイするサグラハスの戦いである。


 ゲームはターン制でお互いに移動・戦闘を繰り返すオーソドックスなもの。ルールの難易度は高くなく、日本語ルールはチャートを入れて7ページしかない。ユニット数は両軍で約90,たいてい7ターンでゲームが終了するので、長考しないプレイヤーであれば1時間半もあれば1ゲームできると思う。



 初期配置は写真のとおり。キリスト教軍は騎兵がずらっと並び、敵に向いている。なおこのゲームでは中世の会戦を扱ったゲームでよくあるように、ユニットの配置に向きがある。ユニットは常にヘクス内の一つの角に上辺を向けて配置し、その角に接する2へクスが正面となり、そこにのみいわゆるZOCが及ぶ。

 一方、イスラム教軍はグラナダ(黄色)、セビリア(青)、バダホス(茶色)の諸タイファ軍が第一線を、その後方に赤いユニットのムラービト軍歩兵が第二線を構成し、左翼の丘にはムラービト軍の騎兵集団が控えている。


 実際の戦いでは、アルフォンソ六世は自軍騎兵の突撃の威力を過信し、敵イスラム軍はいつもどおり弱いと侮って突撃を命じる。諸タイファ軍が次々と打ち破られ、ムラービト軍歩兵が何とか戦列を維持。そうして時間を稼いでいる間に、ムラービト軍騎兵が側面に回り込む。勝ちを確信していたところに奇襲を受けたキリスト教軍は散々に打ち破られた、というのがだいたいの流れである。


 側面から敵騎兵集団が攻撃してくるのだから、キリスト教軍は史実のように突撃はせずに後退して防御態勢を取ればいいのでは、と思うかもしれない。だがこのゲームの移動ルールでは、基本的に正面にしか移動できず、向きは移動終了時にしか変えられない。そのため、後退しようとして向きを変えるとそこで移動終了で、敵に追いつかれ背面から攻撃される危険性がある。初期配置ではキリスト教軍騎兵は諸タイファ軍に向かって配置されているため、そのまま突撃していったほうが有利なのだ。巧緻な機動よりもとにかく目の前の敵を叩きのめす、というのが中世っぽい。


 ちなみに移動に関して和訳ルールに疑問点があったので、小さなウォーゲーム屋さんに問い合わせたところ速攻で回答が来てびびりました。


つづく



(以前、SNSマストアタックに書いたものです。修正を加えている場合があります)

2022年9月13日火曜日

歩・騎・砲の連携で敵陣を抜け  Ravenna 1512 - Arquebus(GMT) AAR ⑤

  フランス軍は左翼(マップ下方)で攻撃を続ける。軽騎兵部隊(ピンク)と重装騎兵部隊(赤)の2部隊の攻撃で、スペイン軍軽騎兵部隊(赤)はほぼ壊滅したうえ、指揮官のペスカーラ侯フェルナンド・ダヴァロスも戦死していしまった。


 このペスカーラ侯、ラヴェンナの戦いの時にはまだ若く経験不足だったようで、他の部隊との連携もないまま騎兵で攻撃をしかけて捕虜になっている。だがその後、軍才を発揮するようになった。Aruquebusの資料として挙げられている本『The Art of War in Italy』では結構称賛されている人物である。

 1522年にはビコッカの戦いでフランスとヴェネツィアの連合軍を破ったのち、1525年のパヴィアの戦いでは神聖ローマ皇帝軍の実質的な総指揮官としてフランス軍に対して決定的な勝利をおさめ、仏王フランソワ一世を捕虜にしている。ちなみにこの2つの戦いはともにArquebusに収録されている。でもね、こんなところでペスカーラ候が戦死しちゃったらパヴィアの戦いはどうなんの?! 伊達男フランソワ一世を捕虜にできないじゃん。


 スペイン軍は砲撃でランツクネヒトをたたく。だが継続活性に失敗。敵の騎兵集団の攻撃で右翼(マップ下方)が危ういのに、この失敗は痛い。でもスペイン軍は自由活性のときしか砲撃ができないから、どうしても砲兵部隊の活性化を優先させてしまうんだよね。


 フランス軍は左翼の騎兵集団2部隊でさらにスペイン軍を追いつめる。長弓兵の射撃、そして騎兵の攻撃でスペイン軍は大きな損害を被った。さらにはスペイン軍の軍旗にも仏軽騎兵が迫る。

 この時点でスペイン軍の累積敗走ポイントは17,フランス軍は16と両軍ともまだ低いが、スペイン軍はマップ下方から回り込んだ騎兵集団によって包囲される危険が出てきた。さらにフランス軍は川の対岸からスペイン軍の軍旗近くのユニットに砲撃を加える。スペイン軍危うし。歴史は繰り返してしまうのか。




 スペイン軍は後方に回り込んできた敵騎兵集団に対し、歩兵で反撃を加える。火縄銃の斉射で、フランス軍の騎兵や長弓兵が次々と倒れていった。スペイン軍の歩兵ユニットはすべて、移動して射撃、さらに白兵戦が行えるのだ。

 またマップ下方の壕沿いでは混戦状態だったフランス軍SBを敗走させる。フランス軍は軍旗周囲がすでに自軍敗走ユニットによって埋め尽くされているためこれ以上の敗走はできず、壊滅となった。SBが除去されると敗走ポイントが5と高いため、かなり痛い。


 部隊が細分化されているフランス軍とは対照的に、スペイン軍の歩兵12ユニットはすべて1部隊にまとめられている。敵軍がこうして両翼から陣内に進入してきた場合、内線の利を生かして対応しやすくなるのだ。

一方で、スペイン軍歩兵は一人しかいない指揮官のペドロ・ナバロの士気範囲内にとどまっておく必要があるため、塁壁を越えて積極的に打って出るということが難しくなっている。このあたりも、防御に固執したというペドロ・ナバロの方針がうまく表現できているように思える。


 スペイン軍は歩兵部隊に続き、左翼(マップ上方)の重装騎兵部隊(青)で敵騎兵部隊に猛攻を加え、フランス軍の重装騎兵部隊(黒)を壊滅させた。




 両翼で逆にスペイン軍に押し返されているフランス軍は、中央の無傷のパイク兵部隊(黄土色)とその左横のSB部隊(青)で攻撃をかけようとする。

 SB部隊の正面の敵歩兵はほぼすべて混乱状態。こちらも消耗しているとはいえ、敵は兵力をフランス軍騎兵への対応に転用してこちらは手薄になっている。そしてSB部隊と同時に、パイク兵部隊で敵陣地の角にあたるところのスペイン軍歩兵に集中攻撃をかけ、損害を恐れずWagon Gunを攻撃していくのだ。中央方面で兵力にものを言わせて圧力をかけ、左翼の騎兵部隊で挟み撃ちにしてやる。


 だが、無情にも活性化チェックのサイの目は8で失敗。ぐはっ。ここでスペイン軍に自由活性が移ってしまうとは。部隊間の連携がフランス軍の勝因じゃなかったのかよ。


 スペイン軍は自軍の軍旗近くにまで突出してきていた敵軽騎兵を連続射撃で壊滅。さらに右翼(マップ左方)に攻撃を仕掛け、長弓兵や重装騎兵を壊滅させていく。フランス軍の累計敗走ポイントは39に上った。フランス軍の敗走レベルは45で、累計敗走ポイントとサイの目を出してこの数を超えると負けてしまう。これはまずい。


 フランス軍は軍旗を活性化させ、敗走状態の7ユニットを士気回復。一気に累計敗走ポイントが32に下がる。そして無傷のパイク兵部隊で今度こそ攻撃をかけるのだ。だが継続活性に失敗。ぐはっ。またかよ。1部隊だけでの継続活性の場合、60%で成功するはずなのに。総司令官のガストン・ド・フォアは将として優れているとはいえまだ20代の若者。部隊の統率にはもっと経験が必要だったということか。


 自由活性を得たスペイン軍は右翼(マップ左方)で畳みかける。計算どおりに部隊が動かず残念だったな、ガストン・ド・フォアくん。認めたくないかもしれないが、若さゆえの過ちというものだよ。

 フランス軍の軽騎兵部隊(ピンク)は全滅、重装騎兵部隊(赤)も残り1ユニットとなった。さらにスペイン軍は壕沿いで射撃を行い、SBを壊滅させる。フランス軍の累計FPは42に。スペイン軍はいまだに17だ。

 敗北がほぼ決定的なフランス軍は最後のあがきを見せ、SB部隊の残存兵力すべてを投入して攻撃をしかける。フランス軍の誇りを見せろ! そしてド・フォアも史実と同じく敵に突っ込んで華々しく散るがいい! …いや、ド・フォアが戦死したのは勝ち戦の最後だからね。そしてその後の敗北チェックで4を出し、負けとなった。


 あまり動きのない陣地戦かと思いきや、フランス軍はいつどこでいくつの部隊を動かすか考えないといけないし、陣地両端から騎兵の攻撃、対岸からの砲撃と、結構変化があって両プレイヤーとも楽しめました。後半、パイク兵部隊の活性化に成功し、ランツクネヒト部隊も投入できていたらスペイン軍はもっと苦しくなったはず。敵陣後方に回り込んだ騎兵集団に入れ込みすぎたかも。あと、スペイン軍プレイヤーとしてはペスカーラ侯の見せ場が欲しかったかな。でもペスカーラ侯が活躍するようになるのはラヴェンナの後ですから。



(以前、SNSマストアタックに書いたものです。修正を加えている場合があります)

2022年9月9日金曜日

歩・騎・砲の連携で敵陣を抜け  Ravenna 1512 - Arquebus(GMT) AAR ④

  マップ下方のSB部隊(青)の奮戦で敵陣地の一角が空いた。そこにすかさずフランス軍はパイク兵部隊(黄土色)を前進させる。

このパイク兵はフランス北東部のピカルディ地方の兵ということになっており、射撃能力はなくパイク兵のみで構成されている。イタリア戦争中に歩兵に火縄銃兵を配備するという編成が普及していき、このラヴェンナの戦いでもドイツ傭兵のランツクネヒトやフランス軍のSB部隊を構成するイタリア兵には火縄銃兵が含まれている。またスペイン軍の歩兵はスペインのSBと教皇軍のパイク兵から成るが、すべて射撃能力がある。フランスはこういう戦術の進化にすこし遅れていたってことなんですかね。


 そして右翼(マップ上方)の砲兵部隊(緑)で砲撃。かなりラッキーなことに敵の砲兵1ユニットを壊滅させた。敵中央に少しずつほころびが出てきている。パイク兵部隊に続けてそろそろランツクネヒトを投入するタイミングか。


 スペイン軍は中央の砲兵でやり返す。身を隠すことができない場所にいる歩兵など砲撃のいい餌食である。クロスボウとランツクネヒト1ユニットを敗走させた。

 そして川の対岸から砲撃を受けるようになった左翼(マップ上方)の重装騎兵部隊(青)だが、このままでは一方的に損害が増えるだけだ。砲撃の有効射程外に退避させる。



 対岸からの砲撃で動揺した敵が動いた。今こそ好機! そう見て取ったフランス軍は、最右翼(マップ上方)の重装騎兵部隊(黒)が塁壁と川の間隙から敵陣内に突入し、怒涛のチャージ。重装騎兵集団の突撃はすさまじく、スペイン軍の重装騎兵1ユニットが壊滅、さらに掩蔽状態だったSBが敗走した。

 フランス軍は同時に最左翼(マップ下方)の軽騎兵部隊(ピンク)も動かす。当初のプラン通り、左翼で攻勢をかけるのだ。この部隊には長弓兵(Longbow, LB)も含まれており、正面の敵軽騎兵部隊(赤)に射撃で大きな損害を与えた。



 この2部隊同時活性化による多方面での同時攻撃こそフランス軍の持ち味。「スペイン軍はこんな芸当できないでしょ、ぐはは。総指揮官の能力の違いがこういうところで出るのよ」とフランス軍プレイヤーは余裕しゃくしゃく。いや、当時の指揮官の能力の違いであって、プレイヤーの能力の違いじゃないからね、そこんとこ間違わないように。


 ちなみに当時、主要な射撃兵器はクロスボウから火縄銃に移っていっていたが、弓兵も依然として使われていた。日本の戦国時代でも、火縄銃が伝来した後も弓矢が使われていましたよね。フランスのフランク弓兵(Franc-archer)は1535年まで存続していたし、イングランドではラヴェンナの戦いの約80年後、16世紀末になって長弓の廃止が正式に決まっている。このラヴェンナの戦いでは弓兵やクロスボウ、火縄銃、それに砲兵と新旧様々な兵種が含まれているが、中世から近世の過渡期というイタリア戦争っぽい。


 左右両翼からの同時攻撃で大きな損害を受けたスペイン軍。さらに右翼(マップ下方)方面には敵重装騎兵部隊(赤)が後詰めとして続いている。このままでは右翼は粉砕され、史実通り後方に回り込まれてしまう。

 スペイン軍は砲撃でランツクネヒトを1ユニット敗走させたのち、歩兵部隊(茶色)を動かす。右翼に救援を差し向ける一方、左翼(マップ上方)に突撃してきた敵重装騎兵を攻撃、敵の衝力を奪った。


 これで一息、と思いきや、右翼の壕沿いの歩兵ユニットは混戦状態なので、自部隊が活性化したら攻撃せざるを得ない。攻撃側混乱など多くは不利な結果となったが、1ユニットが奮戦し敵のSBを壊滅させる。だが戦闘後前進の際の壕越え混乱チェックに失敗、混乱状態になった。スペイン軍側から壕・塁壁越しに攻撃する場合、混乱チェックはないのだが、戦闘後前進で壕を越える場合はチェックが課されるのだ。正面の敵を壊滅させ勢いに乗って壁や壕を越えたものの隊列が乱れてしまった、というイメージか。


 ここでフランス軍が自由活性を得たが、2部隊を活性化しようとして失敗。スペイン軍に自由活性が移る。フランス軍は敵に対応する余裕を与えずに攻撃を継続しようとしていたのに、これは痛い。

 スペイン軍は軍旗(Standard)を活性化させ敗走状態だった4ユニットを混乱状態に戻す。こうして自軍立て直しに努めたうえで、左翼(マップ上方)の重装騎兵が敵騎兵に反撃。指揮官の陣頭指揮で敵ユニットを壊滅させる。だが継続攻撃で敵指揮官直属の重装騎兵に側面から突っ込んだが、攻撃側混乱で混戦状態に。


 騎兵部隊に続けてスペイン軍は歩兵部隊の活性化に成功。左翼(マップ上方)の敵重装騎兵に追い打ちをかけ、右翼では陣地側面に進入してきた敵騎兵部隊を連続射撃で敗走させる。スペイン軍の歩兵にはすべて火縄銃兵が配備されているので射撃能力があるのだ。



 スペイン軍はひとまず両翼での火消しに成功したものの、マップ下方では敵の無傷の重装騎兵部隊(赤)が陣地と湿地の隙間から突入してくるだろう。さらに中央ではランツクネヒトとパイク兵の2部隊が健在のうえ、対岸からの砲撃も無視できない。

 逆にフランス軍は兵数の優位、それに部隊間の連携を生かしてスペイン軍に息をつかせないようにしたい。


つづく



(以前、SNSマストアタックに書いたものです。修正を加えている場合があります)

2022年9月7日水曜日

歩・騎・砲の連携で敵陣を抜け  Ravenna 1512 - Arquebus(GMT) AAR ③

  着々とフランス軍が攻撃準備を整えていったが、やっとスペイン軍に自由活性が移る。歩兵部隊(茶色)を活性化させ、スペイン軍の弱点と思われる右翼(マップ下方)に一部ユニットをシフトさせるとともに、砲撃を受ける位置にいるユニットは掩蔽状態(Entrenched)にする。


 このシナリオの特別ルールでスペイン軍の歩兵は掩蔽状態になることができ、敵の砲撃をほぼ無力化できる。だが掩蔽状態では射撃はできないため、敵歩兵が前進して白兵戦を挑んできた場合、対応射撃ができない。掩蔽状態を解除するにも活性化時に何もしないことが条件となるため、敵の動きに対応するための移動などがすぐにはできない。さらに掩蔽状態のときに白兵戦で攻撃されると+1DRMと不利になる。


 続いてスペイン軍は左翼(マップ上方)の重装騎兵部隊(青)を前進、集結させる。これで敵正面の騎兵部隊(黒)も、壕の切れ目と河川の間の狭い隙間から突入してくるということはなかなかできないだろう。


 ここで自由活性を得たフランス軍は、2部隊を同時に活性化しようとしてチェックに失敗。自由活性化の際でも2部隊を活性化しようとすると、30%の確率で失敗となり敵に自由活性が移るのだ。


 スペイン軍は中央の砲兵で砲撃を開始。フランス軍中央、ランツクネヒト前面のクロスボウ部隊が砲火にさらされ次々と被害を受けた。ふん、そんなの計算のうちさ、と平静を装うフランス軍プレイヤー。実際は、クロスボウ部隊で弾除けをするのではなくランツクネヒト部隊を少し後退させておけばよかったと心の中で後悔していた。Arquebusでは砲兵はかなりの射程を持つが、5へクス以上離れるとほとんど効果がないからだ。

 だが、ランツクネヒトの移動力は3しかないため、砲兵から5へクス以上離れるように後退すると一回の移動で壕・塁壁に取り付けない。スペイン軍としては中央からの圧力が減るため他方面に対応しやすくなる。そのためフランス軍は今回のように後退せずに砲撃に耐え、戦機を逃さず前進、壕・塁壁に攻撃をかけるというのがいいのかもしれない。


 一方で、スペイン軍の砲兵部隊(緑)は指揮官がいないため自由活性のときにしか活性化できない。つまり砲撃のタイミングが制限されているわけで、スペイン軍の部隊間の連携の悪さがこういった形でも表されているように思える。そのためフランス軍は多方面でプレッシャーをかけ、自由活性を砲撃に使うべきかどうかスペイン軍が判断に迷うような状況を作り出すべきなのだろう。


 フランス軍は2部隊を同時活性化。右翼(マップ上方)の砲兵部隊(黒)から1ユニットを抽出し、史実同様に迂回渡河を始める。向こう岸から敵左翼(マップ上方)の重装騎兵に砲撃を加えるためだ。そして中央左翼寄り(マップ下方)の重装騎兵部隊(赤)を左にシフト。こうして両翼からの攻撃態勢を整えていく。




 このシナリオでは砲兵ユニットは両軍とも移動ができないのだが、特別ルールでフランス軍は右翼(マップ上方)の砲兵部隊から1ユニットだけ河の対岸に移動させることができる。史実でもこのような砲兵の移動があったようだけれども、当時すでに砲には野戦で戦術的な機動性があったんですね。なんか意外。砲のことはよく知らないけど。ここの砲兵部隊はフェラーラ公アルフォンソ・デステ指揮下のもので、フェラーラ公は砲の運用に長けていたらしい。


 その後は両軍の砲撃の報酬が続いたが、フランス軍はころはよし、と本格的な攻撃を開始する。自由活性で2部隊を同時活性化し、先ほど渡河を始めた砲兵ユニットを川の対岸に配置。敵重装騎兵に砲撃を加え混乱状態にした。

 そうしてマップ上方で圧力をかけつつ同時に、フランス軍左翼(マップ下方)のSword&Buckler(SB)部隊(青)が動く。スペイン軍歩兵が掩蔽状態になったため砲撃では効果がないが、白兵戦を仕掛けるには有利な状況だからだ。ちなみにSBのBucklerとは、以前チェリニョーラの戦いのAARでも説明したが小さめの丸い盾である。


 SB部隊は敵が掩蔽状態だったため対応射撃を受けることなく壕にとりつき、白兵戦(Shock)を開始。守るスペイン軍歩兵もSBである。壕を渡り塁壁を乗り越えようとするフランス軍に対し、剣で必死に防戦するスペイン軍。両軍が入り乱れての戦いとなり、多くの攻撃が混戦(Engaged)に終わった。


 白兵戦の戦闘結果の混戦は、Men of IronシリーズではBlood&Rosesまでは選択ルールだったがArquebusでは標準ルールとなっていて、防御ユニットが正常状態の場合は60%、混乱状態の場合は40%と結構な確率で出る。

 混戦状態になった場合、離脱(Disengage)しない限り自部隊の活性化時に白兵戦で攻撃をしないといけない。そのため混戦状態のユニットを含む部隊を活性化するのは悩ましい場合も生じる。スペイン軍は歩兵がすべて一つの部隊にまとまっているため、このように一部ユニットが混戦になると、別方面で歩兵を動かす場合でも混戦状態の歩兵ユニットはフランス軍への攻撃を強制される。

 自部隊の活性化の際に攻撃しないようにするためには離脱してそのヘクスから移動するしかないが、混乱状態になるうえ、予備ユニットが空になったヘクスを埋めない限り壕・塁壁の防御拠点を敵に明け渡すことになるのだ。


 ほとんどが混戦となったフランス軍SB部隊(青)の攻撃だが、部隊戦列右端の1ユニットが奮戦する。壕越しの攻撃で混乱状態になりながらも、先の砲撃で被害を受けていた敵Gun Wagonを壊滅させ継続攻撃(Continued Attack)を出す。Gun Wagonとスタックしていた砲兵は雲散霧消した。

 隊形を乱しながらも塁壁を乗り越えるフランス軍SB。混乱状態のユニットは戦闘後前進ができないのだが、継続攻撃の場合は別なのだ。うおおー!!と敵陣に乱入し、さらにGun Wagonと砲兵のスタックを壊滅させたものの、そこで待ち構えていたスペイン軍パイク兵(Pike, PK)に突っ込んでしまい、逆に撃退されてしまった。継続攻撃あるあるである。


つづく




(以前、SNSマストアタックに書いたものです。修正を加えている場合があります)

2022年9月5日月曜日

歩・騎・砲の連携で敵陣を抜け  Ravenna 1512 - Arquebus(GMT) AAR ②

 ラヴェンナの戦いでは、野戦陣地にこもったスペイン軍に対してフランス軍が攻撃。まずは両軍の砲撃戦が繰り広げられた。スペイン軍の歩兵は低地に身を潜めており被害は少なかったものの、軽騎兵が砲撃に耐えられなくなり攻撃をしかける。一方フランス軍も、敵の砲撃範囲内に布陣してまったランツクネヒトが前進して攻撃を開始。血みどろの戦いが繰り広げられるが、スペイン軍の軽騎兵集団を撃退したフランス軍騎兵が敵陣地の側面から後方に回り込み勝負を決めた-というのがだいたいの流れのようだ。

 両軍とも被害は甚大で、多くの指揮官が死亡したり捕虜になったりしている。フランス軍の総指揮官のガストン・ド・フォアはまだ20代前半の若さながらその将才を認められていたが、この戦いで戦死した。でも、戦いの帰趨が決まった後で敵の残存歩兵に少数の騎兵で突っ込みそこで槍衾にやられてしまったそうで、若くて血気盛んなのはわかるけど総大将なんだから自重してください。


 この戦いでのフランス軍の勝因は、各部隊の連携にあるらしい。総指揮官ガストン・ド・フォアのもと、歩兵、砲兵、騎兵が連携して攻撃したが、スペイン軍にはそれが欠けていた。スペイン軍の陣地構築を指揮したペドロ・ナバロは防御に固執していたのに、砲撃を受けた軽騎兵部隊は攻撃をしかけてしまっている。 一方、フランス軍は各部隊が機を逃さず動いており、砲兵の一部は戦闘開始後に渡河して敵の側面から砲撃を浴びせかけ、スペイン軍の敗因の一つとなった。なお、ペドロ・ナバロはこのシナリオでスペイン軍歩兵部隊の指揮官になっている。


 フランス軍の部隊間での連携を反映してか、このシナリオのフランス軍は指揮については特別ルールがある。Men of Ironシリーズでは基本的に各部隊に指揮官がいて、指揮官の活性化値(Activation Rating)を使って部隊(Battle)ごとに活性化させる。だがこのシナリオではフランス軍は最大3部隊を同時に活性化できるのだ。フランス軍の活性化には指揮官の活性化値ではなく活性化表(French Activation Table)を使うのだが、同時に活性化する部隊が多いほど失敗する可能性は高くなっている。フランス軍は総兵力では勝っているものの9つの部隊に細分化されているため、慎重に1部隊ずつ動かすだけでは数の優位を生かせない。リスクを冒してでも一気に複数の部隊で攻撃にでるかどうか、フランス軍としては悩まやしい局面が多々生じるはず。


 攻めるフランス軍にとって厄介なことに、スペイン軍の前面には戦列に沿って壕(Trench)と土でできた塁壁(Rampart)が続いていて、防御に有利な態勢にある。壕・塁壁越しの攻撃はDRM-1と攻撃側に不利なうえ、フランス軍が壕越しに白兵戦(Shock)を仕掛ける場合、混乱チェックをしなければならない。そのため、フランス軍プレイヤーは左右両翼の壕の切れ目、特に左翼(マップ下方)に攻撃の主軸を置くことにする。この方面にはスペイン軍の軽騎兵部隊しかいないうえ、比較的スペースが広がっており、フランス軍の数の優位を生かせるからだ。ただそれだけだと攻撃が単調になり敵にとって対応が容易になるため、砲撃、そして騎兵部隊の攻撃と連動しての歩兵の攻撃が欠かせない。


 そのような方針のもと、フランス軍は左右両翼の砲兵二部隊で砲撃を開始し、スペイン軍に損害を与える。さらに右翼(マップ上方)のクロスボウ部隊(灰色)をランツクネヒト(茶色)の前に展開。ランツクネヒトの正面にはスペイン軍の砲兵(緑)が並んでいるため、敵砲兵の射線(LOS)をさえぎってランツクネヒトが砲撃を受けないようにするためだ。ユニットが壊滅すると課される敗走ポイント(Flight Point, FP)はユニットの種類によって違い、FPが大きいものほどいわば高価なのだけれども、ランツクネヒトは5もあるがクロスボウは2。クロスボウが犠牲になってもランツクネヒトを守る目論見である。



 ランツクネヒトは敵から砲撃を受ける前にさっさと前進して白兵戦をしかけるという選択肢もあるが、正面のスペイン軍は砲兵とスタックしてGun Wagonが並んでいる。ラヴェンナの戦いの百年近く前、15世紀前半のフス戦争で馬車や荷車に防御を施した木製の装甲車と言えるものが登場したが、このGun Wagonはその流れを汲んでいるらしい。イタリア戦争関連の本を読んでみると、当時使われていた車両は大鎌のような刃や槍のようなものが突き出ていて敵歩兵の突進を妨げ、木の板に守られた火縄銃兵が射撃をする、というものだったそうだ。

 

 フランス軍のランツクネヒトが攻撃する場合、前進して敵陣にとりついた時点でGun Wagonから対応射撃(Reaction Fire)を受け、60%の確率で混乱状態になる。その後にランツクネヒトも射撃(Active Fire)できるが、Gun Wagonへの射撃はその防御力を反映してかDRM-2と不利。さらに白兵戦攻撃でも壕・塁壁越しの攻撃なので混乱チェックがある。

 ランツクネヒトが混乱状態で正常の状態のGun Wagonを壕・塁壁越しに白兵戦で攻撃した場合、諸々の修正を合算するとDRM-1と不利になる。もし白兵戦での攻撃に成功してGun Wagonと砲兵を排除しても混乱状態だったら戦闘後前進はできないため、敵の歩兵がその穴を埋めてしまうだろう。そのためフランス軍は、ランツクネヒトの投入は時機を待って行うことにする。それまでクロスボウが犠牲になるがやむを得ない。

 「えー、クロスボウ部隊を弾除けにするなんてひでー」と非難するスペイン軍プレイヤーに対し、「勝たなきゃ意味ねえよ」と応えるフランス軍プレイヤー。

「一将功なりて万骨枯る、とか言われても意に介さず。というか、あんたもフランス軍だったら同じことするんじゃないの」

「……はい、します」


 フランス軍はさらに継続活性に成功。最右翼(マップ上方)の重装騎兵(Men-at-Arms, MM)に側面を固めさせる。フランス軍の右翼はMM以外は砲兵しかおらず防御力に乏しい一方で、正面に敵のMM部隊がいるため、敵が陣地から出てきて突撃をくらうと苦戦しかねないからだ。 


つづく



(以前、SNSマストアタックに書いたものです。修正を加えている場合があります)

マーケット・ガーデン80周年なので読んでみた、『9月に雪なんて降らない』

 1944年9月17日の午後、アルンヘムに駐留していた独国防軍砲兵士官のJoseph Enthammer中尉は晴れわたった空を凝視していた。自分が目にしているものが信じられなかったのだ。 上空には 白い「雪」が漂っているように見えた。「ありえない」とその士官は思った。「9月に雪な...