2023年8月21日月曜日

グルーシーのイチゴ

「Napoleon 1815」(Shakos)と言ったら小さなウォーゲーム屋さんで日本語版が出ていますが、「Napoleon 1815」のマップに苺が描かれているのはなぜ? というつぶやきがあったので興味をひかれて調べてみました。


どうやらグルーシーに由来するんじゃないかなと。ブリュッヒャーを探していたグルーシーが、ワーテルローの砲声が聞こえてきたのにゆっくり食後のデザートのイチゴを食べていて戦いに参加できなかったと伝えられているようで、Les fraises de Grouchy(グルーシーのイチゴ)っていう言葉もあるようです。
Wikiにもこのことが書かれていますね。

Emmanuel de Grouchy — Wikipédia (wikipedia.org)


↓ここのイラストでは「元帥! 苺で遊ぶのはおやめください。間に合いません」って言われていますね。

Site en maintenance | historia.fr

(すみません、サイトはメインテナンス中になっていますね)

『グルーシーの苺、もしくはワーテルローにおけるナポレオンの敗北の秘密』なんて本も出ているようです。

Amazon.fr - Les fraises de Grouchy: Ou les secrets de la défaite de Napoléon à Waterloo - Le Tulzo, Gérard - Livres

日本語の書籍にはこのグルーシーのエピソードが書かれているんでしょうか。ご存じの方、いらっしゃったら教えていただけると嬉しいです。

ちなみに、ベルギー南部ワロン地方は苺がよく採れ、ワーテルローがあった6月は苺が美味しい季節だそうです。Napoleon 1815のマップにはNamurが含まれていますが、その南近郊にはイチゴ博物館があります。

Musée de la Fraise | Fraise Wépion | Namur | Belgique (museedelafraise.com)


グルーシーの故事にちなんで、ワーテルロー戦のゲームをやるときは英軍プレイヤーは相手のためにイチゴを用意してあげるといいのでは。仏軍プレイヤーに「ゆっくり召し上がれ」って言うと盛り上がるかもしれませんね。


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8月23日追記


Twitterでグルーシーについて教えていただきました。

この「グルーシーの2日間」は、詳細な分析をもとに、グルーシーを無能と決めつけるのはよくないのでは、とざっくりいうとそんな内容なんですが、ちょっと調べて、こんな記事を見つけました。

https://www.lefigaro.fr/histoire/2015/06/19/26001-20150619ARTFIG00106-waterloo-grouchy-fut-il-la-cause-de-la-defaite.php

「ワーテルロー:グルーシーが敗因だったのか?」っていう記事で、筆者はdirecteur de la Fondation Napoléonなのでナポレオン財団の理事って言えばいいんですかね。ナポレオンの回顧録以来、ワーテルローはグルーシーのせいで負けたと歴史家は考えていたけど、近年はワーテルローの敗因をグルーシーに帰す傾向が弱まっているそうです。

その理由として以下のことを挙げています。

①Lignyの戦いの後、普軍追撃の命令をナポレオンが下すのが遅かった

②ナポレオンはグルーシーを呼び戻すよう明確に指示したことはなかった

③グルーシーがWaterlooに行くにはDyle川を渡る必要があり、10キロ離れたWavreの橋を確保しないといけなかったが、普軍はそこを固く防御していた。なので、(上記「グルーシーの2日間」にもあるように)グルーシーは到底ワーテルローの戦いには間に合わなかっただろう。


そもそもナポレオンはウェリントンのことを舐めていて、ワーテルローの朝、スールトがグルーシーを呼び戻すように進言したところ、却下したそうです。その際、「Ce sera l'affaire d'un déjeuner」と言ったそうですけど、意訳すると「朝飯前だ」ぐらいの感じですかね。

みなさんもワーテルロー戦のゲームで仏軍をプレイするときは皇帝になった気分で「ス・スラ・ラフェル・ダン・デジュネ」って言ってみてください。…、いや、そんなこと言っちゃダメだろ。

2023年8月18日金曜日

「Land and Freedom」関連書籍その3 『誰がために鐘は鳴る』

  ゲーム「Land and Freedom」ではヘミングウェイがカードになっていますが、そういやヘミングウェイがスペイン内戦を舞台に書いた『誰がために鐘は鳴る』って、恥ずかしながら読んだことがなかったです。ノーベル賞作家の代表作の一つってされているそうなんですけどね。



 ヘミングウェイはスペイン内戦中の1937年にスペインを訪れ国際旅団に関わり、1938年にはスペイン内戦における最大の激戦であるエブロ川の戦いも見ている。1920年代にもスペインを訪れていて、結構あの国が好きだったみたいですね。

 で、『誰がために鐘は鳴る』なんですけど、舞台はスペイン中央部、マドリードの北のほうの山岳地帯。内戦が始まって1年弱のころ、共和国側に立って戦っている主人公のアメリカ人ロバート・ジョーダンは、共和国軍の攻勢開始に合わせて敵後方の橋梁を破壊する任務を受ける。現地のゲリラ部隊の協力のもと、橋梁爆破のための準備を進めるのだが…というストーリーで、結構分量がある作品。自分が読んだのはペーパーバック版だけど、490ページありました。でも物語上では4日間の話なんですよね。



 この作品の文学的評価はいろんなところで書かれていると思うのでそれは置いておいて、ウォーゲーマー的には、ハインケルHe111やフィアット戦闘機が飛んでたり、ソ連から派遣されたであろうロシア人の将軍が出てきたりするところに反応してしまうんじゃないですかね。トハチェフスキーの名前もちらっと触れられていました。あと、主人公に若い彼女ができるんですけど、こんちくしょうってウォーゲーマーだったら思…わない思わない、私だけですよね、そんなこと考えるの。

 この作品の時期の3か月ほど前にグアダラハラの戦いっていうのが実際にあったんですけど、共和国軍はファシスト側のイタリア軍部隊を撃退しているんですね。この作品中でもグアダラハラの戦いに触れたところで、敵がイタリア軍だって知っていたから、他の軍隊相手だったら到底やれない機動をして勝った、みたいなセリフがあって、あー、イタリア軍ねって思ってしまいました。あと、主人公の祖父は南北戦争で従軍したってことになっていて、グラント将軍がいつも酔っぱらっていたとかそういう話も出てきます。

 

 それと、スペイン内戦時のヨーロッパ情勢を知っていると、あー、そうねって思うところが結構あるんですよね。「もしフランスが我々を助けてくれていたら、国境を開けてくれてさえいたら」なんてところを読むと、不干渉委員会なんて作って英仏はファシスト陣営を利するだけだろ、でも翌年にはミュンヘン会談があって共和国の人々は裏切られたって絶望するんだよな…と思ってしまいました。


 ところどころQué vaとか短いスペイン語が出てきて、スペインっぽさを感じます。それと、登場人物のセリフの中でThou artとかDost thouとかtheeとか、自分はなんか古い英語だなって感じる表現が結構出てくるんですけど、方言を話していることを表そうとしてるんですかね。でもジョージ・オーウェルの『カタロニア賛歌』では、共産主義者や無政府主義者が支配的になったバルセロナでは相手のことをComradeとかThouと呼ぶようになった、って書いているから、そういう雰囲気をだしているのかな。和訳ではどうなっているんだろ。あと、主人公のロバートはスペイン人にはInglés(English)って呼ばれているんですけど、和訳だとどう表現しているんですかね。イギリス人? あと、彼の名前はRoberto(ロベルト)って言われていました。それと、作中ではお互いにSaludって挨拶するんですけど、ジョージ・オーウェルの『カタロニア賛歌』ではBuenos diasの代わりにこう言うようになった、って書いていますね。


 作中ではワインを飲むシーンが結構出てくるんですけどね、優雅にボトルからワイングラスに注ぐなんてことしないんですよ。dipped his cup into the wine bowlって、ワインの入ったボウルからコップで掬ったってことですよね。それとwineskinって、ワインの入った革袋から飲んだりしているんですよ。読んでいて赤ワインが飲みたくなってきて、でもたまたま近所の店でスペインのビールが安く売っていたのでそれを飲んだりしていました。Estrella Dammっていうバルセロナのビールで、バルセロナっていったらスペイン内戦中は共和国側の有力な拠点の一つだったわけで、共和国のために戦っている物語を読んでいるだからいいでしょと自分に言い訳してがぶがぶ飲んでしまいました。というわけで、赤ワインかスペインのビールの飲みながら読むに結構いい本だと思います。このブログもワイン飲みながら書きました。

2023年8月15日火曜日

青い鳥を孵化させる―『ツイッター創業物語』

  ツイッターって便利ですよね。ウォーゲームについてつぶやいたら海外のデザイナーさんから直接レスポンスが来たりとか、意外なところでつながれるのがうれしい。

 そのツイッターがXになってもう青い鳥のアイコンがなくても違和感を覚えなくなったころに何ですけど、そういやツイッターってどういう経緯で生まれたんだっけなと、昔読んだ『Hatching Twitter』という本をざっと読み返してみました。


 この本、和訳は『ツイッター創業物語』ってタイトルになっていて、そのとおりツイッターの立ち上げ時のルポ。でもね、tweetって小鳥のさえずりのことで、hatchって鳥とかを卵から孵化させるって意味があって、『Hatching Twitter』ってタイトルはほんとうまいなーって思っていたんですよね。和訳のタイトルは何のひねりもないものになっていますが、まあ日本のマーケットを考えると仕方なかったんですかね。和訳読んでいないのにいちゃもんつけるようなこと言ってすみません。

 

 まあそれはさておき、この本、面白いんですよ。単純に読み物としてすらすら読んでいけるような書き方しているんですよね。真面目な分析というよりは、コミカルなドラマを見るような感じで読めました。

 もちろん、ツイッターが全然知られていないころから急激に利用者数が増えててんやわんやする様子とか、スタートアップの本として内容的に興味深いです。個人的に、エスタブリッシュメントの中にいるよりは、この先どうなるかわからないけど新しいことをやってみるほうが面白いぜ、という考えに共感するほうなので。まあ、そのおかげで今までやらなくてもいい苦労をしてしまったぜよ…。それと、昔ドイツ人の知り合いに「僕は不安定さ(Instabilität)を楽しみたいんだ」って言ったら、「そういう時は不安定さじゃなくて自由(Freiheit)って言うのよ」って訂正されて、ちょっと違うんだよな…って思ったことがありました。


 そんなことよりも、この本ではTwitterって名づける前からの立ち上げの様子から、2012年初頭あたりまでが描かれています。一応、表紙にはA True Storyって書いてありますし。元従業員など多くの関係者にトータルで数百時間インタビューしたそうです。青い鳥のアイコンが消えてしまったこの時期に読むのはいいんじゃないかな、と。

 あと、本筋とは全然関係ないけど超絶かわいい女性が出てきて、彼女がほほ笑むと通りを走る車がみんな止まってしまうぐらいだった、みたいなこと書かれていて、どんな人だったのか見てみたいぜって思ってしまいました。


 読んでいて思い出したのが、昔仕事でTwitterのことを記事にしないといけなくて調べていたことときのこと。その当時はまだ日本ではマイナーで、でもアメリカのテレビ番組の司会者が番組最後に「Tweet me」って視聴者に言ったりしていて、あーアメリカでは盛り上がっているんだなって思った記憶が。2009年のイラン大統領選のときもその影響力を目の当たりにしたなあ。

 それと、昔Time誌でSNSの記事があって、主要なSNSを図にしていたけどFacebookがSNSのひいじいちゃんって書かれていて、まじ、もうそんなに世代が進んでんのって驚いたことがあった。すんません、情弱なんで。でもそんな新陳代謝栄枯盛衰が激しい世界で生き残っているツイッターってすごいな、と。イーロン・マスクが変なことをしてしまわないように願っています。


2023年7月31日月曜日

『スペイン内戦—ごく短い概要』

  アントニー・ビーヴァ―の『スペイン内戦』は面白かったんだけど、結構分量があって知識のない自分は消化不良気味。もうちょっと簡単にスペイン内戦の流れがわかるものはないかなと思っていたら、ゲーム「Land and Freedom」の参考資料に『The Spanish Civil War: A Very Short Introduction』っていうのがあったので読んでみた。デザイナーのAlex Knightがツイッターで勧めていたのを見たことがあったし、版元もオックスフォード大学出版なので内容的にもちゃんとしているかなと。

 『The Spanish Civil War: A Very Short Introduction』は新書ぐらいの大きさで、本文は150ページしかなく、まさにvery shortですよ。なんだよ、最初からこれにしておけばよかった。見栄はっていきなりビーヴァ―の分厚い本なんか読むんじゃなかったよ…。

 と気楽な気持ちで読み始めたんだけど、やっぱり内戦が始まるまでのスペインの政治状況はややこしいですわ。というか、組織や人物を把握していないので、頭の中が混とんとしてきました。まあ、アントニー・ビーヴァ―の本と同様、この本の最後にも単純化はしてはいけないということを繰り返し書いていたので仕方ないんでしょう。安易に類型化しないように努めるというのが歴史に対する真摯な態度なんでしょうな。

 それはさておき、ページ数が少ない割には共和国側の描写にボリュームを割いている印象。ゲーム「Land and Freedom」で共産主義者のカードにAbraham Lincoln Brigadeっていうカードがあって、スペイン内戦に義勇兵として参加したアメリカ人部隊のことらしいけど、へ―そんな部隊があったんだと思っていたらこの本でも触れられていました。もちろん共和国側のことだけでなく、The making of rebel Spainという章を設けてフランコ側のこともちゃんと書いていますけど。

 あと、軍事よりも政治や社会、文化面の記述が結構ありました。女性の役割とか、プロパガンダについてとか。でも例外的に共和国軍のVicento Rojoっていう指揮官を称賛していてるんだけど、そんなに優秀な指揮官だったんですかね。スペイン内戦のゲームは「Land and Freedom」以外持っていないからウォーゲームでどういう評価がなされているのか知らないんだけど。優秀な指揮官と言えば、アントニー・ビーヴァ―の『スペイン内戦』では反乱軍側のJuan Yagüeが一番できる子みたいなこと書いていたな。

 『The Spanish Civil War: A Very Short Introduction』を読んで意外だったのが、内戦後から現代までのスペインにおける、スペイン内戦の意義の変遷について結構書いているという点。本全体の2割以上のページを使っていて勉強になりました。冷戦期から現代にかけてのスペインって全然知らないし。しかしまあ、ヘミングウェイの『誰がために鐘は鳴る』でもファシスト側のブルジョアたちに村人が集団リンチのようなことをするシーンがあったけど、共和国側に付いた人たちへのフランコ政権の迫害もひどいもんで、しかもフランコの独裁は35年も続いたわけで、内戦がスペイン社会に深い傷跡を残したことは容易に想像がつきますな。

 というわけで、軍事面にとどまらないスペイン内戦の概要をさくっと知るにはちょうどいい本なんじゃないでしょうか。2005年出版なんで比較的新しいし。これを読んでからゲーム「Land and Freedom」をやるとさらに盛り上がると思います。


2023年7月23日日曜日

アントニー・ビーヴァ―『スペイン内戦』

  前回紹介したゲーム「Land and Freedom」をやるにあたって、あまりにもスペイン内戦について知らなすぎるので関連書籍を探してみた。だって、スペイン内戦って言ったらフランコとコンドル軍団ぐらいしか思い浮かばなくて、WW2の前に各国が兵器や戦術を試した、ぐらいの印象。ドイツのポーランド侵攻の数か月前までやってたなんて頭からすっかり消えていましたよ。

 そこで見つけたのが、アントニー・ビーヴァ―の『スペイン内戦』。アントニー・ビーヴァーと言ったら『スターリングラード 運命の攻囲戦 1942-1943』や『ベルリン陥落 1945』などWW2の本をいくつか出していて、ウォーゲーマーだったら読んだことがある、もしくは読みたいと思ったことがある人、多いんじゃないかな。

 でも実際に買ったのは原著の『The Battle for Spain』のペーパーバック版。だってこの本、上下巻で合わせるといいお値段がするんだもん…。みすず書房さんすみません。



 読んでみると人名やら組織名やら初見のものがふんだんに出てきて大変でした。全然知識がない状態でいきなりこの本を読むのは結構無謀かも…。1936年に反乱が起こって以降は軍事的な内容が結構出てくるので読む楽しみのほうが苦労を上回りましたけどね。それに知らないことだらけってことは逆に言うと新しいことをいろいろと勉強できたんでよかったんです。…と、ポジティブシンキングっぽく自分に言い聞かせておきました。「第五列」はスペイン内戦で生まれた言葉だって知らんかったわー。

 内容は共和国側と反乱軍のどちらかに偏ることなく、バランスの取れた既述のような印象を受けました。スペイン内戦前の2月の選挙で右派が負けたため、8月の軍部の反乱につながるんですけど、左派は2月の選挙で負けていた場合、その結果を受け入れたのだろうかと疑問を呈しています。それに、リベラルや中道左派も憲法を順守していたわけではないってことも指摘していますね。


 導入部で、スペイン内戦は左派と右派の衝突として描かれることが多かったが、これはミスリーディングな単純化で、中央対地方自治、それに権威主義と個人の独立というもう二つの対立項も考えないといけないって書いてあったんですけど、うーん、ややこしい。でもバスクやカタルーニャが独自の動きをしていることも結構理解しやすくなりました。それにね、たしかにややこしいんですけど、この本の一番最後はhistory, which is never tidy, must always end with questions. Conclusions are much too convenient.って言葉で結んでいるので、単純化して結論を出すみたいなことをしないのが筆者の精神に即しているんでしょうね。


 あとアントニー・ビーヴァ―はソ連崩壊後のロシア語の資料にもあたっているらしく、ソ連から参加した指揮官についてもわりと書かれている印象。のちのWW2で活躍する指揮官が結構いますね。それと、ソ連から多くの軍事援助とともに指揮官も派遣されたけど、1937年にトハチェフスキーが粛清されてからはソ連軍の指揮官はトハチェフスキーの軍事理論に従うことを恐れるようになり、縦深攻撃をやらなくなったっていう指摘も面白かったです。


 スペイン内戦では共和国側で女性兵士も活躍していて、ゲーム「Land and Freedom」のボックスアートも女性だし、映画「Land and Freedom」も女性たちが主人公と一緒に銃を持って戦っていますね。まあ、その後女性が兵になるのが禁止になったりするんですが。

 ビーヴァーの『スペイン内戦』でも女性指揮官が出てくるシーンがあって、泥濘の中で長時間の行軍で疲弊していた共和国軍部隊がイタリア軍に攻撃され必死に防戦したとき、女性が指揮する機関銃中隊が持ちこたえたおかげで援軍が救助にくるまで敵の攻撃をしのいだ、っていうのがあるんですけどね。その共和国軍部隊の指揮官が機関銃中隊の女性指揮官に謝意を示そうと走っていったところ、

only to find her calmly combing her hair while looking into a fragment of broken mirror. (彼女は割れた鏡の破片を覗き込みながら静かに髪を櫛で梳かしていた)

←惚れてまうやろ~!!!


 スペイン語のツイートでこの本への批判もあったけど、とりあえずスペイン内戦に興味のあるウォーゲーマーだったら読んでおいて損はないんじゃないでしょうか。ただ自分のようにいきなりではなく、何かしらの基礎知識を得てから読むのをおススメします。




2023年7月16日日曜日

協力か、それともエゴか。スペイン内戦を描いた半協力型ゲーム「Land and Freedom」

  スペイン内戦をテーマにした「Land and Freedom」。叛乱をおこした軍部に対し、プレイヤーたちは協力して共和国を守らないといけないけれど、その一方で自勢力の拡大を図らないと勝利できないというゲーム。通常のウォーゲームだったらファシストvs共和国派になると思うんだけど、デザイナーのインタビューとか読んでいたら、信用できない味方との駆け引きがメインになりそう。

 早く発売されないかな、と待っていたんだけど、日本語訳付きで小さなウォーゲーム屋さんで発売になった。と思ったらあっという間に完売してしまい、しかたなく版元のBlue Pantherに直接注文。そのときは海外に長期滞在中でその国から注文したんだけど、何週間後かに小さなウォーゲーム屋さんのサイトを見ていると日本語訳付きが再入荷した模様。がーん。もうちょっと待っていればよかった……とショックを受けていたら、その翌日にゲームが自分の手元に届くという何とも皮肉なことに。まあ、仕方ないよね。手に入っただけでも良しとしないと。

 というわけで、以下ゲームについての訳語は我流です。よい子のみんなはちゃんと日本語訳付きを買おうね。ちなみにゲームのタイトルはケン・ローチの同名の映画からとられているらしい。映画「Land and Freedom」も見たけど、ケン・ローチの作品ってずーんと重いものが多いっすよね…。

 ゲームは基本的に3人プレイのカード・ドリブン。プレイヤーはそれぞれ穏健派(Moderates)、共産主義(Communists)、無政府主義(Anarchists)を担当し、3年間共和国を守ることになる。1年は4ターンに分かれ、各ターン最初にファシストのカードを引いてどこが攻撃されたかを決めた後、各プレイヤーがそれぞれプレイする。ポイントは、共和国が負けたら3人とも負けになってしまうということ。特に首都のマドリードが陥落したら即座に負けなので、史実同様プレイヤー間のいざこざを置いておいて必死に首都を防衛することになる。(なお、このゲームは2人や1人でのプレイも可能)

 共和国を守る一方で、無政府主義者は自由化と集団化を推し進め、共産主義者と穏健派は政府のコントロールをめぐって争う。また共産主義者はスターリンの、穏健派は外国からの支援を増やして自勢力に有利になるようにする。でもそうやって自勢力を有利に持っていこうとするとファシストに対する防衛がおろそかになるんだよね。

↑南方前線にファシストの攻撃があって結構やばくなり、穏健派と無政府主義者が協力して防衛したんだけど、そんな二人をしり目に共産主義者はソビエトからの支援を増やした図。「お二人とも防衛ご苦労様。私は共和国のためにスターリン閣下からさらなる支援を…」「このソ連の犬め!」みたいな会話が繰り広げられることになる。

 AARを書こうと思ったんだけど、マルチプレイヤーズゲームって記録を取り慣れてなくて、なかなかうまくいかなかった。日本語ルール無しでもプレイできる人間を二人集められたのはいいんだけど、高校生だったのでスペイン内戦当時のヨーロッパの状況を説明しないといけなかったり、「Collectivizationって何?」みたいな疑問が続出して自分も勉強になりました。とりあえず、映画「Land and Freedom」でファシストから解放した村の土地をどうするかという議論のところは見せておいた。10分ちょいだけど、結構教材としてもいいかも。


 マップはMadrid, Northern, Aragon, Southernの4つの前線(Front)に分かれていて、ファシストの攻撃はマイナスで表され(逆に共和国側がポイントを使って防衛するとプラスに働く)、マイナス10になった戦線は敗北が決まる。前述のようにマドリードで敗北したらサドンデスだが、それ以外にも2つの戦線で負けたらやはりサドンデス。さらに最終ターンでプラスになっていない戦線が2つ以上あったら共和国の敗北である。ファシストの攻撃は年を追うごとに強力になっていって、なかなか守るのが大変なんですよ…。

 ファシストの攻撃はこんな感じ。


フランコの主力は地中海の対岸モロッコに駐留していたんだけど、ナチスドイツから提供されたJu52を使ってスペイン本土に空輸。


おお、我らがコンドル軍団!(←違う)。イタリアの装甲部隊も。ムッソリーニは結構フランコに軍事援助をしたらしい。



独ソ不可侵条約や日中戦争勃発なんてカードも。スペインでファシストと対立は避けたいってことなんですかね、スターリンからの支援が減少する。


対する共和国側。無政府主義者のカードには

あのジョージ・オーウェル。『1984年』の作者ですね。スペイン内戦に義勇兵として行っていて『カタロニア賛歌』とか書いているんだけど、彼が参加していたのがPOUMですよ、POUM。映画「Land and Freedom」を見た人だったら熱くなるでしょう。ジョージ・オーウェルはスターリン主義者を猛批判していて、このカードではソ連からの支援が下がったりする。

で、共産主義勢力には

「POUMの非合法化」なんてのがある。もう、こんなふうに内部対立やってたら共和国を守れないでしょ。

 さらにはこの時代、英仏の資本主義勢力が共産化への懸念を持っていたため、それを抑えるため、スターリンの指示で共産主義者は農業の非集団化までやっている。

あとこんなのも。

女性兵士の禁止は、これも映画を見たら、ああ、そういうのあったな、と思いますよね。

それと腹立つのが、

「スターリンが共和国の金塊を取得」ですよ。むかー! スターリンは共和国の金塊を安全なところで保管しなくては、とかいってソ連に運び、しかもそこから武器の代金を支払わせたんだけど、勘定はソ連の思うがままだったらしい。

もちろん、ソ連からの軍事援助もあるけどね。


穏健派には

有名なゲルニカのほか、ヘミングウェイも。ノーベル賞作家のヘミングウェイはスペイン内戦に参加して『誰がために鐘は鳴る』を書いている。このカードは外国からの援助を増やしたりする。

ほかに、

「メキシコからの軍事援助」なんてのも。スペイン内戦時にソ連を除けば共和国を支援した国ってメキシコぐらいらしくて、武器以外にも食料を送ったので飢餓を免れたりしていたらしい。


と、スペイン内戦のことを知れば知るほど楽しめるんだけど、それを除いても協力とエゴのジレンマで独特の作品になっている。デザイナーはインタビューで、「最下位にいるプレイヤーは、ファシストが猛威を振るう間、見て見ぬふりをするのかそれとも団結して陣営全体のために戦うのかという問いを突き付けられる」なんてなことを言っていたけど、ほんと、そのとおりのゲームですよ。

2023年7月3日月曜日

『フランスの宗教戦争』(仮題)

  ユグノー戦争って言ったら30年以上にわたって続いた戦争なのにウォーゲーム業界ではマイナーで、日本語ルール付きだったらフランスのFellowship of simulationsというところから出ている「Wars of Religion」ぐらいしか見当たらない。でもまあ、世界史の授業でもサン・バルテルミーの虐殺とナントの勅令、それにアンリ四世ぐらいしか習った覚えがないなあ。

 でもさすがはご当地フランス、Vae VictisからAvec Infini Regretというシリーズが出ていて、ユグノー戦争期の会戦をシミュレートしている。(なお同シリーズにはVV105号でオランダ独立戦争のNieuport 1600が、VV116号でスウェーデンとポーランドの戦いのKirchholm 1660が出ている)

 Avec Infini Regretのゲームをプレイしていたら、そういえばユグノー戦争のことって全然知らないなあ、アンリ四世が女性に手を出しまくったということぐらいしか覚えてない、と思ってユグノー戦争の本を探してみた。佐藤賢一の『ヴァロア朝』と『ブルボン朝』が読みやすいけど、ユグノー戦争を主体的に書いているわけではないし。シンプルにまとまっているものを、と見つけたのが文庫クセジュの『宗教戦争』。そうか、クセジュがあったかと改めて気が付いて(フランスのことなんだからフランスの出版社の本を探そう、と思わない自分の鈍重さよ…)クセジュのサイトで探してみたら、ありました、『Les Guerres de Religion』という本。2016年に初版が出たようで比較的新しいし、本文は120ページと手軽なので読んでみた。文庫クセジュってちょうど新書ぐらいの分量でさくっと読むのにいいんだよね。


 読んでみるとまあ知らないことばかり。勉強になったわーと思っていたら、白水社から8月30日に『Les Guerres de Religion』の翻訳が出るっていうツイートが流れてきた。がーん。和訳本って、当然と言えば当然だけど日本語になっているから自分の持っている知識とつながりやすいんだよね。『Les Guerres de Religion』を読んでいたらetats generauxって言葉が出てきて、なんか大きな集会なのかなって思っていたんだけど、三部会のことだって気が付くのにちょっと時間がかかりましたよ。とほほ。それに和訳本だと大抵解説がついているからお得なんだよね。あーあ、知らなかったとはいえ翻訳が出るのを待てばよかった…。

 和訳本は、白水社のサイトによると、今のところ『フランスの宗教戦争』という仮題になっている。ユグノー戦争に興味がある人は発売まで待ってください。ちょうど今、フランスからは物騒なニュースが流れていますが、16世紀には血みどろの内戦が行われていたんだと言うことがよくわかります。

 この本の筆者Nicolas Le Rouxはソルボンヌ大学の教授らしいので、内容的にもしっかりしているはず。でも自分の知識不足、特に政治思想に関しては無知で、"un roi, une foi, une loi"なんて言葉を見ても、「アンロワ、ユヌフォア、ユヌロワ」なんて韻を踏んでてリズムがいいなーとしか思わないのが我ながら悲しい。それと、contractualismeという言葉がこの本には出てきたんだけど、日本語でなんていうですかね。契約主義? とにかく、ユグノー戦争中、特にサン・バルテルミーの虐殺以降に強まった考えのようで、王への服従は絶対的なものではなく、王が臣民を尊重する限りにおいて臣民は自発的に服従するという契約のことらしいけど、それが17世紀の絶対王政のフランスとどうつながるのか、もしくはどう変化するのかが知りたくなった。あと、国家(Etat)という概念が生まれたって書いてあるんだけど、L'invention du coup d'Etat(クーデターの発明)なんて章があって面白かったです。

 まあとにかく、ユグノー戦争について手軽にまとまっている本なので、ご興味がある人はどうぞ。


(9月5日追記)

白水社から和訳が出ました。予告どおり、『フランスの宗教戦争』というタイトル。原著にはない関連家系図や、日本語書籍の参考文献リストもついているそうなので、買おうかな。


ライプツィヒの戦いについて手軽にまとまった本を読むならー『ライプツィヒにおける諸国民の戦い』

  1813年10月18日の朝5時ごろ、アウグスト・フォン・グナイゼナウは妻に手紙をしたためていた。  「世界の歴史の中でこれまでほとんど起こらなかったような戦いをむかえる朝に、これを書いている。我々はフランス皇帝を完全に包囲した。この戦いはヨーロッパの運命を決定づけるだろう」 ...