2025年9月24日水曜日

『ナポレオンに立ち向かうロシア』

  ナポレオニックってウォーゲームでは人気分野の一つだと思うんですけど、自分の知識って雑誌記事からのものばかりで、ちゃんと一冊読まないとな、と思って選んだのがこれ、"Russia Against Napoleon"。筆者のDominic Lievenはロシア史が専門のケンブリッジ大学教授だし、出版されたのは2010年なので比較的最近の研究結果も反映されているかなって思ったんですよね。Kindle版だと安いし。

 でも冒頭で、これまで西欧においていかにナポレオン戦争におけるロシア軍の役割が研究されてこなかったのかということを力説しています。え、もしかして一般的に流布しているナポレオン戦争のイメージとは違う本を選んじゃった?ってちょっと焦りましたよ。

 筆者によるとNo Western professor has ever written a book on the Russian war effort against Napoleon.だそうですし、the Russian side of the story is ignored or misinterpreted, with historians largely seeing Russia through the prism of French- or German-language sources.だそうです。まあ確かにね、フランス軍かっこいいし、イギリス軍はなんつったってワーテルローでナポレオンを破っているし、プロイセンは参謀本部とか創設したりしてるもんね。それ比べるとロシア軍ってなんか地味っていう印象。実際、Studies of the 1812 campaign in English mostly concentrate on Napoleon’s mistakes, on the problems created for the French by Russia’s geography and climate, and on the horror but also the heroism in evidence in Napoleon’s army during the retreat from Moscow.だそうです。

 でも、

Napoleon destroyed his army in 1812 in large part because of logistical failures. By contrast, one of the key triumphs of the Russian war effort was its success in feeding and supplying more than half a million troops outside Russia’s borders in 1813–14.

とか、

One entirely true reason why Russia defeated Napoleon was that many able young officers were promoted on merit to key positions during the war.

とか、おお、そうなんだと知識不足の自分には目からうろこでした。


 大学教授が書いた本だからお堅いかと思うとそんなことなくて、結構個々の戦いの描写も詳しいんですよね。「Against the Odds」誌の最新号はクルムの戦いみたいですが、この本でも結構分量を割いて書かれていました。もちろん、本の冒頭でロジスティクスについて触れられているように、ロシアの兵や糧食の補充体制、とくに自国から遠く離れた前線への輸送体制の整備とかが説明されています。でも個々の士官のエピソードなんかも結構入っていて、この本は結構ページ数があるんですけど最後まで飽きずに読むことができました。1814年のフランス戦役のところでは、連合軍の指揮官が会議のために集まるんですけど

When the time to begin the meeting arrived, apparently Blücher was nowhere to be found and the various dignitaries scattered to track him down. It was Alexander who discovered him, deep in the wine cellars, plucking the best bottles from the racks.

この描写、この流れの中で必要?って突っ込んでしまいました。自分にとっては面白かったんでいいんですけど。あと、アレクサンドル一世を随所でほめています。もちろん野戦指揮官としてではなく戦略家、政略家としてですけど。


 ナポレオニック関連の本でロシア中心のものは少ない(よね?)と思いますし、ナポレオニック関連書籍や資料を渉猟されているDSSSMさんもこの本をどこかでお勧めしていた記憶があるので、ナポレオン戦争に興味がある人だったら読んで損はないんじゃないでしょうか。




2025年9月17日水曜日

1813年のドイツ戦役、Wachauの戦いって?(VaeVictis182)

 今月発売のVaeVictis最新号はナポレオニックでWachau 1813。でもどんな戦いか全然知りませんわって以前つぶやいたところ、いろいろと教えてもらいまして。Twitterって気分を害するような言説を目にすることも多いですが、こうして人の善意に触れたり思いがけず知識を得たりすることがあってありがたいです。

 Wachauってライプツィヒの戦いの緒戦のようなんですけど、ライプツィヒも1813年戦役も全然知らなくて、VaeVictis最新号が届いたのでヒストリカルノートを読んでみました。

 LA DERNIÈRE CHANCE..(最後のチャンス…)なんて見出しがついていて、え、どういうことって思ったんですけど、

1813年10月、ドイツ戦役は終わりに近づいていた(中略)諸国民戦争として知られるこの戦いは、フランス軍の運命を決定づけようとしてた

なんてリードが続いていて、チャンスなんてないじゃん、連合軍にとってのチャンスってこと?と知識不足の自分は混乱したんですが、ライプツィヒの戦いが本格的になる10月18日より前、連合軍が集結しきる前にオーストリアのボヘミア軍を撃破できた可能性があり、ライプツィヒの戦いの結果も変わったのではないかということです。もしかしたらオーストリアを無力化できたかもしれないそうですが、でもこの可能性については、フランス軍の士気は高かったものの、指揮官の質が低下しているうえに連合軍側の士気も高いのでおそらく難しかっただろうとヒストリカルノートの最後で述べています。なんだ、やっぱりナポレオンの大逆転は無理だったってこと?

 ヒストリカルノートではライプツィヒにいたるまで両軍の動きや、このゲームで取り扱っている10月16日の戦いの流れを描写していて勉強になったんですけどね、戦況図が載っていないんですよ。自分でグーグルマップとかで確認していけばいいんですけどね、そういうのが好きな人がぜひ戦況図を作ってほしいと他力本願丸出しで思ってしまいましたよ。このWachauの戦い、最初は連合軍の攻勢から始まったものの仏軍は増援の到着で反撃に転じ、ミュラの突撃とかもあったりするんですが決定的な勝利は得られなかった、というのがだいたいの流れのようです。Le coup de grâce avorté(挫折したとどめの一撃)とか、Une petite victoire tactique sans lendemain(次につながらない小さな作戦的勝利)とか、なんか悲哀を感じさせる見出しが1813年っぽいのかなって思いました。

 ゲームは比較的簡単なルールで、基本的にいわゆるIGO UGOシステム。ただ両軍に士気が設けられていて重要拠点の占領や部隊の損害などに影響されるんですが、ターン開始時に士気の高いほうがイニシアティブプレイヤーとなって先にプレイするんですね。このため、イニシアティブを持っていなかったけど士気が逆転した場合、次のターンは先にプレイできるのでダブルインパルスって言ったらいいんですかね、連続してプレイできるという、戦況のドラスティックな変化が起こるようになっているようです。

 またイベントチット的なものがあってゲームの展開に変化を与えるようです。プレイしてないからわからないけど。でも「Napoléon: Vive l'Empereur!」なんてチットがあって、うーん、使ってみたい。ほかにブルッヒャーなどゲームの地図には含まれてない他地域の戦況の影響を表すものもあります。それと、このゲームはVV150の「Bautzen 1813」やVV169の「Lützen 1813」と基本ルールは共通なので、他の2ゲームもプレイしやすいんじゃないかと思います。

(追記)

  ヒストリカルノートによるとこの戦いではナポレオンはGalgenbergというところから指揮をしていて、敵戦列に穴を見つけてミュラに突撃を命じたとのこと。ミュラはロシア皇帝のいる司令部まで迫ったそうです。 

Galgenbergはおそらくここ↓
ナポレオンが指令所Befehlsstandを置いたって書かれていますね。

2025年9月11日木曜日

『ザ・グレート・ゲーム: 内陸アジアをめぐる英露のスパイ合戦』

  1850年代から90年代にかけてのロシア帝国の中央アジア征服をシミュレートしたS&T誌338号の「Russian Boots South」っていうゲームがあるんですけど、Twitterでフォローさせていただいているcou papaさんが先日プレイされていまして。

 おお、これってまさに『ザ・グレート・ゲーム』の時代じゃないか! と、久しぶりに読み返したくなったんですけど、結構いいお値段になっているんですよね。でも『The Great Game: On Secret Service in High Asia』のほうはキンドル版だと200円もしなくて、さっそく買って読んでみました。


 いやー、面白かったです。キンドル版だと649ページあるって表示されるんですけど、中だるみすることなく最後までわくわく感が持続しました。筆者は先日読んだ『Setting the East Ablaze』と同じピーター・ホップカーク。読みやすい文章ですし、それに題材が題材ですからね。19世紀から20世紀初頭にかけて、中央アジアへの英露の進出競争を描いているんですが、現地の政治状況を探るために英露双方が諜報員と言ったらいいんですかね、軍人やらいろいろ派遣するので冒険的要素が多分にあります。というかそもそも地理もわかっていない地域も多いわけですよ。砂漠やら急峻な地形に守られて各地で独立を保っている現地勢力がまたやっかいで。そんななか、何カ月もかけて生死の危険にさらされながら未知の土地を踏破していく様子は冒険小説みたいなハラハラ感がありました。それに、中央アジアだけでなくコーカサスやチベットにまで触れられていて、そのスケールの大きさも魅力です。

 個人の活動だけでなく、英露両政府の動きも勉強になりました。ロシアは失敗を繰り返しつつも着実に勢力を広げていく一方、イギリスはインド防衛のために対抗して中央アジアに積極的に進出すべきなのか、それとも財政的な負担を考慮してロシアを待ち構えておくにとどまるのか(masterly inactivityなんて表現されてました)の両端で政策が揺れる様子がよくわかりました。あと、征服というか保護国化というか、政治的に支配しようとするだけでなく、自国の商品の市場として英露両国が中央アジアを見ていたことも随所で描写されています。

 まあでも自分なんか、ロシアがインドに攻めてくるなんて無理でしょ、なんて思ってしまうんですけど、歴史的に見たらアレキサンダーをはじめ繰り返しアフガン方面からインダスや北部インドは侵攻を受けているので、当時のイギリス側の懸念は結構リアルなものなんだったんでしょうね。本の中でもこんな風に述べられています。

those were the days of supreme imperial confidence, unashamed patriotism and an unswerving belief in the superiority of Christian civilisation over all others. With the benefit of hindsight, modern historians may question whether there was ever any real Russian threat to India, so immense were the obstacles that an invasion force would first have had to overcome. But to Burnes and the Pottingers, Burnaby and Rawlinson (←本書に登場するイギリス人たちです), it seemed real enough and ever present. Indeed, India's history appeared to bear out their fears.

 それに今のアフガン、パキスタン、インド、中国の国境が接近しているあたり、要はパミールですけど、あの地帯は地理的には全く分かっていなくて、近代的な軍隊が通行可能かどうかイギリスは慌てて調査したりしています。

 あと、ロシアにとって中央アジアって新しく奪い取る土地って感じだと思ってたんですけど、露軍がサマルカンドを落とした時は

To the Russians its fall had a special significance. For it was from here, nearly 500 years earlier, that the great Mongol commander Tamerlane had launched his fateful attack on Muscovy.

なんて書かれていて、攻められたことあったらそりゃ何とかしとかないとって思うよねってちょっと納得。それと、いろんな歴史がつながる楽しさを味わえました。


 本書はどっちかというとイギリス側の描写のほうが多い印象ですが、ロシア側の活躍も描かれています。あと、アフガン侵攻の際の英軍についてこんなことが書いてあって、そりゃいかんだろって思うんですけど、当時の将官にとっては普通のことだったんですかね。

One brigadier was said to have had no fewer than sixty camels to transport his own camp gear, while the officers of one regiment had commandeered two camels just to carry their cigars.

さらにアフガンを占領した後は、イギリス高官の夫人がbringing with her crystal chandeliers, vintage wines, expensive gowns and scores of servants.なんてことやっていて、植民地支配する側の傲慢さが表れてるなって思いました。

 

 ただ、英露の動きを描くのがこの本の主題だから仕方ないんですけど、現地の人々の動きももっと知りたいなと思いました。なんていうか、征服されるもしくは利用される側って感じなんですよね。そういえばこんな一文もあって、アジア人としてはムカッとしました。当時の状況を考えたらこういう言葉が出てくるのは仕方ないのかもしれませんが。

'But in Asia,' one Russian general explained, 'the harder you hit them, the longer they remain quiet.'

 まあコーカサスでのチェチェン人の抵抗とか現地勢力の動きも描写されているんですけどね。アフガンがイギリスにとってかなりやっかいな地域だってこともよくわかるようになっています。カブールに駐留していた英軍がアフガン軍によって壊滅させられた時には、A mob of mere heathen savages, armed with home-made weapons, had succeeded in routing the greatest power on earth. It was a devastating blow to British pride and prestige.だそうです。しかしこういう歴史があるのに何でソ連はアフガンを攻めちゃったのかな。

 それと東トルキスタンのヤクーブ・ベクも出てくるんですけど、陳舜臣の短編集『景徳鎮からの贈り物』を思い出しましたよ。あと最後のほうでこんなことが書かれてました。

As for the Indians themselves, they were neither consulted nor considered in any of this (←英の対露インド防衛政策ですね). Yet, like their Muslim neighbours across the frontier, it was largely their blood which was spilt during the imperial struggle.


 初版は1990年と結構前に書かれた本なので、ソ連崩壊後に出てきた資料とかは反映されていないはずですが、読み物としては非常に面白かったです。発泡酒一缶ぐらいの金額で買えるんだから、こりゃゲットするしかないですよ。

2025年9月5日金曜日

ギリシア・ペルシア戦争 300: Tierra y Agua (Draco Ideas) AAR part2

   大王の急死で第二次、第三次と立て続けに遠征が中止となったペルシア軍。

「マジかよ、連続して急死ってありえんの?」

とぼやくのだが、実際、このゲームで使用される16枚のカードのうち「大王の急死」は1枚しかない。そのため立て続けに遠征が中止になる可能性は低いんじゃないのか、と思うかもしれないが、このカードを引いたらペルシア軍は持ち札をすべて捨て、それまでの捨て札もすべて山札に戻しシャッフルする。ギリシア軍が例えば4枚の持ち札をキープしている場合、山札は12枚となり、そこからペルシア軍が4,5枚引くと、「大王の急死」に再び出くわす可能性はそんなに低くないんじゃないかな。

 ただ両プレイヤーともカードドリブンどころかカードを使ったゲームには全く慣れておらず、こういった計算は苦手、というかそういう計算をする発想自体を持っていなかったりする。


●第四次遠征

 ペルシア軍は豊富な資金にものを言わせて大軍を徴集。ギリシア軍は要衝テーバイ(Thebai)に鉄壁の守りを敷く。ここはまさにテルモピュライがあった場所のはずで、両軍が雌雄を決するか、と思いきや、ペルシア軍は「土地と水の提供」(Tributo de Tierra y Agua)でデルフォイ(Delphi)を獲得。

「早くかかってこいよ! スパルタ人は決して逃げも降伏もせぬ。それがスパルタの掟だ!!」

「いや、あの映画まだ見てないって言ってじゃん。それにテルモピュライってギリシア軍が全滅するからあんまり縁起よくないんじゃないの?」

とギリシア軍プレイヤーをいなしつつペルシア軍プレイヤーが出したカードは「個別の講和」(Paz Separada)。ペルシアの工作によってスパルタとアテネの同盟が破綻するかも、というカードなのだが、両プレイヤーがサイコロを振りペルシア側が相手より大きい目を出した場合、工作は成功。ギリシア軍プレイヤーは手持ちのカードをすべて明かし、スパルタ系のカードがあればすべて捨てないといけない。

 サイの目はペルシアが上回った。ギリシア軍が手持ちの4枚のカードを見せるが、なんとすべてスパルタ系。

「マジ?! マジでこれ全部捨てないといけないの? 何もできなくなるじゃん!!」

「それがスパルタの掟なんだよ」(←違う)


 スパルタ系のカードは「300のスパルタ兵」(300 Espartanos)や「レオニダス」(Leónidas)やら、名前からして、取っておいていざというときに使いたいカードだったりする。「300のスパルタ兵」は防御時に少数であったとしても敵軍に損害を与えるまでサイコロを3つ振れるという、まさにテルモピュライを彷彿とさせるカード。「レオニダス」のほうは王が戦死するので一度しか使えないのだけど「レオニダスの仇を討て」とか言ってギリシア軍プレイヤーは士気があがるんじゃないかな。チョコも美味しいしね。

 アテネとスパルタとの間で内紛が起こり、ギリシア軍は麻痺状態に。好機とみてとったペルシア軍は、大軍でもってテーバイを攻撃する。だが、3倍の敵を相手にギリシア軍は奮戦、次々とペルシア兵を倒していく。このゲームでのギリシア軍3コマのスタックは恐ろしいほど強力なのだ。だが衆寡敵せず、ギリシア軍は敵に多大な損害を与えたものの次第に消耗していき、退却を余儀なくされた。

 勢いに乗るペルシア軍はアテネに侵攻、2対2と同数の戦いではギリシア軍有利のはずが、スパルタとの内紛にアテネ守備兵は動揺が続いていたかペルシア軍の攻撃を防ぎきれず、重要都市を明け渡してしまった。カードがないギリシアは何も対応することができない。結果、ギリシアが保持しているのはペロポネソス半島の2都市のみ。勝利得点はペルシアの6と、ギリシアが圧倒的に不利である。


●第五次遠征

 ペルシア軍はアジアから徴集した大軍をテーバイに配備。一方のギリシア軍は資金の少なさから兵もカードも少数しか補充できない。

「どうする? 投了する?」

「何言ってるんだ。ペルシャ人たちに支配されたまま、いつまでも奴隷ではいられないだろ? スパルタの死者たちを蘇らせよ! 三百の勇者のうち三人だけでいいんだ!」

「……なにそのノリ。なんかの引用?」

「バイロン。今回は東方の専制国家の支配からギリシアの独立を守るためのゲーム、って言ってたから頑張って調べました」

「時代が2千年以上違うだろ」

「だってバイロンって言ったら『紅の豚』にも出てくるぐらい有名じゃん」

「紀元前5世紀のギリシアの話をしようぜ」


 ギリシア軍は陸軍3コマでもってペルシアの大軍に挑むも、打ち破れずに退却。さらにへレスポントスの橋の焼き討ちを狙って長躯海路からAbydosに奇襲をしかけたものの、あえなく敗退した。最後はスパルタまで陥落し、この戦争はペルシア軍の圧勝となった。あれ、ギリシアの自由と民主主義はどうなんの?

 結構極端な展開になったけど、今回のプレイは先述のようにカードを使うゲームに慣れていないプレイヤー同士の戦いだったので、普通だったらもっと違う駆け引きが起こると思う。プレイ時間が短いからすぐに再戦できるしね。スペインのウォーゲームのコンベンションでこのゲームのトーナメントが開かれたことがあったけど、それもよくわかる気がする。


 オリジナルの日本語版とスペイン語版にどれくらい違いがあるのかどうかはわからないけど、ナクソスNaxosが重要都市から普通の都市に変更されているみたい。オリジナルでは、紀元前490年のダレイオス一世の海上からの侵攻を誘発するために重要都市にしたんだろうか。それを普通の都市にしたのは、バランスをとるためかな。それと、スペイン語版は箱の内側も凝っていて、いわゆるユーロ系が好きな層にもアピールするんじゃないかな。まあ何語版であれ、面白いゲームなんじゃないかと思います。



2025年8月30日土曜日

ギリシア・ペルシア戦争 300: Tierra y Agua (Draco Ideas) AAR part1

  もう一ヶ月以上前になるけど、7月に参院選があり、その結果はさておき民主主義がきちんと機能するためには不断の努力が必要、と昔習ったことを改めて実感。民主主義と言えばその大きな源泉の一つが古代ギリシア。その古代ギリシアが危機に陥ったのが、紀元前5世紀のペルシア戦争で、東方の大国に対し、アテネの民主主義のみならずギリシアの自由を守った戦いである。民主主義の重要性に思いをはせつつ、この戦争をシミュレートしたゲーム「300」をやってみた。


 …というのはウソで、7月発売だったVaeVictis181号の付録が古代戦だったからたまには古代ものをやってみるか、と思った次第。VV181号のゲームは「Hamicar Imperator: La guerre des mercenaires」という、第一次と第二次のポエニ戦争の間の、傭兵の反乱鎮圧をシミュレートしたもの。ハンニバルのお父さんが主役なんだけど、こんな戦いがあったなんて知らなかった。ヒストリカルノート読むだけでも勉強になったなあ。


 「300:ギリシア・ペルシア戦争」はボンサイ・ゲームズから出されていて結構いい評価を目にするので、日本のウォーゲーマーの間ではよく知られているんじゃないかと思うけど、システムについてはこちらのブログで簡潔かつ分かりやすく書かれているので興味惹かれた方はこちらをどうぞ。

https://ameblo.jp/syuku-32/entry-12434024481.html

 ただ、自分が持っているのはスペインのDraco Ideasから出されたスペイン語版、「300: Tierra y Agua」。日本語のオリジナル版は持っていないだよね。とほほ。このAARでのゲーム用語などの訳は我流なので、オリジナルの日本語と違っている場合があるんじゃないかと思う。


 マップや駒はこんな感じ↓。オリジナルの日本語版では赤がペルシア、青がギリシアになっているようだけど、スペイン語版のほうでは逆。なんでだろうね。テルモピュライやマラトンとか、大軍に屈せず闘志に燃えるギリシアのイメージなのかな。


●第一次遠征

  ペルシア軍はへレスポントス、今のダーダネルス海峡に架橋してアジアとヨーロッパをつなぐ。このゲームではターンの最後のほうにある補給フェイズ(Fsase de suministros)のときに自軍の重要都市(ciudades importantes)と連絡線(líneas de comunicaciones)がつながっていない陸軍は除去されてしまう。つまりギリシア本土に侵攻したペルシア軍はこの橋が無かったらターンの最後には消えてしまうのである。陸路ではなく海路で連絡線をつなぐこともできるけど、制海権はギリシアが握る可能性が高いので、架橋して陸路での連絡線を確保するのはペルシア軍にとって定石と思われる。

 ただしこの橋は高価である。各遠征につき、ペルシア軍はギリシア軍の倍の12タレント(talento)の資金を得るのだが、架橋にはその半分の6タレントを消費してしまうのだ。そのため、本格的な侵攻は次回以降とし、ペルシア軍はへレスポントスを渡ってPella、そしてLarissaに進出するにとどめた。

 

 ちなみにこの橋、史実ではクセルクセス1世が作ったようで、ゲームではpuente de pontonesとあるので多分、船を並べて橋にしたんだろうなあ。あの海峡は見たことあるけど、実際狭いので、物量にものを言わせて橋を作っちゃったんだろうなあ。


 ペルシア軍の進出を受けたギリシア軍は、その連絡線を断とうとPellaに強襲上陸を試みる。このゲーム、質のギリシアvs量のペルシアという感じで、ギリシア軍は結構強力である。だがペルシア軍が奮戦、上陸してきたギリシア軍を壊滅させた。 


●第二次遠征

 敵の攻撃を撃退し幸先のいいスタートを切ったペルシア軍。大軍を徴集してギリシア本土の核心部に侵攻、と思いきや、 引いたカードが「大王の急死」(Muerte Repentina del Gran Rey)。ダレイオス一世が病死し、遠征は取りやめとなった。


●第三次遠征

 「まあ大王が急死することだってあるさ」と平静を装いつつ第三次遠征の準備を始めたペルシア軍だが、またも「大王の急死」を引いてしまう。今回はクセルクセス1世が暗殺され、再び遠征は中止。笑いが止まらないギリシア軍プレイヤーに腹立ちをこらえつつ

「逆に考えるんだ。もう大王は死なないからあと2回は確実に遠征ができるんだ」

と自分に言い聞かせるペルシア軍プレイヤーである。


(つづく)

2025年8月28日木曜日

『東方に火をつけろ』

  先日読んだアントニー・ビーヴァ―のロシア内戦の本が面白かったので、もっとないかなと思って探してみると、『Setting the East Ablaze: Lenin's Dream of an Empire in Asia』っていう本があったので読んでみました。キンドルで600円もしなくて財布に優しかったしね。『東方に火をつけろ: レーニンの野望と大英帝国』という和訳も出ているみたいです。ちなみに東方って聞くと中国やらバイカル湖あたりやら極東やらをイメージしてしまうんですが、ヨーロッパから見た東のことのようで、この本では中央アジアやインドのことも描かれています。というか本の前半はほとんど中央アジアの話。東方って言っても霊夢や魔理沙は出てこないからね。筆者は『ザ・グレート・ゲーム』や『チベットの潜入者たち』を書いたピーター・ホップカークで、期待にたがわず無茶苦茶面白かったです。

ロシア革命でボルシェビキが政権を奪って間もない1918年2月、イギリスは混乱状態の中央アジア情勢を探るためスパイを派遣することを決定。そうして中国西部のカシュガルから天山山脈を越えて旧ロシア領に入ったFrederick Bailey中佐の、冒険行といっていい活躍がこの本の前半の主要部を占めます。ボルシェビキの新政府に対するイギリスの平和的な外交使節の体を装うんですけど、国境を越えてすぐ、イギリス軍が中央アジアに侵攻してくるという噂が流れていることを知って前途多難さが予想されます。英露関係が悪化して潜伏せざるを得なくなった後はもう大変で、

One night a commissar from another town stayed the night in the house where he (Baileyのことです) was sheltering. His boasts about what he did to counter-revolutionaries he caught, and how he could always spot them, made Bailey feel somewhat uncomfortable as they shared a bowl of soup together, and later slept on the floor under the same quilt.

とか、

Once, by ill-chance, he (これもBaileyのことです) found himself at the barber’s shop occupying the next chair to one of the Cheka officers who had arrested him the previous year.

とか、映画か小説ですかって言いたくなるようなことが起きたりします。しかも中央アジアからイギリス勢力圏に脱出するときは、チェーカーの密偵になるんですよ。"Bailey Joins the Soviet Secret Service"なんて章タイトルが出てきて、え、どういうこと? って思ったんですけど、自分を追っている秘密警察のスパイになるなんてホント訳が分からんです。


 こういった派手というかかっこいい行動に目を引かれてしまうんですが、この当時もイギリスの諜報網はすごかったらしく、ある将軍は後にこんな風に述べているそうです。マジかよ。

I had agents up to a distance of a thousand miles or more, even in the government offices of the Bolsheviks. I had relays of men constantly coming and going in areas which I deemed important. There was hardly a train on the Central Asian railway which had not one of our agents on board, and there was no important railway centre which had not two or three men on the spot.


 ところでWWIでロシア軍の捕虜になっていたドイツ兵やオーストリア兵が中央アジアにもいて、一部はボルシェビキ側に参加したみたいで、彼らの支援なしにはボルシェビキは重要拠点を失っていただろうなんてことが書かれています。中には現地の女性と結婚して定住しようとした捕虜もいたそうですが、ある結婚式では、花婿にはオーストリアに奥さんがいるんだって暴露された、なんてエピソードも載っていました。そりゃいかんだろ。それと、まだ潜伏前の英将校として行動していたBaileyに対してthey would good-humouredly strike up with It’s a Long Way to Tipperary.なんてあるんですけど、あの曲、映画「Uボート」で艦内でかけられるシーンがありましたが、イギリス以外でも人気だったんですかね。


 ところどころ自分は笑いそうになった部分があったんですが、まだBaileyが潜伏する前、平和的な英使節としてふるまっていたころ、ペルシアから派遣された英軍とボルシェビキ軍との間で武力衝突があり、ボルシェビキ軍が敗走するという事態が起こります。For the first time in the history of Anglo-Russian rivalry in Asia, British and Russian troops had fired on one another in anger.なんて書かれているんですけど、Baileyにとってはかなりまずい状況で、コミッサールがBaileyに説明を求めるんですね。Baileyは、英軍が武力衝突に関与してたって証拠は何があるんだって反論するんですけど、

The Russian’s reply, to quote Bailey, was both ‘simple and flattering’. The artillery fire, he told the Englishman, had been far too accurate to be Russian.

自虐ギャグかって思いましたよ。


 中央アジアでの冒険行だけでなく、英ソ両政府間の駆け引きなんかも少し描写されているですが、この本の後半は舞台が中国に移り、コミンテルンの活動も描写されています。本のタイトルどおりなんですけど、For thirty years the East had stubbornly refused to ignite to the Bolshevik torch. Somehow, somewhere, it had all gone wrong. The Comintern’s shadowy operations in Asia, just as in Europe, had largely been a waste of money and effort. Moscow’s one permanent gain had been Mongolia.なんてまとめられていますね。

 しかしアントニー・ビーヴァ―の『Russia: Revolution and Civil War 1917-1921』もそうでしたけど、本全体を通じて残虐行為が出てくるたびに気持ちがずーんと重くなりました。liquidateって言葉を見るの、嫌になりましたよ…。


 と、前半と後半でちょっと雰囲気が違うように感じられたこの本ですが、どちらのパートも読む手が止まりませんでした。約40年前、まだ冷戦のころに出たの古い本なので、旧ソ連側の資料へのアクセスはかなり制限されていたかと思うんですが、読み物としてはハラハラドキドキで非常に面白かったです

2025年8月25日月曜日

アラスカで米ロ首脳会談があったので読み返してみた、ジェフリー・アーチャー『ロシア皇帝の密約』

 先日アラスカで米ロ首脳会談があったからだと思うのですけど、こんなつぶやきを目にしまして。

これで思い出したのが『ロシア皇帝の密約』。古い小説ですが、米ロとアラスカの領有が絡んだストーリーになっています。しかしまだ10日ほど前のことなのにアラスカの首脳会談がなんかだいぶ昔のことに感じちゃうな。

 あの作品はかなり前に読んだんですけどかなり面白かった印象があって、電書で手に入ったので印象に残っているシーンをパラパラと読み返してみました。けど『ロシア皇帝の密約』ってオリジナルのタイトルは『A Matter of Honour』なんですね。これだけだとどんな内容か想像つかないんですけど、ジェフリー・アーチャーのネームバリューでみんな手に取ったんですかね。

 ツイッターでもつぶやいたんですけど、あの作品の渋いところは、アラスカという単語を作中で一回も使っていないんですよね。主人公がフランス語の条文を読んでいるところでこう示唆されています。

His eyes came to a halt on the one word that would remain the same in both languages.

それに

It had to be some form of agreement executed between the Russians and the Americans in 1867.

とかいろいろヒントになることが書いていて、調べればアラスカのことだとわかるようになっています。


 ウォーゲーマー的には以下のやりとりがツボかと。主人公のアダムの乗った飛行機がソ連のエージェントの射撃で被弾して仏領内で不時着した後の、英パイロットとの会話です。

"My father landed in one of these bloody fields during the Second World War and still managed to get himself back to England without being caught by the Germans. I owe you a great debt of gratitude, Adam, because if I can get back I'll be able to shut him up once and for all. Which lot are chasing us this time, by the way?"

"The Russians" ...

"The Russians - couldn't be better. Anything less and Dad wouldn't have accepted it as a fair comparison."


 あと、Royal Army Service Corpsっていう言葉が出てくるんですが、たしか王立補給部隊とかなんとか訳されていたかと思うのですけど(かなりうろ覚え)、The acronym for the Corps - 'Rob All Serving Comrads'なんて書かれていて、実際にこの部隊はそんなこと言われていたんですかね。というかRASCっていう部隊なんてのがあったということ自体、この小説で知ったんですが。


 こんなふうに拾い読みしてたら面白くなってきて、結局最初から読み返してしまいました。ジェフリー・アーチャーの特徴だと思うんですけど、ハラハラしたシーンが結構ありながらもユーモアをちりばめているんですよね。アダムが救出に来た飛行機に走って乗り込もうとすると、緊迫した場面なのにパイロットが手を差し出すんでよ。Only a British officer could shake hands in such a situation, thought Adamなんて書いています。それと終盤でのクライマックス、タワーブリッジでのKGBのエージェントとの緊張に満ちた取引をし、相手が素早くバイクで去った後のシーンが結構好きです。

Adam began to relax when suddenly he felt a sharp prod in the middle of his back. He jumped round in fright.

 A little girl was staring up at him.

 "Will you and your friend be performing again this morning?"


 古い作品ですけど、小説としての面白さは今読んでも変わらないかと。スパイものやサスペンスものがお好きな方はどうぞ。 

『ナポレオンの騎兵とその指揮官たち』

  いつものことなんですが本って自分でなかなか選べずにほかの人が勧めているのを読むのが多いんですけどね、先日こういうポストを目にしまして。 『Napoleon's Cavalry and its Leaders』、読了しました。 1978年初版と古い本ですけど、フラン...