2023年1月28日土曜日

仏ビジネススクールでウォーゲーム

  今月発売になったVae Victisの最新号、166号の付録ゲーム「Velikié Louki 1942-43」はヴェリキエ・ルキの戦い。確かコマンドでもこの戦いは付録ゲームになった記憶があるなあ。

 7ページのヒストリカルノートもついていて東部戦線のことを知らない自分には勉強になりました。でもこの号で目を引いたのが、「Des étudiants s'invitent au combat(学生たちが戦闘に参加)」という記事。Conflict of Heroes: Stormes of Steel - Kursk 1943」というサブタイトルがついていて、記事冒頭の写真には「Conflict of Heroes」が広げられたテーブルを半分囲むように20代前半ぐらいの6人が写っているんだけど、そのうち5人がなんと女性なんですよ。

 いや、若い女の子に目がいったとか、女子5人に囲まれた男子にこんちくしょーと言いたくなったとか、そういうのじゃないんですよ。そうじゃなくて、高齢化が進んでいるであろうウォーゲーム業界、しかも圧倒的に男性プレイヤーが多いはずなのに、どうして?! と思ってしまったんですよね。



 読んでみると、パリの大学のビジネススクールでプロジェクトの一環として行われたものらしい。ちなみにそこのマネジメントコースでは多くのウォーゲームが使われてもう4年になるとか。僕も入学したいなあ。

 記事になっているのは、ウォーゲームのことをほとんど知らない学生を集めて、プレイしてみたらどういう感想をもつのか、というセッションだったそうだ。Twilight's Last Gleamという4人でできるシナリオをやったそうで、二人はオブザーバー。4人のプレイヤーそれぞれの感想が書かれているんだけど、女子も楽しんだようでほっとしました。みなさん、女の子にはConflict of Heroesが受けるみたいですよ。

 ……あ、いや、なんかセクハラおやじみたいになってきましたが、性別とか年齢のことを言いたいんじゃないんですよ。そうじゃなくて、大学の研究でウォーゲームが使われているのは、このホビーが好きな一人としてうれしいです。

 プレイした4人は、ルールの説明を受けているときは難しそうに感じたり、カウンターに書かれている情報がプレイ上どういう意味を持つのかと、最初は簡単ではないように感じたようだけど、プレイしているうちにみんな集中してきて、共同作戦も行えるようになったみたい。よかったよかった。


 ところで今回のVV付録「Velikié Louki 1942-43」はターン=5日で11ターン、1へクス=2.5km、1ユニットは基本的にドイツ軍が連隊、ソ連軍が旅団~師団。1942年11月24日から1943年1月17日をカバーしていて、ソ連軍の攻勢からドイツ軍のヴェリキエ・ルキ救出作戦が失敗して守備隊が降伏するまでの期間となっています。

 簡単なルールで、作戦級の基本がわかっていたらすぐにプレイできるんじゃないかな。実際、同じシステムを使ったものがVV98号のOpération Nordwind、それにVV120号のColmar1945という付録ゲームで出ているけど、BGGでは両ゲームとも難易度2.00となっていて、かなり簡単みたい。

 ヴェリキエ・ルキは史実でも包囲された後かなり持ちこたえたそうで、このゲームでも東西2へクスからなるヴェリキエ・ルキの守備戦力はマーカーで表されるだけど、そのマーカーがFestung OUEST, Festung ESTと独仏表記になっていたのが個人的にはツボでした。



 あと、たまたまスペインのALEA誌も最新号は東部戦線だったんですよ。Twitterでもつぶやいたけど、サブタイトルが「北のタイフーン」と、VV166号の「北の小スターリングラード」というサブタイトルと結構似てますよね、ということで仲良く並べて写真を撮ってみました。両方ともルールとヒストリカルノートを読んだだけでまだプレイしていないけど、そのうち時間ができたら遊んでみようと思います。

2023年1月9日月曜日

「ヴィンランド・サガ」シーズン2がいよいよスタート! で、ヴァイキングならこの映画も

 「ヴィンランド・サガ」シーズン2が今日から始まりますね。いやー、楽しみ。ところでヴァイキングの最近の映画と言えば「The Northman」。昨年アメリカなどで公開したけど、日本では「ノースマン 導かれし復讐者」というタイトルで1月20日から公開するみたい。「ヴィンランド・サガ」とのコラボ企画もやっていますね。


 その「The Northman」ですが、日本で公開になるとはつゆ知らず、結構長時間乗る飛行機の中で、あー暇だなーと映画のリストをスクロールしていたらあったので見てみました。

 いやもうね、知っていたけど、とにかく血で血を洗う復讐劇。さわやかな要素がみじんもない。トルフィンを見習えよと言いたい。



 今のロシアかウクライナの方の集落を襲撃して、住民は捕まえて奴隷にしちゃうところもヴァイキング。奴隷を売り払う先として、ウプサラ、キエフ、コンスタンティノープルとか言っていて、ヴァイキングの商売がよくわかります。生きのいいやつはアイスランドに連れていくとかって感じで選別していたな。あ、ウプサラというのはスウェーデンの古都ですね。しかしコンスタンティノープルはミクラガルドって言ってほしかったなー。


 ちなみに映画の主な舞台はアイスランド。となると敵役はやっぱりハーフダン、ではありません。別の名前の人です。この映画を見ていると、武器だけでなく住居、生活道具それに祭祀なんかも、いろいろと知っている人はもっと楽しめるんだろーなーと思いました。古ノルド語の呪文みたいのも確か出てきてたし。

 祭祀と言えば、グリーンランドのレイフさんはクリスチャンだし、グズリーズも十字架を下げているよね。ヒルドさんもクリスチャンのはず。でもこの映画の時代のアイスランドではまだまだキリスト教が浸透していなくて、奴隷として連れてこられたであろうクリスチャンをののしる言葉が出てきます。「The Northman」の時代設定は10世紀末でトルフィンたちの時代の20年ほど前のようですね。


 ところで映画の中ではkingとかkingdomとか言っていて、アイスランドに王がいるような印象を与えるんだけど、中世のアイスランドって王がいたの? あの時代のヨーロッパではまれに見る民主的な社会だった、みたいなことをどこかの本で読んだ覚えがあるんだけど、自分の記憶違いかな。シング(民会)で自治を行っていて、全島集会のアルシングも開かれていて、アルシングのときには演説する人はログベルぐっていう石の上に立ってやっていたはず。たしかトルフィンがヴィンランドへの移民参加希望者を募るときも、この石の上に立って話していたような。

 でもまあ、The Northmanはフィクションですからね。王の息子だった主人公アムレートが復讐をする、というほうがストーリー的には盛り上がるんでしょうな。一応英語のWikiでは、アムレートの父はアイスランドではなくて架空の島の王で、仇がアイスランドで農場を営んでいてそこに復讐しに行く、みたいな説明になっていたけど。

 というか、日本語字幕で見てみたいっす。ヴァイキングに興味がある人は見ておいて損はない映画だと思います。


*後日また飛行機に乗った時にこの映画を見返したんだけど、時代を百年ほど間違っていました。そりゃまだまだアイスランドにはクリスチャンはいないですわ。あとkingの件ですが、主人公の仇はノルウェイ王に王国を追い払われて今じゃアイスランドで羊を飼ってるぜ、みたいなセリフがあったので、アイスランドに王がいるという設定ではないようです。このセリフ、聞き逃してたのかな。ほんと、日本語字幕で見たいです。

2022年12月30日金曜日

「ヴィンランド・サガ」が待ちきれない? ヴァイキングならこれを読め!

  1月から「ヴィンランド・サガ」のアニメのシーズン2が始まりますね。いわゆる農場編を描くようで、いやー、待ち遠しい。自分はこの漫画のストーリーの中でトルフィンが農場で働いているころが一番好き、というか一番内容に深みを感じるんだけど、クヌートは黒いし、トルケルもあんまり活躍しないし、もちろんアシェラッドはもう生きていないし、ウェールズやローマといった遠い歴史につながることもないし、ということでアニメになるとシーズン1のような派手さがなくなるはず。どんな感じになるのかな。


 「ヴィンランド・サガ」と言えばヴァイキングだけど、ヴァイキング関係の本を探していたらたまたま見つけたのが、この本『The Long Ships』。あんまり期待せずに読み始めたら、イベリア半島から現在のウクライナまで物語が展開して、結構のめりこんでしまいました。もともとスウェーデン語で書かれた小説で、自分はスウェーデン語はわからないので読んだのは英訳本。ペーパーバックだけど500ページ以上あるので読み応えたっぷりでした。



 今のデンマークに暮らしていた主人公Ormの一代記なんだけど、いきなり主人公がヴァイキングにさらわれて遠征に連れていかれる。ほんと、ヴァイキングって乱暴なんだから…というのは昔のイメージで、最近はいろいろと研究が進んで、ただの荒くれ集団ではない側面がわかってきているようですね。それはさておき、イベリア半島に略奪遠征に行ったと思ったらイスラム勢力につかまってガレー船のこぎ手にさせられてしまいます。

 でも腕っぷしを認められて太守の親衛隊みたいな感じになるのはさすが。ビザンツ帝国ではノルマン人をヴァリャーギ親衛隊にしていたけど、イスラムでもそういうことあったのかな。その後なんとか北欧に戻るんだけど、また遠征。ヴァイキングだからね。今度はイングランドで、それで落ち着くかと思ったら今度は地元でいざこざ。ところで「ヴィンランド・サガ」ではデーン人がキリスト教化しつつある様子がうかがえるようになっていますが、この小説でもキリスト教がスウェーデン南部に広がっていくのが描写されています。で、最後の冒険はキエフの南に隠されたビザンツ皇帝の財宝探しで終わります。


 時代的にはトルフィンが活躍するちょい前、10世紀末から11世紀初頭なんだけど、ノルマン人が全ヨーロッパをまたにかけて活躍していたことがよくわかります。トルフィンだってバルト海からキエフ経由でミクラガルド(コンスタンティノープル)まで行っているしね。この小説では主人公はミクラガルドまで行かないものの、ビザンツ皇帝に使えたという人物も登場します。

 ヴァイキングは海だけでなく河川も利用して内陸部でも活動してたってのは聞いていたけど、バルト海からミクラガルドに行くルートでは西ドヴィナ川とドニエプル川を利用していたみたいなんですね。この小説でもそのルートを通っていて、両河川の間は船を押していくんだけどそれがまた大変だったらしい。この時のために特別なエールを用意しておく、なんてエピソードが出てきます。無茶苦茶苦しい時に酒の力を借りるってことですな。この本の地図では、西ドヴィナ川とドニエプル川をつなぐ陸路はThe Great Portageって書かれているんだけど、どうやら今のスモレンスクあたりのようです。


  「ヴィンランドサガ」の人気キャラ(だと自分は思っているんだけど)の、のっぽのトルケルも出てきます。主人公Ormは一緒にイングランドに遠征に行って、モルドンの戦いに参加するんだけど、「ヴィンランド・サガ」でもアシェラッドが「あれはモールドンの戦だったか」ってトルケルのことを回想していますね。(漫画だと第六巻です。)

 イングランドの歴史では重要な戦いのようで、散文詩「モルドンの戦い」というのが残っていて、その叙情と拡張の高さから「ベーオウルフ」以上とも称賛されているらしい。なんてこと聞いてもちんぷんかんぷんですが、とにかく無名の戦いではないそうです。


 この時代、10世紀末と言えば、日本は平安時代で紫式部がいてもうすぐ「源氏物語」を書くころ。イギリスの作家ヴァージニア・ウルフは「源氏物語」を称賛していて、この作品の時代を「アングロ・サクソン人がまだ野蛮であった頃」って書いたそうだけど、日本では優雅な王朝文化が花開いていたころ、イギリスは野蛮だったわけですね。

 アシェラッドがイングランドの兵に対し、「オレらデーン人がケダモノだってんなら、お前らアングロ・サクソンも相当ケダモノなんだぜ。お前たちは暴力でこの地を奪った。オレたちデーン人はお前ら以上の暴力でこの地を奪う。まさか文句はあるめえな?」みたいなこと言ってて、数百年前のローマンブリテンへのアングロ・サクソン人の侵略にもふれているけど、それ以来イングランドはほぼ分裂状態が続いてたはずで、そこににデーン人がやってきて、さらに野蛮になっていたんでしょうなあ。

 でも、たしかにこの本に登場するヴァイキングたちは野蛮でみんな喧嘩っ早いし、しかもただの喧嘩じゃなくて剣を抜いて殺し合いになるという結構乱暴な世界なんだけど、そんな荒くれものたちが結構、即興で詩を詠むんですよね。なんか意外と思ったけど、武士が和歌をたしなむようなもんなんですかね。


 ところで「ヴァイキングならこれを読め!」なんて偉そうなタイトルにしましたが、これ私が言っているんじゃないんです。本の表紙にNo one should go a-vinking without itって惹句というか推薦の言葉が書かれていて、それを超訳しただけです。いや誰も略奪遠征に行かないから、とツッコミを入れてあげましょう。


 と、いいことばっかり書いてきたけど、難を言うなら英語が固い。千年前の雰囲気を出すために意図的にやっているのかもしれないけど。でも内容は面白いし、最後にはクヌートにも触れていますよ。「ヴィンランド・サガ」にはまってヴァイキングの本を読みたい、という人はぜひ。


2022年12月13日火曜日

『サピエンス全史』の著者が描く、騎士たちの特殊作戦

  (この記事は「War-Gamers Advent Calendar 2022」に参加したもので、12月13日分です)


  中世を扱ったウォーゲームってほんと、少ないですよね。WWⅡとかナポレオニックとか大量に出ているのに、約千年も続いた中世のゲームのお寒い状況と言ったら…。いろいろと問題があるのはわかるんですよ。信頼できる資料がどこにあるんだとか、中世のイメージってだいたいファンタジーなんだよとか(←偏見?)。

 で、ある日寂しくアマゾンで中世関連の本を探してたら、『Special Operations in the Age of Chivalry, 1100-1550』という本を見つけたので買ってみました。

 Special Operationsって書いてあるのに、こんなにのどかというか間抜けな絵の表紙でいいの? ひょっとしてギャグなのか? というツッコミは心の中にしまっておいて(でも中世の絵ってこういう感じのが多いですよね)、騎士道の時代の特殊作戦ってどんなものだろう、と思ってふと見るとYuval Noah Harariという名前が表紙に書いてある。え、もしかして『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリ?

 世界中でベストセラーになった『サピエンス全史』って漫画版まで出ているけど、その筆者ユヴァル・ノア・ハラリがもともと軍事史が専門だったということを全く知りませんでした(それともこんなこと、常識?)。ハラリは高校のときに百年戦争のロングボウについて調べたことから軍事史を志すようになったそうだ。へー。


 そのハラリが書いた『Special Operations in the Age of Chivalry, 1100-1550』は、特殊作戦とは何ぞや、ということから始まっている。狭い限定された地域における、比較的短期間で行われる小規模部隊による戦闘行動で、投入されるリソースは少量だが大きな戦略的政治的結果を得られるもの、がハラリの言う特殊作戦だそうだ。うーん、なんかこうして書くと教科書みたいで特殊作戦という言葉にあるワクワク感がなくなっちゃうな。ただしこの本で扱うのは陸上での戦闘に限られており、海上のものは除外されている(なお除外する理由も説明されていて、あーなるほどという感じ)。

 現代における特殊作戦についての考察もあり、第一次世界大戦以降は勇敢な突撃といった戦場でのヒロイズムが泥と血と有刺鉄線の悲惨なイメージにとってかわられたため、英雄的な行動は特殊作戦で求められるようになったと述べている。昔は英雄が戦争の行方や国の運命を左右できたけど、いまや個々の英雄が重要な役割を演じられるのは特殊作戦だけ、ということですな。メディアでも特殊作戦が大きく取り扱われるようになり、大衆文化、特に映画で人気となった、という指摘はわかりやすい。例としてミッション・インポッシブルやスターウォーズ、ロード・オブ・ザ・リングとかが挙げられている。え、ロード・オブ・ザ・リング?と意表を突かれた感じなんだけど、「ただしデススターや指輪を特殊作戦の破壊目標となる大量破壊兵器だと認めればの話だけれども」という条件が付いていた。デススターはともかく、ロード・オブ・ザ・リングの指輪って兵器なのか? 特殊な力はたしかにあったけど。

 研究者の間でも特殊作戦についての関心は高まっているそうだけど、たいていは第二次大戦以降のものが研究されているらしい。それより前の時期については、特殊部隊と通常の軍隊の精鋭部隊との混同があるそうで、これに関してはジェームス・ダニガンのこともちらっと触れられている。ダニガン先生の名前が出てくるとなんかうれしい。

 またユヴァル・ノア・ハラリは中世と現代の特殊作戦を比較した後で、火薬の登場・近代国家の成立、つまり中世の終焉だけど、それ以前と以降では、差異よりも継続性のほうが大きくみられると主張している。この辺の分析も面白いです。


 そういう特殊作戦についての考察が第一章に書かれていて、それはそれで面白いんだけど、第二章以降では具体的に6つの特殊作戦について書いている。内応者に呼応して城塞都市を夜襲したり、敵地奥深くの要塞にとらわれた王の救出作戦、それに小規模の襲撃部隊で補給拠点を強襲して神聖ローマ帝国の大軍を退却させた話とか、これがまた面白いんですよ。短編小説の題材になりそうな話が並んでいて結構エンターテインメントとしても読める。田中芳樹とか、誰か小説に膨らませてくれないかな。第一章はすっ飛ばして第二章以降の好きな話からつまみ読みしても十分楽しめます。


 なにかのゲームに絡めてこの本を紹介しようかと思ったけど、そもそもマイナーな中世、しかも特殊作戦なもんでウォーゲームになりにくいものばかり。それに何より本として面白いし、膨大な注や参考文献リストを除けば実質百数十ページしかないので気軽に読めます。ユヴァル・ノア・ハラリについては批判もあるけど、ウォーゲーマーとしては参考になるというか楽しめる本なのでご興味持たれた方はぜひ。ウォーゲームやるけど中世なんて興味ねーよ、なんて言わないでね。

 ちなみに中世のゲームだとGMTの「Men of Iron」シリーズがいいっすよ。もう版元では売り切れで残念なんですけどね。たまたま、「War-Gamers Advent Calendar 2022」の前日の記事がターン制についてだったけれど、MoIシリーズは非ターン制といっていいんじゃないでしょうか。ターン制の定義がよくわからないけど。MoIシリーズはAARをいくつか書いているのでよければ読んでみてください。P500に入っている「Norman Conquest」、早く出ないかなー。「ヴィンランド・サガ」のアニメのシーズン2が放映されている間にでると、こじつけていろいろと紹介できるんだけどな。


2022年12月6日火曜日

再版してくれないかな、『ドイツ三十年戦争』

  GMTから「Musket&Pike」の第二版が出たり、「歴史群像」で三十年戦争の漫画の連載が始まったりして、ちょっと今年は三十年戦争に興味が湧いてきた。

 とはいえ「Musket&Pike」はユニットの切り離しすらしていないし、「歴史群像」もまだ読んでいないんだけど。というか、三十年戦争に関する知識がなさ過ぎて、まずは基本的なことを知ろうと思うんだけどなかなか手ごろな本がない。『戦うハプスブルク家』は買ったけどnyaoさんからポジティブなフィードバックがなかったので、ひとまずスルーしておいて、nyaoさんに教えていただいた『ドイツ三十年戦争』を読んでみることにした。

 でもこの本、もう絶版でアマゾンでは5万円近い値段がついている。ちょっと手が出せませんわすんません、と思っていたら、原著の『The Thirty Years War』のペーパーバック版が三千数百円ぐらいで売っていたので買ってみた。


 でも500ページ強ある本なので、三十年戦争に関する知識がほとんどない状態でいきなり読むのは無謀かと思い、Hourly Historyの『The Thirty Years' War』という本をまず読んでみた。50数ページしかないぺらっぺらの本なのであっという間に読了できて気分がいい。おし、これで大丈夫、と思って『The Thirty Years War』にとりかかったんだけど、いやーもう、内容がたっぷりあっておなかいっぱいになりました。というか知識のない自分は消化不良気味。でも面白かったです。

 

 読んでいて感じたのが、一言でいうとぐたぐた感。ドイツの各諸侯やデンマーク、スペイン、スウェーデン、傭兵隊長などさまざまなプレイヤーが好き勝手なことをやっていて、さっさと戦争を終わらせよと言いたくなるんだけどだらだらと続いてしまったという感じ。それでいて、ふらふらしていたバイエルンのマクシミリアンとかザクセンのヨハン・ゲオルグとかは戦争終結後も生き延びているし。英雄っぽい人と言えばスウェーデンのグスタフ・アドルフぐらいかな。


 あと、読んでいると結構constitutionとかconstitutionalって言葉が繰り返し出てきて、うーんよくわからんと思っていたんですが、どうやら多くの諸侯に分裂している神聖ローマ帝国も、いちおう帝国という枠組みは保とうという考えがあったみたい。皇帝は世襲ではなく選挙で選ぶとか、諸侯の権利を尊重するとか、外国の介入は避けようとするとか。それがハプスブルク家の覇権とぶつかって、さらにスウェーデンやフランス、スペインなど外国の力を借りないといけないのに建前上でもやめたほうがいいんじゃないのという考えが、いろいろと事態をややこしくしたみたいです。


 三十年戦争と言ったらドイツ中が悲惨な状況になったのはよく知られているけど、この本でも繰り返し惨状が描かれています。軍隊が略奪するだけでなく疫病まで撒き散らしたり。しかしいろいろと奪うだけじゃなくてなんでわざわざ火をつけていくのかな。ほんと、よくまあドイツに人が住めたもんだ。おいらは絶対17世紀前半のドイツに生まれたくない、と思ってしまうんだけど、本の最後のほうで被害は誇張されている可能性が高い、みたいな分析をしていますね。


 ただね、この本、約80年前のものだからか英語がちょっと固い。倒置してifの省略とかなんて普通だし。語彙も多彩で、フランス語やラテン語を英訳なしに載せたりしていて、自分の教養のなさをひしひしと感じます。

 人名を覚えるのも大変。そりゃ30年も続いた戦争だからいろんな人が出てくるのは当然なんだけど。しかも英語表記だから、ただでさえ乏しい三十年戦争に関する知識が混乱する。ブランデンブルグ選帝侯ゲオルグ・ヴィルヘルムがGeorge Wiliamとか、ザクセン選帝侯のヨハン・ゲオルグがJohn Georgeとか、そのうちジョージ・マイケルとか出てくるんじゃないかと思うぐらい。まあ、巻末にちゃんと索引がついているからこの人どこで出てきたっけな、と調べるのに困らないけど、主要登場人物の表とかほしくなりました。

 それと地図が欲しい。いろんな地名が出てくるけどどこだよそれ、と思ってしまう。和訳本にはついているのかな。しかもたまに英語表記になっていて、Palatinateって文脈でプファルツのことだってわかるけど、ちょっと困る。あー日本語で読みたい。


 と文句を並べてしまったけど、Hourly Historyの『The Thirty Years' War』とか『戦うハプスブルグ家』とか、ドイツの『Der Dreißigjährige Krieg』という新書みたいな本にもこの本は参考資料として挙げられていたので、三十年戦争に興味がある人は読んでおいたほうがいいんでしょう。和訳本の『ドイツ三十年戦争』、再版にならないかな。


 ビビったのが、筆者のC.V.Wedgwoodはこの本を30歳になる前に書いている。すげー。しかも女性で、出版当時の20世紀前半ってまだまだ女性差別がいろんなところで残っていて、そういう意味からもこういう業績を残しているのはすごいな、と。

 以前NHKの「映像の世紀 バタフライエフェクト」という番組を見ていたら、エミリー・デイヴィソンっていう女性活動家が20世紀初頭に女性参政権をもとめて戦っていて、最後は競馬場で国王の馬の前に飛び出して死んでしまう、という結構衝撃的なエピソードが出ていたし、ほかにも女性だからという理由で学位を認められなかった人のことを紹介していたりしていた。もしかしたらC.V.Wedgwoodも差別と闘わざるをえないことがあったのかな、と読んでいて思いました。

 それと、この本って1938年、WWⅡ勃発の前年に出ているんですね。すでに軍靴の響きが聞こえてくる時期ですが、この本の最後にウェストファリアの講和条約について、The Peace of Westphalia was like most peace treaties, a rearrangement of the European map ready for the next war.って書かれているんですけど、ヴェルサイユ条約のことも当然念頭に置いていたんだろうなって思います。



2022年11月30日水曜日

『ヤング・スターリン』

  ロシアのウクライナ侵攻以来、ソヴィエトのことをメディアがちらほら取り上げている印象があって、先日録画していたNHKでスターリン関連の番組を2,3見た。それで思い出したのが、10年近く前に読んだ『Young Stalin』。

 この本は確か書店でたまたま見つけたんだけど、表紙を見て若いイケメンの肖像とStalinという文字がマッチせずに脳がバグッてしまいました。え、何これスターリン?!って感じで。慌てて手にとって読んでみると、これがまあ面白かったです。だってね、いきなり銀行強盗のシーンから始まるんですよ。で、その後もぐいぐい引き込まれて読み進めていった記憶があります。



 今回読み直してみたんだけどやっぱり面白かったです。スターリンが生まれてから1917年の十月革命までを描いているんだけど、権力を握る前のスターリンってあんまり知られていないと思うんですよね。この本はそんな無名時代をビビッドに描いています。筆者サイモン・セバーグ・モンテフィオーリはスターリンの故郷グルジア(今のジョージア)まで行って取材したそうです。

 同じ筆者が『Stalin: The Court of the Red Tsar』(和訳は『スターリン 赤い皇帝と廷臣たち』)というのを書いていて、権力を掌握した後のスターリンを描いているんだけどこっちの本のほうが『Young Stalin』より先に出されてかなり売れたはず。『Stalin: The Court of the Red Tsar』は具体的な場面の描写というかエピソードが多くてスターリンっていう人間を具体的に想像できるんだけど、『Young Stalin』もそんな感じです。



 『Young Stalin』を読んでいると、若者が名誉欲や野心に駆り立てられて政府に立てつくという、痛快というと言いすぎだけど、ちょっとした冒険小説みたいな感じも受けました(あくまで個人の感想です)。だってシベリア送りとかになっているし。ロンドンにも行っていたなんて、知らなかったなー。若い頃は俺も無茶やってたぜ、みたいな感じで、それで更生していればあんな数々の悲劇を引き起こした冷血な独裁者にならなかったのに…。

 しかし、なんであんなにモテるんだスターリン。危険な香りのするイケメンが理想に燃えて反政府活動に身を投じているって感じに映って、女性は惹かれるんですかね。 


 なお『Young Stalin』は、同じ筆者の『Stalin: The Court of the Red Tsar』と同じくエピソード中心で、当時の社会や政治について詳しく知りたいとか分析を読みたいという人には物足りないと思いますが、そういう本は結構出ているはずなのでそっちを読んでもらえばいいかと。


 ちなみに『スターリン 青春と革命の時代』というタイトルで『Young Stalin』は和訳も出ているんだけど、表紙の印象が全然違うんですよ。もしかして別の本?って思うぐらい。

 個人的には原著の表紙のほうが好きです。というか、黒地に青文字だと重い印象を受けてしまうし、写真も黒っぽいうえに制帽をかぶっていて堅苦しい感じで、あー粛清とかホロドモールとかいろいろやったスターリン……と読む前から気持ちが重くなるんですよね、自分は。

 本の内容を考えたら、白をバックに若くてちょっとおしゃれな感じのイケメンがバーンと写っている表紙のほうがふさわしいんじゃないかな。日本の読者向けには独裁者スターリンのイメージを壊さないほうがいい、という版元の判断ですかね。ただ私は和訳のほうは読んでなくて、日本語だともっと暗い印象を受けるのかもしれませんが。

 版元ではもう品切れで、アマゾンを見たら新品には結構いい値段がついていますね。原著のほうは、読みやすい英語で書かれていますしキンドルやペーパーバックだと数百円しかかからないのでありがたいです。



2022年11月25日金曜日

親衛隊は死すとも降伏せず  La Garde Avance! (VV161) AAR ⑩

 ●第5ターン(続き)

 ロゲの部隊(赤)の二度目の活性化が回ってきた。老親衛隊最後の攻撃である。砲身も焼けよとばかりに熾烈な砲撃を加え、老親衛隊が突進する。鬼神のごとく暴れまわるVieille Gardeを前にして、隊列の乱れていた英連合軍が持ちこたえられるはずもなく多くのユニットが潰走する。さらには命からがら逃げようとする自軍の兵たちに巻き込まれて潰走するユニットも出てきた。

 JdGでは自軍ユニットを通過して潰走することができるが、通過されたユニットは士気チェックを行い失敗すると潰走してしまうのである。中世の会戦ゲームだとよくあるやつですね。

「ちょ、この老親衛隊の強さ、おかしくない? ワーテルローって最後は『La Garde recule!(親衛隊が後退している!)』ってなるんじゃないの?」

「勘違いしちゃいけない。このゲームは『La Garde avance!』なんだよ」


 ちなみに、ワーテルローのことを全然知らないのはまずいと思ってこのAARを書き進めながらOspreyシリーズの『Waterloo 1815』を読んでみました。イラスト豊富でページが少なくサクッと読了できるのでOsprey好き。で、親衛隊が敗退するシーンが結構よかったので引用しておきます。

The entire attack had been repelled. The perfect formations of just a few minutes before were now a single confused blue mass, highlighted with the glint of slashing steel as Vivian's and Vandeleur's light cavalry hacked within its midst. The impossible had happened. The invincible had been vanquished. A great, incredible sob spread along the French lines - 'La Garde recule! Sauve qui peut!'

("Waterloo 1815", p81)

(拙訳: すべての攻撃が撃退されていた。ほんの数分前には完璧な隊形を組んでいた諸隊が、今や混乱した青い一つの塊となっており、VivianとVandeleurの軽騎兵がその中を切り裂いていくと鋼鉄の刃のきらめきが見る者の目を奪った。あり得ないことが起こったのだ。常勝の兵が打ち負かされたのだ。フランス軍の戦列に沿って、大きく、信じ難いどよめきが広がっていった―「親衛隊が退却! みな我が身を守れ!」)

 なんかこの辺り、筆者も思わず力が入ったんじゃないですかねっていう印象。ワーテルローのクライマックスですからね。ナポレオンやフランス兵たちの愕然とした気持ちが伝わってきます。そういえば「La Garde Recule!」っていうゲームもありますよね。


 それはさておき。フランス軍はロゲの部隊(赤)以外はボロボロであるものの、老親衛隊に続けとばかりに最後の気力を振り絞って奮戦する。ネイの部隊(青)の生き残りの砲兵が、至近距離からの砲撃で敵騎兵を混乱状態に。そして左翼ではバシュリュの潰走ユニットがまさかの回復。さらに右翼のドンズロの部隊(緑)が続く。砲撃で敵騎兵を混乱状態にし、そこに騎兵がシャルジュ! 潰走していく敵騎兵を追撃して壊滅させた。

 ここでやっと英連合軍の中央部隊(青)の活性化。英連合軍で最大兵力を擁していた中央部隊だが、もう反撃するための歩兵が残っていない。残存砲兵で砲撃をするものの老親衛隊は耐えた。英連合軍の指揮官たちは敗走する歩兵たちを押しとどめようと声を張り上げる。そんななか、騎兵が奮戦し老親衛隊を1ユニット潰走させた。

 そしてターン最後の潰走移動。英連合軍予備部隊(緑)の2ユニットがマップ外に消えていった。


 こうしてナポレオン最後の賭け、親衛隊の攻撃は幕を閉じた。最終結果は、英連合軍15点、フランス軍21点。その差6点で惜しくも引き分けとなった。


 今回の対戦はJours de Gloireシリーズどころかナポレオニック初心者同士のプレイだったけど、両者とも楽しめました。なんといってもフランス軍は老親衛隊を指揮する高揚感を得られますからね。悲壮感もたっぷりだけど。英連合軍も簡単ではなく、どこまで守っていつ反撃するかの判断を迫られます。チットプルによる先の読めなさ、それに非命令下で攻撃に出るかどうかという迷いが、ずっと緊張感を与えてくれますね。

 それに何といっても秀逸なのが、マップをワーテルローの戦場の中央に限定して親衛隊の攻撃にフォーカスを当てたこと。ウーグモンとラ・エイ・サントは進入不可でZOCを持つヘクスというバッサリとした処理によって、プレイが中央の高地をめぐる戦いに集中されます。ワーテルローの他のゲームはほとんど知りませんが(BANZAI 15号はクロノさんから購入済みだけど、事情があって手にするのはかなり先の予定)、「La Garde Avance!」はワーテルロー戦の中でも独特の雰囲気になっているんじゃないかなと思います。


 あとでネットを見ていたら、デザイナーのFrédéric Beyが英連合軍の戦い方として、初期配置では複数の戦術グループに分割されている騎兵部隊と予備部隊を反撃のためにそれぞれ一つにまとめるようアドバイスしていました。今度試してみようかな。それよりもフランス軍の戦い方のヒントを教えてほしいんだけど、それを考えるものこの「La Garde Avance!」の楽しみなんでしょう。


ライプツィヒの戦いについて手軽にまとまった本を読むならー『ライプツィヒにおける諸国民の戦い』

  1813年10月18日の朝5時ごろ、アウグスト・フォン・グナイゼナウは妻に手紙をしたためていた。  「世界の歴史の中でこれまでほとんど起こらなかったような戦いをむかえる朝に、これを書いている。我々はフランス皇帝を完全に包囲した。この戦いはヨーロッパの運命を決定づけるだろう」 ...