2024年11月7日木曜日

(幕間)『ブルゴーニュ国家』

  AARを書いているGrandsonの戦いはブルゴーニュ公率いる軍隊とスイス軍の戦いですが、ブルゴーニュの歴史ってよくわからないんですよね。薔薇戦争とかその他14-15世紀のヨーロッパの本を読んでいると「ブルゴーニュ公国」って言葉がちらほら出てきて、なんじゃらほいとずっとモヤモヤした気がしてたので、概説書を見つけて読んでみました。だってね、領土がフランス王国に含まれているうえに百年戦争中はアルマニャック派と対抗するブルゴーニュ派なんてものが出てきて、フランス王国の一部なのかなとぼんやり思っていたら、イギリスと同盟して仏王に対抗したりしているし。地図を見たら今のオランダ・ベルギーから独仏国境地帯にかけて広がっていて、神聖ローマ帝国も一部入っているし、うーん、よくわからん。

 で、見つけた本はタイトルもそのまんまの『L'État bourguignon』。14世紀後半から15世紀後半にかけてブルゴーニュ公となったヴァロア家の時代を扱っています。シャルル・ル・テメレールはヴァロア・ブルゴーニュ家最後の公ですね。この本の裏表紙によると、フィリップ・ル・アルディ(1363-1404)からシャルル・ル・テメレール(1467-1477)まで、ブルゴーニュ公たちは南はブルゴーニュ公領から北はオランダまで広がる領土を支配下に置き、百年戦争、十字軍、そして外交や経済的な争いに加わった、とのこと。

 筆者はフランスの大学教授で14-15世紀のブルゴーニュを専門にしているそうで、本のタイトルにÉtat(国)という言葉を使ったことについては、実際に14世紀から15世紀までブルゴーニュという「国」が存在したと考えているからだ、と前書きで述べています。ただし近代的な意味での国家、つまり国民国家や主権国家ではないと断っていますが。うーん、ややこしい。ブルゴーニュ公たちによって創設され発展されたのはun État princierだそうですけど、なんて訳せばいいんですかね。そういった国家は君主の一家に体現される政治権力、その国独自の行政、司法、財政そして軍事制度、政治的な集団と特定の考えの発展、それに自立的な外交の展開によって特徴づけられるそうですけど、素人の私にはわかったようなわからなかったような。まあ細かいことはいいんですよ。ははは。

 この本はヴァロア・ブルゴーニュ家の約百年を時系列的に追いつつ、制度なども解説しています。Les armées des ducs de bourgogne(ブルゴーニュ公の軍隊)という章があって当然そこに目が引かれたんですけど、15世紀前半では外国出身の兵が4分の1を占めていたとか。それに14世紀後半から15世紀前半にかけて徴募兵、弓兵とクロスボウ兵の比率が上昇し、10%ちょいから70%ぐらいにまでなったとのこと。これはイギリスとの同盟による影響が反映されているって分析していますね。あと砲の普及についても説明していて、AARを書いているGrandsonの戦いでもそういえばブルゴーニュ軍には砲や弓兵が多かったなあと納得。 それとこの章にはLes réformes au temps de Charles le Téméraire(シャルル・ル・テルメールの時代の改革)という節が面白かったです。領土拡大をしフランス王と抗争を繰り広げていくにあたって、常備軍をもつ仏王に対抗するためにブルゴーニュ公国でも常備軍を整備していく必要があったとのこと。そういや百年戦争の後期にフランスは常備軍を創設していたなあ。

 十字軍という章も設けられていて、時代的にあれ?と思ったんですけど、いわゆる第7回まであった十字軍ではなくて、対オスマン帝国の十字軍。ブルゴーニュ公は艦隊を編成して派遣していて、ブルゴーニュに海軍のイメージがなかったので意外でした。まあ、政治的状況のせいでブルゴーニュ公が最後に計画していた十字軍は実現しなかったようですが。

 Grandsonの戦いにも触れていて、La défaite inattendue(思いがけない敗北)って書かれていました。兵的な損失は少なかったけど、物資や砲が敵の手に渡ってシャルルは結構落ち込んでいたそうです。でもすぐにGrandsonの敗戦の教訓から軍を再編成し、<<piquenaires>> suisses(スイスの「槍兵」)の戦術に対応するために歩兵を強化したとか。でもGrandsonの3か月後にはまた負けてしまうんですけどね。

 この本、知識のない自分にとっては消化不良な部分も結構ありましたが、というかヴァロア・ブルゴーニュ家4代のことなんて新しく知ることばかりだったんですけど、いい勉強になりました。AARを書いているGrandsonの戦いに限らず、ブルゴーニュが出てくるゲームをやるときは思い入れが変わってくるんじゃないかなと思います。


2024年11月4日月曜日

ブルゴーニュvsスイス Grandson 1476 - Epées et Hallebardes 1315-1476 (VV81) AAR part2

 ●第1ターン

 このターンはスイス軍の活性化から始まる。スイス軍は前進して丘陵地帯の隘路出口で防御を固めた。

「猪口才な。スイスの農民どもなんぞ蹴散らしてくれるわ!」

とブルゴーニュ軍プレイヤーが気炎を上げる。一斉に襲い掛かると思いきや、敵右翼端(マップ上方)のみを攻撃、損害を与えて後退させるに終わった。

「あれ、威勢がよかったはずなのに一カ所だけしか攻撃しないなんて、しょぼくない?」

「すんません、それは無理っす」

 先述のようにスイス兵は戦闘力、兵質ともに高く兵種としては騎兵と同等のため、1ユニット同士の白兵戦ではブルゴーニュ軍が不利になる。このゲームでは白兵戦をするユニットは正面ヘクスにいるすべての敵ユニットが攻撃されるようにしないといけないため、きっちりと戦列を組んでいる相手に一斉攻撃をしようとするとどうしても1ユニット同士の白兵戦が生じてしまう。さらにはスイス軍は地形効果も得られるユニットもあるわけで、ブルゴーニュ軍としては一斉攻撃をして次々と撃退されるという事態を避けるために敵戦列の端に2ユニットを投入し、さらに騎兵部隊指揮官Château-Guyonの指揮ボーナス(Bonus)で+2DRMを得て何とか有利な形で攻撃ができたのである。


●第2ターン

 スイス軍には増援のRedingの部隊が登場。この部隊は現在のスイス中央部の兵からなる。ちなみに初期配置されているScharnachtalの部隊はベルンの兵である。

 ブルゴーニュ軍は敵の指揮官Scharnachtalを攻撃、疲弊状態(Fatiguée)で後退させた。だがScharnachtalは怯まず、戦闘後前進で突出した敵騎兵を包囲、袋叩きにして敗走させる。ちなみにこのゲームでは戦闘後前進は強制である。うかつに攻撃するとこのように反撃をくらうことが多い。

 スイス軍の反撃を受けたブルゴーニュ軍は騎兵部隊を支援するためHochbergの弓兵が射撃で敵に損害を与えるものの、騎兵部隊とHochberg隊だけでは増援が登場したスイス軍を積極的に攻撃していくには兵力が足りない。

「予備がいっぱいいるんだから、早く投入させてよ~。デザイナーの意地悪~」

と嘆くブルゴーニュ軍プレイヤーである。


●第3ターン

 イニシアティブを得たブルゴーニュ軍は先手を取って騎兵が攻撃。すでに疲弊状態だったスイス兵ユニットを士気低下状態(Découragée)にして後退させた。

 スイス軍は総指揮官(chef d’armée)Scharnachtalのもと、一斉に反撃。このゲームでは基本的に部隊ごとに活性化するが、総指揮官は自分の指揮範囲内にいる他の部隊のユニットも活性化できる。Scharnachtalは6という広い指揮範囲にものを言わせて前ターンに登場したRedingの部隊も投入、敵戦列の間隙から浸透しブルゴーニュ騎兵に強力な攻撃を行う。特にRedingは指揮ボーナス3と強烈なDRMを持つのだ。包囲されていたブルゴーニュ騎兵はたまらず敗走していった。さらにScharnachtalに続いてRedingが活性化。敵に追い打ちをかけていく。

 そしてスイス軍には今ターンも増援が登場。Redingの後を追ってマップ上部からGoldiの4ユニットが、そして丘陵地下方の道からはFaucingnyの強力な歩兵部隊が現れた。

 頼みの騎兵が次々とスイス軍に撃破され、敵には続々と増援が現れるのを見たシャルル・ル・テメレール。Hochbergの弓兵の射撃で敵を牽制しつつ、後方にいた予備の3部隊を動かした。

「いやー、早いとこ騎兵が2ユニット敗走してくれてよかった。これで予備が投入できるもんね」

「それ、一軍の将が言うセリフじゃないと思うぞ」


 このシナリオでは先述のように、ブルゴーニュ軍は騎兵が2ユニット敗走するまでは予備の3部隊は活性化できない。そのため無理は承知で騎兵部隊で攻撃をかけていったのである。それにブルゴーニュ軍は騎兵が攻撃しなかったターンごとに1勝利得点(PV)をスイス軍に献上してしまう(最大で累計5PV)。そのため、史実同様騎兵で攻撃を仕掛けうるよう誘導される仕組みとなっている。


つづく

2024年11月1日金曜日

ブルゴーニュvsスイス Grandson 1476 - Epées et Hallebardes 1315-1476 (VV81) AAR part1

  先日やった「Alsace 1944」が面白かったので、アルザス関連のゲームをやってみた。プレイしたのはGrandsonの戦い。場所は現在のスイス北西部で1476年、スイスとブルゴーニュの両軍が衝突した……

 いやいや全然アルザスじゃないだろ! と思われるかもしれないけど、そうじゃないんですよ。この当時、領土拡大を続けるブルゴーニュ公国はアルザスをめぐってスイスやその他の勢力といわゆるブルゴーニュ戦争を戦っていて、その一環で起こったのがGandsonの戦いなんですね。なのでアルザスと結構関係があるんですよ。ははは…。

 まあ苦しい言い訳はこれぐらいにして、要はプレイしてみたかったからプレイしただけなんですけどね。ゲームはVaeVictis誌81号付録の「Epées et Hallebardes 1315-1476」に収録されている3つのシナリオのうちの一つ。中世の会戦をシミュレートしたAu fil de l'épéeシリーズに属し、同じシリーズでは以前、Guinegatteの戦いのAARを書いたなあ

 初期配置を見ると兵力でブルゴーニュ軍が圧倒しているように見える。だがデザイナーによるとこの戦いでブルゴーニュ公シャルルは騎兵と砲でスイス軍を打ち破れると思っていたそうで、ゲームでは後方の3つの部隊は予備となっていてブルゴーニュ軍騎兵が2ユニット敗走もしくは壊滅するまでは動かせない。一方のスイス軍は続々と増援が登場するため、数のうえでの不利さはなくなる。

 さらにスイス軍の多くは戦闘力(Facteur de combat)が8と強力で兵質(Qualité)でも敵に勝っている。それにほとんどのスイス軍ユニットの兵種はスイス兵(Suisses, Su)で、騎士(Chevaliers, Ch)や重装騎兵(Hommes d'Armes, Ha)と白兵戦で互角、ブルゴーニュ軍に多数いる槍兵(Piqiers, Pi)に対しては有利なDRMがつく。

 とまあこれだけでもスイス軍の優秀さがうかがえるのだが、さらにこのシナリオでは、スイス兵はブルゴーニュ騎兵の突撃を実質的に無効化してしまうのである。Au fil de l'épéeシリーズでは騎兵の突撃は+3のDRMが付くのだが、だがこのシナリオではスイス兵に対する突撃にはDRMがゼロである(複数方向からの突撃でやっとDRM+1)。

 優秀なスイス兵に対し、ブルゴーニュ軍は右翼(マップ下方)の台地上に砲兵を4ユニット配置しており、さらに弓兵を多数保持している。白兵戦で優位に立つスイス軍に対し、ブルゴーニュ軍がいかに砲兵と弓兵を活用できるかが勝敗のカギとなるだろう。


 実際の戦いでは続々と山地から登場するスイス軍に対しブルゴーニュ軍は平野部に退いて態勢を整えようとしたところ、そのまま押し切られてしまったらしい。ちなみにこの当時のスイスは8つの州や都市が同盟を組んでおり、ドイツ語だとAlte Eidgenossenschaft、フランス語だとConfédération des huit cantonsと呼ばれていて、当然VaeVictis誌でもそう表記されている。日本語ではなんて訳されているんですかね。

 一方のブルゴーニュ軍を率いるのはブルゴーニュ公シャルル。Charles le Téméraireとも呼ばれていて、シャルル勇胆公や突進公、猪突公とかいろいろと訳されているようだけど、le Téméraireは悪い意味も含まれているようで、辞書を見てもtéméraireという単語の意味としてune hardiesse imprudente ou inconsidérée(無謀だったり思慮の足りない大胆さ)なんてなことが書いてある。でもブルゴーニュ関係の本を読んでいると、téméraireではなくhardi(大胆)と変えたい、téméraireと呼んでいるとシャルルの業績や人格に対し史実と反する印象を与えてしまう、と言っている研究者がいるって書いてあった。その本の筆者は同意しつつも、やっぱりCharles le Téméraireというすでに定着している呼び名は維持したい、と書いていたけど。まあ自分にはフランス語のニュアンスはわかりませんが、シャルル関連の本を読んでいるとそんなに猪突猛進って感じは受けないので、このAARではle Téméraireを訳さずにル・テメレールと呼ぶことにします。


つづく


(幕間)『ブルゴーニュ国家』

  AARを書いているGrandsonの戦いはブルゴーニュ公率いる軍隊とスイス軍の戦いですが、ブルゴーニュの歴史ってよくわからないんですよね。薔薇戦争とかその他14-15世紀のヨーロッパの本を読んでいると「ブルゴーニュ公国」って言葉がちらほら出てきて、なんじゃらほいとずっとモヤモ...